第64話 オタはオタに厳しい

「というか綺羅星は何でこんなところにいるんですか?」

「あれー雷ちゃん知んなかった? あーし生粋のガンニョマー(※)だよ」


 ※ガンニョムオタクのこと。


「ガンニョム好きだったんだ」

「そうそうガンニョム好きだからさー、モバイルゲーとかめっちゃやってる」


 そう言って綺羅星は嬉しそうに、スマホのガンニョムのカードゲームを見せてくれる。


「にわかめ(超小声)」


 俺の心の声がボソッと漏れた。


「先輩今何か言った?」

「いや、なんでも。じゃあちょっとだけ、綺羅星がどれだけガンニョム好きかクイズしていいかな?」

「いいっすよ、ばっちこいッス」

「とりあえず好きなガンニョムは?」

「アイアンブラッド!」

「あれストーリー理解できた?」

「ロボットより暗殺者のほうが強い」


 そうだな。俺もまさかあんなに暗殺者が重要人物殺して回るとは思ってなかった。


「後99ダブルナインもブルーレイで見た。イケメンいっぱいでてくるから好き」

「そ、そう……。WWとかは? イケメンでてくるよ?」

「絵が古いんで見てないッス」


 一瞬俺はこめかみをおさえた。


「じゃ、じゃあ好きなオジサンキャラクターは?」

「おじさんとか興味ないんでわかんない」

「好きなバニング少佐とかいないの?」

「誰っすかそれ?」


 俺の顔はコロニー落としを止めるウラキ中尉のように劇画調になった。

 まだだ、この程度最近の子じゃ普通だ。怒ることなんてない。


「あーしマジオタクというかマニアなんで、何聞かれても大丈夫ッスよ」

「そ、そう? じゃあ初代ガンニョムの生みの親で監督と言えば?」

「知ってますよ、岡山監督っしょ。オープニングいっつも見てたから知ってます」

「ちげーよ! それアイアンブラッドの脚本の人だよ!」


 つい声が大きくなってしまった。これはいかんですよ。


「じゃ、じゃあ初級の質問で、ギオン軍主力MZと言えば……」

「ガンニョムっスよ、超簡単じゃないですか」

「問題は続いてるからちょっと待とうね、しかも間違えてるから。主力MZはザヌですが、ザヌの型式番号はMZ-何番でしょうか?」

「はぁ!? そんなのわかるわけないじゃん!」

「フン(そんなものもわからんのかと言いたげな、ベテランパイロット風の笑い)」

「ぐぅぅぅぅぅぅ、顔面残念系のくせに!」


 綺羅星は小声で言っているつもりなのだろうが、ばっちり聞こえている。


「はい、残念時間切れ~答えは0006でした。少し難しかったかな、次はもっとレベルを下げよう」

「型番とかわかるわけないし」

「じゃあ人物にしようか、三角木馬と呼ばれるコロニー軍の新造戦艦ホームベースの艦長は……」

「アフロ・レイ!」

「はい、それも間違ってますが続けます。艦長はドライブ・モアですが、その声優は誰でしょう?」

「はぁ!? 声優!?」

「ガンニョマーでしたら、このくらい当然かと」

「ぐぐぐぐぐ」


 やはり問題がわからないようで、彼女はコソコソとスマホで検索し始めた。それは反則だろ。


「わかった、成田槍さん!」

「ブッブー、それはガンニョムUCでのお話であり、初代テレビ放送時は鈴木浩さんが担当されています」

「こんのブサメン、マジぶっ飛ばしたい!」


 おやおや先輩にぶっ飛ばしたいなんて、お下品な言葉を使ってはいけませんよ。

 オタ知識で一般人にマウントをとるというのは俺の中で禁忌の類だが、自信満々でオタクを名乗っておいて携帯ゲームモ○ゲーをひけらかすような子にはお仕置きだ。


「つか明まだなの!? あーし疲れてきたんですけど!」


 自分で付き合わせて疲れたとか、マジ女王様。綺羅星は持っていたナイロンバッグを振り回して明君も困らせる。


「それでは次の方どうぞ!」


 どうやら遊んでるうちに綺羅星たちの番がきたようだ。ってよく考えたら、彼女たちが前だから俺たちと対戦することになるんじゃないか?


