第128話 私達結婚しました から始まる修羅場

「センパイの体は、今水咲の本社ビル地下にあるよ」

「あ、あぁー。ゲーム会社の」


 ほんとにファンタジー世界に来たのかと思った。恐らく巨額の費用が注ぎ込まれた、最新型のVRゲームなんだろうな。

 そこでようやく事情を飲み込む。どうやら俺は何者かによって連れ去られた後、水咲のゲームの中にぶち込まれたらしい。


「あっ!! 思い出した。学校帰りにリムジンが目の前塞いだなって思ったら、そこから藤乃さんイケメン執事が出てきて、いきなり俺の首に手刀入れたんだ!」


 マンガでしか見たことがない鮮やかな当て身を受け、気を失った俺はリムジンで連れ去られた。


「藤乃さん! あんた俺を気絶させて運んだだろ!!」


 どうせどっかで見てんだろと空に向かって叫ぶと、天から藤乃さんの声が響いた。


『申し訳ありません。あまりにも無防備な三石様を見ていると、ついムラムラしてしまいリムジンに押し込んでしまいました』

「気持ちわかるー。あーしも無性に押し倒したくなる時あるー」

「しょうがないわね。藤乃もああ言ってるから許してあげて」

「今の発言に許そうと思えるとこ一つでもあった?」


 現実世界に帰って、俺のパンツが裏返ってたら許さんからな。

 まぁチートもなしに異世界転生したんじゃなくて安心した。


「そんで、いきなりこんなとこに引きずり込んで何だ?」

「ゲームのテスターやってほしいのよ。説明するから一旦街まで行きましょ」


 月は目の前の中空を撫でると、半透明のメニュー画面が表示される。

 SFチックな画面を操作すると、俺たちの体はふわりと浮かびあがった。


「街まで飛ぶわよ」


 ワープ魔法らしきものが使われ、俺達は最寄りの街まで一瞬で移動したのだった。



 中世ヨーロッパみたいな街並みを歩きながら、感嘆の息を吐く。

 石造りの街並みに、NPCらしきキャラクターが呼び込みを行う市場。

 街の最奥には巨大な城が見える。


「はぁ~これがゲーム……もう現実と区別つかないな」

「開発者が聞いたら喜ぶわ。今テストプレイをやって、フィードバックを返してる段階なの」

「クローズドβって奴か?」

「いや、まだβまでいってない。α試作くらいかしら」


 α版とは、製品版ほどの完成度はなくバグも残っているが、一応ゲームとして動きますよという状態だ。


「なるほど」


 俺が頷いていると、隣を鎧姿の男性が歩いていく。


「NPCもほぼ人間じゃん」

「それは本物の人間」


 俺が目で追った男性が、ペコっと頭を下げる。


「開発チームの一人よ」

「あっそうなんだ、道理で日本人っぽい顔してると思った。ってかゲーム世界なのに、見た目はリアルとかわらないんだな」


 俺は二人の姿を見やる。彼女たちは服装以外、現実世界と全く変わらなかった。


「ってか月は騎士ってわかるけど、綺羅星はなぜバニー……」

「ギャンブラーって職だから。可愛いっしょ。ゲームのAIが、あーしにあった職を自動で選んでくれたの」


 ギャンブラーってようは遊び人ってことじゃ……。いや、綺羅星にはぴったりか。


「アバター機能はまだ実装されてないのよ。今はフェイスマッピングっていう機能で、現実世界の顔情報を読み込んでゲームに反映させてるの」

「凄い世界だな……」


 技術の進歩半端ない。


「ってなわけで、この世界でしばらくモンスター倒したり狩りをしたりしてほしいんだけど」

「いや、そんなのやるよ、超やる。めちゃくちゃ楽しそうじゃん」

「あんがと、じゃあアタシ達と一緒に遊びましょう」


 それから俺は水咲姉妹と共に、最新のゲーム技術を堪能して遊んだのだった。



 5時間後――


 街のギルドにて。


「いやー面白いけど疲れたな」


 俺達は4人用のテーブルに腰掛け、プレイしたゲームの感想を言い合っていた

 あれからダンジョンに行ってボスモンスターを倒したり、魔法を習得してみたり、カジノで無一文になったりと、ファンタジー世界でやってみたいことを体験することが出来た。


「ここまで来ると仮想バーチャル遊園地だな」


 こんなにもゲーム世界が面白いと、現実に帰れなくなる人が出てくるんじゃないか?

