第101話 綺羅星はデートに行きたいⅡ
スイーツが食べたいと言った
「えっ……喫茶鈴蘭?」
「君はここ初めてだろ」
「なんですかここ? スイーツあるんですか?」
「ぜんざいならある。後は妖怪ババアの気分次第でなんでも出てくる」
「妖怪?」
「入るぞ」
「あっ、待って下さいよ!」
カランコロンとドアベルを鳴らして中に入ると、婆ちゃんがカウンター席に鎮座しながら常連客とくっちゃべっていた。
「ん? ユウ坊、また違う女連れてきたのかい?」
「嫌な言い方するなよ」
「なんだいその頭の軽そうな子は? あたしゃあの髪の長い賢そうな子しか嫁には認めないよ」
相変わらず雷火ちゃん好きな婆ちゃんだ。
「認める認めないは婆ちゃんじゃなくて伊達さんが決めるから。そんなことより昼食べてないんだ。なんか頂戴。後スイーツも」
「すいーつ? よくわかんない外来語使ってんじゃないよ、バカに見えるよ」
「デザートとか甘いもののことだよ」
「なら最初からそう言いな」
ブチブチ文句を言いながらも婆ちゃんは厨房へと引っ込むと、俺たちはテーブルへとつく。
「アレ、せんぱいのお婆ちゃんなんですか?」
「そう、義理のなんだんけどね。口と見た目は悪いけど、別に悪意はないから」
「なにげに酷いこと言ってますね」
二人で話していると、婆ちゃんはすぐにチャーハンと酢豚と卵スープの中華セットを持ってきた。
「うわ、凄い美味しそう」
「食べたらさっさと出ていきな。ウチはあんたみたいな子供が来る場所じゃないんだよ」
「婆ちゃん言い過ぎだぞ」
「あたしゃチャラチャラした子が嫌いなんだよ」
フンと腕を組んでそっぽを向く。ババアが若者アレルギーを起こしとる。
「あんまり気を悪くしないでほしい。口の悪い店主がいる飯屋だと思ってくれ」
「いえいえ」
綺羅星がレンゲで黄金色のチャーハンをすくって食べると――
「ん……美味しい! アッハッハッハッハ、なにこれ超美味しい!」
綺羅星はパンパンと手を打ち、大笑いしながらチャーハンと酢豚を食べていく。
なぜ大笑いしているのかは俺にもよくわからない。
「なにこれ、お婆ちゃん全部美味しいんですけどー!」
「…………」
婆ちゃんは新聞紙をさっと広げて顔を隠す。
おいババア、何いい歳して照れてんだ。
「めっちゃ美味しい! あーしピーマン嫌いなんすけど、これなら全部食べられる! ん~おいひぃ~。お婆ちゃんお料理上手~アハハハハハハ」
目上の人に対しても料理上手いねって言えるのが綺羅星の強いところだな。普通料理を仕事にしてる人に、料理上手ですねなんて絶対言えないもんな。
あと、このゲラ笑い。最初は何わろてんねんって思われるかもしれないが、徐々につられてこちらも笑えてきてしまう。良い意味で誘い笑いを引き起こす。
夕食のとき嫁がこんだけテンション高くて、常に笑ってる人ならきっと良い家庭になりそうだな……。
「違う違う」
ブンブンと頭を振る。
今一瞬綺羅星のヤンママビジョンが見えてしまった。
彼女の良いところはちょっとお馬鹿さんなところはあるけど、何やっても笑って許してくれそうだし、本人も何かやらかしてもクヨクヨしなさそう。
素直故にすぐ騙されてしまうところもあるが、どんなときでもとにかくカラッと明るい笑顔。
しかも彼女の口から他人への悪口ってほとんど聞かない。それってなかなか難しいことだよな。
すると婆ちゃんが、ご飯のおかわりと餃子を持ってやってきた。
「フ、フン、別にこれはあんたの為に焼いたわけじゃないんじゃから」
ツーンとそっぽを向く妖怪。
ババア歳を考えろ。その歳でツンデレはきっついぞ。
「なーに↓これー↑ニラ美味ひー。お婆ちゃんの料理全部美味しいね!」
「フ、フン、味のわからない人間に褒められても嬉しくなんかないんじゃから」
ババア(以下略
「んー、あーし普段マックとかケンタとかばっかで舌に自信ないけど、これは美味しいよ」
