第82話 ヒモなのは間違いない

「ヴァイスカードにハマってカードを集めてたら、誰かさんがあたしの全カードコンプの野望を阻んでくれたのよ」

「阻んだって、たまたま大会で一緒になっただけだろ」

「毎回あんたに大会限定カードとられたし」

「勝負なんだからしょうがないだろ」


 俺はひかりと最初に出会った経緯を思い出す。

 あれは中3のときチビ四駆にハマってて、相野と一緒にタミヤン模型店に出入りしていた頃だ。

 その店でたまたま開催されていたレースグランプリに出場して優勝した。

 そしたらなぜか景品に【薔薇の聖優ザゼル】というヴァイスカードを貰い、一枚だけあってもしょうがないし、スターター買ってみるかと始めてみたらTCGテーブルカードゲームの沼にハマった。


 今思えば、それがタミヤンのオヤジの策略だったのかもしれない。

 それを機に、ヴァイスカードの大会なんかにも顔を出すようになった。

 そこで出会ったのが水咲月。見た目の派手さとは裏腹にクールな少女だった。


「君最初に出会った時、俺に無条件降伏を要求してきたよね?」

「そうだったかしら?」

「これから決勝戦だって時に、時間の無駄だから降参してくれると助かるんだけどダメ? とか言い出して、カッチーンときた記憶がある」

「覚えてないわ」

「都合の良い記憶回路してんな」


 まぁその後は即落ち2コマみたいに、月は俺に負けorzの体勢で床叩いてたけど。

 しかしそこから目の敵にされ、彼女は俺の出場する大会の決勝戦で毎回立ちふさがったのだ。


「毎回決勝戦で君が仁王立ちしてるの見てげんなりしてたよ」


 ほんとにあのときは「また君か!」と声にだして叫んだ記憶がある。


「こっちとしても大会限定カードは奪われるし、ヴァイスプレイヤーとして伸びてた鼻もへし折られるしで、是が非でもあんたを倒したかったのよ」

「そこまでの執念があったなら一回くらい”俺を倒してくれよ”」


 通算成績は12戦12勝で完勝している。


「あたしも大会の度に、次こそは絶対勝つって思ってデッキを強化していくのにあんたはその数倍強化されてて、何なのよコイツって思ったわ」

「だってしょうがないだろ。戦った相手が、俺の魂を決勝に連れて行ってくれとか、勝者にこそこのカードは相応しいとか、少年マンガみたいなこと言って勝手にカードを渡してきたんだから。それを適当に組み込んで、俺が対戦でされて嫌なことを同じようにやったら優勝してた」

「普通は使ったことないカードを土壇場で組み込むってできないけどね」

「しょうがないだろ。カード渡してきた奴が、いつ俺のカードを使うんだ? ってキラキラした目でみてくるんだから」


 そういう時に限って託されたカード引くんだよな。


「あたし達の初対戦から1年くらいかけて、段々大会の規模も大きくなっていったのよね」


 そう。ヴァイスカードの売上が好調で、ネットでライブ中継されるくらいには有名になった。


「ただ実況がついてからは酷かった。”あのカードは○○選手のバイオハザードカード! 三石選手、完全に○○選手のデッキ破壊戦法をコピーしている!” とか煽るし。いや、このカードそれ以外使い道ねーしって思いながらやってたわ」

