第19話 オタと罰
引き継ぐ話が全て終わった後、火恋先輩は小さく息をついた。
「昨日君の話を聞いたよ。出来ない料理を頑張って作ってくれた上に、私を12時間も駅前で待ち続けてくれたと。……本当に心が痛くなった。たった一人で、さぞかし冷える思いをしたことだろう」
火恋先輩の声はややハスキーで震えているように感じた。雷火ちゃんが手を添えながら俺の耳元で囁く。
「昨日その話を聞いて火恋姉さん泣いちゃったんですよ」
「そうなのか……」
そこまで気にしなくていいのにな。
「まぁわたしが三石さんがどんな気持ちでデートに臨んだか、事細かに詳細を話して煽ったせいってのもありますが」
「君は少しやりすぎだ」
彼女のデコを軽くピンとはねる。
後そういうのは、言わないでくれたほうが男心としては嬉しい。
「それでなんだが、今回の件私に罰を与えるのは、悠介君に正当な権利があると思う。だから償い方法に関しては君に委ねたい」
そう言うと火恋先輩は裁判官の判決を待つように、強い眼差しで俺を見つめてきた。
「じゃあ……何もなしで」
「「…………」」
あれ? 俺もう判決下したのに、何でこの張り詰めた空気終わらないの?
雷火ちゃんも火恋先輩も、緊張した面持ちでじっと俺の方を見つめている。
「あの……何もなしでいいんじゃないでしょうか?」
「「…………」」
ダメらしい。
「いきなり罰を与えると言われましても、非常に困るのですが」
「何を命じてくれても構わないよ」
「変態的なのは却下ですから」
フフフと雷火ちゃんは微笑んでいるが、目が笑っていない。
「難しいな、罰と言われてもすぐには浮かばないんですけど」
「三石さん、せっかくだから水着で部活しろとかでもいいんですよ」
俺より雷火ちゃんの方がよっぽど変態的だった。
「君がそれを望むならそれで構わない。ただ冬場は上にシャツを一枚羽織らせてくれると嬉しい」
下は!?
水着剣道!?
「そんなことしたら教師に怒られますよ」
「大丈夫です。ウチ金持ちなので、先生に見て見ぬ振りしてくれって言うくらいできますよ」
「や、やらしいな……」
でも、それがOKなら……。
「じゃあ、おっぱいを触らせていただければ」
俺がセーラー服越しからでもわかる、ボリューミーな火恋先輩の胸を指差すと、雷火ちゃんが俺の二の腕をつねりあげた。
「先輩♡ 変態なのはダメっていいましたよね? わたしのうっすいので我慢してくださいね♡」
君に言われたくない! 目が笑ってるのにつねりがとても痛い。
笑いながら逆のことが出来る器用な子だな!
一応雷火ちゃんの名誉のために言っておくが、彼女は別にまな板ってわけじゃない。火恋先輩に比べると若干薄いかなくらいである。
「わかった。いいだろう。好きにしたまえ」
火恋先輩は覚悟を決めた武人のような表情をすると、セーラー服の脇についているジッパーを開け始めた。
「ちょ、何やってるの姉さん!」
「離せ雷火、これぐらいしなければ罰にはならない! いやこれでもぬるいくらいだ!」
なんなんだ、火恋先輩は一体どんな罰を求めてると言うんだ。
「やめてよ、姉さんが脱いだらわたしがガッカリされるじゃない!」
「何を言ってるんだお前は! 離せ!」
「わたしの成長が追いつくまで絶対脱がさないから!」
「そんなこと言ったら私は一生脱げんだろうが!」
「はぁ!? 姉さん今ナチュラルに侮辱しましたね!?」
「もう私には脱ぐしかないんだ!」
「売れないアイドルみたいなこと言わないで! 絶対脱がさいなから!」
脱ぐ脱がないで、もみ合いになる姉妹。
ごめんなさい本当勘弁して下さい。
「すみません。今の嘘です、冗談です! 脱ぐの禁止!」
俺が割って入ると、なんとかおさまってくれた。
「本当にいいですから。先輩に罰なんて必要ないですから!」
「頼む、私に罰を与えてくれ。そうじゃないと私は自分を許せそうにないんだ!」
罰を与えてくれと頭を下げる火恋先輩。微妙に興奮するシチュエーションだが、女の子に罰を与えて喜ぶ趣味は無い。
「何かしてあげて下さいよ、姉さんの為だと思って」
もはやなんの罰だかわからない。
どうしようかと考えると、一ついいのを思いついた。
「じゃあコスプレとかしましょうか?」
「えっ?」
「そんな三石さん、セー○ー戦士の格好で授業を受けろなんて、鬼畜すぎます!」
言ってない言ってない。
君も古いアニメ知ってるな。
「どうです先輩? ちなみにコスプレはオレがチョイスしたアニキャラでしてもらいます。更にそのコスプレするアニメの原作BDも全部見てもらいます」
「そ、それは構わないが、そのコスプレをした後どうしたらいいんだ?」
「ま、まさかその格好で街を歩かせて!? その後ろをニヤニヤしながらついてくるつもりですか!?」
君はエロゲのやりすぎだ。
そんな衆人環視の目に先輩のコスプレを晒すわけがない。
「いや違うから。そうですね、俺から写真を撮られてしまいます」
そう言うと、先輩は薄っすらと頬を染めながらゴクリと生唾を飲む。
「わ、わかった。君の気が済むまで撮影してほしい」
その異変に長年付き合っている雷火ちゃんが気づかないわけもなく。
「姉さん、何でそんなに嬉しそうなの?」
「へっ? いや、そんなことはない。何を馬鹿な事を言っている」
胡散臭く咳払いしてみせるが、明らかに目が泳いでいる。
「じゃあ、それでいいですね」
「ああ、構わない。コスプレ、コスプレね……」
「…………?」
明らかに何かを期待しているような、そんな眼差しの先輩。
それを不審がる雷火ちゃん。
なんとか解放されたと安堵する俺と、三者三様だった。
◇
第二回火恋先輩ドキドキコスプレ撮影会は、今週末に行われる事が決定された。
二人と話を終え、教室に帰ると相野からの質問攻めが待っていた。
俺はそれにさっきの美少女は火恋先輩の妹で、呼び出されたのはお家事でごまかした。大体あってるからいいだろう。
時間は過ぎて放課後に。
俺は相野とバッティングセンターへ行こうとすると、再び呼び出しがかかった。
「悠介、今度は居土先輩から体育館裏に来てくれって言付かったぞ。美少女の次はイケメンかよ。こっちは全く羨ましくないけど」
「ああ、来たんだ」
まぁ来るかなとは思ったが、やっぱりか。
「すまん相野、また無理になったっぽい」
「だろうな、なんかそんな気がした」
俺はまた今度なと謝罪し、呼び出された体育館裏へと向かう。
「さて……居土先輩の方はどう出るのかな……」
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