第210話 いとこが来た

※オタオタAはアペンド的ストーリーで、伊達家以外のヒロイン多めで展開されます。

 このキャラともっとラブコメしてもいいんじゃないかという、要望に応えたものですので伊達姉妹以外とイチャつくこともあります。

 その辺りのハーレム的展開を寛容に見られない場合は、お勧めいたしません。

 こまけぇことはいいんだ、全員俺の嫁だという方、これからもよろしくお願いします。


―――――――――――――――


「こんにちは悠介兄さん」

「こ、こんにちは。急だね」


 自宅の扉を開くと、そこにいたのはマッシュヘアの少年。

 彼の名は山崎健太、三石家の親戚で俺の二つ下の15歳。

 三石家にいた時は正月に顔合わせをしていたが、一人暮らしを始めてからはめっきり合わなくなっていた。

 それが急に手土産持参でやってきたので、面食らってしまった。


「これ、貴明おじさんからです」

「オヤジから? ありがとう」


 俺は健太から手提げ袋を受け取る。中身はケーキのようだ。


「中入ってもいいですか?」

「い、いいけど」

「貴明おじさんから、ケガした悠介兄さんと静さんの様子を見てこいって言われたんです」

「静さん?」

「ええ、あっ……許嫁の話聞きました。悠介兄さんが、まさか伊達家の許嫁に内定するとは」

「いやはや、俺自身も驚いてるよ」

「全くです、宝くじを100回連続1等当てた後に、隕石が降ってきて地球が崩壊するくらい奇跡ですよ」

「そこまで確率低い?」

「おかげでうちの親も勘違いしちゃって、悠介兄さんを見習って有力分家の逆玉狙えとか言い出すし」

「それはまた……」

「伊達家みたいな金持ちでB選なんて滅多にいませんよ」

「B選……」


 彼の言葉はわりと鋭利で、俺の胸に突き刺さる。

 健太は勉強も運動もこなせるのだが、あまり気を使った言葉を使わない。そこが良いという女子もいるみたいだが、ブチャイク扱いされた身としては何か言ったほうがいいかもしれない。


「貴明おじさん滅茶苦茶緊張してましたよ」

「オヤジが? なんで?」

「悠介兄さんが、変なことやらかさないかヒヤヒヤしてます」

「やだな、ビビりながら生きてる俺がそんなことしないよ」

「ビビりながら生きてる人は、ジェットコースターから紐なしジャンプなんかしませんけどね。おじさんが危惧しているのは、どちらかというと悠介兄さんより静さんのようです」

「静さん?」

「静さんはなぜか悠介兄さんを溺愛してますから、それが原因で破談になったりしないかと心配してます」

「静さんが原因で破談て、それこそありえないよ」


 はははと笑い飛ばすと、健太は真面目に首を振る。


「貴明おじさん毎月静さんに電話で近況を聞いてるらしいんですけど、毎回2時間くらい悠介兄さんの話が止まらないそうです。おじさん、静は悠介のことを性的な目で見ているとおっしゃっていました」

「はは……」


 乾いた笑いが漏れると、俺の部屋にいた静さんがひょっこりと顔を出す。

 ロングヘアに優しそうな目、誰もが視線を吸い寄せられる爆乳をニットセーターに包んだおっとりとした女性。


「あらあら健太君、久しぶりね」

「静すわぁん、僕寂しかったですぅ、正月も会えなくなっちゃってぇ」


 それまでローテンションだった健太が、急に猫撫声になる。

 昔から彼は静さんに懐いており、義弟である俺を敵視している節がある。

 静さんはそれに気づいているのかいないのか、優しく健太の頭を撫でる。


「静すわぁ~ん」

「今日はどうしたのかしら?」

「はっそうだ、今日は監視しに来たんです」

「監視?」

「はい、悠介兄さんはいずれ伊達家と婚約するんですから、静さんと浮気しないように見張りに来たんです!」

「浮気て」

「おじさん最悪アウトになりそうだったら、実家に連れて帰ることも視野に入れていると言っていましたから! 今日明日の土日を使って見させてもらいますからね!」


 大声で威圧的に言う健太だったが、彼は何か勘違いしている。

 俺と静さんはあくまで義姉弟であり、そこから逸脱した行為なんていっさいしていないと自負している。

 恐らく俺たちのいつも通りの姿を見せれば、健太も健全でした! 俺が間違ってましたと言うことだろう。全く、疑り深いのも困ったものだ。


「あっ、静さんケーキ貰ったよ」

「じゃあ皆で食べましょうか?」

「そうだね」


 健太は俺のオタグッズでごちゃついた部屋に入ると、露骨に顔をしかめる。


「相変わらず悠介兄さんの部屋って感じですね」

「フィギュアやタペストリーで飾ってないと落ち着かなくて」

「マンガもなんで同じの三冊あるんですか? うわ、これ少女漫画だ」

「見る用、保存用、布教用、ちなみに好きなやつは電子でも買ってる」

「無駄の極みですね」

「経済を回してると言ってくれ。健太は何か好きなものとかないの?」

「まぁ僕はサッカーとかっすね」

「あぁ、俺とは一生交わらない人種だ」

「僕も従兄弟じゃなかったら、絶対兄さんと話してないと思います」

 

