第308話 大漁
寝床を確保した俺たちは、今度は食料を確保するために海へと出てきていた。
メンツは俺と綺羅星と成瀬さん。
他のメンバーは、薪や森の中でとれる食料の確保を行っている。
タンクトップにデニムのホットパンツ姿の綺羅星は、サバイバルで一番謎アイテムであるガンプラを小脇に挟みながら、お腹をおさえる。
「ダーリンお腹へったよー」
「俺もだよ。移動時間含めると、もう10時間くらい何も食べてないもんね」
時間は午後3時を回ったくらいで、もうじき日も暮れてくる。
1日くらい何も食べなくても人間生きてはいけるが、2日目以降体力がガクっと低下する。
とっしぃさん曰く、毎朝医療班が健康診断をして、発熱など体調不良があった場合は即時失格とのこと。
皆が体調を崩さないために、食事は必要だ。
なにより、皆がお腹すいたよ、ひもじいよと言ってる姿が耐えられない。
「綺羅星、絶対ちゃんと食わせてやるからな」
「なんでダーリンちょっと泣いてるの? きんもーだよ」
自分の妄想で泣きそうになってしまった。
「アタシはいいのかよ、アタシは」
「成瀬さんは、おっぱい出してたら食いっぱぐれることはないと思っ、人の関節はそんな方向には曲がらないぃぃ!!」
「どうせアタシはサ胸釣りだよ!」
成瀬さんにコブラツイストをかけられ悶絶してしまった。
こんなことして遊んでる場合じゃなかった、時間無いんだ。
「さて、海なら魚がとれるだろうと安直な考えで砂浜に戻ってきたわけですが」
問題はどうやってとるかだよな。魚もバカじゃないし、手づかみで捕まってくれるほど甘くはない。
綺麗な海を眺めながら手段を考えていると、ここから少し離れた位置で、とっしぃさんチームが「とったぞぉ!」と雄たけびをあげていた。
向こうのチームも漁を行っており、切り出した枝を銛がわりにして魚をとっていた。
「とっしぃさん凄すぎだろ。さすがサバイバル系ムチューバー」
俺が感心していると「今の撮れ高だったろ!」と魚がとれたことより、動画に山場が出来たことの方が喜んでいた。
「成瀬さん、撮れ高あるとやっぱ配信者として嬉しいものなんですか?」
「あぁ? ん~嬉しいってか、あたしはホッとするって感じだな。これで動画上げられる。今日寝れるって思う」
ムチューバーとは、数字に支配された悲しき生き物なのかもしれない。
そんなことを思っていると、成瀬さんは背中に背負っていたギターをおろした。
「魚に歌でも聞かせるんですか?」
「ちげぇよ、魚とるなら道具がいるだろ」
彼女はギターの弦を外して結びあわせると、長い糸を用意してくれた。
「これ釣り糸にしろよ。結構頑丈だし、多分使えるぞ」
「いいんですか?」
「ギター鳴らしてても腹は膨れないだろ」
ごもっとも。
「あたしは潜ってくるぜ」
俺が糸を受け取ると、成瀬さんは上着と短いスカートを脱ぎ捨てる。
金色の下品な色のビキニに包まれた爆乳がどたぷんっと現れ、俺の視線は胸の振動にあわせて上下に揺れる。
さすがサ胸釣り系ムチューバー、バストは本当に1級品だと思う。
「ぃよっし行ってくるぜ」
成瀬さんは、とっしぃさんと同じく長い枝で作った銛を持って海へと入っていった。
「ねぇねぇダーリン、糸だけで魚釣りできるの?」
「針はありものでなんとかする」
俺は綺羅星と共に島に流れ着いたゴミの中から空き缶を見つけ、プルタブを外してフック状に加工する。
よし、これで針ができた。
餌になる虫は、そのへんの石をどかせばゴロゴロいるので困らない。
餌付きの釣り竿を完成させ、砂浜から海に向かってキャスティングしてみると、すぐにちっちゃな魚が釣れた。
しょぼい魚だったが、綺羅星はパチパチと手をたたく。
「ダーリンって意外となんでもできるよね」
「プラモで手先を鍛えてるし、グランダー武臓も見てたし」
「なにそれ?」
「釣りマンガ」
「関係あるの?」
「釣りマンガの皮を被ったバトルマンガだから多分無い。綺羅星、暇なら静さんから借りてきた鍋に海水入れてきてくれ」
「お水飲むの?」
「いや、蒸発させて塩を作る。魚を塩焼きにしよう」
「いいね!」
綺羅星は焚き火の上に海水がたっぷり入った鍋を置く。
しばらく放置してれば塩が出来るだろう。
しかし釣りは最初こそ順調だったものの、それから30分ほど何も釣れず待ちぼうけタイムが続く。
「釣れないねぇ」
「釣りってそんなもんだからな」