「先輩。そのプライド、マジズタズタにしてあげますから楽しみにしててくださいねぇ~」


 ベーと舌を出す綺羅星。初対面で嫌われたもんだ。


 次は俺達の番だと思っていたら、係員さんが走って近づいてきた。


「すみませんお客さん、ゲーム筐体なんですが、バイク型のコクピットと通常の座席型のコクピットとありますが、どちらがよろしいでしょうか?」

「バイク型が面白そうなのでバイク型で」

「わかりました。バイクシートは前部座席に操縦が集中しており、後部席の方は操縦が少ないです。コクピット内は戦闘が始まるとかなり揺れるので、後ろの人は前の人を支えてあげてください」


 なるほどな。雷火ちゃん操縦したいだろうし、俺が後ろにいって雷火ちゃんを支えてあげたらいいんだな。

 ん? ってことはこれ……後ろの人が前の人に抱きつく姿勢になるわけだから……それを支える……どこを?


「やっぱり上半身とか不安定になるから支えてあげないとな」


 決してやましい気持ちは一つもない。ただ一変の曇りもなく、俺は雷火ちゃんのおっぱいを支えてあげたい。その気持ちでいっぱいなんだ。


 こりゃゲームの操作どころじゃないな。


 搭乗用の階段を上り筐体内に入ると、ロボットのコクピットというよりレースゲームのバイクシートみたいなコクピットだ。


「本当バイクみたいだな。ガンニョムというよりナイトメアっぽい」


 俺はシートの後ろ側に跨った。


「こっちが後部座席なんだな」


 後部座席にはフットレバーと目の前にレーダーがあり、その下にボタンが二つあるだけだった。

 前部座席と特に仕切りもないので本当に抱きつきたい放題の座席。

 天井にぶらさがっている説明書を読む。


「なになに後部座席はブースターと武装の切り替えができます。レーダーを見て前部座席のプレイヤーをサポートしてあげましょう」


 それだけかよ! 二人用と言いつつも、後部座席はおまけみたいなもんなんだなと理解した。

 説明書をパラパラとめくると、ほとんど前部座席についているバイクハンドルのようなコントローラーで操作するようだ。


「つかハンドルにブースターも武装切り替えもついてんじゃん。後部席意味ねー」


 まぁ合法的に雷火ちゃんに抱きつけるのだ、文句のでようもない。

 むしろグッジョブ、バンニョム。俺はバンニョムのロゴマークに感謝する。

 しかし、コクピットの中になかなか雷火ちゃんが入って来ない。どうしたんだろ?

 俺は天井にあるハッチを確認すると、雷火ちゃんがストンと下りてきて前部座席に跨った。


「遅かったね…………。雷火ちゃん……じゃない……だと?」


 目の前に降りてきたのは、さっき低レベルな喧嘩を繰り広げた綺羅星だった。


「明、これってどうやって操縦す……」


 振り向いた綺羅星は、後ろにいるのが俺だと気づいた。


「いやぁぁぁ! 明がキモメンにぃ!」

「言いすぎだろ、ブサメンまでは許してやるけどキモメンは許さないぞ!」

「何で先輩がここに!?」

「それはこっちのセリフだよ、係員の人に通されて待ってたら君があとからやってきた」

「あーしだってそうっスよ! マジ信じらんないんですけど」


 どうやら店員がペアを間違って誘導したらしい。

 おかげで雷火ちゃんのおっぱいコントローラーを逃した。


「君と雷火ちゃんを間違えたんだろうな」

「言えばいいんすよね」


 綺羅星はシートの上で立ち上がろうとすると。


「危ないので立たないで下さい! ハッチ閉まります!」


 店員が筐体の外から声をかける。


「ちょ、ちょっと待って!」


 綺羅星の声は届かず、プシューっと重厚感ある音と共に出口ハッチは閉ざされた。


「まぁ一戦くらい終わらせたら……」

「うー悔しい、長い時間待たされたのに」


 それはこちらも同じだ。綺羅星が相手ではやることはなく、黙って後ろから彼女のプレイを眺めているしかないだろう。


「一応聞くけど、君前がいいよね?」

「当たり前じゃないっスか」


(腰に抱きついたらセクハラとか言われんのかなぁ……)


 そう思いつつ、ゲームの構造上抱きつかざるをえない。

 困ったな。


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