 しばらくして静さんが紅茶とケーキを持ってきてくれたので、それを三人で食べることにした。

 すると、健太はなぜかケーキを汚く食べる。どうしたのだろうか、そんな行儀が悪いやつじゃなかったはずだが。

 静さんは健太の口周りが汚れていることに気づき、すぐにナプキンを持ってくる。


「健太君、お口が汚れてるわ。フキフキしましょうね」

「わ~静さん優すぅぃい~」


 ぐっ、こいつこれを狙ってか……。

 静さんは手のかかる生き物を放っておけない母性の怪物。だらしない奴程徹底的に甘やかしてしまう。

 一瞬健太がこっちを見てドヤ顔をしてきた。

 ぐっ、俺もわざと口周りにクリーム塗りたくってやろうかと思ったが、流石にそこは歳上。手にしたフォークを震わせつつ、そんなことはできなかった。


「ユウ君、お口にケーキついてるわ」

「えっ、ほんと?」


 素で汚れていたのかと口元を拭ってみるが、静さんはとれていないと顔を振る。おかしいなと思っていると、彼女は顔を近づけぺろりと舐めとった。


「これで大丈夫よ」

「ありがとう」

「いいの」

「ぐぐぐぐぐ、ピー!!」


 急に健太がホイッスルを吹き出した。


「どうしたんだ健太?」

「どうしたの健太君?」

「どうしたのじゃないでしょ! 今のそれ!」

「「それ?」」

「普通の兄弟は、口周りをなめたりしない! ってか静さん、あなた唇なめてませんでした!?」

「「えっ?」」

「二人揃って何がおかしいのって顔しないで下さい! イエローカードです!」

「そんな……健太判定厳しいよ。今のはファールくらいだろ……」

「厳しくないです! レッド出さなかっただけ優しいと思って下さい!」


 かなり疑惑の判定だと思うけどねぇ……。


 その日の晩、泊まっていくことになった健太の為に寝場所を作る。


「健太く~ん、お風呂沸いたわ~」

「は~い、静さんと一緒に入りたいな~な~んて」

「ウフフ、お姉さんをからかっちゃダ~メ。健太くんは一人で入れるでしょ?」

「は~い」


 健太のやつ静さんへの甘え方を心得てるな……。

 こいつもう少ししたら、生粋の歳上キラーになりそうだ。


 健太が風呂から上がった後、今度は入れ替わりで俺が脱衣所へと入る。

 俺がシャツを脱ぎ終えると、遅れて静さんが脱衣所に入ってきてニットセーターを脱ぐ。

 二人で脱衣かごにズボンやストッキングを入れていると、健太がダダダダッと慌てて入ってきて、ホイッスルを吹き鳴らした。


「ピーー!! いやいやいや、なにやってるんですか!?」

「えっ、風呂入ろうとしてるんだけど?」

「なんで二人で入ろうとしてるんですか! しかもナチュラルに!」

「えぇ……これもダメなの? 嘘でしょ」

「ダメに決まってるでしょ! いっちばんダメ! こんなの伊達家に知られたら滅茶苦茶怒られますよ!」

「玲愛さんは別になんとも言わないと思うけどな」

「そんなわけないです! とにかくダメ!」

「厳しいな……これじゃ何も出来ないよ」


 イエローカード2枚目を貰ってしまったので、仕方なく一人で入ることにする。


 今日は俺の部屋に泊まることになった健太。

 電気を消して、男二人真っ暗な部屋で眠りにつくまで会話する。


「ねぇ悠介兄さん。静さん、なんであんなんになっちゃったんですか?」

「わからない。静さんダメンズが好きだからな。もしかしたら俺がクリティカルヒットしちゃったかもしれない」

「そんな……悠介兄さんよりダメ人間になれとか無理ですよ」


 相変わらず酷い。


「大体悠介兄さんが結婚したらどうするつもりなんですか? あなたマヌオさんとして伊達家に入るんでしょ?」

「伊達家についてくるって」

「嘘でしょ、普通相手親族が嫌な顔するでしょ」

「いや、伊達家のトップとは既に話がついてて、同居に関してもOKが出てる。多分結婚したら三石マンガスタジオごと伊達家に移転するんじゃないかな」

「婚約者の義姉がついてくる結婚生活ってどういう心境なんです?」


 その時、俺のスマホがポロンと鳴る。


「……ちょっと隣の静さんの部屋行ってくる」

「どうしたんですか?」

「おやすみのちゅーがないと寝れないって」

「そういうとこですよ悠介兄さん!!」


 俺は一日でイエローカード三枚を貰うことになったのだった。

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