第183話 オタとVRバトルⅢ
俺と雷火ちゃんは風になびく自軍フラッグまで下がって待機。
火恋先輩、天、一ノ瀬さん達がゆっくりと左右にわかれて荒野を進軍する。つられるように自軍の味方の半数くらいが、左右に分かれて前進を開始した。
マップを表示させると、味方の現在位置が表示されているので、誰がどこにいるのかがすぐにわかる。
思ったより敵が攻めてこないので、ゆるりとした前進が続き、俺たちは手持ち無沙汰となった。
「敵、出てきませんね」
雷火ちゃんはいつ敵が出てきてもいいように範囲防御魔法である、マリアの加護の詠唱を行う。
「そうだね、月が単騎がけしてきてもおかしくないと思ったんだけどね」
「あの人の性格ならやりそうですね。それで遠距離から藤乃さんがバンバン魔法飛ばしてくる、みたいな?」
「ありそうだね。まぁでも突出しても袋叩きにされるだけだから、冷静に立ち回ってるのかも」
このゲームに関しては開発企業である月の方が圧倒的に詳しい。ある程度の必勝法を知っているのかもしれない。ただ彼女は公平性にこだわっているので、それを知ってても多分使わないと思うが。
じっと前線をマップで眺めているのだが、全く接敵する様子がない。これ敵軍、全員防御シフトってことか?
「まだ少しかかりそうだね」
「………………」
雷火ちゃんと二人でしばらく無言が続く。
「悠介さん……」
「なんだい?」
「………………」
「どうかしたのかな?」
俯きながら、言いづらそうに雷火ちゃんは口をもごつかせながら開いた。
「…………玲愛姉さんのこと好きですか?」
「ここまで皆の力を借りて、好きじゃないとは言えないよ」
「その答えは卑怯ですよ。ちゃんと言葉にしてください」
「………………うん、好きだよ」
俺がそう答えると雷火ちゃんは小さく息をついた。
「はぁ……なんだかライバル多いなぁ」
「もうごめんとしか言いようがない」
「いいですよ、なんとなくハーレムエンドを目指すんじゃないかって思ってましたから」
「ごめん」
「いえ、オタ女としてハーレム要員にされるのはやぶさかではないですよ。エロゲぽくて良きです」
「エロゲの主人公、本当強メンタルしてるよ」
「今の日本でハーレムとか、ほんとリスクしかありませんからね」
「マンガやアニメも、ハーレムから純愛にスイッチしてる感あるよね」
「ハーレムってどれだけとりつくろっても不倫ですから」
不倫の矢印がグサッと体に突き刺さる。
「わたしたちをエロゲーにするなら、鬼畜三姉妹姦~狙われた令嬢~なんてタイトルどうです?」
「2980円くらいでありそう」
「確かに低価格のタイトルですね。悠介さんが催眠を習得したら完璧です」
「もしくはエロアプリね」
「わたし作りましょうかエロアプリ?」
「えっ、そんなのできるの!?」
「わたしにしか効果ありませんけど」
「それは本当にエロアプリなの?」
「エンディングで妊娠検査薬を持ったわたしが、実はあのアプリ効いてたふりしてただけですって微笑んで終わりです」
「最初から知ってましたが」
クククと二人でエロゲあるあるで笑う。
「「…………」」
再び沈黙。
「……わたしは恋愛に明確なルールなんてないと思いますよ。世の中にはきっと言えない恋をしてる人、いっぱいいると思います」
「言えない恋をさせてる時点でアウトだよ」
「悠介さんが悪いんじゃないです。多分あなたは伊達が関与しなければ、ごくごく普通の恋愛をして成就していたと思います。伊達があなたの人生引っ掻き回してるだけです」
「俺がちゃんと選べば全て解決するはずだよ」
「わたしと火恋姉さんが同時にあなたを選んだからめちゃくちゃになってるんです。どちらかの手を離したらどちらかが不幸になる……。ほとんど脅迫ですよ」
