第309話 歌声
イシダイにサザエとカニまでとって、大漁の俺たちはドヤ顔で洞窟キャンプへと戻り、戦利品を広げていた。
「まさかここまで大漁になるとは」
「ダーリン、あーし体がベタつくよー」
「海水に入った後だからな。この洞窟の奥に、水場があるらしいからそこで洗ってきなよ」
「は~い」
成瀬さんと綺羅星が体を洗いに行くと、外に出ていた雷火ちゃんと一式が戻ってきた。
「おかえり」
「戻りました。えっ、すご! それ悠介さんがとってきたんですか!?」
「うん、一式のバケツと、成瀬さんのギターで釣り竿作って釣ってきた」
「やばくないですか!?」
「釣れないと、皆から甲斐性なしと思われると思って必死だった」
「誰もそんなこと思いませんよ。わたしたちは森の中で食べれそうなのを探してたんですけど……」
彼女たちは、収穫物を見せてくれる。
それは様々な色をしたキノコだった。
「菌類か……危険な匂いがするね」
「ですよね。これ……食べられると思います?」
二人は、紫の傘に水玉模様のマリオが食ったらダメージ受けそうなキノコをこちらに見せる。
「キノコは、かなり専門知識がないと危ないんじゃないかな……派手な色は毒があるって言うけど、地味なやつでも毒があったりするし……」
「ですよね……。ニュースで、トリカブトをおひたしにして食べたって話もありましたし」
あれは野草だと思って食べたらしく、そうはならんやろとネット民につっこまれていた。
俺も気になってトリカブトを調べてみたが、参考画像はただの草にしか見えず、「これ食べれるよ」と言われたら特に疑いもせず食べてしまいそうだった。
「魚がいっぱいあるし、危険なのに手を出さなくてもいいんじゃないかな。お腹壊すとシャレになんないし」
「正論過ぎて何も言えません」
「すみません。自分も甲斐性無しで申し訳ないです」
「誰もそんなこと思わないよ」
最初のやりとりに戻って笑っていると、竹を抱えた玲愛さんがキャンプへと戻ってくる。
「あまり大したものはとれなかった。トウガラシが自生していたのと、食器や水筒用に竹がとれた。あと一応トカゲがいたから捕まえてきた」
玲愛さんは、生きたでかいトカゲを見せてくれる。
「焼いて食えば、たんぱく質になるだろう」
「イモリの串焼きとか見たことありますけど、ワイルドすぎません?」
「栄養のためなら無理にでも食わせようと思ったが、その必要はなかったみたいだな」
カニとバケツいっぱいの魚を見て、無理して食べる必要はないと悟ってくれた玲愛さんはトカゲを手放す。
食われずにすんだトカゲは、機敏な動きで洞窟の岩陰に隠れていった。
「ただいま。戻った」
最後に火恋先輩と天が帰ってきて、手に持っている首のない鳥に驚かされた。
「火恋先輩それって」
「野鳥だ。運良く地面に降りているのを見つけて確保した」
「よく道具もないのに捕まえられましたね」
「ああ、気づかれないように後ろに回り込んで首を切ったんだ」
アサシンかな? 火恋先輩の頬に返り血とおぼしき汚れがあってちょっと怖い。
一緒に狩りに行った天が、げんなりとした表情をしていた。
「火恋ちゃん、匍匐前進で鳥の後ろまで近づいて、ナタでスパッと首落とすんだよ。映画のプレテターみたいで怖かった」
鳥からしたら音もなく近づいてきて、気づいたら死んでたって感じだろうな。
「それじゃあ、お料理しちゃいましょうか。カニとイシダイは鍋にして、鳥は焼きましょう」
静さんは、ルンルンと鼻歌まじりに魚を捌いていく。
火恋先輩は鳥の毛をむしってから内蔵を取り出し、小さく分割してから葉っぱに身を包んで炭の上に乗せる。
一式も、サザエを焚き火の中に並べていく。
「おぉ……鳥の脂が滴っている」
「悠介さん、サバイバルでこんなご馳走食べていいんですか? わたし虫とか食わされると思って覚悟してたんですけど」
