第182話 オタとVRバトルⅡ

 一瞬の暗転と共に瞼を開くと、そこは小さな禿山が並ぶ荒野だった。

 見晴らしはよく、遠くの方で小さな光がピカピカと瞬いている。恐らくプレイヤーが順次ゲーム内に入ってきているのだろう。

 田舎者のようにキョロキョロと 辺りを見渡すと、仲間と思われるキャラクター達が既に数人、体を動かして感覚を確かめているようだった。

 頭上にグリーンのHPバーを伸ばした参加者は、様々なヒーローになっていて日朝に登場する5色レンジャータイプから、蝙蝠をモチーフにしたアメリカンヒーローなど様々だ。


「うわぁ、すっごい……確かにこれだけリアルなVRは世界初だろうな」


 近場の岩に触ると冷たく硬い感触が手のひらに伝わり、そのリアルさに驚いた。


「すげぇ、感触だけじゃなくて冷たさまで表現できるのか……」


 こりゃゲーム史に新たな一ページが刻まれることは間違いないと思っていると、シスター服の格好をした雷火ちゃんが、辺りを見回しながら俺の前を通り過ぎていく。


「おーい、雷火ちゃん」

「へっ?」


 驚いてこちらを見返すが、その顔には誰ですか? と警戒と不安の色が浮かんでいた。


「お、俺だよ、悠介だよ」

「えっ!?」


 雷火ちゃんが俺の体を上から下まで見回す。


「い、石じゃないですか……」


 そう、俺のキャラクターの名前はアースロックマンという岩石ヒーロー。

 雷火ちゃんが攻撃に偏るなら、俺は防御に偏らせようと思って、防御にステータスに極振りしたキャラクターを選んだ。

 しかしながらその見た目は石そのもので、ドラ○エに出てくるゴーレムのような風貌をしていた。


「いやぁ雷火ちゃんのキャラ詠唱時間とかありそうだから、守れるキャラクターがいいかなって」

「えええぇぇぇ、もう少し見た目にこだわりましょうよ~。顔出すのが嫌ならスカルライダーとかナイトブレードとかならフルフェイスですし、それで良かったんじゃないですか?」


 すまない、新しいゲームだとつい色物を選んでしまうんだ。ブラ〇カとかダル〇ムとか……。


「このゲーム進化とかあるみたいですから、それに賭けましょう。望み薄いですが……」


 確かそんなシステムがあるようだったが。


「これヘルプとか開けないのかな?」

「ジェスチャーアクションっていう、特定の動作でシステムが呼び出せるみだいですよ」

「ジェスチャーとな?」


 俺は手を振ったりジャンプしてみたが反応はない。しかしパンと手を打つと、メニュー画面が目の前に開いた。

 近未来的な、透過スクリーンモニターからヘルプを探し出し開いてみる。


「進化システム……バトル中に攻撃を受けたり、必殺技を決めたりすると使用出来る。個々のキャラクターに条件が設定されており、アースロックマンの進化条件は敵から1200発の攻撃をガードする…………」


 いや、無理だろ。1200発もガードしたら石どころか砂にされてしまうわ。

 ってか、1200発も受ける状況ってどんなんだよ。イジメみたいになってるだろ。


「特殊スキルはアースアーマー、全状態異常の無効化。岩石シールド、周囲に岩石の壁を作り、味方を守ることができるか。まぁこっちは予想通りかな。雷火ちゃんは?」

「わたしはスキルがグランドクロス、敵に十字の範囲でダメージを与えるのと、マリアの加護、前方に光の壁を作り、物理、状態異常全てをカットする……ですね。進化条件は敵を30体倒す……って無理ゲーじゃないですか!? 一人で3割撃破なんてできるわけないですよ」

