3.5 オタと彼女のフラグ管理
第100話 綺羅星はデートに行きたいⅠ
水咲遊園地事件から数日後の休日――
インターホンが鳴り、ガチャリと玄関のドアを開けて顔をしかめる。
目の前には軽薄そうな格好をしたギャルが、上目遣いで俺を見上げていた。
「せーんぱい♡」
「…………」
甘ったるい声で、口元には小悪魔的な微笑みを浮かべる小麦肌系少女。
昨日ラインで『デート行きたい♡』と、いきなりメッセージを寄越した
『バタン』
『ちょっ、なんで無言で閉めるんすか! あーしが来たんすよ! 開けて下さいよ、ってか開けろ!』
ドンドンドンドンとドアを叩く綺羅星。
「ウチアポ無しはちょっと」
『デート行きたいってラインしたじゃないっすか!』
「俺はそれになんて返した?」
『行ってらっしゃいって、冗談で』
「あれは冗談ではない」
『いやいやいや! こんな可愛い子からデート誘われてぶっちとかマジありえないんですけど!』
「先立つものがないから諦めてくれ」
『奢る! 奢りますから!』
「断る。君の背後には恐い執事がついてるからね」
『藤乃はダーリンのこと好きだから大丈夫っすよ!』
それはそれでいかがなものか。
これ以上ドアをドンドンされて近所迷惑になっても困るので、俺は渋々ドアを開けた。
「せーんぱい♡ デート行きましょ」
凄い何事もなかったかのように、テイク2やりだしたぞこの子。
俺は小さく息をついて、休日のアニメ消化を諦める。
「これはあくまでデートじゃなくて、遊びに行くだけだから。あと人前でダーリンって言ったら即帰るからから」
「別にそんな言い訳しなくていいのに」
「着替えるから10分ほどそこで待って」
「はーい♡」
俺はバタンとドアを閉じた。
『えっ! 中入れてくんないの!? 普通中で待たせるでしょ!? 外寒いんですけど!』
中には半裸で寝ている静さんがいるから入れたくないのだ。
――10分後
「うーせんぱいほんとに外で待たせるなんて酷い」
「時間も告げずにいきなり押しかけるのが悪い」
「あれ? 時間言ってませんでしたっけ?」
「ラインには書いてなかった」
「そうだっけ?」
むぅっと唇を尖らせる綺羅星。
彼女の格好は相変わらず露出度の高いファッションで、白のチューブトップの上にベースボールジャケットを羽織り、下はマイクロミニのデニムスカート、露出された脚を革のブーツが包む。
耳と首には金のアクセが光り、このままFAN○Aのトップ画面に出てきてもおかしくないギラギラ系。
ほんと、なんでこんな子とデートしてんだろと自分でも首を傾げたくなる。
「それで、今日はどこ行くんだ?」
「えっ、決めてないっすよ。せんぱいにどっか連れて行ってもらおうと思ってたんで」
はぁと小さくため息がこぼれた。これが陽キャ。突然(一応アポ有り)押しかけておいてノープラン。
これが陽のモノならではの押しの強さか。
俺が以前火恋先輩とのデートプランを考えるのに、どれだけ時間をかけたか教えてやりたい。
これが雷火ちゃんや火恋先輩なら無理やりアキバに連れ込むんだがな。
マジでこの手の陽キャ連中って休日どこいってんの? あいつら家にいると死ぬのかってくらい休日絶対出かけるよね?
「じゃあ……ボーリングでも行くか」
中高生の遊びでボーリングは無難で安いし、外しはしないだろ。
「マジ? ボーリング? 超久しぶりなんですけど!」
えっ? 君等ボーリング行かないの? ほんと休日どこで遊んでんの?