 俺自身、このままずっとここで勇者やってたいと思ってしまう。


「ね、ねぇ次アレやりたいんだけど」


 月はギルドの窓から見える、教会を指差す。

 そこでは丁度結婚式が開かれており、タキシードを着た男とウェディングドレスを着た女の人が出てくるところだった。


「い、一応このゲーム結婚システムがあるのよね」

「ネットゲームだとよくある奴だな」

「一応あれのシステムチェックもしたいんだけど……」

「俺とやるのか?」

「アンタ以外他に誰がいんのよ」

「いや、でもそれだと一人余っちゃうんじゃ……」

「このゲーム複数人で結婚式やれるから、あたしら3人でやれるわよ」

「今の時代炎上しそうなシステムだな」


 まぁゲームだからいいのかな?


「超いいじゃん。センパイあーしと月姉と結婚しようよ」


 ケッコンケッコンとねだる綺羅星。


「ん……ん~……」


 結婚か。所詮ゲームとは言え、許嫁がいるのに他の子と結婚するってどうなんだ?

 ネトゲの結婚ごっこと、現実の結婚を一緒くたにするのはゲーム脳という奴だろうか。


「ちなみに結婚すると、永続バフもらえるわよ」

「やろう」←ネトゲーマーなのでバフという言葉に弱い。


 ※バフ:ステータスなどが上がる強化効果。オンラインゲームでは結婚すると、強化バフが貰えることが多く、バフ目的のために結婚相手を募集することもある。


「そんじゃ行きましょう」


 俺達が教会に入ると、中にはNPCらしき神父しかおらず静かな空気が漂っていた。


『oh、汝は結婚シマスカー?』

「はい、します」

「あーしもするー」

「は、はい」

『デハ、ココにサインをシテクダサーイ』


 おもしろ外人みたいな喋り方をする神父は、羊皮紙を用意すると祭壇に広げてみせる。

 紙には婚姻届と書かれており、役所に届けるような本格的な書式になっている。


「凄いな、本物は見たことないけど本物っぽい」

「えっと、ここに現住所書いて、郵便番号と電話番号。印鑑がいるんだけど、アンタのデジタル印鑑作ってあるから」

「用意良すぎだろ。ってかこれ、思いっきり個人情報書き込んでるけど大丈夫?」

「大丈夫大丈夫。嘘書いちゃダメよ、後で印刷するんだから」

「ん? 印刷?」

「えっ? えーっと、ゲームの中でね」

「あぁなるほど」


 多分婚姻届っていうアイテムになるんだろうな。ネトゲの結婚って、そういう記念品的なの作りがちである。


「よし出来た」

「OK、じゃあ神父に渡して」


 婚姻届を神父に手渡すと、俺の格好が真っ白なタキシードに変わり、月と綺羅星の格好が純白のウェディングドレスへと変化する。


「さすがゲーム、なんでもありだな……」

「わぁ凄い、可愛い! あーしウェディングドレス着るの夢だったんだ~」

「ミニスカウェディングって邪道ね。開発に言ってバリエーション増やしてもらうわ」


 俺は不覚にも彼女たちのウェディング衣装を見て見惚れてしまう。


「どう、センパイ似合う~?」

「そ、そうだね。良いと思う」

「やったーあんがとー♡」

「って、あんたタキシード似合わないわね。着られてる感凄いわよ」


 月は顔を寄せてクスクスと笑みを浮かべる。


「ほっとけ。着たことないんだから、そりゃ似合わないだろ」

「結婚するにはもう少し貫禄が必要ね」


 両手を腰に当て、金のツインテを揺らしながら微笑む月。

 一瞬脳裏に、もし月と結婚したら式場の控室とかで全く同じこと言いそうだなと思った。