「それもう無双ゲーだよね」


 100人の敵を一人で30人も倒したら、もうあいつ一人でいいんじゃないかってなる。

 やっぱり進化条件はかなり厳しく設定されてるみたいだ。


「恐らく敵軍と自軍から一体ずつ進化キャラが出るかもねってバランスじゃないかな」

「そうみたいですね」


 ただ裏を返せば、戦況をひっくり返すほど強力な切り札になるんじゃないか? と推測する。


「ステータスの一番下に???って項目があるんですけど、なんでしょうね?」

「進化技とかじゃないかなぁ? もしくは隠しステータスで何かあるのかもしれない」


 単純にα版だから、未実装な技があるだけという可能性もあるが。

 俺はマップを表示させると、敵チームフラッグは丁度対面に設置されており、距離600と表示される。

 肉眼でも敵の赤い旗が揺れているのが確認できる。あれを破壊すれば高得点になるわけだな。ちなみに自軍のフラッグカラーは青だ。


 さて、どう動くのが賢いかと戦術を考えながら味方を見回す。

 もし玲愛さんが味方だったら心強いが、それはそれでやりづらい。この戦いは単に敵フラッグを落とせば勝ちというわけではなく、貢献ポイントを稼がなければならない。

 玲愛さんに勝つために積極的にフラッグを攻めつつ、敵も撃破してポイントをとらないと。逆に敵側なら守りに徹しないと、すぐフラッグを落とされるかもしれない。


「ある程度の連携は必須だなぁ」


 俺は自軍の味方キャラクターを一人一人確認していく。


「あぁダーリンみっけぇ!」


 ヒーローキャラを観察している中、俺の頭の上に何かが飛び乗った。

 それを引き剥がすようにして持ち上げると、にゃーんと猫耳をつけ、ボディペイントのようなきわどいデザインの猫スーツを着た綺羅星の姿があった。


「綺羅星? よくわかったね、俺顔見せてないのに」

「いやぁ、ダーリンのにじみ出るダメオーラはその程度じゃ隠せないっすよ」


 それは褒めれられているのか、それとも貶されているのか。


「綺羅星がいるってことは天さんもいますよね?」


 雷火ちゃんが尋ねると、後ろから西洋騎士の格好をした天と、眼帯をつけた鎧武者の格好をした火恋先輩が顔を出した。


「綺羅星がキャットガールで、天がアーサーナイト、火恋先輩が独眼竜武者か」


 俺は全員のステータスを確認していく。

 皆結構似合ってるなと思う。

 静さん達は敵に回っちゃったかなと思ったが、かなり遅れて静さんと成瀬さんがゲーム内にログインする。

 その格好を見て吹き出した。


「あ、あの、これもヒーローなのかしら?」

「キャラクター選択時間切れになったら、勝手に決まっちまったぞ!」


 二人の格好は、どう見てもウェディングドレスだったからだ。

 一応キャラクターを確認してみると、静さんのキャラはTHEウェディングという純白ドレスのキャラでブーケボムという爆弾を使用するらしい。

 成瀬さんの方はバーニングウェディングという、炎属性の真紅のドレスキャラだった。


「なんで結婚衣装キャラが二人もいるのか……」

「確か月が言ってたけど、オートだとAIがその人に一番似合ったキャラを選んでくれるんだって」

「まぁ、似合うだなんて」


 喜ぶ静さんと、納得いかない成瀬さん。


「なんだ、先生はわかるけど、アタシまでAIに結婚適齢期に見られたってことか~?」

「似合ってますよ。白いウェディングドレスもいいと思いますけど、赤もカッコよくて」

「お、おぅ、ありがとよ」

「ミニスカウェディングがとてもセクシーですし。成瀬さんスタイルいいですから」

「や、やめろって。そういうの慣れてねぇんだよ……」

「なんか新婚AVっぽくて俺は好きです。良い下品さって感じで——」

「んだテメェ?」


 照れから一気に威圧にかわり、成瀬さんが俺の顔面をアイアンクローする。すさまじい握力に、ピシピシと嫌な音をたてて顔にヒビが入っていく。


「NONO! フレンドリーファイアあるみたいだからダメですって!」

「うるせぇ一発殴らせろ!」


 俺のHPはまだ始まってもないのにちょっぴり凹んだ。


「な、なにはともあれ全員仲間で良かったですね」