「あんた……母親はどうしたんだい」
「ママはあんまり家にいないんだ。コックさんが美味しいご飯を作ってくれるんだけど、一人で食べる料理って、なんか美味しい美味しくないじゃなくて冷たいんだ。でもこの料理はほんとにあったかいと思うよ。お婆ちゃんの気持ちが入ってる」
ニッと笑顔になる綺羅星。
彼女の言う冷たい温かいは、料理の温度の話じゃなくて心の熱の話なんだろうな。
美味しいものを食べたら幸せな、心暖かな気持ちになる。
逆に冷たいご飯って言うのは、ただ栄養のために食べてるだけの寂しいご飯。
今はどうかわからないが、きっと
「ごちそうさまー」
全部残さず食べ終わると、婆ちゃんは見たことないパフェを作って食後に出してきた。
パフェなんか作ったことないくせに、裏でこっそり作ってきたらしい。
「丁度材料があったから作ってみただけじゃ。食べな」
ババア不憫な子に甘すぎ問題。
「わーいいのー? ありがとうお婆ちゃーん」
パクリと抹茶色のパフェを食べると綺羅星は目を輝かせる。
「んふー? すごい美味ひー! なーに? 下の方煎餅入ってる、おもしろー」
アッハッハッハッハと奇天烈パフェを楽しむ綺羅星。
チャラい子なんて嫌いだよとむすっとしていた婆ちゃんも、脳天気な綺羅星を見て顔が笑っている。
自分を嫌いと言っている人を笑わせる、これはある意味才能だな。
「なぁ婆ちゃん、俺にはパフェないのか?」
「ユウ坊は砂糖煎餅でもかじってな」
理不尽。
婆ちゃんの砂糖煎餅うまいから良いんだけどね。
デザート&コーヒータイムも終わり会計へと進む。
綺羅星が財布を取り出し、1万円を出した。
「せんぱい、チョー美味しかったんであーしが奢ります」
「そう?」
やったぜと思ったら、婆ちゃんに杖で殴られた。
「何言ってんだいユウ坊、デートだろ? あんたがこの子の分も払うんだよ!」
「わかったよ」
「えっ、せんぱいほんとにいいっすよ! あーしが――」
「デートってそういうもんなんだよ。婆ちゃんいくら?」
「2000円だよ」
二人分のランチ、デザート、コーヒーで2000円は安い。潰れんじゃないのかこの店?
「せ、せんぱい……」
申し訳無さそうにする綺羅星。おごられるというのに本当に慣れていないんだろうな。
「いいんだよ、メシ代くらい持つのがセオリーだし」
「小娘、あんたも勘違いするんじゃないよ。奢るか奢らないかは男が決めるんだ、奢られて当たり前と思う嫌な女になるんじゃないよ。後奢ってもらったらちゃんと感謝の気持ちを持ちな。その気持を忘れたら、男は女に愛想つかすよ」
「は、はい」
「いいかい女は愛嬌を振りまいて、男を手玉にとるんだよ。お金を払いたいと思わせる女になりな。あたしの昔はそれはそれはいい女だったから、財布なんて出したことないね」
「おいババア何百年前の話をしてるんだ」
「ほんの半世紀前だよ!」
それでも結構前である。
「あんたは良い愛嬌してる。腹が空いたらまた来な」
ぶっきらぼうに言う婆ちゃん。
「……お婆ちゃん、お婆ちゃんだーい好き!」
嬉しくなった綺羅星はそっぽ向く婆ちゃんに抱きついた。
すげぇな、一瞬で婆ちゃんと仲良くなっちまった。
それから綺羅星が店の外に出ると、婆ちゃんが肘で俺を突いた。
「なんだよ」
「いい子じゃないか。あの子は元気な子をたくさん産むよ」
「セクハラだぞ」
「あんたが誰選ぶのか知らないけど、早めにあたしに教えな。それによって老後のプランがかわるからね」
婆ちゃんの老後は老人ホームで決定してるんだがな。
「さっきまでこれ食ったら出てけとか言ってたくせに」
「ほぁー? なんだって? 耳が遠くてよく聞こえんね」
くっそ、都合が悪くなるとボケたふりしやがって。
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