第316話 声優ラジオ

 俺は一式と共に社長室を出ると、小さく息をついた。


「やると言ってしまった……」


 遊人さんの「ゲームは完成させるのが目的じゃないだろう」という言葉が深く突き刺さってしまった。

 しかしやはり大企業の社長というか、ちゃんと俺が思っていたゲームの弱い部分を突き刺してきたな。

 有識者による第三者視点の監修は必要だと改めて思う。


「雷火ちゃんと天にごめん死んでって言わなきゃいけない」

「ご、御主人様、そう気を落とさずに。その一応お聞きしますが、お二人から了承が得られなかったらどうなさいます?」

「俺が無理にでもやってくれって言えると思う?」

「御主人様お優しいですから……」


 良いものを作るには、誰かに嫌われてでも指示を出さなきゃいけないのかもしれない。

 ただ雷火ちゃんは面白い物好きだから、乗ってくれそうな気がするけど。

 俺はラインの開発メンバーのグループチャットを開く。

 そこで、さりげなく聞いてみることにした。


 悠介『雷火ちゃん、スパ□ボって知ってる?』

 雷火『えぇ知ってますけど』

 悠介『タクティクスオーガって知ってる?』

 雷火『はい、知ってますよ』

 悠介『ファイヤーエンブレムって知ってる?』

 雷火『えぇ知ってます……えっ、なんですか怖い。なんでSLGの話ばっかりしてくるんですか!?』

 悠介『ふふっ良かった』

 雷火『怖い怖い怖い! なんですか!? 悠介さんこのグルチャだと開発に関係ない発言しませんよね!?』

 悠介『天……ドット絵って知ってる?』

 天『知らない! 聞いたこともない!』

 悠介『じゃあ帰ったら見せてあげるね^^』

 天『いらない! 企画書持ってボクの部屋に入ってきたら怒るよ!』


 あまりにも爽やかなミーティングが終わり、俺はスマホをポケットにしまう。


「よし、これで話をする土壌は出来上がったな」

「そ、そうでしょうか? 明らかに対話拒否されてたような気がしますが」


 さて、参考資料でも買ってから帰ろうと思うが、遊人さんから4階にある収録スタジオに行ってくれと最後に言われた。

 そこでもう一つなにか問題が起きているらしい。

 問題ばっかだなと思いつつ俺たちがスタジオへと向かうと、部屋の前でサングラスにカーディガンを肩がけしたプロデューサーっぽい男性が立っていた。


「あっ、長居ながいさん」

「一式ちゃ~ん、なんで急に来なくなっちゃったの? 誹謗中傷? 厄介ファン? アタシが開示請求して、慰謝料ふんだくってやるから帰ってきてよ~」


 会っていきなり一式にすがりついてくる長居さんとやら。

 なよっとしていてちょっとオネエ系っぽい。


「一式、この人は?」

「えっと、ネット声優ラジオ番組【声音こわね】のプロデューサーさんです。他にもアニメのプロデュースもされてる方で、自分と弐式が別人と知ってる数少ない方です」


 ってことは、遊人さんからも信頼されている人なんだろうな。


「あのね一式ちゃん弐式ちゃんと交代して、もう結構経つと思うけど、かなりまずい状態なの」

「どういうことです?」


 俺たちは長居さんに導かれ、機材が並ぶミキサー室(?)へと通してもらう。

 ガラス窓越しのスタジオでメイド服の弐式が、別の声優さんと向かい合ってトークをしている最中だ。

 どうやら現在一式がメインパーソナリティを務める、ラジオの収録を行っているようだ。


「あれ声優の西田彩さんか……」


 ウェーブヘアの美人は今売出し中の声優で、数多くのアニメでメインヒロインを担当する実力派だ。


「別に普通に仕事をしているように見えますが」

「聞いてごらんなさい」


 俺と一式はヘッドフォンを手渡され、耳に当てると弐式たちのトークが聞こえてきた。


『西田のふつおたのコーナー。ペンネーム、パンパンマンさんから。西田さん真下さんこんにちは。僕は【転生したらダイナマイトだった。~異世界行ったら大爆発してやろうかと思ったけど、やっぱり死ぬのは怖いからやめようかと思うんだけど、お前はどう思う?~】を楽しく視聴しています。しかしながら最近のラノベアニメはタイトルが長すぎだと思いませんか? ……確かに長いねぇ、真下さんはどう思います?』

『WEB発のラノベは、まず読んでもらうことが最優先で、絶対に読んでもらえるタイトルであらすじを書くしかないの。 言わば文字の表紙だから、好き好んでつけてるんじゃなくて商業戦略ですわ』

『真下ちゃん見方がシビアね……。う、うん。でもまぁそういう流行りってあるよね』

『伝説のファンタジーとしか書かれてない小説より、異世界行ったら伝説の剣拾ってラスボス余裕でした。チートハーレム戦記って書いてくれてる方が、好みにマッチしてるかわかるでしょ? あの長いタイトルは時短なのですわ』

『え、えぇっと次に行きましょう! ペンネームパンダ神拳継承者さんから。僕は真下さんが大好きです。結婚したいくらい好きです、どうか付き合って下さい』

『嫌でございます、死ねでございます』


 弐式ファンに辛辣すぎない? 逆にここまで行くと毒舌で人気でそうまである。


『次のメール次のメール! ペンネーム人造人間19号さん。えっと、お二人は気になる男性に何を質問しますか? わ、私は趣味かな? 真下さんは?』

『貯金額』

『まぁまぁしっかりしてる人が良いってことよね!?』


 フォローする西田さんが気の毒すぎる。

 こりゃプロデューサーが頭抱えるのもわかるな。

 なんとか西田さんがカバーしようとしているものの、完全に黒い弐式の方が出てきてしまっている。


「最近ずっとあんな感じで、編集で誤魔化してるんだけど、リスナーも一式ちゃん疲れてるんじゃないかってざわつき始めてる」

「そりゃ一式のきぐるみを着てる弐式別人ですからね」

「以前もちょいちょい弐式ちゃんが代役をつとめることはあったけど、こんな長期間じゃなかったからバレなかったのよ」


 今現在弐式は一式のかわりとして、アニメやラジオの仕事に参加しているが、長時間入れ替わり続けたせいで、徐々に一式の仮面が剥がれて、下の弐式本体が顔を出しているわけか。


「このままじゃ、一式ちゃんの築き上げたブランドが崩壊しちゃうわ~」


 ナヨナヨっと倒れる長居さん。


「声優真下一式は自分の手から離れたものだと思っています。弐式が、どう演じてくれても自分は構わないと思います」

「そう言わずお願いよ一式ちゃん、また声優界に戻ってきて。今度公開録音があるのに、これじゃ炎上しちゃうわ」


 そもそも弐式に一式役をやらせるというのが間違いだからな。

 この問題は一式を声優に復帰させるか、弐式をちゃんと弐式として活動させるかしないといけないだろう。

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