第142話 繋がれた朝
俺は朝チュンの音と共に目を覚ます。
なんだか体が窮屈で、圧迫感を感じ自然と目が開いてしまった。
レースのカーテン越しに差し込む日差しが、俺の腕についた銀色の輪っかに反射して眩しかった。
「ん……ん~?」
結局昨日はレーザーでも手錠が焼き切れないとわかり、そこから玲愛さんと至近距離から離れられません生活が始まったんだった。
工場から伊達家に帰った後、俺は静さんたちに電話で事情説明して、玲愛さんは会社周りの人達に連絡して回った。
それで二人共疲れてたから、お風呂も入らず居間のソファーに転がりながら、今後どうするかを伊達三姉妹と話し合ってるうちに眠気が来て……。
「寝落ちしたんだ」
やっちまったなと思いながら、顔を上げる。
するとそこには狭いソファーで、俺と抱き合いながら眠る玲愛さんの姿があった。
「はぁんっ!?」
慌てて首を左右に高速に振る。室内にはこの前お泊まりした時と同じく、床で寝転がっている雷火ちゃんと火恋先輩の姿があった。
「姉さん……どいて、そいつ……ころせない」
「ふふ……私は……そういうプレイも……好みだ」
どんな夢を見ているのか、相変わらずこの姉妹は寝相が悪い。
なんとか抜け出そうと思い身をよじるが、玲愛さんは俺の腕と首筋に手を回し、俺の膝と自分の膝を絡めてきている。
さすが玲愛さん眠っていても関節決まってるぜ。多分これはいつでも俺を殺せるようにしているんだろうな。
「んっ……」
艶めかしい声と共に0距離で眠る美女が軽く体をひねる。少し隙間が出来るかと思ったが、頭を無理やり押さえつけられて、胸の中に顔面ダイブすることになり事態は悪化した。
この人、ブラジャーしてない……だと……?
確か昨日外に出た時はしてたはず。俺が先に眠った後、窮屈でとってしまったのか? 確か寝るときはしないって言っていた気がするが。
伊達三姉妹最強の二匹のキングスライムは、俺の頬をサイドアタックで襲ってくる。
すべすべで柔らかな感触を楽しむというより、いつこのラスボスが目を覚ますかと思うと恐怖しかなかった。
動くたびに波打つ半球はまるでゼリーのようで、仰向けに寝ているのに自身を主張するように重力に逆らう。
そこで俺の頭の中に一匹の悪魔が生まれた。二本の触覚を持ち、コウモリの羽とフォークみたいな槍を持った煩悩の権化。
『今なら寝てんだろ? 揉んでもいいんじゃね?』そうデビル俺が囁いてくる。
よせやめろ、寝ている人のおっぱいを触るなんて、そんなこと出来るわけがないだろ。
『何甘いこと言ってんだよ、そのおっぱいに顔を埋めてる時点で触ってるのと一緒なんだよ。今なら揉んでもバレやしねぇ』
よせ、そんな甘言で俺は最低なことはしない。相手は玲愛さんだ、回し蹴りで扉を蹴破る程の破壊力をもってるんだぞ? その気になれば、俺の体に蹴りで穴を開けることもできるぞ。
煩悩デビルを止めるんだ、エンジェル俺カモン!
俺の呼び声と共に、天使の羽とハート型の弓矢を持つエンジェル俺がやってきた。
『そうです、何を考えているんですか? 寝ている女性に悪戯するなんて立派な犯罪ですよ!』
『うるせー、いい子ぶってんじゃねー!』
デビル俺とエンジェル俺の壮絶な戦いが始まる。頑張れエンジェル!