「完全に俺たちのチームは企画倒れだけどいいんじゃないかな。サバイバルで、ご馳走食べちゃダメなんて言われてないし」
ジューシーな鶏肉に、カニとイシダイの鍋にサザエのつぼ焼き。
どこを見ても、旨味汁を吹き出しているものしか無い。
じゅわっとサザエから溢れ出る汁と、炭火の香ばしさが混ざり視覚と嗅覚から食欲が刺激される。
「たまらんなこれは」
豪華なサバイバル料理を、月がスマホでカシャカシャと撮影していた。
女の子って、こういう料理の写真とか撮影するの好きだよな。月にも一応そんな女の子らしい感性残ってたんだな。
そんな失礼なことを考えつつ、彼女に話しかける。
「写真撮っても電波ないしSNSには載せられないぞ」
「違うわ。足立チームに、この写真見せびらかせて煽ってくる」
「やめろやめろ! 火種をまくんじゃない!」
「目の前で肉食いながら、菜食主義に食の楽しさを教えてくる。食物連鎖最高って」
「いろんな意味で燃えるからやめてくれ!」
敵チームにガソリン撒こうとする月。
こいつに女性らしい感性があると思ったのが間違いだった。
◇
食いきれないほど豪華な食事を終えると、日は完全に落ち洞窟の外は真っ暗になっていた。
皆は一日の汚れを落とすために水浴びに行っており、テント周辺には俺しかいない。
寝転がって、パチパチと赤い光を放つ焚き火を見ているだけで心が癒やされる。
そろそろ1日めも終わりだ、今日動き回った疲労感と、心地よい満腹感が重なり強烈な睡魔が襲ってくる。
「このまま寝ちゃいそうだ」
「ご主人様、そんなところで寝てると風邪を引きますよ」
「一式、残ってたのか?」
「はい。テント内に布団がありますので、そちらで寝て下さい」
「いいんだ、最初からわかってたんだけど、あのテント11人も入れないからさ。俺は外で寝ようって思ってたんだ。皆は一人一人重なって抱き合って寝てくれ」
「ダメですよ……外は蜘蛛もいますし、毒針に刺されて死ぬかもしれません」
「そんな凶悪な蜘蛛いないでしょ……多分」
「起きたら凍死してるかもしれませんよ」
「確かにちょっと寒くなってきたけど、焚き火もあるし大丈夫だよ」
あっ、もうダメだ、落ちる……。
会話どころか瞼を開ける力もなくなり、俺は睡魔に負けて眠りに落ちた。
◇
一式は、完全に意識がなくなってしまった主人のそばに腰を下ろす。
今現在、三石チームのメンバーは洞窟の奥に流れる水源で、今日一日の汚れを落としている最中で、テント周りには誰もいない。
一式は辺りを見渡してから、主人の頭の下に自分の膝を滑り込ませる。
膝枕をしながら、パチパチと音をたてる焚き火を見つめていた。
「ご主人様は、いつもがんばり屋さんですね……。あなたの近くだと皆さん笑顔になります」
動かぬ主人の前髪をくしゃりと撫でる。
あまりにも無抵抗な姿にクスリと笑ってしまう。
「あ、あ~……」
一式は背筋を正し喉の調子を確かめ、音を調節していく。
そしてゆっくりと、昔流行った古い歌を歌う。
もしも願い事が叶うなら恋がしたい、でも根性なしだからできない。
そんなよくある恋愛歌。
澄んだ声で紡がれる歌詞。プロ声優のアカペラ。観客一人、その一人も眠ってしまっている。
「~~♫……」
一曲分しっかり歌い終えた一式は、眠りこける主人を見下ろす。
しかし、先程まで閉じられていた瞼は開いていた。
「す、すみません、うるさかったですよね?」
「なぁ一式……やっぱ俺の為に歌ってくんねぇ?」
「えっ!?」
「あぁごめん、俺たちのゲームのために」
「……わざと間違えましたね」
「君の歌好きだから、もう一曲頼むよ」
そう言って、主人は膝枕の上で寝返りを打つ。
洞窟内にはもう一曲、澄んだ歌声が響き渡るのだった。
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