「一人一匹釣って、あーしらを養って」
一人一匹ってことは11匹か……。今気づいたけど、大所帯の消費量やべぇな。
とっしぃさんも言っていたが、人数が多いってことはその分消費量が多くなるってことだ。
11匹釣れるのがベストだが、釣れなかった場合食料にありつけない人が出てくる。
まずい、ちゃんと釣れないと皆から甲斐性なしと思われるかもしれない。
「ダーリン魚こっちいるよ」
「なに」
「あっ、逃げた」
くそっ、さっきから綺羅星が何度も魚を発見しているのだが、俺は魚影すら見えてない。
なんでだろうと考えていると、綺羅星の指輪が太陽に反射してキラッと煌めいた。
「光か…………。綺羅星、ガンプラ持ってたよな。なんのガンプラだった?」
「えっとね、1/140クワットロ専用ザヌⅡ・スナイパー仕様光学レンズ付き」
「金ピカの奴か?」
「そうそれ。肩に百って書いたザヌ」
「貸してくれ」
俺は綺羅星のガンプラの箱を開くと、パーツがずらっと並ぶ。
クワットロ専用機は全身が金ピカになっていることで有名で、もちろんガンプラも同じく全パーツがメッキ塗装されている。
金ピカパーツの中から余剰パーツを取り出し、釣り糸に結んで海に放り込んだ。
「なにしてんのダーリン?」
「効果あるかわかんないけど、魚は光るものに反応して寄ってくることがある。ルアーもキラキラした塗装が施されてるものが多くて、このパーツがそれと同じ役目をしてくれるかもしれない」
俺が言い切るより先に、竿がビクビクっと振れる。
「キタッ!」
結構でかい。さっきの小魚とは比較にならない引きだ。
勢いよくつり上がった、黒の縦縞が入った平べったい魚。
これイシダイじゃないか?
「すご、おっきぃ!」
「よし、11匹釣り上げるぞ」
「ダーリン、こんなおっきいの一人一匹も食べらんないよ」
その後はテンポよくアタリがきてくれて、バケツの中は魚で満たされた。
「やっぱり光り物が好きなんだな」
綺羅星の指輪に反応してたから、そうなんじゃないかと思っていたが、この周辺にいる魚はキラキラしたものに弱いらしい。
「ダーリン、あーしも海の中入って、なんかとってきてもいいかな」
「おう、でも日が暮れるから、もうちょっとで切り上げるぞ」
「わかった、なるるさんとこ見てくる」
綺羅星は、小学生の脱衣かと思うスピードでタンクトップとホットパンツを脱ぎ捨てると、日焼けした肌とヒョウ柄のビキニを惜しげもなく晒し、海へとザブザブ入っていく。
さすが水泳が得意とあって、あっという間に成瀬さんのところまで泳いでいった。
「よし、俺もラストスパート頑張るぞ」
竿を大きく振り、思いっきり遠投を行う。
メッキパーツを結んだ釣り糸は勢いよく飛び、着水した後波に乗って流されていく。
「うぉ、引いてる!」
糸が激しく振動し、強く引き込まれる。
「凄い引きだ! これもガンプラの力か!?」
負けてたまるか。今日の夕飯は、お前で決まりじゃい!
「どりゃあああ!! フィィィィィィッシュ!!」
大物への興奮と共に、めいいっぱいの力で竿を持ち上げると、大物が水面から飛び出す。
しかし、俺の顔面にベチャッとへばりついた布状の物を見て、あれ? っと首を傾げる。
「ん? なんだこれ? ゴミか」
それともワカメか?
顔にくっついた布キレをとると、それが今しがた見たヒョウ柄のビキニと、成瀬さんのゴールドビキニだった。
「ブラジャーが二枚……」
どうやら、奇跡的な技で二人の水着を引っ掛けてしまったらしい。それを大物と勘違いして釣り上げたようだ。
「見てみてダーリン、カニいたカニ! これ食べられんのかな!」
「おーい、見ろよでっけぇサザエとれたぞ!」
海中からザバッと並んで上半身を出した、綺羅星と成瀬さん。
俺は二人を恐る恐る見る。
向こうも、俺が釣り竿と自分たちが着ていたはずの水着を手に持っていることを確認する。
そこでようやく俺が、水着を釣り上げたことに気づいた。
「ダーリンあーしらの水着釣り上げたの? 凄くない!? アハハハハハ!」
「笑ってる場合か、お前何釣り上げてんだよ!」
「二人共、前隠して!」
成瀬さんに怒られてからキャンプに帰った後、月にこの話をしたら「そんなこと起きんでしょ?」と、あまり信じて貰えなかった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます