第18話 オタの価値は

 翌日、週明けの学校にて――


 あれだけ寒いところにいたのだから、風邪の一つでもひくかと思ったが全くひかなかった。

 強い疲労感だけが残り、俺は全身を包む気だるさから机に突っ伏していた。


「さてテンションの低い三石君。今日はどこに行くのかね? カラオケか? それともバッティングセンターか?」


 少しテンション高めで話しかけてくるのは悪友相野。

 バッティングセンターをやたら押してくるあたり、単に自分が行きたいだけかもしれない。


「昨日はいろいろあって疲れてるんだよ」

「そうだろう、そうだろう。好きな人に二度もフラれれば堪えるものだろう」


 うんうんと訳知り顔で納得する相野は、バンバンと俺の肩を叩いてくる。ちょっと嬉しそうなのが腹が立つ。


「で? 放課後どこ行く」

「あぁ……そうだな、じゃあバッティングセンターでも行くか」

「おっいいね、しゃーなしだぜ? 傷心の友を癒すオレ優しい。どこかで美少女が見てないかな?」

「それ見てたらどうなるんだ?」

「きゃー相野さん優しい、素敵! 付き合って!(裏声)ってなるだろ」


 なるかぁ。

 頭ハッピーセットな相野は、大げさに教室を見渡してみせる。


「おい……悠介。なんかオレ美少女にめっちゃ見られてるんだけど」

「お前を見てその子になんの得があると言うんだ」


 あるとすれば、あの人の顔面白いなと思われてるくらいだろう。

 俺は体を起こして、自称熱視線を向けているという女の子を見てみる。


「ちっす」


 それは見覚えのある美少女だった。

 いつものワイシャツネクタイではなく、セーラー服に紺の学生スカート。胸元には1年制の証である赤のスカーフ。切れ長の瞳に長い髪を揺らし、黙っていれば理知的に見える少女オタ