「勝ちが続くと運営も悪ノリしだして、あんたの後ろに今までやられた対戦者の立体映像映し出したのよね」


 クククと思い出し笑いする月。


「そう、少年マンガのラストバトルみたいな奴な」


 やられた敵キャラが少しずつ主人公に力を貸していく奴である。


「後ろですげぇ壮大なBGM流すし、実況も”見たか、これが三石悠介の絆デッキだぁぁ!” とか盛り上げるし。ほんとやめてくれって思ってたわ」

「あたし、そんなあんたと決勝で対戦エンゲージしてたのよ。完全悪役じゃんって思いながら戦ってたわ」


 冷静なのは対戦してる二人だけだったらしい。


「あんたあの絆デッキどうしたの?」

「多分家にあると思うけど、どこいったかわからん」


 うっすい絆である。

 月は呆れていたが、声のトーンを落とし遠慮がちにこちらを見やる。


「……なんでさ……ヴァイスやめちゃったの?」

「オタクがコンテンツを始めるのもやめるのも理由なんてないだろ」

「そうだけど、あれだけ持ち上げられてたのよ。最強のヴァイスヒーロー三石悠介」

「…………これは俺の勝手なオタク持論なんだが、何年も同じやつがトップやってるコンテンツは廃れるのが早い。基本的にどんなものでも抜きつ抜かれつ、勝って負けてを繰り返しながら大きくなっていくと思う」

「経済の基本ね。競争することで市場が促進され、様々な戦術やデッキが構築される」

「そう。特に俺はずる賢いやつにあって、こんの野郎嫌な戦法ばっか使いやがってって思いながら戦ってるときが一番楽しかった」

「あたしも好き。あんたがすごく卑怯な戦法の敵と戦って……勝つとこが」

「俺もそれ好きだったんだけどな。ライブ中継とかされるようになってから、そういう卑怯な手を使う奴一人もいなくなったんだよな。なんでだって思ったら、ネットで狡猾な戦法使う選手ってめっちゃ叩かれるんだよ」

「……だから皆怖くなって使えなくなった」

「それだけならまだ良かったんだけど、新規リリースされるパックも、そういう面白害悪デッキが組めなくなっててさ。どっちかって言うと俺に追い風のカードばっかりで」

「カードゲーム会社が、大会優勝者のデッキを参考にリリースするカードの性能を決定するのはよくあることよ」

「まぁそうなんだろうな。俺が最後に出た大会、本当は俺が負けたら続けようって思ってたんだ」

「えっ?」

「結果最後勝っちまった。これ以上やると、ヴァイスカードが正々堂々俺を倒すゲームになるなって思ってやめた」

「…………そっか。なんか納得した」


 月は頷く。


「あんたはよくも悪くも環境作っちゃたのよね。確かに大会の後、あんたが使ってたカードのパックすぐ売り切れになってたし」

「ポケイモンリーグも、同じモンスターばっかり出てきたら見てる方つまんないからな」


 またお前かよって思うし。その時点で何やってくるか読めてしまう。

 いきなりわけわかんないモンスターが出てきて「は? こいつ何しに来たの? じしん? ステロ? 身代わりだと!?」って汗だくになる方が面白い。


「あんたさ……じゃあヴァイスカードプレイヤーの監督とかになったら? 水咲が出資するわよ」

「監督? あぁEスポーツ的なプロの話か。よしてくれ、そんなプロゲーマー編みたいなの始めるの。俺は与えられたコンテンツを食い漁る消費豚でいたい」

「あたしは伊達で肩身狭い思いするより、プロゲーマーとしての将来のほうが合ってると思うけど」

「結果を残し続けなきゃいけないプロの世界でやっていけるとは思わん」

「公式大会不敗なのに、そのへんは現実的なのね」

「勝ったら賞金程度のものならいいけど、スポンサーとかつくと背負うものが出てくるからな。どうしても絶対勝ちに近い択を選び続けなければならない。それはもうゲームじゃなくて競技だ」


 俺は遊びでゲームをしたい。たまには害悪デッキを使って「テメーこの野郎!」と言われてみたい。


 ただ彼女の言う未来は少しだけ気にかかる。

 プロゲーマー、ストリーマー、マンガ家、ゲームクリエーター、ラノベ作家、アニメーター、声優。

 成功するかどうかは別として、確かに伊達でサラリーマンやるよりかは、そっちの分野に進んでみたい気持ちはある。

 将来のことを深く考えると、雷火ちゃんや火恋先輩、静さん、月が浮かんできた。


(あっ俺の将来、俺の隣にいる人で決まりそう……)

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