第181話 オタとVRバトルⅠ

 俺たち参加者は夕食後、ホテルからアミューズメントエリアへと移動していた。

 本日のラストバトルはVRゲームなのだが、周囲を歩く参加者は既に食後のひと遊び感覚できている人が多く、弛緩した空気が漂っている。

 俺の隣には雷火ちゃんがいて、その後ろに火恋先輩、天、綺羅星、静さん達と続く。

 一瞬静さんと目と目があったが、両者慌てて視線を逸らす。

 それに目ざとく気づく雷火ちゃん。


「悠介さん、ママ先生と何かありました?」

「いんや~別にぃ~↑」

「声裏返ってますよ」

「き、気のせいだよ」

「あやしい。ほんとですかママ先生?」

「え、えぇ……なにも……なかったわ。なにも……」


 凄まじく艶のある声だったので、全員の視線が俺に突き刺さる。

 これ以上追及されるとよからぬことを吐いてしまいそうなので、俺は逃げるようにして足早に先に進む。


 参加者達は案内されたアミューズメントドームの更に奥に進み、そこからエレベーターで地下に降りることになった。


「なんだかバイオ○ザードに出てくるようなエレベーターですね」


 言われてみれば確かに。大きな自動扉には意味ありげな数字が書かれていたり、天井には鉄パイプのようなものが張り巡らされていて、SFホラーっぽい雰囲気が漂う。


「雷火ちゃんホラーは大丈夫?」

「任せてください、QTEは得意ですよ」


 おっと6の悪口はそこまでだ。

 チーンとレトロな音をたててエレベーターが停止して扉が開くが、目の前はほとんど真っ暗だった。

 参加者がエレベーターから下りて、皆一様にキョロキョロと辺りを見回す。だが、非常灯の棒人間が全力ダッシュしている姿しか見えなかった。


「なんだろう、何かあるのか……」


 ゆっくり前進すると、何かに当たった感触があり立ち止まる。


「何だこれ?」


 俺が障害物に手を伸ばそうとした瞬間、パンっと音をたてて照明が次々に点っていく。

 驚いて辺りを見回すと、ここがとても広い空間であると気づくと共に、巨大なカプセル型の筐体が見えた。


「これは……ゲーセンであったやつか?」


 一見すると戦場の運命と同じカプセル筐体に見えるが、細部が異なっており、どうやら新型のようだ。

 サイヤ人が乗りそうなベースボールポッドがずらっと列になって並んでおり、パッと見は何かの実験場にも見えた。


「これは…………」

「お集りいただきありがとうございます、本日の最終戦皆様には水咲が誇るアミューズメント技術の粋を集めて作った、新型VRゲームで対決していただきます!」


 そろそろ出る頃だと思ってました。

 主催者はスポットライトを浴びて、マイク片手に水着姿のコンパニオンを連れて登場する。


「今回プレイしていただくゲームは、水咲が来年リリースに向けて現在調整中である電脳仮想空間ゲーム、バトルヒーローズの先行プレイで競っていただこうと思っています」


 どうやらバトルヒーローズというのが、この新型筐体でプレイするゲームの名前のようだ。


「バトルヒーローズは複雑な操作を必要とせず、パンチ一発で岩石を壊す超人や、炎や風の魔法を操ることができるヒーローになり、PVPバトルを楽しむことができます。従来のものとは一線を画す新世代のVRマシンです!」


 VRマシンって言われると、SA○しか浮かばないんですが。


「今回はバトルヒーローズにて100対100の超大規模バトルを開催致します!」


 月の後ろにある巨大モニターが点灯して、バトルヒーローズのPVとおぼしき映像が流れる。

 どうやらヒーローやヒロイン、ヒール役からキャラクターを選び、格闘ゲームっぽいことを電脳空間でやるようだ。

 その中に超必殺技や、自身を強化する進化技みたいなシステムがあるみたいだなぁとゲーマー的目線で眺める。


「悠介さん、VRですよ! SA○ですよ! キリ○さんですよ!」


 雷火ちゃん、そういう元ネタっぽいのを大声で言うのはやめよう。


「VRってだけでワクテカが止まらないのに、ヒーローモノですよ! 大好物じゃないですか!」


 確かに、これで心躍らないわけがない。


「これは楽しみだね」

「わたしたちがプレイするとシステムが暴走して、ゲームから出られなくなる奴ですよ」

「デスゲームが始まるやつじゃん」


 雷火ちゃんはキランと目を輝かせながら大はしゃぎしている。

 月がウォッホンと咳払いすると、ざわついていた会場が静かになった。


「本来バトルヒーローズは対戦格闘ものですが、今回に限りましてチームプレイ用に調整致しました。ルールは単純、MAP内に配置されているチームフラッグ以下CFを破壊することです。自軍に一つ、敵軍に一つCFが配置されていますので、敵軍より先にCFを破壊することが勝利条件です」


 なるほど、それはわかりやすい。でもどうやって一位を決めるのだろうか?


