第66話 重力に引かれて

 ガンニョムとグミキャノンは前面の砂丘を盾にしながら機体を隠す。


「こっから横に行ったらいいんですか?」

「そう。向こうもレーダーの範囲外だから、こっちの位置はわかってない。でもスナイパーライフルのスコープで覗きながら狙撃はできる。だから俺たちは、狙撃を避けるために砂丘で射線を切りながら、大きく迂回して奇襲に出る」


 俺は全体マップを表示させると、マップの南側中央に緑のマーカーが2つ映っている。俺達と僚機のシグナルだ。


「ここから西端に移動。そこから北側に伸びる洞窟を通って背後をつく」


 洞窟を抜けるとオアシスがあり、その先に軍事基地がある。

 おそらくザヌスナは、この軍事基地に陣取っているとみた。


「そんなことできるんですか?」

「さぁ、局地専用機じゃないからわかんないけど、多分ガンニョムならなんとかなるんじゃない?」

「う~、先輩マジいい加減ッスね。アニメのガンニョムに出てきたら即死ぬキャラっスよ」


 バカにしないでほしい。ガンニョムに登場したら、ゲス顔で味方を裏切ってから惨たらしく死んでやる。

 砂丘を背に待機していると、グミキャノンは頭部を出さないよう丘に手をつき肩部キャノン砲を発射した。


「あのグミバカなんスか? こっからじゃ絶対届かないッスよ」

「ここで囮やってくれるってさ、行った行った」


 俺は後部座席にあるフットペダルを踏み込みブースターを使用する。


「ちょ、いきなり動かさないでくださいよ!」


 ペダルを離し、コントロールを綺羅星キララに返す。


 ガンニョムはマップの西端に到着して、洞窟の入口に差し掛かった。


「そこ段差あるから、ジャンプしないと乗り越えられないよ」

「わかってます」


 ブースターを使い機体をジャンプさせてから着地すると、ズシンと走る時よりも強い振動がコクピットを襲う。

 するとパンと何かが弾けた音がした。


「何今の音?」


 ゲームの音じゃなかったと思うけど。


「…………」

「どしたの?」

「先輩目閉じてください」

「なんでよ?」

「いいから早く!」

「わ、わかったよ。いきなりキスとかしないでよ」

「先輩の顔くらい面白いジョークッスね」


 なにかガサゴソと衣擦れの音が聞こえるが、一体何なのか?


「OKっす」

「なんだったの?」

「気にしなくていいんで」

「?」


 俺が頭に疑問符を浮かべている間にも、ガンニョムは洞窟内をズンズンと進んでいく。するとピロロローンと警報音が鳴り響いた。


「バックジャンプ! シールド!」


 俺が叫ぶと、綺羅星はハンドルを手前に強く引いて、シールドトリガー押す。

 俺がフットペダルを踏むと、ガンニョムはシールドを構えながら勢いよく後方にジャンプする。

 直後チャージされたビームが洞窟内を黄色い光で照らしながら走る。

 高威力のビームがシールドに直撃して、機体は弾き飛ばされた。


「キャアッ!」

「くっ!」


 コクピットは被弾の衝撃で激しく揺れ、モニターには【シールドブレイク】と赤のメッセージで表示される。

 ステータスモニターをチェックすると、左腕にダメージが入っていた。


「チャージショットか。腕が吹っ飛ばなかっただけマシだな」

「シールドがなくなっちゃったんですけど! やばくない!?」

「慌てるな、相手はザヌスナだ」


 どうやら敵はこちらの動きを読んで、洞窟で待ち伏せしていたらしい。


「どーすんスか!?」

「大丈夫チャージショットを外した。リチャージされる前に白兵戦に持ち込めばザコだよ」

「敵なんて見えなかったじゃないっスか!」

「一撃でガンニョムのシールドを吹っ飛ばせるのなんて、ザヌスナのチャージショットだけだ。懐に飛び込め!」


 俺が無茶言うと、綺羅星は舌打ちしてからアクセルペダルを回し、フットペダルを踏み込んだ。


「やられたら先輩のせいッスからね!」

「いいからブレードブレード」


 綺羅星がウェポントリガーを押すと、ガンニョムは装備をブレードに切り替え洞窟の奥に突貫した。

 予想通り洞窟の深部にはザヌスナイパーが潜んでいた。急に突っ込んできたガンニョムに驚いてライフルを乱射する。


「めっちゃ撃ってきたんですけど!」

「怯むな、装甲はこっちが上だ突っ込め!」


 ガンニョムは推進器スラスターのアフターバーナーを吹かして、被弾しながらも一気に加速する。

 ザヌスナは止まらないと気づいて、慌てて逃げようとするが今更遅い。

 強烈なタックルをかましてザヌスナを転倒させると、起き上がって来る前にブレードを胴部に突き刺す。

 ヂヂヂと漏電するような音と共に大きな爆発が起こり、モニターに【敵機撃破】と表示される。


「やった! やったー!」


 思わず綺羅星は振り返って俺とハイタッチする。が、すぐに元の態勢に戻る。


「あの、勝手に仲良くなったと勘違いしないで。あーしどっちかって言うと先輩嫌いっスから」

「そりゃ良かった」

「先輩あーしのこと嫌いなんスか!?」

「何故そこでキレる!?」


 敵機撃破を喜んでいると、画面に僚機撃墜と表示された。


「えっ、どういうこと?」

「グミキャノンがやられたって。さっきのザヌスナは雷火ちゃんじゃなかったから、これから本命がくるよ」


 ガンニョムが洞窟を抜けると、目の前にオアシスが広がっていた。


「雷火ちゃんはどこかなーっと」


 俺がレーダーを確認していると、綺羅星からうめき声が上がった。


「うっ……うぅっ」

「どうした? もしかして酔った?」

「ち、違うス。胸が痛いんです」


 彼女の状態を見ると、確かにこのはりつけ姿勢で飛んだり跳ねたりしたときの振動は応えるだろう。店員にも揺れるんで支えてあげてくださいとか言われてた気がする。


「どうするリタする?」

「何で即リタなんスか! どんだけ雷ちゃんと戦うの嫌なんですか!」


 いや、彼女と戦うとかマジ寝返るレベルで嫌なんだけど。


「あの先輩、マジ苦渋の決断でお願いがあるんですけど」


 綺羅星は苦しそうにこちらを見る。


「何? 操縦はかわらないよ。雷火ちゃんに銃とか撃てないし」

「わかってます!」


 マジ使えねーなと呻き、綺羅星は語調を荒げる。


「その、支えて下さい。マジで脇とか胸とか腰とか全部つりそうなんスよ」

「えぇ……」

「何でそんな露骨に嫌そうな顔するんスか! あーしみたいに可愛い女の子にさわれるんスよ!?」

「いやー自分で可愛いとか言っちゃう女の子は、俺の範囲外っていうか……」

「うっそ、ブサメンにフられた。マジありえないんスけど」

「ってか、そんなに痛いもんなの?」


 そう聞くと、彼女はスカートのポケットからヒョウ柄のブラジャーを取りだした。


「なにこれ?」

「ジャンプの衝撃でフロントホック壊れた」

「マジで? もしかしてさっきの破裂音って……」


 ジャンプする→着地する→コクピット揺れる→胸も揺れる→フロントホック壊れる。のコンボなのか。

 そりゃノーブラでこんだけ揺れたら痛くて悶絶するだろう。

 静さんもノーブラだと走るだけで悶絶するもんな。


 待て、つまりこの子俺に手ブラ(物理)をやれと言ってるのか?

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