第281話 アプリで開発費を稼ごう 前編

「アプリバトラー?」


 俺はスマホ越しに月に聞き返していた。


『そう、ウチの孫会社が開発したスマホゲーなんだけど、今そのゲームで優勝すると賞金30万貰えるイベントやってるの。足りないと思うけど、その賞金を開発費にしてみたら?』

「簡単に言うけど、アプリゲーは基本無限課金編の財布煉獄さんが上位を独占するから、いきなり参入して賞をかっさらうなんて無理だろ?」

『そのアプリバトラーすんごく過疎ってるの』

「あぁ(察し)」


 わりとリアルマネー賞金を出すアプリゲーってかなり切羽詰まっていて、サ終が近いとまで言われている。

 当たり前だな、ユーザーはゲームでお金稼ぎしたいわけじゃないんだから、明らかにプロモーションとして失敗している。


『多分イベント参加者も300人くらいがいいとこじゃないかしら。しかもこのゲーム課金サービス停止してるから、いきなり始めても運次第で上位とれるわよ』

「課金停止って末期のゲームやないか」

『まだサービス開始して3ヶ月なんだけどね』


 短命すぎるだろ。スク工ニのゲームかよ。

 俺は話しながら、そのアプリバトラーとやらをダウンロードしてみることにした。


『度重なるバグで、ユーザーの信用失っちゃって。運営はなんとかしようとしてるんだけど、迷走してるって言われてるわ』

「でしょうな。アプリダウンロードしたら、いきなりカメラが立ち上がったんだけど、どういうゲームなんだ?」

『昔バーコードで戦うゲームあったの知ってる?』

「あぁ専用カードリーダーにバーコードを読ませて、戦闘データ化する奴だろ?  確かバーコードデュエラーだったか」

『そうそれ。それの写真版だと思って』

「あぁ、スマホで撮った写真に戦闘力をつけて戦わせる遊びか」

『理解が早くて助かるわ。何でもいいから写真を撮ってみて。広い風景はダメよ、被写体は一つに絞って』


 俺は近くにあった消しゴムをスマホで撮影してみる。

 すると、撮影された写真がイラストアイコン化し、攻撃力300、ランクFと戦闘能力が表示される。


「写真がソシャゲのキャラっぽくなった」

『撮った写真をAIがイラスト化して、あんたの手持ちキャラ、アプリモンスターにするの』


 消しゴムを、某いらすとや風デフォルメグラフィックに変換してくれるおかげで、ゲームっぽさが増している。


『このゲームオンラインで撮った写真アプリモンスター同士を戦わせることができるんだけど、レベルの概念がないから、単純に戦闘力が高いほうが勝つわ』

「大味なゲームだな」

『ランクが高い奴が強いから、とにかく写真をたくさん撮って、使えそうな強いモンスターを作って』

「このランクってAが最高?」

『上にSとSSがあるわ。SSが出たら、大会上位間違いなしと思っていいわよ』

「ほんと大味だな」

『撮影した後、このキャラでオンラインマッチに参戦しますか? ってボタンが出てるでしょ?』

「出てる」

『押して』


 ボタンを押すとゲームマッチングが始まり、敵のアプリモンスターの柴犬が画面に表示される。

 敵のランクはDで、攻撃力は1800。

 オートでバトルが始まると、俺の消しゴムはあっさり柴犬に食い殺されてしまった。


「なるほど。プレイヤーの介入はほぼなくて、数字で殴り合うゲームなんだな」

『そう。強い大会用モンスターが作成できたら、アプリから運営にモンスターデータを送って。運営が参加者のキャラをオートで対戦させて、イベントの順位を決定するから』

「大会の戦闘画面とかないのか? Mutyubeで生放送するとか最近多いだろ」

『しないわよ。企業配信なのに同接30人とか表示されて、ネガキャンになるじゃない』


 アプリバトラー過疎りすぎでは?