「…………」
「わたしと火恋姉さんだけでも手一杯なのに、そこに玲愛姉さんまでぶら下がって、悠介さんの腕千切れそう」
「…………」
「だからわたしは悠介さんの選んだルートを見届けたいです。どんな結果でも我々姉妹、いえ伊達家にも文句を言う筋合いはありませんし、わたしが言わせません」
「男前、いや女前だな君は」
「だけどハーレム目指すなら、ちゃんと本妻、妾、愛人、遊びとわけてくださいね♪」
前半のシリアスさから一変して、ニッコリとした笑みを浮かべる雷火ちゃん。
「そりゃ大変だ。明確にランク付けなんかした日には戦争でもおきそうだ」
「悠介さんは妾である姉さんを追いかけてますから、それに協力してるわたしは本妻力アップですね」
「そんな女子力アップみたいに」
俺が苦笑いを浮かべると、雷火ちゃんはシスタースカートをふわっと翻してくるりと回る。
あまりにも彼女とのやりとりが心地よくて、ここがゲームの中だと忘れていた。
「わたしが一番最初に悠介さんを好きになったんですから、わたしが本妻でいいですよね」
シスター服も相まって、年下とは思えない慈母のような笑みを浮かべる雷火ちゃん。
「思い返せば、雷火ちゃんとアニメショップでトラブルの画集を取り合ったのが始まりか」
なんだかずいぶん遠い昔に思えてくるな。
「俺雷火ちゃんのことは可愛いオタク友達だと思ってたけど、それが火恋先輩の妹で、月や綺羅星と友達で、数年ぶりに天とまで再開して、そして今こうやって玲愛さんを追いかけてる。やっぱり事の始まりは雷火ちゃんだね」
「そうですよ、わたしは全ての始まりにして起源なんですよ」
「本当に感謝してるよ」
「いや、そこまで面と向かって言われると照れますね。てかそういう真面目なこと言う時は、ちゃんと顔見せてくださいよ」
雷火ちゃんが、ていていっと俺のアバターの頭部を杖で突っついてくる。岩石で出来た頭部がコンコンといい音を鳴らす。
「痛いよ雷火ちゃん」
「あれ? 痛みあるんですか?」
「うん、さっき成瀬さんにアイアンクローされたときHP減ったしFFあるみたい」
こういう乱戦になるゲームで味方撃ちが有効になるのは珍しい。
もし範囲魔法等を使う場合は、味方の位置関係に気をつけなければいけないということだ。
「悠介さん…………このイベントが終わったらでいいんで、お願いがあるんですけど……」
さっきまで勢いが良かったのに、急にトーンを落としてもじもじとする雷火ちゃん。
「何かな?」
「……あの……イベント手伝ってる報酬ってわけじゃないんですけど、ほしいものがあるんですよ」
「あー、なるほど……わかったよ」
「え、今のでわかったんですか!?」
「俺たちの付き合いもそこそこ長いからね。雷火ちゃんの欲しがるものなんてすぐわかっちゃうんだ」
「じゃ、じゃあ、一緒に言ってもらっていいですか?」
「いいよ、雷火ちゃんが欲しいものは——」
「エロ本!」
「首輪!」
あれ、明らかに違ったな……。
「あの、悠介さん今なんて?」
「え、エロ本……エロ同人が欲しいんじゃないかなって……」
「違います! なんであの雰囲気でエロ本なんですか!? わたし頭おかしい奴じゃないですか!」
「えっ、いや、恥ずかしがってたし、雷火ちゃんの欲しいものって言ったらエロ同人かエロゲーだと……」
「ほんっと、そういうとこですよ」
彼女は杖でぐりぐりと俺の頬を突いてくる。
「ご、ごめん。なんて言ったの?」
「首輪って言ったんです。玲愛姉さんがつけてたアレ」
「あんなの欲しいの?」
「欲しいです。オタ女としては好きな人に飼われたいと思うのは自然な心理ですよ」
絶対自然じゃないと思う。
「実は言うと、姉さんのアレにかなり妬いておりまして……なんなら手錠と一緒に彼女飼育セットで欲しいなと」