『大体そんな無防備に寝てるのが悪いんだよ。抱き枕にされてるって事は、向こうもOKの意思表示に決まってる。据え膳食わねばなんとやらだぞ!』
『違います、それは解釈違いという奴です!』
『うるせぇ、お前は引っ込んでろ!』
グサッ
エンジェル俺は、デビル俺が持っていたフォークみたいな槍に貫かれて死んでしまった。
「エンジェルゥゥー!」
エンジェルは倒れたと思ったらすくっと立ち上がり、頭についていた天使の輪っかを放り投げると、その下から二本の黒い触覚を生やして、デビル俺と肩を組んでスキップしだした。
デビル俺が二匹に増えた。
『『やっちまえー!』』
煩悩に屈した俺はそっと玲愛さんの胸に手を伸ばし、ぷにぷにとその極上の柔らかさを楽しんだ。
押せばどこまでも沈んでいくおっぱいは、指の形に変形して卑猥だ。ただ触っているだけなのに、脳みそがぐらぐらと煮えていく。
最初はちょんちょんとつつくように触っていたのに、今はもう手のひらで鷲掴みにしている。
バクバクと自分の鼓動がうるさい。その音で玲愛さんが起きてしまったらどうしようかと、二重にドキドキしっぱなしだ。でもその手を離す事ができなくて、わしわしと円をかくように両手で揉みしだいてしまう。
どれくらいそうしていただろうか? 1分か5分か? 時間感覚が曖昧になってきて、顔を上げて時計を確認しようとすると、ばっちり玲愛さんと目と目があった。
「随分と楽しそうだな?(超低音)」
俺はすぐさま両手と顔を胸から離し、冷や汗をだらだらと流しながら正座する。
気分的には寝ている魔王の前で裸踊りしてたら、実は起きていたでゴザルの心境。
「いつから目覚めてらしたのでしょうか?」
「お前がエンジェルー! とか胸の上で小声で叫んでる時だ」
玲愛さんは上体を起こすと、呆れかえって言葉も出んと言いたげだ。
「お前、昔からほんと胸好きだな」
「いや、おっぱいって夢とロマンがつまってるじゃないですか? その夢とロマンを追って、グランドラインに出るのが男じゃないですか?」
海賊王みたいなことを男らしい顔で言ってみせると、ゴチンとげんこつが降ってきた。
「あががががががが」
「世界的マンガを低俗にするな」
「すみませんでした」
「随分と夢中だったが、でかい胸がそんなに好みなのか?」
「大きければ揉みごたえがあって楽しいですし、小さい胸を恥じらう姿も大好きです」
「そうか」
直後ガチンと目ん玉から火花が散るような、大きなげんこつ(2発目)が俺の脳天に炸裂した。
「おごごごごご(もんどりうつ)」
「セクハラは犯罪だ、覚えておけ」
バカでかい二段アイスみたいなたんこぶを作られた後、玲愛さんは妹達を起こしていく。
「私は風呂に入る」
「俺は遠慮しときます」
「手錠で繋がってるんだから、お前が来ないと入れないだろうが」
そういやそうだった。
玲愛さんは俺を引きずりながら浴室に入る。
「見てませんから、どうぞ俺に気にせず脱いじゃって下さい!」
「その頭3段アイスにしてやろうか?」
俺はすぐさま脱衣所に出て正座待機である。
風呂場からひょいひょいと玲愛さんの着ていたものが放り出された。
その中に黒のレース柄のショーツも含まれていて、被りながら待ってやろうかと思ったが、これ以上俺の頭を31アイスみたいにされてはたまらないのでやめた。
てか、どうやって服脱いだんだろ?
俺は玲愛さんのロングTシャツをぺらりとめくると、右腕と脇の部分がハサミで切断されていた。
「うわ、勿体ねぇ」
と言っても俺と手首が繋がっている以上、これ以外に方法がないのも確かである。
「もしかしてこれから着る服、全部切っちゃうつもりか?」
しかし脱げないのと同様に服も着れないはずだ。どうするつもりなのだろうか? と考えて、早30分。
浴室にタオルと着替えを持ち込んでいたようで、玲愛さんはチューブトップのような、オフショルダーの服を着て浴室から出てきた。
背面にジッパーがついているので、あれなら腕を通さず着ることが出来るだろう。
「旧バイオⅢのジルみたいな服ですね」
「何だそれは? またアニメか?」
髪をきゅっと搾りながら、脱衣所に入る玲愛さん。是非ともハンドガンとか握って欲しい。
「お前も入るだろう?」
「入りたいですけど、着替えがないんですよ」
「私が後で作るから、上半身は裸のままでいろ。服も同じの買ってやるから切れ」
作るとは? と疑問に思いつつ俺はハサミとバスタオルを手渡され、お風呂に入った。
ジョキジョキと今着ている服にハサミを入れ、服を脱ぐ。
ワイヤーが1.5mあって本当に良かったと思いながら、昨日の汗を流す。
ビニール袋に入ったバスタオルを取り出し、お風呂場で体を拭き、玲愛さんから借りたジャージのズボンを履いてお風呂を出た。
外に出ると、玲愛さんはドライヤーでごうごうと自分の髪を乾かしていた。
「ん? 出たか、早いな」
玲愛さんはドライヤーのスイッチを切ると、上半身裸の俺を上から下まで眺めた。
「お前体は意外としまってるな」
「妖怪ババアに鍛えられてるので」
「ただ肉が足りないな。薄い胸板だ」
「そりゃ肉の塊の玲愛さんに比べられますと……」
玲愛さんはアイアンクローで俺のこめかみを握りしめ、そのまま体を持ち上げる。
「痛いです、死んでしまいます」
「誰が肉塊だ」
「誤解です、魅力的な女性の肉だと! つまり、良いおっぱいですねと言いたかったのです!」
「お前は本当に命乞いが下手だな」
みしみしと嫌な音を立てる俺の頭蓋骨。割れる、割れる、マジで割れちゃう!
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