『イベントが終わったら、あなたのモンスターは何位でしたって、結果を送ってきてくれるから』

「もう懸賞に応募するのに近いな……」

『じゃあ頑張って開発費稼いでね。他にもなにか良さそうな話があったら連絡するわ』

「わかった」


 月に礼を言って通話を切る。

 過疎ゲーを一人でやるのもなんなので、誰かとやってみよう。


 こういう時はゲームに強い雷火ちゃんだなと思い、彼女の部屋へと向かう。ドアノックすると、黒のネクタイにチェックスカートの理系美少女が出迎えてくれる。


「どうかしましたか?」

「雷火ちゃん、今良い?」

「はい、良いですよ。ゲーム制作の練習をしてただけなので」


 テーブルに置かれたノートパソコンに、プログラムコードが記述されている。


「パソコンのスペック大丈夫?」

「コード書くだけなら全然大丈夫ですよ。絵とか音とか合体させると多分フリーズしますけど」


 まとまった開発費が手に入れば、設備費としてPCを購入してあげたい。

 かくかくしかじかで、ワンチャン賞金がとれるかもしれないアプリバトラーをやってみようと誘ってみた。


「リスクが少なくていいお話ですね。わたしも協力します」


 雷火ちゃんもスマホにアプリをダウンロードして、二人で強いモンスターがいないかアパート内を探してみることにした。

 しかしながら、手近にあるものを撮影しても大体ザコモンスターしか生成されない。


「ん~どれも弱いですね。ヘッドホンがかろうじて攻撃力1000超えてますけど」

「あっ、これ強いよ」

「どれですか?」

「カップ麺。見て攻撃力1700のDランク」

「いいですね、初代バーコードデュエラーもカップ麺強かったですよね?」

「そうそう。日進のが強いんだよね」


 しかし強いと言ってもDランク。この攻撃力では柴犬にすら勝てない。


「んなー」


 その時、俺の足元にデブ猫の大福がすり寄ってくる。

 普通猫って自由奔放なのだが、大福は人懐っこく誰か見つけると足元をグルグル回る可愛いやつだ。単に餌がほしいだけかもしれないが。


「悠介さん、柴犬が強かったんですよね? じゃあ大福も強いんじゃないですか?」

「可能性はある。大福ーピース」

「んなー」


 大福の写真を撮ってみると、驚くことに攻撃力3800のBランクだった。


「うぉ!? 大福強いじゃないか!」

「凄いBランク!」

「んなー?」


 俺は大福の写真で生成されたアプリモンスターで、オンラインマッチしてみると、かなり高確率で勝てるようになった。


「めちゃくちゃ強いですね」

「大福の体当たりで、次々に敵を轢き殺していける」


 しかし勝率が上がって内部レートが上がってきたのか、ランクの高いプレイヤーとマッチし始める。


「くぅ、赤ちゃんくっそつぇぇ」


 赤ちゃんモンスター(攻撃力4700 ランクA)のハイハイに大福が轢き潰されてしまった。

 その後も見た目弱そうな爺、(攻撃力4900 ランクA)にも入れ歯攻撃でボコされ、Bランクの大福では歯が立たなくなってきた。


「敵が強くて苦しいですね」

「ん~やっぱり大会狙うなら、もっと上位ランクのモンスターが必要だよね」


 連敗を喫していると、雷火ちゃんが対戦するモンスターにある共通点を発見する。


「悠介さん、敵の強いモンスターって大体生き物じゃありませんか?」

「そういえば確かに……レートが上がって一気に無機物が消えたね」

「特に人間が強い気がします」


 彼女の言う通り、人間は老人でもランクが高い傾向にあると思う。

 ならそれを試してみよう。


「雷火ちゃんの写真撮ってみて良い?」

「わたしですか? は、はい、どうぞ」


 雷火ちゃんは前髪をささっと直すと、直立不動のポーズをとる。

 パシャッと撮影すると、Aランク、攻撃力5500のモンスターが生成された。


「うぉ! Aランク出たよ!」

「ほんとですか!?」


 雷火ちゃんの写真が、AIによって3頭身のデフォルメイラスト化されると、何故か胸の部分にAと書かれていた。


「このAの位置、悪意ありません?」


 確かに貧乳に描かれたイラストと、胸の位置にAと書かれると、バストサイズを彷彿とさせる。


「一応これでもDあるのに……」

「D!?」


 すごく着痩せするんですねと思いながら、彼女の胸元をじっと見つめていると、雷火ちゃんは視線に気づいて赤い顔で怒り出した。


「悠介さん!」

「ご、ごめんね、変な目で見て」

「そうじゃなくて疑ってますね! これでもちゃんとDあるんですよ!」

「大丈夫疑ってないよ!」

「絶対疑ってます! ブラジャーのサイズ確認してください!」


 雷火ちゃんはネクタイを緩め、シャツのボタンを外していく。

 レモン色のブラと、確かに存在する白き双丘が露になり、俺は慌てて自分の目を塞ぐ。

 その時誤ってカメラのシャッターを押してしまった。

 フラッシュがピカッと光り雷火ちゃん(下着)の写真が撮影され、アプリモンスターが生成される。

 俺は恐る恐るステータスを確認すると、Sランク攻撃力7800と戦闘力が大幅に上がったモンスターが生まれていた。


「……さっきよりめっちゃ強くなってる」


 これスケベな写真が強いのでは?

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