9 オタオタ A4

第259話 商店街年賀祭 前編

 俺は商店街年賀祭へとやって来ていた。

 商店街年賀祭とは、正月とは別に今年一年の商店街の発展を祈る柊商店独自のイベントだ。

 商店街奥の神社に商売繁盛を祈願すると、その一年成功するとかしないとか。

 多分後付の設定だと思うが、お祭り気分を味わえるのでわりと町内では好評だ。しかも振り袖を着て来た人には、驚きのポイント100倍キャンペーンまでやっている。

 客も規模が大きいので、正月よりも振り袖を着てやってくる人が多い。


「まぁ8割がマダムなんですが」


 商店街のポイント100倍に参加しない主婦など存在しないだろう。

 町内中から集まったお母ちゃんたちが、皆振り袖姿で商店の食料品を買い漁っている。

 ちなみに男が紋付袴を着たところで、このサービスを受けることはできない。


「静さん達遅いな」


 このイベントに静さんたちを誘ったところ、着物を着てくれることになり、着付けに時間がかかるため俺だけ先に商店街へとやってきたのだ。


「おっ、結構賑わってんな」

「お待たせ悠君」


 振り返ると、真っ赤な生地に金の鳳凰模様、肩を露出した花魁スタイル着物を着た成瀬さんと、紫地にピンクの藤模様の振袖を着た静さんが立っていた。


「おぉすごい」

「だろ」


 爆乳の谷間を見せつける成瀬さんに、視線が釘付けになってしまった。


「ええ、着物に金のネックレスつけてくるあたり、素晴らしいお下品さだと思います」

「お前バカにしてんだろ」

「いえ滅相もない。新春AVに出てきそうだなと思ったくらい――」


 ゴッ(頭蓋が凹む音)

 俺の頭を底の厚い下駄でぶん殴る成瀬さん。俺は地面をのたうち回った。


「ぐぉぉぉ陥没する……目から火花が出た」


 んもぉヤンキーなんだから。


「大丈夫、悠君?」

「静さんの着物は色も落ち着いてていいね」


 普通着物を着ると、大体帯のせいで胸が小さく見えるのだが、静さんの爆乳ボディラインはその程度で隠せるものではない。

 ふてぶてしい胸の膨らみが着物を突き上げ、たわわな乳袋と化している。

 そんなワガママボディなのに糸目でおっとりとした雰囲気が漂い、悪い八百屋が「奥さん、いい野菜入ってるよ(ゲス顔)」と声をかけてきそうだ。


「安定して未亡人AVに――」


 同じ愚を犯しかけて言葉を飲み込む。


「そういえば真凛亞さんはどうしたんですか?」

「あっちゃんは集合体恐怖症だから、こんな人がいっぱいいるとこには出て来ない。こたつで引きこもり決めてる」


 集合体恐怖症の意味が違う気がするが。

 成瀬さんが周囲を見渡すと、綿菓子やフランクフルト、金魚すくいの出店が見える。


「ほぼ祭りだな」

「そうですね、冬場は客足が遠のくので気合い入れてるみたいですよ」

「ほーとりあえず、この格好してたらなんかお得なんだろ?」

「ポイント100倍の他に、出店300円分無料です」

「300円かよ……。ん、懐かしいもんがあるな」


 成瀬さんは射的に興味を持ったらしく、店の前に立ってコルク鉄砲を手にする。

 景品棚にはプラモやお菓子などが並び、棚から撃ち落とせば景品が貰えるというやつだ。


「ガキの頃やったきりだな。おし、これやろう」

「できるんですか?」

「あぁ、あたしはクレーバーで何人も頭ぶち抜いてきた女だからな」


 ゲームと現実を一緒にしてはいけない。


「オヤジ一回やらしてくれ」

「300円だよ」


 成瀬さんは店主のグラサンをかけたオヤジから、コルク弾が5発入った皿を渡される。


「好きなのとってやるぜ」

「ん~そうですね」


 俺は棚に並ぶ景品を見て、15センチ位の怪物戦隊バケモンジャーのフィギュアを指差す。


「あれがいいです。でもちょっと重そうかな」

「任せろ」


 成瀬さんは台に両肘をつけると、片目をつむって狙いをつける。

 ポコンっと音を立てて発射された弾は、わずかにフィギュアの右端にそれる。


「くそっ!」

「ハズレましたね」

「リコイル制御がうまくいってないな」


 コルク鉄砲に反動制御なんかいらんだろ。

 2発目が発射されるが、弾はフィギュアの頭上を飛ぶ。


「ハズレだ。ターゲットをよく見な」


 射的屋のオヤジこと玩具屋桜田店主、桜田よしお(64)がサングラスをキラリと光らせる。


「次だ!」


 すぐさま銃を構え直すが3、4発目も外し、ラストの5発目はわずかにかすったもののフィギュアはピクリとも動かない。


「おいオヤジ、銃身曲がってんじゃねぇのか!?」


 オヤジは成瀬さんの銃にコルク弾を一発こめると、ポンっと軽い音をたてて別の景品(ピカチョウのぬいぐるみ)を撃ち落とした。


「素人は照準エイムをすぐ得物のせいにする」


 グラサンオヤジはタバコに火をつけ、スパ―っと白い息を吐く。

 なんなのこのハードボイルドオヤジ。ゴノレゴなの?