 きっと結婚してもお互い罵り合いつつも、仲良く喧嘩して――


「はっ、いかんいかん!」


 俺は激しく首を振って、幸せ新婚計画を振り払う。


「俺には雷火ちゃんや火恋先輩がいるんだぞ」

「何一人でブツクサ言ってんの?」

『ソレデハ、皆サーン式ヲ行いまーす』


 結婚イベントは簡易的なものかと思ってたら結構本格的で、入場シーンから指輪の授与までやらされた。

 俺の両サイドに月と綺羅星が並び、NPC神父が結婚式の定型文を読み上げる。

 

『病めるときも~健やかなときも~うんたらかんたら~』

「オイこれ、まさかキスまで行くんじゃないだろうな?」

「子供もやるんだから、そんなのあるわけないでしょ。……それともしたいのかしら?」


 月は俺を見て、からかうようにクスリと笑う。


「ち、違うっての!」

「センパイ顔赤~い。ちゅーしたいんだ~ちゅ~」


 グイグイと肘で押してくる綺羅星。ぐっ、居心地が悪い。

 この姉妹仲良くなってから、ツープラトンで俺をいじってくる。


「デハ、コレよりあなた達を夫婦として認めマース!!」


 神父が締めると、俺達の体が淡く光り輝く。

 どうやらこれで結婚したことになったようだ。

 ステータスを確認すると、ちゃんと結婚バフがかかっているのがわかった。


「教会の外に出て、ブーケを投げたら結婚イベントは終わりよ」


 月と綺羅星の手には、真っ白い花のブーケが握られていた。

 本来ならこれを、出席してくれているネトゲ仲間たちに放り投げたりするんだろうな。


「ほんとの結婚式みたいだ」


 俺は二人に腕を引っ張られながら教会の外へと出る。

 すると、外にはたくさんの冒険者っぽい人達と、藤乃さんが待ち構えていた。

 驚いて目をパチクリさせていると、藤乃さんがにこやかな笑みをこちらに向ける。


「気分だけでもと思いまして、開発者の方に集まっていただきました」

「恥ずかしいからやめてください。ゲームの結婚式なんですから」

「いずれ現実になるかもしれませんので」


 藤乃さんはどこまで本気で思っているのか、イケメンスマイルを向ける。


「そんじゃブーケ投げるよ~」

「「せ~の」」


 二人は空高くブーケを放り投げたのだった。

 こうして水咲最新技術を使った”結婚ごっこ”は終わり、現実世界へと帰還するのだった。



 悠介帰宅後、水咲本社ビルにて――


 月はタブレット端末で、メールボックスを開く。

 ゲーム開発部から送られて来たデータを確認すると、先程の結婚式の画像が300枚程添付されていた。


「どこからどう見ても結婚式ですね」


 イケメンスマイルの藤乃が、作戦通りですねと微笑む。


「これって盗撮かしら?」

「ゲーム世界でカメラは必要ありませんからね」

「藤乃、この一番写りの良い写真を加工して伊達家に送って」

「文は添えますか?」

「そうね……私達結婚しましたって、とびっきり馬鹿っぽい文体で書いて」

「わかりました。女子高生がプリント写真に書き込むような感じでと、デザイナーに伝えておきます」

「年賀状で結婚報告してくるカップルみたいなウザを出すのよ」


 月はとてもいい笑顔で、伊達姉妹に爆弾を送りつけたのだった。




――――――――

2020年お世話になりました。

明年もかわらぬご支援のほど、よろしくお願いします。

喪中のため、新年の挨拶は控えさせていただきます。


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