第57話 水咲月はオタと帰りたい
放課後――
授業が終わり、皆クラブ活動やアルバイト等、自身の用事に精を出す時間。
本日は雷火ちゃんと火恋先輩はお家事で不在。
喫茶店の手伝いも、今日は静さんが出てるので大丈夫とのこと。
一人だしどうしようかと思っていたら、相野から誘いがかかった。
「悠介、今日電気街行こうぜ。チェキカノの新作がVITAで出たんだ」
「マジか、あの紳士ゲーが高画質でプレイできるとは胸が熱くなるな」
「CERO D指定だからな、きっとパンチラ撮り放題だぜ」
「そいつはロックだな」
相野と一緒に雑談しながら下校しようとしていると、校門前で生徒が集まってざわついている。
「なんだあれ?」
「わかんねーけど、あれお前待ちじゃね?」
相野が正面を指差すと、そこには校門を塞ぐように真っ白でピカピカなリムジンが停車していた。
帰宅しようとしている生徒たちの目に否が応にも止まってしまい、皆が奇異の目で見ている。
「運転手っぽい人、めっちゃお前のこと見てるぞ」
出たなイケメン執事。
リムジンの脇で立っている藤乃さんは、朝見たときと同じく、爽やかな笑みとともにこちらに手を振っている。
やめろ、そんなお迎えにあがりましたみたいな顔でこっちを見るな。
「気のせいだ、何かの間違いだ」
俺は足早に校門をすりぬけようと歩調を早めた。
しかし藤乃さんが後部座席のドアを開くと、中から「あたしが来た」と言わんばかりの自信に満ちた顔で
ゴールドの縦ロールツインテ、両手の指にはごつい宝石のついた指輪。
ゴージャスが服を着て立っているような少女が、フンとツインテを弾き腕組みする。
「めっちゃお前見てんじゃん。明らかにお前じゃんて」
相野は肘で俺をグイグイと突っついてくる。
「ちげーよバカ。きっと俺の後ろの人だよ。俺が反応したら、貴方じゃないんだけど……って微妙なリアクションされるに決まってるだろ」
「つか、マジでどうやって朝女の生徒と知り合ったんだ?」
「朝女朝女ってよく聞くけど、その学校って有名なの?」
「
「強そうな名前してんな」
「スーパー金持ちが行くスーパーお嬢様学園。そのままエスカレーターで進学すれば、後は政治家や官僚、弁護士みたいな上級国民になる」
「ガンニョムで例えてくれ」
「ウチが普通の連邦士官の養成所だったら、向こうはムラサメ研究所」
「マジかよ、はなからスペックが段違いじゃねーか」
「おう、だからオレたち程度のビームライフルなんてかすりもしねーぜ」
「そりゃサイ○ミュ搭載型と戦わせちゃいかんだろ」
ジヌでキュベレイには勝てない。
それでも俺は気づかないフリをして、リムジンの隣を無理やり通り過ぎる。
すると月の顔が、「ほぉ、貴様他人のふりを通すつもりか」と怖い笑みを浮かべる。
知らん知らん、俺はただの連邦士官でザヌとタイマンして死にかける程度の能力しかないんだ。
キュベレイはもっと強い
「ダーーリーーーーン! なーんで無視するのーー!」
奴は
「だってよダーリン。モテ期かこの野郎? オレにも朝女の生徒紹介しろよしてください」
相野はジトっとした視線を俺に向けた後、鋭い肘鉄を入れてきた。
最早逃れることは不可能なので、これ以上被害が拡大する前に出頭することにした。
月はおとなしく投降してきたジヌに、わかりゃいいんだよと勝ち誇った笑みを浮かべる。
「あの……なんでしょう?」
「なによ、一緒に下校しに来たらそんな嫌そうな顔しちゃって」
「普通の下校にリムジンは使わないんだよぅ!」
「あ、もしかしてこれから予定とかあったの?」
隣にいる相野を見て、そう思ったのだろう。流石に人の予定ぐらいは考えられる子らしい。
「そうそう、オレたち今から遊びに行くんだ。お嬢さんもどう?」
相野が下心満々のちゃらけた感じで言うと、
「あ、そうなの? じゃあ悪いんだけど諦めてくれないかしら? こいつ今からあたしと予定があるの」
この子、相手の予定を聞くけど聞いてるだけだな。全く譲る気がない。
それは相野にも感じ取れたようで肩をすくめている。
「すまん、また今度な」
「まぁしゃーねーな、お前もなんか苦労してるみたいだし。火恋先輩のコスプレ写真で許してやるよ」
「俺のくまのプ○さんコスプレで我慢しろ」
「あいつジャケット以外全裸じゃねーか!」
あーあ、また女子にゴシップネタを提供してしまったと思いながらリムジンに乗り込むと、俺の対面に腰を下ろす月。
彼女はあれだけ派手に登場した割に、そわそわと落ち着き無く、そっぽを向きながら自分の髪を指でクルクルしている。
この辺は朝と全く同じだな。
俺たちの乗車を確認したリムジンは、緩やかな速度で発車した。
流されて乗り込んだのはいいが、目的も何処に行くのかも聞いていない。
話すべき事はたくさんあるのだが、お互い会話の糸口が見つけ出せずに膠着状態と言ったところか。
黙っていても仕方ないし、向こうはあまり話す気もなさそう。しょうがない、口火を切るか。
「あの、これからどこに行こうとしてる?」
「…………」
「あの……聞いてる?」
この至近距離で聞こえないということはあるまい。
「あの、君」
「名前」
「あっ、えっと
同い年ということで、何回か名前で呼んでしまっている気はするが、イマイチどう呼べばいいかわからない。
「好きに呼べばいいわ。まぁあたしのこと下の名前で呼び捨てにする奴なんて、世界で数人しかいないけど」
「
「月でいいわ。あたしは悠介って呼ぶし」
今更ながらお互いの呼び名が決定する。
なんというか、静さんの件があってこの子には強く出られないんだよな。
「「…………」」
またしても沈黙。完全にコミュニケーションエラーが発生しているぞ。
雷火ちゃんがいると喋れるんだけど、二人だと間が持たない。
仲良し3人組でも、クッション役の人物が欠けると、途端に会話が成り立たなくなる奴である。
「あの……これからどこに向かうのでしょうか?」
「…………家よ。あたしの」
「は、はぁ……なぜ俺は水咲家に連れていかれようとしてるのでしょうか?」
「なに、理由がいるの?」
「いや、そういうわけでは……」
なんなんだこの空気は? 不機嫌なのか? 怒ってるのか?
月はツーンと窓の外見たまま、脚を何度も何度も組み替える。
俺が重い空気に汗だくになっていると、運転席の藤乃さんから声がかかった。
「大丈夫ですよ三石様、お嬢様はただお家デートに誘いたかっただけですので」
「家デート?」
「はい、伊達家当主様より交際の許可を得たにも関わらず、二人きりで過ごす時間がほとんどありませんでしたので」
「そ、そうなんですか?」
彼女の態度から見ると、そんな乙女らしい事情は全く垣間見えない。
俺はダサい格好した奴とは一緒にいたくないだろうと思って、遠慮していたのだが。
「お嬢様はかなり恥ずかしがり屋ですので、先程の会話も、もうちょっと親しい呼び方で呼んでほしいと言っただけです」
「藤乃」
「失礼しました。ですがお嬢様だけでは、いつまで経っても仲が進展しませんので」
「余計なことしないで――」
突如キキッとブレーキ音をたててリムジンが停車する。
その拍子に月の腰が浮き、俺へと倒れ込んできた。
「大丈夫?」
「だ、大丈夫よ」
なんとか抱きとめることができたが、危なかった。
それと同時に少女の心臓がドッドッドッと、エンジンのように激しく鼓動しているのがわかる。
どうやら緊張しているようだ。
「失礼しました。前を急にネコが通ったもので」
本当だろうか? 猫らしきものは見えないが。
「三石様、リムジンの後部席にはシートベルトがございません。急ブレーキ対策に隣同士になってお座りください」
「は、はい」
月が席を移動し、俺の隣に並んで座る。
「……………近くない?」
完全に肩が密着してるんだけど。
「急ブレーキ対策よ」
「そ、そう?」
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