第10話 オタとプレゼント選び
「先輩、時計ってアナログですよね? ここにあるのって結構ゴテゴテしたデジタル多いですけど」
「いや、デジタルでいいんだ」
「珍しいですね、先輩は絶対アナログ派だと思ってました」
「その、プレゼント用で私が使うわけじゃないんだ……」
……あぁ成程ね、だから電気街に。
自分で使わないデジタル時計でいろいろ察してしまった。
そのプレゼントの対象が高確率で居土先輩だろうなとか、あの人誕生日近かったけ? とか。
まぁ対象が見えてるなら商品は探しやすい。
「それならちょっと頑丈なのがいいですね。部活でつけるなら耐水も欲しいか? いや、そもそも部活で時計なんかつけないか……」
そんなことをぶつぶつ呟きながら、古めかしい時計専門店に入った。
「先輩、予算の方は?」
「1万から2万ぐらいだが、良いものであればそれ以上でも構わない」
金に上限はないが、学生がつけるものでそんなに高額なものはどうなんだ? って話だな。
居土先輩が金のロレックスとかしてたら引くしな。
「じゃあこの辺りですね」
俺は【激安!!】と書かれたワゴンの中に入った腕時計を指差す。
売れ残りで値段が大幅に下げられた商品は、雑多に並べられ安物臭が凄い。
「悠介君、私の想像していたものと少し違うのだけど」
先輩はディスプレイケースに並ぶ、綺麗なデジタル時計を指差す。
明らかにあっちがいいんですけど、みたいな顔をしている。
「向こうのは最新モデルなんで高いんですよ。時計店の高いのっていくらか知ってます? デザインの良いオシャレな時計なら平然と3万超えてくるんです。それに先輩、時計よくわかんないから一番良いのを頼むとか言って50万くらいする時計が出てきて慌てるタイプでしょ」
「うぐ」
図星だったのか、火恋先輩は黙り込んだ。
「それにプレゼントするならただ高いブランドモノよりベルトとかかえて、オリジナルっぽくしてやった方が相手も喜びますよ」
俺はポンポンとデザインの良さげなデジタル時計と、ベルトを一緒に渡していく。
「おっと、これが本当にワゴンなのかい?」
「凄いでしょ、それ元値4万ぐらいですよ。ただベルトの色が微妙なんで人気でてないだけです」
「こっちのに変えればいいのかい?」
ブラックのベルトだけの商品をまじまじと眺める火恋先輩。
「その時計ベルトと一体型なんで普通は交換できないんですけど、それをやってくれるのがこの店なんです。時計本体が安売りで1万くらい、ベルトが5千で、まぁ手数料税込み電池交換含めても2万弱でいけるんじゃないですか?」
「そ、そうなのか」
「ちょっと高いですか?」
先輩は圧倒されている感じだったので、値段の問題かと思ったがそうでもなかった。
「そんなことはない、本当に安いと思う。それにしても君は詳しいんだな」
「時計屋でも少しバイトの経験がありまして。時計とか高価なものはやっぱり妥協しない人多いんで、色やデザインとかちょっと微妙なだけで見向きもされないんです。ただベルトかえるだけで、ぐっと良くなるんですけどね」
「なぜみんなしないんだろうね?」
「カスタムするってセンスも問われるんで、敷居が高く感じる人が多いんですよ。でもプレゼントだと結構オーダー入りますよ。この時計に合うベルト見繕ってくれって」
そう言いながらもポンポンと時計とベルトを投げていく。
「そんなもんですかね。一応機能性、耐水性、値段を考慮して候補をだしました」
先輩は時計とベルトを六セットぐらい持たされて、持つのが辛そうだった。
「悠介君はこの中でどれが一番良いと思う?」
「それを決めるのは俺じゃないんで、お好きなのをドゾー。ちなみにその中じゃなくて、あっちのディスプレイから最新モデルを選ぶという手もあるので」
「いや折角だ、この中から選ばせてもらおう」
先輩はベルトと本体を見比べながら、自分でもベルトコーナーにいって、色やデザインを吟味していく。
しばらくして、先輩が選んだのはLEDの盤面の上に時針がついた、アナログ・デジタル両方の機能を備えた腕時計。
バックライトを消せばアナログ、つけれデジタルになる面白いデザインだ。
ベルトの方は黒のレザータイプで、社会人がつけててもおかしくないくらいカッコイイと思う。
「いいですね。じゃあそれでいきましょう」
俺は先輩から商品を受け取ると、店員に電池交換と、ベルト変更をしてほしい旨を伝える。
10分程で交換は終わり、料金を支払った先輩は満足げだった。
「凄いな、本当に助かったよ。こういうことに慣れていなくて、どうすればいいかわからなかったんだ」
「喜んでいただけて何よりです」
時計屋を出ると既に夕日が沈みかけていて、辺りは茜色に染まっていた。
「君の用事は良かったのかな? 最初何か用事があると言っていたと思うんだが」
「いや、大した用ではないんで後回しで大丈夫です」
それから駅前まで火恋先輩を送り届ける。
「じゃあ俺、まだ用残ってるんで」
今度こそお別れと、片手をあげる。
すると火恋先輩は、駅を背景に申し訳無さそうな表情を浮かべる。
「悠介君、このプレゼントのことなんだが……」
「居土先輩へのプレゼントですよね?」
「……気づいていたのか」
「先輩が時計のプレゼントとか言い出して、デジタル希望となると接点のある人は居土先輩ぐらいでしょう」
「お、怒らないのかい? その……」
居土先輩へのプレゼント選びを手伝わされて。
火恋先輩は非常に申し訳なさそうに、俯きがちにこちらを見ている。
「いや、怒る要素がないでしょう。次のデートで渡すんですか?」
「ああ……。彼には贈り物をよくもらっているから、何か返したいと思っていたんだ」
「成程、そういうのは大切ですね。お互いの気持ちを大事にしあうっていうのは」
「それと、君のことなんだが……多分、次の食事会の後も良い返事を返せないと思う……。こんなによくしてもらった後に言うことではないが、すまない」
火恋先輩はペコリと頭を下げる。
うん、真面目。そんな言いにくい事を辛そうな顔で言わなくてもいいのに。有耶無耶にするって言うのが出来ない人なんだなぁ。
そんな真っ直ぐな人だからこそ憧れて……恋をした。
「いや、別に気にしてないです。親父からも今回のデートは玲愛さんを納得させる為のものって聞いてますし。全然気にしてませんよ」
気にしてませんの部分が若干上ずった。自分自身に下手くそめと言いたくなる。
ピエロをするならしっかりやれ。
「すまない、君には本当に迷惑ばかりかけている。いずれ何かの形で返したい」
真剣な表情で礼を述べ、頭を深く下げる先輩。
「いいです、本当に気にしないで下さい……。って思ったんですけど、先輩一つお願い良いですか?」
電気街にあるとある店が目に入り、ちょっと意地悪なことを閃いた。
「何だい? 私にできることならしたい」
先輩の真面目な部分につけこむお願い。
「俺、伊達先輩の写真が欲しいです」
「写真? それくらいなら全然大丈夫だが」
「ありがとうございます。近くに綺麗にとってくれる写真館があるんで行きましょう」
「本当に
ニコやかについてくる先輩。しかし連れてこられた店の前で表情が曇る。
「こ、ここで? あってるのかい?」
「あってます、行きましょう」
その店は、電気街の奥に堂々と建っており、ショーウインドウにはメイド服やこんなのありえないだろと言いたくなる学生制服が展示されている。
写真館と言ったが、要は
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