 雷火ちゃんが教室の入口で、にこやかな笑みを浮かべながら俺に手を振っていた。


「オイオイ、あんな天使1年にいたか? オレのDBデービーにはないぞ」


 相野は口をぽかんと開き、頭の悪いことを言う。

 ちなみにDBとは、相野の持つ美少女データベースの略である。


「転校生だ」

「えっ? 知ってるの? なんで? ずるい」


 俺は机から立つと相野の横をすり抜ける。


「おい、悠介何やってるんだ。相手は美少女だぞ。食物連鎖の頂点だぞ!」


 こいつの食物連鎖がどういうピラミッドで成り立ってるのか気になるが、相手にしていると時間がかかるので無視することにした。


「やっと気づきましたね」

「ごめん、体が痛くてね」


 コキコキと肩と首の関節を曲げて音を鳴らしていく。


「昨日はすみません。いろいろご迷惑をかけてしまいまして」

「いや、全然大丈夫。今日から転入なんだよね?」

「ええ、元から姉さんの通ってる学校に行こうと思ってましたから。都合が良かったです」

「都合?」

「これで晴れて三石さんの後輩ですから。よろしくお願いしますね先輩♡」


 雷火ちゃんはアニメキャラっぽく声を作る。


「それFG○マッシュ?」

「わかってくれて嬉しいです先輩♡」


 くるっと回ってスカートを翻してみせる雷火ちゃん。

 あざとい。可愛い。


「全く……自分のクラスでもオタ発揮してるんじゃないよね?」

「クラスでは完全に猫被ってるので、オタCOカミングアウトするつもりはありませんよ」

「君の被る猫は分厚そうだ」

「フフッ、オタの道は陰の道ですからわきまえてますよ。先輩、場所かえてもいいですか?」

「いいよ」


 俺たちは教室から、誰も来ない空き教室へと移動した。

 そこには火恋先輩が先に待っていた。

 彼女の目の下には薄くクマができており、あの後いろいろあったんだろうなと察することができる。


「やぁ、手間をとらせてすまない」

「俺は大丈夫ですけど、先輩こそ大丈夫ですか? 大分疲れている感じがしますけど」

「心配ない。早速で悪いのだが、昨日決まった事を話していいだろうか?」


 恐らく伊達家では、昨日のうちに緊急で家族会議が開かれたのだろう。

 その議題は間違いなく居土先輩についてだ。


「伊達家は居土家を婚約者候補から外した。理由は昨日言った通り、嘘をついて他の許嫁候補を妨害したこと」


 やっぱりそうなったのか。情状酌量とかなく一発アウトなんだな……。


「玲愛さん大丈夫だった? ブチギレてそうだけど」

「玲愛姉さんは特に何も。父は嘆いてたが……」

「姉さん計画通り、みたいな顔してましたよね」


 なんでだろ、有望な候補が潰れちゃったのにな。


「それにより婚約者候補は君だけになった。また新たに候補を補充するという話も上がったが、君にはあまりにも迷惑をかけた上、選考を更に延長することはできないと見送った」

「ってことは……」

「本来なら今日から私との交際がスタートするのだが、悠介君からすれば到底納得の行く話じゃないだろう? 君からすれば私から嫌な話をたくさんされたにも関わらず、相手が勝手に落選し繰り上げ当選になったものだ。気持ちが入らないのは重々承知している」


 嫌な話ってのは、俺を受け入れられないって言ってたことだろうな。


「それに私は君に恩があるにも関わらず、仇で返すような事をした。私自身、そんな人間を好きになってくれなんて無理があるとわかっている。そこで話し合った結果」

「わたしが出てきます」


 そう言って雷火ちゃんが手を挙げる。


「わたしが許嫁やります」

「雷火ちゃんが先輩のかわりに?」

「はい、やります。やらせて下さい」


 そう言ってペコリと頭を下げる雷火ちゃん。


「あの、許嫁って姉妹間なら誰でもいいものなの?」


 今回の話は伊達家を継ぐという大きい話なので、いろいろ決まりがありそうなんだけど。

 でもそれを言うと、本当ならこの話は長女の玲愛さんになるはずだが。


「はい、正直男の子が産まれてくれれば三姉妹誰でもいいです」

「そうなんだ。意外だ」

「あの一応制限はありまして、早くに子供を作ることです」

「う、うん、知ってはいるんだけど」


 むしろ伊達家にとって俺の価値はそれしかないだろう。だが、いざ子供作れって言われたら身構えるよね。

 産まれてきた子供に跡継ぎ教育をすることになるから、伊達家が早くに子をほしがるのは当然。

 教育を開始するのが10歳ぐらい? もっと早いかもしれないけど、単純に今すぐ息子が出来たとしても10年も待ち時間ができるわけだから、そりゃ早くほしいよね。


「玲愛姉さんが今回の話に出てこないのは、パパに何かあったとき伊達家を代行できる人間を作っておかなければならないからです」

「なるほど」


 確かに人間いつ何が起こるかわからないし、まして10年後なんてどうなってるかわからないからその時の保険か。

 不謹慎な話、剣心さんに何かあった時伊達を守れる人間がいないと困るってことだな。

 でもそれなら代行と言わず、そのまま玲愛さんが全部継いじゃったらいいんじゃない? と思うんだけどダメなのかな。


「ダメです」

「うぇっ?」

「今玲愛姉さんが全部継いだらいいんじゃないかって思いましたよね?」

「思った」

「男の子がどうしても欲しいらしいです。もうわたし達に男児ができる予定で、伊達含め傘下のグループも動いていますので」


 伊達くらいになると10年単位でスケジュールが決まってそうだ。

 娘の出産もその中の1つに組み込まれてるのかもしれない。

 そう考えると、俺も火恋先輩や雷火ちゃんたちも歯車予定の1つなんだろうな。


「許嫁の話は全て雷火が引き継ぎ、以降は君たち二人で話を進めてほしい」

「その……伊達先輩は、もう許嫁候補にならないってことですか?」

「そうだね。私の浅はかな行動で、君にも居土君にも迷惑をかけたからね」


 ん~俺は居土先輩サイドに問題があると思うけど、火恋先輩が悪いと言う人もいるのかなぁ。

 責任をとって身を引くということなのだろうか。

 なんというか、火恋先輩が一番振り回されている感があって悶々としたものを感じる。






――――――――――

改稿しながら新規も追加しているので、新しいネタが混じってます。

昔の内容を知っている方が「ん?」となっているのは、多分そのせいだと思います。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る