第294話 企画

 外から眩しい光が差し込み、チュンチュンと小鳥の囀りが聞こえる。


「ふぅ、ようやく完成した」


 水咲本社ビルから帰った俺は、引きこもって徹夜で企画書を作っていた。

 企画書とはゲームの一番最初の設計図で、これは俺が制作しなければいけない。


「アーマーナイトガール(仮)」


 近未来SFを題材にしたビジュアルノベルゲームを予定。

 荒廃した世界で主人公とヒロインたちが、アーマーと呼ばれる人型戦闘機に乗って戦う。

 キャラクターの設定と世界観を企画書に書き込み、これを元に月にシナリオのプロットをあげてもらい、天にキャラクターを描いてもらう。

 本当はSFというのはジャンル的に人気が低く、勝ちに行くならファンタジーか現代ラブコメにしたほうが良いのだが、神崎さんから貰った自分の面白いを信じろというアドバイスを信じて、自分の好きなものをふんだんに取り入れた。


「これで……行こう」


 企画書を印刷し、皆を集めようと自室を出る。

 すると部屋の前で待っていた天、雷火ちゃん、火恋先輩、一式、成瀬さんとぶつかる。


「ど、どしたの君たち」

「いや、あの、悠介さんが完全に引き込もっちゃったので」

「大丈夫かなって」


 どうやら生きてるかどうか確認するため、じっと扉の前で張り付いていたらしい。


「悠介君、水咲本社に行ってから少し怖い感じだったからね」


 火恋先輩の指摘に反省する。

 自分では気づいていなかったが、少しプレッシャーを感じたのかもしれない。

 居土さんに負けないものをなんとか捻出しようと、周囲に気を配れてなかったな。

 するとぐーっと腹の音が鳴る。


「飯も食ってなかった」


 自分の体にも気を配れてなかった。

 女性陣は顔を見合わせて笑う。


「キッチンで朝ごはん食べましょうよ」

「自分がすぐに用意します。談話室でお待ち下さい」

「わたしも手伝いますよ」


 雷火ちゃんや一式が、和気あいあいと朝食を作りに行ってくれる。贅沢な朝食が期待できそうだ。


 30分ほど囲炉裏のある談話室で待っていると、一式が味噌汁とご飯と焼き魚の朝食を持ってきてくれる。


「結構時間かかったね」

「雷火がね」

「雷火様が」

「わたしはパンを焼いただけです。そしたらパンがボンって」


 爆発したらしい。雷火ちゃん異次元な料理下手さだな。

 その欠点も可愛らしいところなんだけど。


「ちょうどいいや、俺が飯食ってる間に企画書見てくれる?」

「できたんですか!?」

「うん、一応ゲーム会社で実際あった企画書の書式を真似たから、形は整ってるはず」

「見たい見たいです!」


 俺はできあがったばかりの企画書を雷火ちゃんに手渡す。


「企画書って結構カラフルなんですね……画像もいっぱい添付してあって」

「ボクも思った。もっとガチガチの文字だらけだと思ってたよ」

「企画書って実は人によって結構それぞれなんだ。字だけでやるって人もいれば、画像いっぱい入れるって人もいるんだ」


 5人は10数枚の紙を順番に回し読みし、内容を読み進めていく。


「意外とページ少ないんですね」

「これでも多いくらいなんだよ。短い企画書ってパワポ5,6枚分しかなかったりするんだ」

「そんなに短いんですか?」

「うん、ダラダラ長い企画書って読み終わった後、結局何がしたいかわからないんだ。だから短いページにギュッと詰めて、無駄な情報を入れないようにする」

「なるほど……」

「ここからもっと詳細を細かく詰めたものを仕様書って言うんだ。そっちは100枚以上のページになるよ」

「ふむふむ」


 全部を読んだ雷火ちゃんが、大きく頷く。


「ガンニョム+アポカリプスのエロゲって感じですね」

「その通り」


 企画書に貼り付けられた、人型機動兵器のイメージにはガンニョムの画像を使っている。

 こういうのはイメージ伝達が重要で、俺が考えたスーパーロボットを皆わかってくれって言葉で説明してもあまり伝わらない。

 ガンニョムをもっとリアルタッチにして、人間対異界の侵略者の戦いをしている世界観と表現したほうが伝わりやすい。


 メンバーに、この企画何をやりたいかよくわかんないって言われるのが一番良くないので「あーアニメのこれとこれを足した感じね」と理解してもらえるくらいが丁度いい。


 そんな既存のもので表現するなんてオリジナリティがないよと言われるかもしれないが、プロでもオリジナリティを出しすぎてよくわかんないゲームになることが多い。

 ユーザーにこのゲームはこういうことをやりたいんだなって、シンプルさを重視して伝えることが大切って居土さんが言っていた。


「ちょっと骨太な戦闘と、日常の明るいパートで分けていきたいと思うんだ」

「なるほど……TV版のエバっぽくていいですね。1話区切りみたいな感じにした方がよくないですか?」

「それあり。ロボアニメ的なノベルね」


 俺は素早く企画書に書き込む。

 企画はわりと現場の意見で出来上がることが多く、良いものを素早く取り込んでいくことでブラッシュアップされていく。


「メカデザかぁ……あんまりやったことないな」


 天がかなり難しい顔をしている。


「最悪メカだけ外注してもいいよ」

「いや、やるよ。こういうのって自分の技術向上にすごく良いんだ。描けるものしか描かないのはただの逃げだよ」

「なるほど頼もしい。この企画書見て、これちょっとダメなんじゃないか? 技術的に難しいって思うところあるかな」

「わたしは何も」

「ボクも描いてみないと」


 一式がおずおずと手を挙げる。


「あの御主人様、歌で戦争を止めるという筋書きがあるのですが」

「うん、止めてもらう」

「戦争って歌で止まるんですか?」


 俺と雷火ちゃんは顔を見合わせる。


「戦争って大体歌で止まるよね?」

「止まりますね。大体ロボットものの敵はデカルチャーして止まります」

「な、なるほど。企画書の注釈にラストシーンに挿入歌と書いてあるのですが」

「挿入歌を入れたい。まぁこれは成瀬さんと相談だね」


 チラッと成瀬さんの方を見やると「マジかよ」って目で見返してきた。


「あっ、そうか自分じゃないんですよね……」


 一応ウチのメインサウンドは成瀬さんである。

 一瞬複雑な表情を浮かべる一式。


「よし、シナリオの月と相談してOKが出たらこれでスタートしよう」

「じゃあわたしはプログラムの雛形作り始めます」

「ボクはメカデザの練習しようかな。兄君資料買っていい?」

「全然OK。俺のipadの中に、ガンニョムの設定資料集の電子書籍入ってるから、それも使ってくれ」


 ようやくスタートだと思った時、スマホに着信が入る。


 それは伊達本家からのメール連絡だった。

【雷火、火恋を連れて伊達家へ来なさい。拒否した場合強制的に連れ戻す。剣心】と書かれていた。

 俺は後頭部をかきながら、しかめっ面になってしまった。


「文面から怒りが伝わってくるし、無視したら怖いことになるんだろうな」


 居場所もバレてることだし、行くしかないか。

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