「敵を一人撃破する毎に貢献ポイントが1ポイント、CFを破壊しにきた敵アタッカーを撃破するとディフェンスポイントが5ポイント、CF破壊ボーナスがCFを攻撃した全プレイヤーに30ポイント。これらの貢献ポイントが一番多いペアが優勝となります」


 なるほど、自軍の中で攻撃アタッカー防衛ディフェンダーを分けて、その中で最も貢献したペアが一位ってことか。


「尚自軍の勝敗は順位には関係ありません。ただしCFが破壊された時点でゲームは終了してしまいますのでお気をつけ下さい」


 ポイントを取得する為にはCFを破壊するのが一番だが、敵陣に突っ込むリスクがあるし、敵プレイヤーを倒してもあんまりポイントにならない。

 意外とディフェンスポイントが高いし、6人倒せばCF一つ分のポイントになる。でもそれは自軍のピンチってことだし、そもそもディフェンスばっかりだと相手のCFを破壊することができない。

 まぁちょっとルールが複雑に聞こえるが、要は貢献ポイントが自動でつく棒倒しみたいなもんだろう。


「それでは皆様カプセルの中にお入りください」


 俺と雷火ちゃんは水咲の案内員に促されて、二人で一つのカプセルの中に入る。

 見た目小さそうなカプセルだったが中は意外と広く、二人が両手を広げても当たりそうになかった。


「コントローラーとかなにもないですね?」


 そうなのだ、戦場の運命ならコクピット座席があり、レバーやスロットル、レーダーとごちゃごちゃしているのだが、そういった遊びの類は一切見受けられず、ヘッドマウントディスプレイとゲーミングチェアーが二つあるだけだ。

 全員がカプセルに入ったからか、ウィィィンと音をたてて扉が閉まると『着席してシートベルトをしめ、3Dヘッドギアを装着して下さい』とアナウンスが流れる。

 俺と雷火ちゃんは言われた通りゲーミングチェアーに座り、SFチックなヘルムを被る。

 ヘッドマウントディスプレイには『バトルヒーローズ!』とスタートメニューが表記されておりPUSH STARTの文字が点滅している。


「スタートボタンなんてどうやって押すんですかね?」


 お互いディスプレイを装着しているが、コントローラーらしきものがないので操作の仕方がわからない。


「多分このカプセル自体が360度センサーになってると思うから、手を動かすだけでいけるんじゃないかな?」


 俺は腕をわずかに動かすと、腕に連動したマウスカーソルみたいなのが画面に現れ、マウスをクリックするような感覚で指を動かすと、トゥルンっと音をたてて画面が次に進んだ。


「あっ、いけたみたいですね」


 雷火ちゃんも大丈夫だったようで、キャラクターセレクト画面が表示され、約50人近いプレイアブルキャラクターが並ぶ。


「このへんはまんま格ゲーだな」

「この中から選べばいいんですね」

「そうみたいだね」


 俺と雷火ちゃんはキャラクターを一人ずつ確認していく。軍人やアメリカンヒーローっぽいキャラなど様々いるのだが、なぜか全員頭部が表示されていない。


「なんでこれ頭がないんだろうね?」

「多分ですけど、自分の顔が入るんじゃないんですか?」


 あ~なるほど。つまりこのスッパイダーマンぽいキャラを選択すると、スッパイダーマンスーツを着た三石悠介がゲーム内に登場するってことか。

 ってことはキャラ選ぶってよりかは、どのコスプレ選ぶかに近い気がする。


「悠介さん、このルシファーマンとかどうですか? 天使の羽がヒラヒラしてて格好いいですよ」


 雷火ちゃんが言うルシファーマンは六枚羽の天使型ヒーローで、かっこいい人が使ったら似合いそうなスタイリッシュな格好だが、オタクが使ったら罰ゲームにしかならない。


「雷火ちゃん、俺に天使の羽が生えてもシュールすぎるよ……」

「そうですか? 格好良いと思いますけど」

「それじゃあ雷火ちゃんはこっちのセクシーキャットにしてよ」


 俺が指定したのは、猫耳で胸元がパックリ露出したラバースーツがセクシーなアメリカンヒーローだ。


「こういう服はおっぱいがないと悲しいことになりますよ」


 見ますかわたしの虚無? 虚空ポータルに引きずり込みますよ? とやさぐれた反応を返す雷火ちゃん。

 お互い容姿にはコンプレックスがあるのだった。


「あっ、魔女っ子みっけ!」

「どれ?」

「一番下の段で右端のやつです」


 言われて確認すると、シスターのような修道女の格好に、十字架が先についた杖を持ったキャラクターだった。


「回復系キャラっぽいね」

「でもめちゃめちゃ攻撃力高いですよ」


 ステータスを見ると、魔力に極振りした魔法アタッカーのキャラクターのようだ。


「回復も防御魔法も使えるみたいですから万能タイプですね」

「じゃあ雷火ちゃん、それで行く?」

「はい、そうします。魔法とか使ってみたいので」


 魔法を使うのは全オタクの夢だろうな。俺も30まで純潔を貫けば魔法を使用できると聞いたことがあるが、できればそれは避けたい。

 しかし使えるようになるなら風系の呪文が使いたい。パチンと指を鳴らした瞬間女の子の服を吹っ飛ばして、武装解除エクサルマティオーとカッコ良く決めたい。


「じゃあ雷火ちゃんが攻撃に偏るなら俺は防御キャラにしようかな」


 俺たちがキャラ選択を終えると『瞼を閉じ、気分を楽にしてください』とガイドアナウンスが流れる。


『キャラクター選択完了、フェイススキャン完了、モデリング作成、神経リンクスタート、プレイフィールド生成 、セットアップ完了、イニシャライズ中……。ダイブ開始まで5秒前、4,3、2、1——システム起動電脳接続ダイブスタート


 目を閉じているはずなのに、俺の脳内に直接ゲーム画面が描画されていく。

 気が付いた時には、俺と雷火ちゃんの体は筐体の中から、3Dフィールドへと放り込まれたのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る