第9話 オタのプレゼント作戦
火恋先輩とのデートリターンマッチが決まると、翌日学校にて居土先輩の方から声をかけてきた。
「三石君、話もう聞いてるかな?」
居土先輩も困惑している感じで、せっかく合格と言われた受験が実はファイナルラストの最終試験がありましたって告げられたぐらい困っている。
「聞きました、なんか二人でデート合戦しろって言われましたね」
「ま、まぁそうだね」
「居土先輩ならむしろ得意分野じゃないんですか?」
「経験がないわけじゃないけど、得意ってほどでもないよ」
謙遜しているが、居土先輩の顔には『僕はデートが得意だ』と書かれている。
「大丈夫かな、これが終わってもまた次があるんじゃ……」
「玲愛さんが今回のデート合戦で終わりにするから、次はないみたいですよ」
「そうなんだ。それは知らなかった」
「オヤジから聞いたんですけど、玲愛さんを納得させる為のデートらしいんで、居土先輩からしたら消化試合みたいなもんですね」
「そうなのかな? だとしても玲愛さんは僕を気に入ってないってことだから後が恐いな」
後というのは許嫁になってからの話だろう。
きっと結婚式とか呼ばれるんだろなーとか、火恋先輩と居土先輩の恋人同士の姿を考えると欝になってきた。思考停止しよう。
俺がハイライトの消えたエロ同人みたいな目をしていると、居土先輩はよしと頷く。
「僕は僕の出来る事をして火恋さんを楽しませ、いつか玲愛さんにも認められる人間になってみせるよ」
さすイケ、前向き。居土先輩は自分を奮起させると、お互い頑張ろうねと
いや、彼からしたら俺はもう”敵ですらない”んだろうな。
「俺も悪あがきくらいするか……」
何かデートのアイデアをもらおうと思い、本日絶賛サボり中の
相談出来るのがこいつしかいないと言うのも辛い話だ。そう思ったがスマホの最新のメール履歴に、唯一登録された女の子の名前が踊っていた。
「キタ」
日曜まで日がないので、雷火ちゃんに『相談したいことがあるんだけどチャットしてもいい?』と聞くと、『来週まで暇なんで全然OKです』と返事が返ってきた。心強い。
◇
学校終了後、家に帰って雷火ちゃんにかいつまんで事情を説明する。
一つ年上の先輩と遊ぶことになって、なんとか楽しませてあげたいんだけど、どうしたらいいだろう? と尋ねると彼女から相手の性別を聞かれた。
素直に女性と答えると露骨に機嫌が悪くなった。親戚みたいな人だからと謎の言い訳をすると、なんとか協力してくれることになった。
1時間ほどチャットでの話し合いの結果。
デートコースは地味な散歩でもいいから、二人で喋る時間を多く取ること。プレゼントやサプライズがあると基本どんなものでも喜ばれるから、武器として持っていったほうがいいとのこと。
雷火ちゃん的には自分の事を考えながら用意してくれたんだなって思うと嬉しさ倍増、好感度3000倍らしい。
デートコースにプレゼントの内容まで考えるのは、非モテの俺にはかなり苦しい。
『雷火ちゃんいいのが思いつかないよ』
『じゃあ諦めてすっぽかしましょう』
『雷火ちゃんさっきから諦める方向に促しすぎだよ(汗)』
『女の子に他の女の子の喜ばせ方聞くとか、ホントサイテーですからね٩(๑òωó๑)۶』
『すみませんでした』
『今回は本当に困ってるようなのでアドバイスしますけど┐(´д`)┌』
『雷火ちゃん愛してる!』
何故かこの後、5分程あいてから返信がきた。
『そういうこと簡単に言わないで下さい!』
「すみません気をつけます」
『いいですか? さっきも言いましたけど、女の子は小さなプレゼントでも喜びます。それが例え一輪の花でも嬉しいものです』
『はい』
『相手が喜びそうなものを考えてください』
『はい』
『何かプレゼントの案、浮かびましたか?』
『はい、ヌイグルミなんてどうでしょうか? 女性なら誰もが――』
『却下』
雷火ちゃんに即切って捨てられる。
『な、なじぇ……?』
『話を聞く限り、デート相手の方は1つ年上で文武に秀でた大人びた女性と。その方がヌイグルミが好きな可能性はなくはありませんが、かなりの高確率でファンシー系を卒業している可能性があります』
『な、なるほど……』
『リアル女性に幻想を抱きすぎないでください。ヌイグルミを好きな女性であってほしいという三石さんの願望が入っていますよ』
確かに火恋先輩がくまのヌイグルミを抱いていたら、ギャップがあって可愛いと思ってしまった自分がいる。
『勉強になります』
『他にアイデアはありますか?』
『はい、99本のバラの花束とかどうでしょう? 100本目のバラは相手の胸に刺して、今日が僕と貴女の記念日――』
『却下』
『なじぇ……?』
一輪の花でも嬉しいって言ったのに……。
『単純です。そのバラ持ってデートする気ですか?』
『あっ……』
『花束持って外回ってたら他の人に笑われます。気を使って最後に渡すという手もありますが、どっちみち相手の方はそれ持って帰らなきゃいけないんですよ』
『ソウデスネ……』
『あと今日が僕とあなたのなんとかっていう決め台詞は、普通に気持ち悪いのでやめてください』
『はい、すみません2度と言いません』
『三石さん見た目を重視しすぎですよ。相手も高校生なんですから、背伸びしなくていいんです』
『先生難しいです……』
ギャルゲの女の子ならヌイグルミでも花束でも大喜びしてくれるのに……。
