第63話 水咲綺羅星は空気が読めない
しかし最新筐体だけのことはあって、列がなかなか進まない。
「ミスったな、一時間待ちのジェットコースター待ってる気分だ」
「新筐体ですからね。何かキャンペーンもしてるみたいですし」
【現在当店ではカップル限定キャンペーンを開催中。カップルでご来店のお客様には、二人用ゲームを全て一人用料金でご利用いただけます】
フロアにキャンペーンのアナウンスが響く。
「ゲーセンでやっちゃいけない企画だろ」
ここにいる奴なんか、間違いなく孤独を背負し戦士たちなのに。
そう思っていると店員さんが俺と雷火ちゃんを見つけると、ハート型のクリップを手渡してきた。
「現在キャンペーン開催中でーす。このクリップをつけている方は、キャンペーン対象となります」
「あ、えっと俺たちカップルというわけでは」
「男女ペアでも構いませんので大丈夫ですよ」
それならつけとこうか。
「ラッキーですね」
「多分店員もあまりにもキャンペーン対象がいないから、範囲を広げたと見た」
「それはありそうですね……」
二人でこの地獄みたいなキャンペーンを話していると、店員さんは俺たちの前に並ぶペアにもハートクリップを手渡す。
並んでいるのは学生カップルのようで、服装はブレザーの制服姿。
一人は金の髪に赤のメッシュが入ったサイドテールの少女と、もう一人は背の高いバスケ部(偏見)っぽい少年だった。
少女の方は見るからにギャル系で、日サロ焼けしたっぽい小麦色の肌に、星型のピアス、盛られたまつ毛。
制服のブラウスを第3ボタンまで外し、ネクタイは胸の起伏に合わせてだらしなく垂れ下がる。スカート丈も限界に挑戦しようとしているのか、尻の下部が見えそうである。
陽キャカップルだと思いながら見ていると、ふとこの女の子どこかで見覚えがある気がした。
どこで見たんだっけ? っと思っていると、雷火ちゃんが「あっ」と声を上げる。
「あれ、もしかして綺羅星?」
前にいる少女は、スマホに落とした視線を気だるげに上げる。
彼女は雷火ちゃんを確認すると、ぱっと顔を明るくした。
「ボルトちゃんじゃん!」
何その陸上選手みたいなあだ名。
「ボルトちゃんはやめて」
「うぇー、じゃあエレキちゃん?」
「それもやめて下さい」
「二人はお知り合い?」
俺は唐突に会話が広がる二人を見比べる。
「悠介さんも知ってますよ。彼女
「うぇっ!?」
「チッスチッス」
この子が……。月の悩みの種である妹さん。
随分と明るい性格をしているようだ。
「えっと雷火ちゃんと同い年?」
「そっす、六輪高の一年。もと朝女だったんですけど、校則破りまくって放り出されました」
アハハと笑う綺羅星。笑い事ではないと思うが。
陽キャってすぐ笑うよな。
「ってか雷ちゃんこの人誰?」
「えーっと、わたしの学校の先輩。三石悠介さん」
「へーどうもッス。あーしは水咲綺羅星。キラとかキララとか呼ばれてるんで」
「わかったよ、じゃあ
そう言うと彼女は「キラちゃんて」とゲラゲラ笑い出した。
「ら、雷火ちゃん、なんでこんなに笑われてるの?」
「なんか呼び方がツボに入ったみたいです」
わからん。
「あーおもしろ。赤ちゃんみたいに言うから笑っちゃった」
理由を説明されてもわからん。
「キラかキララでいいっすよ先輩」
「じゃ、じゃあキララにしようかな」
キラだと呼び捨てっぽいし。
簡単な自己紹介が終わると、綺羅星は俺の方を覗き込む。
「つーかコレ雷ちゃんの彼氏なの?」
「彼氏と言うか許嫁です」
「えっ!? マジで!? あの
「いやー色々あったんですよ」
どうやら伊達家の話を知っているのは月だけのようで、彼女は全然知らないようだった。
雷火ちゃんはこれまでのいきさつをかいつまんで教えてあげる。
「へー、そんなことがあったんだ。えー勿体ない、居土さんイケメンなのに」
「イケメンだろうが腐ってる男なんていりません」
「それでコレを……雷ちゃんかわいそう」
かわいそうって言うんじゃない。
綺羅星は俺の姿を頭からつま先までゆっくり見回す。
「雷ちゃん、悪いんだけどあーしには信じられないくらいパワーダウンしてるようにしか見えないんだけど」
ははーだよねー。俺は困り笑顔を浮かべる。すると綺羅星は一瞬手で目をおさえた。
「どうかしたのキラ?」
「いや、うん、ごめん。錯覚だと思う」
「?」
俺と雷火ちゃんは?マークを浮かべる。
「いやー、居土先輩がコレかぁ」
残念そうな声を上げる綺羅星。副音声で「これはないわー」と聞こえる。
気のせいか雷火ちゃんのこめかみに青筋が走ったような気がする。
俺は慌てて話題をかえた。
「そ、そっちの男の子は綺羅星の彼氏なのかな?」
「えっ?」
綺羅星は言われてバスケ部風の男の子を見る。
「あー違う違う。ボーイフレンドってやつで、ただの友達っス。ねっ
背の高い男の子はうっすと小さく頷いた。
ボーイフレンドかすげぇな。俺も彼女? 違う違うガールフレンドとか言ってみてぇな。絶対ムリだけど。
「しかしでも……うわぁ、きっつぅ」
俺を見てクスクスと笑う綺羅星。
「いや、つか雷ちゃんマジでセンス疑う。彼氏はやっぱ自分の上か最低でも同レベルを選ばないと」
あっ、雷火ちゃんのこめかみの青筋が増えた。ビキビキきてらっしゃる。
「フフッ、わたしからすると最高の人なんですけど」
笑顔だが目が笑っていない雷火ちゃん。
しかしそれに気づかず再び爆笑する綺羅星。
「アッハッハッハ、雷ちゃんおもしろー。最高の相手とかウケる」
この子は多分悪気はないんだけど、ナチュラルに空気読めないんだろうな。
だから誰にでも丁寧な雷火ちゃんが、彼女にだけは牽制的な言動きを見せたのか。
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