第206話 伊達姉妹のXDAY Ⅲ

 悠介の帰宅により、雷火はクリスマスプレゼントと思しきコン◯ムの箱を布団の中に隠す。



「あれ、なんか叫びが……」


 俺は部屋の中に誰かいるのだろうかと見ると、自分のベッドの上で雷火ちゃんが布団にコブラツイストを決めていた。


「……どうしたの?」

「い、いえ。布団に猫型の妖怪がいたので懲らしめていました」

「そ、そう」


 シバニャンでもいたのかな。


「すみません、留守中に勝手に入ってて」

「全然気にしないで。日常茶飯事だし」


 俺はもはや部屋の中に誰かいても別段驚くこともなくなっていた。

 三石ん家は女子のたまり場になってるって同人誌出したら売れそう。


「ちょっとまた外出ていくんだけど、忘れ物をとりにきたんだ」

「そうなんですか?」

「うん、確かここに……」


 俺は机に鍵を挿して回すが、鍵が外れた感触がない。


「あれ、開いてる?」


 げっ、もしかして鍵かけ忘れてたか? いつからだろ……。

 エロ本をかきわけ、忘れ物のカイロを探すが見つからない。


「あれぇ~まだ残ってたと思うんだけどな」

「あの、な、何かお探しですか?」

「いや、前に買ったプレゼント用のやつがあったはずなんだけど」

「プレゼント用!? やっぱり悠介さんコン◯ムを探して……」


 なぜか雷火ちゃんは汗だくになりながら小声でボソボソと呟く。


「外寒いから身に着けておきたいんだけどな」

「身に着ける!? えっ、男の人って寒い時身に着けてるものなんですか!?」

「いや~男の人だけじゃないと思うけどなぁ」

「女性も身に着けてるんですか!!?」


 雷火ちゃんメチャメチャ驚いてるけど、そこまでびっくりすることかな?


「そりゃまぁ……寒い時メインだしね。暑い時は使わないよ」

「あれってそういうもんなんですか!?」

「うん、あ……寒い時もあんまり長時間使ってると効力がなくなるしね。たまに友達の借りたりするよ」

「貸し借りするもんなんですか、あれ!? やめたほうがいいですよ!!」

「まぁ使いすぎて破けちゃうと困るしね」

「大問題ですよ!」

「雷火ちゃんにも今度新品あげるね」

「いや、そのプレゼントされるのはわかってるんですけど、こういうのって女の方が常備しておくものなのでしょうか? 勿論悠介さんが持っておけというのなら持っておきますが……」

「まぁ別になくてもコンビニで買えるけどね」

「た、確かに……エロ同人ではコンビニに買いに行かせる羞恥プレイも存在しますけど」

「羞恥プレイ?」


 カイロ買うのにどれだけ勇気がいるんだ。


「ただいまぁ」


 見つからないので諦めるかと思っていると、玄関の方から火恋先輩の声が聞こえてきた。


「ゆ、悠介君帰ってたのかい?」


 頬を紅潮させ若干声が上ずっている火恋先輩。

 その手には小さな紙袋が握られており、どこかに買い物に行っていたのだろう。


「あっ二人いるし丁度いいや、クリスマスプレゼントなんだけど。(ケーキ)チョコ味か、マロン味かストロベリー味どれがいい?」

「「あれって選べるんですか!?」」

「えっ、いやまぁ買ってくるだけだし」

「最近の奴は凄いんだね……」


 火恋先輩は赤い顔で頷く。


「一応自作する予定なので結構融通ききますよ」

「「あれって自作できるんですか!?」」


 二人ともなんでケーキの味付けで、こんなに真剣になってるんだろ。

 火恋先輩はなぜか武士のような眼差しでこちらを見やる。


「私は……初めてはなしでいいと思う」

「えっ、なしってプレーンですか?」

「ああ、そのままだ」


 味つけなかったらスポンジの味しかしないのでは?


「わ、わたしもそのままでいいですよ」

「雷火ちゃんまで!?」


 二人とももしかしてダイエットでもしてるのだろうか?


「じゃあ栗とか果物とかのせて、それで甘みをだすか……」

「「出さなくていいです!!」」

「なんでそんな面白いことしようとするんですか!?」

「こっちは初めてなんだよ!」

「え、えぇっ!?」


 二人の圧倒的拒絶に驚いていると、玄関から玲愛さんが登場。


「騒がしい、外まで声が聞こえてるぞ」

「だ、だって悠介君がクリスマスプレゼントに栗乗せるって……」

「栗!?」


 玲愛さんは衝撃を受けているようで、目を見開くと突然怒り出した。


「お前は変態か! どんなアブノーマルなことをやらせようとしてるんだ!」

「えぇ! なんで!?」


 どうにもさっきから話がかみあってない気がする。多分これなにか別の物と勘違いしてるぞ!


「お前がこんなのクリスマスプレゼントにするから!」


 そう言って玲愛さんからぺいっと投げつけられたのは、相野から渡された避妊具安全戦士コン○ムの箱だった。


「ち、違うんですよ。誤解です!」


 ようやく混乱の原因がわかり、必死に釈明する。

 これはただの貰い物で、使われる予定もなく封印されていたものだと。

 ましてクリスマスプレゼントに使うなんて、あたおかなことしませんと。



「な、なんだ。そういう事だったんですか……」

「悠介君はケーキのことを話していて、私たちは避妊具のことと勘違いしていたわけだね」


 酷い間違いである。

 俺も避妊具に栗やイチゴ乗せるとか言い出したら、気でも狂ったかと思うだろう。


「元はと言えば、姉さんが勝手に引き出し開けるのが悪いんじゃないですか」

「あんなものが入ってたら誰だって勘違いするだろ。現に火恋もお前も勘違いしたんだし」

「それはそうですけど……」

「いや、確かに俺もあんなモノさっさと捨てておけば良かったんですよ」

「よくよく考えれば、悠介さんがクリスマスプレゼントにそんなもの用意するわけないですもんね」

「確かに」

「確かに」


 何故か三姉妹はがっくしと肩を落とした。

 その時スマホがポロンと着信音をたてる。


「あっ、静さん達クリスマス帰ってこられるそうです。どうしましょうか、明日皆でやりますか? それとも前倒しで俺たちだけでやってもいいですけど」

「「「前倒しで」」」


 三姉妹は声を揃えた。



 クリスマスを前倒しにするのはいいが、玲愛はプレゼントを用意できていなかった。

 もうこの際後日にするかと思っていたが、火恋がすっと自分の買ってきた紙袋を差し出す。


「こ、これ使わなくなったから姉さん使っていいよ。プレゼント用意できてないんでしょ?」

「火恋……お前いいやつだな」

「た、多分悠介君喜ぶんじゃないかな……」


 紙袋の中身はクリスマス仕様スケベコスチュームなのだが、玲愛は全く気づいていなかった。


「後で何か返す」

「全然気にしなくていいヨ……」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る