そんなことを考えながら俺と綺羅星は駅前近くにある、ラウンド0へと向かう。
休日ということもありボーリング場の中はそこそこ人で賑わっており、俺達と同年代くらいの客が多い。
シューズをレンタルして、自分たちのレーンの待機席に座る。
「せんぱい名前何にするー?」
綺羅星はスコアモニターにピコピコと文字入力している。
「なんでもいいけど」
「じゃあダーリン&ハニーにする?」
「それはやめろ。精算の時地獄だぞ」
結局普通に三石と綺羅星になった。
「じゃあせんぱいからお先にどうぞ」
「おう」
俺は持参したボウリンググローブをはめると、拳をグーパーと握り開きする。
「えっ……せんぱい、何そのカッコ良すぎてダサいグローブ……」
「ボーリング用のマイグローブだ」
「マイ……グローブ?」
綺羅星が若干引いている。
「マイボールはなくてもマイグローブくらい持ってるだろ?」
「いや、ないですから。なんで普通一人一つ持ってるだろ? みたいに言ってるんすか」
「俺も久しぶりだし、アウトサイドからクロスオーバー気味に転がすか……」
困惑する綺羅星をおいて、俺は美しいフォームでボールを放り投げる。
ボールはガターゾーンギリギリを、今にも落っこちそうになりながら滑っていく。
「アッハッハッハ、せんぱいそんだけかっこつけてガターとかダッサ……えっ?」
「曲っがーれ↓」
ピン直前でボールは意思を持ったように回転し、最前列1番ピンから最後尾左端7番ピンめがけて鋭くカーブしながらピンをなぎ倒していく。
レーン頭上に設置されたスコアモニターにストライクと表示される。
「……回転のキレがイマイチだが、久しぶりにしては悪くなかったな」
俺は軽く髪をかきあげる。
実はボーリングはそこそこ得意で、相野たちからは魔弾の射手と二つ名で恐れられている。
「せんぱいきっしょ。ボーリングガチ勢じゃん」
「この程度でガチ勢なんか名乗れんわ」
交代して今度は綺羅星の投球。ピンクのボールを構えて「たりゃあ!」と放り投げる。
ボールはピラミッド型に並べられたピンの左半分を吹き飛ばし、丁度5ピン倒した。
「よーし、次スペア狙うぞー。ねぇせんぱい、なんかアドバイスとかないんすか?」
「えっ?」
「……せんぱいなんで地面にへばりついてんの? 前世クモなんすか?」
「いや、パンツ見えてんなって」
そう言うと綺羅星はさっとお尻をおさえる。しかし無駄である、そんだけ短いスカート穿いて、前傾フォームの投球ポジションをとったらそりゃ見える。
「なんで君等ってそんなヒョウ柄好きなの?」
「カッコいいじゃないっすか。アニマル柄」
俺がバラしてしまったので、綺羅星はベースボールジャケットを腰に巻いて投球を再開。
言うんじゃなかったな。
それから1ゲーム終え、2ゲーム目に入ると綺羅星はむくれていた。
「悪かったって、強くって……ごめんな」
「それ絶対煽ってる!」
1ゲーム目の勝敗結果は言うまでもなく俺の勝ち。212対96のダブルスコアをつけた。
対戦ゲームで女の子をボコボコにするという、デートでは絶対やってはいけない事を犯した。
「あーしが8本9本倒して喜んでるところに、即座にストライク被せてくるんだもん」
「自分の番がすぐ回ってきていいだろ? 俺、君の半分くらいしか投げてないぞ」
「嫌味っすか!」
全くそんなつもりはないのだが。
「あーしもせんぱいみたいな、ドルルルルって曲がる玉投げたいー」
独特な擬音語使う子だな……。
「簡単にカーブ投げたいなら、ボールから親指抜いて投げてみたらいいよ」
「そんなんでできるんすか?」
半信半疑で綺羅星はボールを投げると、回転が加わったボールはレーン中央から大きく弧を描いてガターゾーンに落ちた
「嘘、曲がった」
「もっと右端から投げるといいぞ」
カーブを覚えてテンションのあがった綺羅星は、何回も挑戦してみるが、うまく回転がコントロールできず曲がりすぎたり、逆に全然曲がらなかったりしてスコアはふるわない。
「むぅー、ストライクとれないんですけど」
「まぁ所詮付け焼き刃だからな」
俺は投球しようとしている綺羅星の後ろに立ち、投げ方を教える。
「体に力が入りすぎてるから、もっと力抜いて。投げる時は振り子を意識して投げるんだ。あんまり高くバックスイングすると、ボールの重さに引っ張られてリリースポイントがブレる」
彼女の手を取り、こんな感じとブランブランと振ってみせる。
「それと上半身だけで投げようとせず、下半身をうまく連動させて1、2、3、4のリズムで助走をつけながら投げるといい」
俺は彼女の腰を1,2,3、4とリズムよく左右に振る。
そこでようやく気づく。綺羅星が赤い顔をしていることに。
「あっ、ごめん。これセクハラか?」
「いえ、なんか彼氏っぽくてすごく良いっす……」
指導の甲斐あってか、3ゲーム目終わりくらいになると綺羅星はカーブをマスターし、豪快にピンを吹き飛ばしていた。
「飲み込みの良さが凄いな」
多分運動神経は良いんだろう。
「やったやった!」
ラストは3連ストライクが決まってぴょんぴょん飛び跳ねている。
あんまり跳ねると見えるぞ。
「あーしプロになれるかも?」
すぐ調子に乗るはいつもどおりか。
1時間ほどして綺羅星は気分良くボーリング場から出ると、俺の腕をとってぐっと密着してくる。
どうやらキララ懐きポイントが上がったらしい。
「せんぱいお腹空いたんでどっか連れてってください! スイーツの食べれるレストランがいいな」
「スイーツねぇ……」
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