「手錠は勘弁してほしい。首輪は欲しいならプレゼントするけど、ほんとに良いの? 普通指輪とかネックレスとかのほうが良さそうだけど」
「いいんです。わたしが他に欲しいものがあるとしたら、ん~悠介さんの励ましASMRとかくらいですね……」
「それどんなの?」
「”雷火は頑張ってるよ”とか、”雷火は良い子だね”とか、ひたすら励ましのボイスを音声ファイルにしてほしいです」
「よし、首輪にしよう」
そのプレゼントは第三者に聞かれたら、お互い致命傷になる火傷をおってしまう。
結局二つ目の首輪をプレゼントする約束をしてしまった。
「やった言質もとれたので、わたしいい成績をとるために前線に出てもいいですか?」
そういやもうとっくに敵と戦っててもおかしくないのに静かだな。
変だと思いつつマップ画面に視線を移すと、味方のマーカーが自軍に引き返してきていた。
「あれ? なんで皆戻ってきてるんだろ、何かあったのかな?」
俺が不思議に思っていると、ズドンとすぐ近くの禿山が爆発した。
「えっ?」
見ると敵陣営から煙がのぼり、轟音と共に砲弾が打ち出されていた。
「大砲かぁ……遠距離攻撃でこっちを落とそうとしてるのか?」
「でもあんな距離じゃ当たりませんよ? 今のもフラッグを狙ったっぽいですけど、めちゃめちゃそれてますし」
「んー確かに、でも狙うなら普通近づいてきてる火恋先輩たちを狙うと思うんだけど、なんで直接フラッグ狙ってるんだろ?」
「スキルの試し撃ちじゃないですか?」
確かに、距離感とか測ってるのかもしれない。
「どうする雷火ちゃん、皆帰ってきてるみたいだけど、様子見に行ってくる? 多分砲撃は適当に撃ってる感があるから当たらないと思うけど」
「はい、いってきます。わたし役に立ちたいので!」
杖を振りながら雷火ちゃんはいそいそと駆けていった。
この試合練習だから、ポイントとか入らないんだけど大丈夫かな? 勢いあまって空回りしそうな気もする。まぁそれも雷火ちゃんぽくていいだろう。
相変わらずズドンズドンとどこを狙っているのかよくわからない砲弾は、マップを穴ぼこにかえていく。
全く驚異に感じない砲弾をよそに、俺はアバターの感覚を掴むために飛んだり跳ねたりする。
「俺ももう一度技の出し方を確認しておかないとな……近接戦になったとき技でないとかシャレにならんぞ」
このゲームはコントローラーを使用せず、ジェスチャーアクションというシステムを採用しており、アースロックマンのスキルの使い方は両手の拳を合わせると発動する。
試しに両方の拳をぶつけ合わせてみると、巨大な岩壁がフラッグと自分の周りを円状に覆い、敵からの攻撃を遮断するロックシールドが展開される。
「おぉ、本当に魔法を使ってるみたいだ」
面白いなぁと思いつつも、自分の魔力ポイント(MP)がギューンと減ってる事に気づく。MP自体は自動回復のようだが、いかんせん回復スピードが遅い。
「何度も無駄うち出来るもんじゃないな」
このシールドって何秒有効なんだろうと思っていると、さっき出て行った雷火ちゃんや火恋先輩達、全員が帰ってきた。
「あれ? 皆結局引き返してきちゃったのかな?」
俺はすぐに出ていこうと思ったが、自分で展開した岩が邪魔で中に閉じ込められてしまった。
「しまった、自分のスキルに閉じ込められるなんて、どんだけマヌケなんだ俺は」
岩壁の内側から、早くこの岩消えろーと思いながら、岩と岩の隙間から手を振ってみる。
しかし、火恋先輩や天達は俺の様子に気づくこともなく、唐突に……味方に斬りかかった。
「はっ?」
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