「月と藤乃は敵っすよ」

「げっ」

「勿論玲愛姉さんもね」

「うげっ」


 現在の優勝候補二組がそろい踏みか。

 しかしそれ以外が仲間にいてくれるのは心強い。


「そういや火恋先輩は誰とペアで来てるんですか?」


 雷火ちゃんは俺と組んでるから、火恋先輩にペアは現在いないはず。


「それは彼女が手伝ってくれたよ」


 火恋先輩が指差すと、そこにはウェーブのかかったロングヘアに、真っ黒いローブを被った魔法使いの格好をした一ノ瀬さんの姿があった。


「いやぁ内海君をぶっとばす計画をたててるんでしょ、あたしものっかっちゃおうかなって」


 どんだけ人望ないのか。でも彼女は対内海さんキラーとして機能しそうだ。


「我々はゲームに関しては素人だ。だから君の指揮下に入ろう」

「うぃっす、この前みたいにおっぱい触るのは勘弁してくださいね」

「おっ……ぱい?」


 火恋先輩が白目を剝きかける。


「そーなんですよ。ダーリンったら出会ってすぐなのに、ゲーム筐体の中であーしの乳揉んできたんすよ」

「それは語弊があるだろ!」


 なんだろう、急激に綺羅星以外の女性の視線が厳しくなった気がする。


「わ、私だって言ってくれれば……」


 カチャカチャと鎧を外そうとする火恋先輩。


「ず、ずるいよ。ボクだって」


 甲冑に手をかけ、どうやって外すのこれ~と泣きそうな声を上げる天。


「ここバーチャルですから! 多分脱げませんから!」


 慌てて二人を押しとどめる。その後ろで負のオーラを感じる。


「どうせわたしの胸なんか触っても面白くないですよ……」


 振り返ると雷火ちゃんがのの字を書きながらいじけていた。どないせーっちゅうんじゃい。


「え~一部暗黒面に落ちてますが作戦いきます」


 俺はコホンと咳払いして、考えた案を伝える。


「やっぱり月と玲愛さんペアが強敵になると思います。彼女たちははわかりやすく押せ押せの攻撃タイプですから、俺と雷火ちゃんでフラッグをディフェンスして、それでポイントを稼ぎます。皆は敵の体力を削りながら自軍方面に誘導してきて下さい」

「玲愛さんや月が突っ込んできたらどうするんすか?」

「もし接触した場合は深追いせずに、こっちまで引っ張ってきてほしい。その時必ず単騎で接触するのは避けて、二人以上の数的有利をとって。恐らく自軍フラッグの前には何人か味方がたむろするはずだから全員でかかろう」

「姉さんたちの孤立を狙うわけですね」

「うぇーそんなのチキンじゃないっすか? バーっと言ってガーっと勝ちましょうよ」

「素人は黙っててください」

「うぐっ」


 綺羅星は、玄人顔した雷火ちゃんに言葉でグサッと貫かれて黙った。


「綺羅星の言うように一気に殲滅できればいいんだけど、これはあくまでゲームだからね。恐らくうまく立ち回れば1対2は勝てると思うけど、1対3は勝てないようにバランスとってると思う。玲愛さんはゲームに関しては素人だから、囲めば被害を少なくして勝てるはず。逆に月と内海さんはゲームに関して知識があるから強敵になると思う」

「だから無策で突っ込んでもやられるだけってことです」


 そかーっと、わかったのか、わかってないのか首を傾げながらも頷いている綺羅星。


「火恋先輩達も大丈夫ですか?」

「私は君の言う事に従うまでだ」

「任せて兄君、あいつら殺せばいいんだよね」


 火恋先輩はいつもどおり、天はさらっと恐ろしい事を口走る。


「玲愛さんペアと月ペアが強敵だけど、その四人さえ倒せれば俺たちだけでも十分フラッグを狙いにいける」

「了解、露払いといこう」


 俺たちが戦術を整えていると、全員の耳に月のアナウンスが響く。


『言いそびれましたが、最初の試合はプレイヤーの皆様が操作に不慣れですので、30分間の練習試合とさせていただきます。練習試合ではポイントの換算はいたしませんので、感覚を掴む調整としてご理解下さい』


 なるほど、そりゃぶっつけ本番ではやらないか。


「よし丁度いいや、今の作戦試してみよう」


 全員が頷き、練習試合が開始した。

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