第65話 体感ゲームはわりかし酔う

 1プレイくらい諦めたのか、綺羅星キララは前部座席に跨りなおしてハンドルを握った。どうでもいいけどそのハンドル高すぎない?

 バイクと同じような操縦ハンドルに、ボタンやらレバーやらコントロールキーがついているのだが、V字型のアップハンドルな為グリップポジションが高い。

 綺羅星は両手を大きく伸ばしてほぼバンザイ状態。まるで体操の吊り輪みたいになっていた。


「普通バイクって言ったら前傾姿勢だろ」


 なんでハーレーバイクみたいになってるんだ。

 綺羅星はやりづらそうに両手をめいっぱい伸ばしたまま、体を左右に揺らす。

 彼女がスタートボタンを押すと、目の前のモニターに機体選択画面が表示される。


『プレイMZセレクト』

「ここはやっぱりガンニョムっしょ」

「いやぁグミスナイパーだろ」

「何言ってんスか、コロニー軍の機体で乗るって言ったらガンニョムしかないでしょ」

「これだからにわかは」

「自称中級者」


 くそ、オタクが一番グサッとくること言いよって。

 綺羅星は俺を無視して、機体をガンニョムで決定してしまう。

 強機体を使って何が面白いというのか。あのグミスナ超強くね? とか言われるのが最高に気持ち良いんじゃないか。

 俺は完全に厄介オタと化していた。

 出撃待機中の画面で、いきなり目の前に雷火ちゃんの顔が映った。

 ホロウインドウというやつなのか、SFにはわりとよくある空中にモニターが投影される通信画面だ。


「悠介さん、聞こえます?」

「聞こえるよ」

「良かった。お店の人ペアを間違えたみたいですね。今わたし、座席型のコクピットにいます」

「多分雷火ちゃんと、綺羅星を間違えてるね」

「そうだと思います。こっちには明さんがいますから」


 雷火ちゃんの隣に先程の少年が見切れて映っている。 


「明君、いるかい?」


 俺が明君に話しかけると、くぐもった声で「はい」と聞こえてきた。


「よし、君は雷火ちゃんに触ったら、お兄さん本気で怒っちゃうぞ」

「あっ、綺羅星も悠介さんに触ったら怒るから!」

「鬱陶しいんですけど、このバカップル!」

「いや、そんなバカップルとか……」

「恥ずかしいですね」


 照れ照れしている俺と雷火ちゃん。


「うぜー、あーしは見せつける側だと思ってたのに、まさか見せつけられると思ってなかった」

「じゃあ悠介さん、ゲーム内で会いましょう。いくら悠介さんでも戦場では手加減しませんからね」


 天使のような微笑みを浮かべる雷火ちゃん。


「うん、俺は手加減しちゃうけどね」

「悠介さん優しい……」

「おい! バカップルマジ大概にし――」


 綺羅星が抗議しようとするとコクピットがガクッと揺れ、360度フルスクリーンのモニターが出撃画面に切り替わった。


「始まるよ。ほらほら出撃のときアニメってなんて言うの?」

「むー! 綺羅星ガンニョム出撃る」


 ガンニョムの出撃演出が入ると、戦闘フィールドが映し出される。

 どうやら戦場は砂漠ステージのようで、画面の中央に砂丘がみえる。

 見下ろし型のゲームなら敵が丘の奥にいてもわかるが、一人称コクピット視点なので、敵の姿は丘を超えるまで確認できない。

 砂ばかりで一見開けたマップに見えるが、砂丘や砂嵐によって視界は芳しくない。

 タンクとかだと辛そうだが、まぁガンニョムだからぶっちゃけどのステージでもそれなりの戦果を上げることが出来るだろう。


「ダカールか、オデッサか? 初代マップなら多分オデッサかな」

「何ブツブツ言ってんスか、キモイっすよ」


 ぐぐぐ、この子はほんとに……。


 俺は黙って後ろから画面を眺めることにしよう。

 それにしても彼女、腕を突っ張ってるから後ろから見ると磔にされた人みたいだな。

 その分横から胸の張りが見えて嬉しい。


(88、89? まさか90なんてことは)


 俺がパイスカウターを使用していると、ゲーム画面にバトルスタートと表示される。

 ちなみにこの戦い2対2のタッグバトルで、敵部隊を全滅させた方が勝ち。

 自機が破壊されても、仲間が敵を倒してくれたら勝ちになる。

 今回俺たちの僚機はグミキャノンという、肩に巨大なバズーカを背負った機体で、アニメではやられ役の定番的な機体だった。

 ピクリとも動かない俺たちのガンニョムをおいて、グミキャノンは砂煙を巻き上げながら先行する。


「綺羅星、もう始まってるよ?」

「わーってますよ。これ、どうやって動くの?」


 彼女がハンドルをガチャガチャやっていると、ようやくズシンズシンと走り始めた。

 ガンニョムが走るスピードはコクピット内にも伝わり、規則正しい振動が繰り返される。外から見てるとそうでもなかったが、中だと意外と揺れるな。酔いそうだ。


「ライフルがこれでブレードがこれ、シールドはこうか……」


 綺羅星は確かめるように、操作を一つ一つ覚えていく。

 コクピットから見えるのはガンニョムの腕だけだが、武装がライフルに変わったりブレードに変わったりしている。

 一通りの操作を覚えると、先行するグミキャノンへと追いついた。

 ガンニョムとグミキャノンが最初の丘を越えようとした時だった。

 唐突にピロロローンと警報が鳴り、コクピット内に赤いランプが点灯する。


「えっ何!?」


 驚いた直後、先行していたグミキャノンから爆炎が上がった。


「えっ、やられたの!?」

「あぁ敵にザヌスナイパーがいるな」

「ザヌスナイパーって何?」

「ザヌスナをご存知でない!?」

「オタクきっしょ」


 コイツ、ほんま……。都合よくオタクと一般人を使い分ける子は嫌いだよ。

 綺羅星の後ろで、お前もわからせてやろうかと舌なめずりしていると、再び警報アラートが鳴った。

 俺の目の前にあるレーダーにエネミーロックオンと表示される。


狙われてるよロックされたよ」

「はっ!? どこ!?」

「はいはい、シールドシールド」

「わーってます!」


 ガンニョムはシールドを構えて、被弾したグミキャノンと共に砂丘を滑り降りる。すると遠くから一瞬ビームの光が見えた。滑走するガンニョムのシールドに2発、3発とビームが命中する。


「撃たれてる撃たれてる! どこっ!?」

「レーダーの範囲外だね、多分最初のリスポーン地点でスナイパーライフル使って撃ってきてる」

「死ぬ死ぬ死ぬ!」

「大丈夫。初撃はチャージしてるからグミキャノンの被害はでかいけど、二発目以降はチャージしてないから、当たってもカスダメしかない。それより横移動しないと、いい的だよ」

「くぅ~マジ先輩軽く言ってくれますよね!」


 大体プレイせず見てるだけの奴なんてそんなもんだ。

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