第4話 オタVS絶対零度

 結局、今回も何の進展もなく本家邸宅を出ることになった。

 面談はいつも通り火恋先輩のことをどう思っているか?

 伊達家の分家である自分たちをどう思っているか?

 自身の未来についてどう考えているか?

 もし火恋先輩との間に子供ができた時どう思うか?

 等々、およそまだ付き合ってもない本人の前で言うようなことじゃない事柄を、面接のように聞かれ続けた。

 答えるのが難しい質問が多いが、その中でも火恋先輩と子供が出来たら? とかそんな痛い妄想みたいなこと、本人の前で言うの恥ずかしすぎる。


剣心お義父さん、僕と火恋先輩の子供はきっと可愛いですよ!』


 なんて言ったらぶち殺されるだろう。

 一歩間違えばセクハラ誘導の恐ろしい質問だ。


 俺と居土先輩が解答する度に玲愛さんと剣心さんの鋭いツッコミが入り、なぜそう思ったか? などを聞かれ、完全に圧迫面接を受けている気分だった。


 居土先輩はきっちりとした未来図を言い述べ、その度に剣心さんも火恋先輩も感心していた。

 もう居土先輩も火恋先輩もいい感じになってるし、剣心さんの反応も上々。とりあえず交際を開始するという形で、この話進めたらいいんじゃないでしょうか? と思っているのだが、毎回その話を玲愛さんがひっくり返す。


 例えば、未来についてどう考えているかと聞かれ俺は――


「未来は自分のやる気や環境によって変わるので答えられません」


 この解答には剣心さんも俺の親父達も呆れ顔。それに対し居土先輩は。


「今後、自身の未来としては学業を積み、経済学もしくは製薬の分野に興味があるので、そちらの勉強をしたいと思っています。現在は一流大学に通えるよう、日々勉強と部活での鍛錬を行っています。部活の方ではインターハイ出場を――」

「ストップそこまで聞いてない」


 興味なさげに玲愛さんは話を切ってしまう。彼女は長い髪をサラサラと揺らしながら、タブレットに映る居土先輩の個人情報を見やる。


「君は確か、家が製薬会社を経営しているんだな?」

「はい、そうです」

「つまり、両親と同じレールを走るわけか」

「け、結論だけを言うと、そうですね」


 明らかに刺のある返しに、その場にいる一同が緊張する。


「自分で何かしたいことはないのか?」

「は、はい! 経済の方にも興味があり、現在自身で検討中です」

「あぁ、つまり製薬の方は保険と」


 遠慮のない言葉のナイフが居土先輩の頭部に突き刺さる。


「製薬だと医学部か薬学部だろう。経済学なら文科……。進路がかなりブレているが、どの学部だろうと入学できる自信があるということか?」

「そ、それは……」


 ハキハキと答えていた居土先輩が言いよどむ。

 その様子を見て、某新世紀司令官のように手を組む玲愛さん。


「あまり他意はないが、君のセリフは誰かに言わされてるような気がしてならない。まるで親が用意した、耳障りのいい言葉を並べただけのスピーチを聞かされている気分だ。……ようは中身がない」


 凍てついたナイフのような物言いに、客間の空気がどんどん重くなっていく。

 軽くボケたら射殺されそうな空気だ。

 実に胃に悪い。


「さて伊達としての質問は全て終わりだが、最後に私個人から質問が二つ。これは候補選びに全く関係ない話だから気楽に答えてほしい」


 今までの流れで気楽に返せるわけがない。

 間違った答えを返したら、多分リアルに誰かの首がとぶぞ。


「居土と三石は私や火恋より強いか? 勿論体力的、物理的な意味でな」


 うわ……結構な難問だ。ここは男としては腕っぷしに自信がありますと言わなければならない。

 なぜなら弱いと言えば、じゃあお前はダメだと言われるのが目に見えているから。

 しかし伊達家は武術でも名門、火恋先輩は剣道で段位持ち。実際戦えば居土先輩はわからないが俺は確実に負ける。

 しかも堂々と、玲愛さん達に対して俺は貴女より強いと言って良いのか?