「くそっ! 追加弾リロードだ」


 成瀬さんが追加の皿を注文し弾を装填している最中、隣に小学生ぐらいの少年客が並ぶ。

 少年は台から身を乗り出し、銃口をめいいっぱい景品のポテチに近づけてコルク弾を放つ。

 ぎりぎりまで近づけて撃った為、外れることなく一発で景品は倒れた。


「おめでとう坊や、今日からお前もスナイパーだ」

「わーいやったー」


 子供はオヤジからポテチを受け取って去っていく。

 やっぱり軽いやつはすぐ落ちるんだな。


「はは~ん、もっと近づいて撃ちゃいいんだな」


 成瀬さんは落ちないのは距離の問題だと考え、台の上に腹部と乳を乗せ、さっきよりも身を乗り出して弾を発射する。

 するとフィギュアの頭にポコンとコルクが当たったが、微動だにしない。


「オヤジ、高い景品は固定してんじゃないだろうな!?」

「お遊びイベントで、そんなアコギなことせんよ」


 店主はフィギュアを持ってブラブラさせて見せる。確かに固定なんかされてないようだ。


「くっそ、クレーバーならヘッショで一撃ダウンなのに。もっと近づかなきゃダメだな」


 成瀬さんは下駄を脱ぐと、着物のスリットからむっちりとした白い脚を晒しながら、片脚を大きく上げて台の上に膝を乗せる。

 ほぼ半身台に乗った状態で、更に身を乗り出して銃を構えると景品と銃口の距離はほとんどなくなった。


「おい姉ちゃん、なんだその撃ち方は」


 当然ながらそんな無作法な撃ち方に店主が怒る。

 もう射的ではなく零距離射撃と言っても良い。


「かてぇ事言うなよ。頼むって、なっなっ」


 成瀬さんが拝み倒すと、オヤジは交換条件を出した。


「姉ちゃん、その場で10回ジャンプしな。そしたら台に足乗っけるの許してやる」

「ジャンプ? いいけど」


 成瀬さんは意味もわからないまま、ぴょんぴょんとジャンプする。

 当人はなんでジャンプ? って顔をしているが俺にはわかる。成瀬さんの北半球むき出しの爆乳が、ボインボインと跳ね回っていることを。

 着物からボロンと零れ落ちそうな揺れは、見ていて大迫力だ。

 オヤジの奴サングラスで隠してるが、多分相当スケベな顔してるぞ!

 なんて卑怯な男なんだと思いながらも、俺の目線も胸に合わせて上下する。


「8,9,10」

「い、いいだろう。好きにしな」

「オヤジ、鼻血出てるぞ」


 俺がそう言うと、慌ててティッシュを鼻に突っ込んだ。

 硬派なゴノレゴかと思ったら、ただのエロオヤジだった。

 店主から許しをもらい、成瀬さんは堂々と台に脚をかけて身を乗り出す。

 

「この野郎、落ちろっての!」


 弾は命中するものの、フィギュアはそんなもん効かんと言いたげにほんの僅かに揺れるくらいだ。


 夢中になっていて気づいていないが、台の高さは大体80センチくらいで胴の位置くらいまである。

 その台に着物で片脚をかけると、大きく脚を開くことになり、もうなんというかいろいろ丸見えなのだ。


「成瀬さん、見えてます。かなりエグい下着が」

「うるせぇ今忙しいんだ! オヤジ、あのフィギュア超合金でできてんじゃないだろうな!? 当たっても落ちねぇぞ!」

「安心しな、ただのプラスチックだよ」

「ほんとかよ!?」


 ダメだ、完全に熱くなってる。ってか、このお下劣射撃スタイルに気づいて、後ろにスマホを持ったギャラリーが集まりはじめている。

 ボドムズみたいなカメラファインダーで、成瀬さんのパンチラというかパンモロが狙われている。

 俺は仕方なく成瀬さんの側面に立ち、見せられないよとガードを行う。


「ぃよっしゃ落ちた!!」


 成瀬さんが歓喜の声を上げたのは、実に50発(3000円分のコルク弾)を撃ってからだ。

 クレーンゲームでなかなか落ちない景品をちょっとずつ押していくのと同じ要領で、コルク弾でちょっとずつフィギュアを移動させて落下させたのだ。

 恐らくだが3000円も価値はないと思われるフィギュアを、成瀬さんは嬉しそうに手渡してくる。


「どうだ、やるよ」

「ありがとうございます」

「いいってことよ」


 使った金額より落とせた満足感で上機嫌な成瀬さん。

 一生懸命とってくれたことが嬉しい。


「大事にします。成瀬”姉ちゃん”は優しいですよね」


 粗野で下品ですぐ手が出るけど、静さんとは違った豪胆な魅力があると思う。

 そう言うと、彼女は照れて後ろ頭をかく。


「バ、バカ野郎、別に優しくなんかねぇし……姉ちゃんて」

「ごめんなさい。つい出てしまいました。気をつけます」

「ベ、別に嫌なんて言ってねぇよ……」

「成瀬さん可愛いとこありますよね」

「あ、あぁ!? だ、誰が可愛いんだよ、なめてんじゃねぇぞ!」


 照れた成瀬さんが無理やりヘッドロックをしてくるが、威力は弱いわ乳が顔にあたるわで良いことしかない。

 人目をはばからず、くすぐったくじゃれあうようなやりとりをしていると静さんの低い声が響く。


「悠君、なるちゃん」

「「は、はい」」

「そろそろ次に行きましょうか?」


 静さんは成瀬さんとのやりとりをイチャついてると判断したらしく、口調と表情はいつもどおり優しいのだが、糸目の奥が笑っていなかった。






――――――

あけましておめでとうございます。

新年一発目は姉二人とWデート。

ようやく家庭のコロナが収束したっぽいので、更新再開します。

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