もしかしてあれは上辺だけで、実は(うわっ、こいつ空気読めないもん持ってきたな)とか思われてたのかな。
ゲームキャラに疑心暗鬼に陥る俺。
『そうですね三石さん、料理とか出来ますか?』
『できません』
『じゃあ、それで行きましょう』
『できないって言ってるのに(;゚Д゚)!?』
『頑張って出来るようになって下さい』
『ハードル高いよ雷火ちゃん゚(゚´Д`゚)゚』
『頑張って下さい、ちなみにわたしも料理出来ません』
『助けはないのですか? 慈悲は?』
『ありません頑張って下さい。その頑張りが相手を喜ばせるんです』
「雷火ちゃん厳しいよー」
俺はパソコンの前でがっくりとうなだれる。
でも、確かに料理を作るのは意外性があっていいかもしれない。
『ありがとう、ちょっと頑張ってみるよ』
『三石さんなら大丈夫です。きっとエックスのショーと同じくらい、いいものになりますよ(๑•̀ㅂ•́)و✧』
応援の仕方が偏っている気がするけど、ありがとうとお礼を返す。
「料理の勉強からか……。間に合うかな」
俺はチャットを終わらせると、すぐに書店へと買い物に出た。
翌日、相野が「おい磯野、遊びに行こうぜ」のノリで遊びに誘ってきたがそれを華麗にスルー。俺には時間がないのだ、許せ。
学校を出ると商店街の方へと走る。プレゼントの目標にしたのはお弁当作り。
いきなり夕食を作れとかハードルが高すぎるので、出来そうなところをやる事にした。
スーパーからたくさんの食材を買いあさって回り、そして家に帰りいざやるぞという時に調理器具の故障に気づく。
「炊飯器が……壊れてる……だと」
一人暮らしするときにオヤジ達から買ってもらったものだが、長いこと使っていなかった。そのせいで劣化したのか、コンセントが刺さっているのに電源が入らない。
修理に出していては時間がかかりすぎるので、俺は財布を手に急いで電気街へと向かう。
「オタクの自分が深夜まで料理のハウトゥー本を読みあさり、炊飯器買いに全力ダッシュすることになるとは」
何やってんだ俺は、フラれることがわかってるくせに。
でも誰かのために、スキルを身に着けようとするのはとても楽しい。
きっと頭の中で、火恋先輩が俺の作ったものを食べて喜んでくれるかもしれないという淡い期待があるから。
そして1万分の1の確率でも、彼女が振り向いてくれるかもしれないと思うと頑張らずにはいられない。
「ギャルゲ主人公ってこんな気持でステータス上げてたのかな」
電気街へと入り、炊飯器を求めて電気店に入ろうとすると、見知った人影を見ることになった。
その人は長い黒髪を後ろで纏めたポニーテール。
部活帰りなのか、制服姿に大きなスポーツバックと竹刀袋を持っており、慣れていないのか電気街をキョロキョロと見回していた。
今しがた思い浮かべていた人と、まさかこの場所で鉢合わせするとは。
「火恋先輩が電気街とか似合わなさすぎだろ」
一見するとスポーツ少女のように見える火恋先輩はまさしくスポーツ少女なのだが、昨今胸の発育があまりにも良すぎて、剣道部の防具が入らなくなったと素敵な話を聞いた。
そんな爽やかグラマーな火恋先輩と、ホームグラウンドで会うとは思っていなかった。
まぁ今は関係がギクシャクしているのでスルーして炊飯器を買いに……と思ったのだが、そもそも俺は誰の為に炊飯器を買いに来ているんだという話だ。
「声かけるか?」
今度デートすることになりましたね、という会話デッキがあるが……。そのデッキは火恋先輩を困らせるかもしれない。
しかしなんだか困っているようにも見えたので、声が出てしまった。
「ど、どうもです」
小さく片手を上げ、最小ボリュームで挨拶する。イエス、アイアムチキン。
「あっ、悠介君……」
やばい先輩気まずそうに顔伏せちゃったぞ、やっちまったんじゃないかこれ? やらかしたと察知した俺は、即座に撤退を決意する。
「伊達先輩が電気街とか珍しいですね。それでは用事があるので失礼します」
この反撃を許さない怒涛のまくしたて。これで両者の平穏は守られた。
今度はさっきよりも元気に手を上げて立ち去ろうとすると。
「あの、悠介君」
呼び止められてしまった。火恋先輩は少し俯きがちに視線を彷徨わせると、申し訳無さそうな恥ずかしそうな声で聞いてきた。
「あの、ここ……どこだろうか?」
ズルっと滑りそうになった。
「えっ?」
「私、時計を買いに来たんだけど、気づいたら迷ってしまって」
「あぁ、なるほど」
電気街って似たようなお店が多くて、フラフラしてるとここどこだ? ってなったりするよね。 そんなことないか。
「こっち手前出るとすぐ駅あるんで、あの大きい黄色の看板出てるとこです」
「ち、近いな。すまないありがとう」
「ところで先輩、目的の物買えたんですか?」
立ち去ろうとする火恋先輩を引き止める。彼女はスポーツバックと学生鞄しか持っておらず、
「いや、道に迷ってしまって結局店を見つけられなかったんだ。恥ずかしい限りだ。今度百貨店で買うことにするよ」
「時計屋ならすぐ近くにありますから行きましょう。こっちです」
俺は勝手に頷いて、電気街の奥へ入っていく。
「いや、そんな悪いから。気にしないでくれ」
そう言いつつも、俺の後を追いかけてくる火恋先輩。
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