 正直に答えて失望されるか、嘘をついて伊達家のプライドを傷つけるか。

 これはどっちを答えてもダメな奴だ。

 しかし居土先輩は躊躇うことなく言う。


「はい、強いと自負しております。僕自身が弱ければ、いざという時に火恋さんを守る事が出来ません」


 カッコイイ、カッコ良すぎだよ居土先輩。思わず惚れてしまいそうになった。それが正解の答えだよ……。

 しかし今更居土先輩の答えを真似したところで遅い。


「そうか……三石は?」

「いや、どう考えても無理でしょ。まず玲愛さんと俺とじゃガタイが違……」


 玲愛さんはタブレットのタッチペンをくるくると回していたが、バキっとへし折った。

 やべぇ素で答えてしまった。良い意味で玲愛さんの方が大きいと言いたかったのだが。


「なんでもありません」

「で、強いのか? 弱いのか?」

「弱いです」

「いざって時どうするんだ?」

「逃げます、もしくは助けて下さい」


 もはや呆れを通り越して全員苦笑いだった。

 強いなんて根拠もないこと言えないじゃないか。


「じゃあもう一つ、今回の許嫁の相手が火恋じゃなく私だったらどうした?」


 おぅ、玲愛さんと結婚なんかしたら一生人間椅子か人間カーペットにされるかのどっちかだろ。家庭内でポチとか呼ばれそう。常識的に考えて受けない。

 しかしここでその選択肢が使えないのはわかっている。


 居土先輩は重い言葉で、お受けしましたとだけ答えた。

 それを聞いて火恋先輩が少し悲しそうな顔をしたのを見逃さなかった。


「三石は?」

「玲愛さんが俺を好きになる努力をしてくれるなら、俺も努力します」


 そう答えると、俺の父と剣心さんから一斉に咳払いがなった。

 まぁ要約すれば好きになってくれない人は好きになりませんと答えたわけだから。

 その答えを聞いて、玲愛さんは両手で顔を隠し、肩を震わせていた。

 やばい超怒ってる。これ怒髪天を衝くってやつだろ。

 何が恐いって、隣に座ってる剣心さんの顔が驚愕に満ちてるんだけど。

 あの海原○山みたいな剣心さんが驚愕するって、どんだけ恐ろしい顔をしてらっしゃるのか?


 俺のオヤジも、居土先輩の父も生唾を飲み込み、次の言葉を待つ。

 しかし玲愛さんはすっと両手を顔から離すと、何事もなかったかのように「私からは以上だ。面談を終わる」と短く答えた。

 全員寿命が縮んだ瞬間だった。案の定俺は親父にこっぴどく叱られた。その様子を横目に、居土先輩は苦笑いしながら帰っていく。


 今日は疲れたから早く帰ろう。俺は家政婦の田島さんから荷物を受け取って本家の屋敷を出た。



 許嫁候補帰宅後、伊達家にて――


「火恋、お前の心はどうなんだ? ワシから見て居土以外の選択はないと思うが……そもそも対抗相手が非力すぎる」


 客間で腕を組みながら考え込むのは剣心と娘の火恋。

 面談終わりには、いつもこうして本人に所感を聞いている。


「そうですね居土君も若いですから、未熟なところはたくさんあります。しかしそれは、これから勉強すればいいだけの話です」

「うむ、そうだなワシから見れば居土もまだまだだが、これ以上長引かせるのは時間の無駄だ」

「あのお父様、先ほど玲愛姉さんのあれは……」

「うむ…………爆笑しておった」

「やっぱり……」


 家族だからこそわかる玲愛の反応。

 彼女はニヒルに笑うことはあれど、あれだけ腹筋をヒクつかせて笑うことはなかった。しかも第三者が何人もいる前となると、産まれて初ではないだろうか。


「玲愛の三石の気に入りよう異常だ。何故あれほどまでに押してくるのかワシには理解出来ん」

「そうですね……」






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読みにくい部分の再編集と、新規のネタ追加をしたりしてるので

投稿に時間がかかることがあります。

ご了承ください。

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