第43話 オタと秘密のバイト
それから三日後の学校にて――
「なんかお前バテてんな」
相野は机に突っ伏す俺を突く。
「オタクに重労働を課してはならない」
「なんだバイトか?」
「まぁデート資金集め」
そう言うと、相野はこれ見よがしのため息をついた。
「デートデート、お前の口から一番聞きたくない言葉だよ!!」
「ひがむなやっかむな、鬱陶しい」
「はいはい、それでこの前のラインも無視したんだよな」
「無視してないだろ」
ちゃんと死ねって送っただろ。
「あーあー全くヤだねぇ。伊達姉妹と許嫁になったからって、モテない下々の心がわからなくなったんですかねぇ」
「シンプルにウザいな」
「まぁ三石君は俺達と違って、美女はべらしてるんでしょうけど」
「えっ、三石美女はべらせてるって本当さか?」
会話に横入りしてきたのは、写真部所属のエロ眼鏡こと
地方から出てきたらしく、若干の訛りがある。
「本当だぜ。こいつ伊達姉妹をはべらして札束風呂に入ってるんだってよ」
「どこのパワーストーン広告だよ」
「あぁ伊達姉妹か……あれはちょっと守備範囲外さな」
「嘘だろ。伊達姉妹がストライクゾーン外れるとか、爬虫類に興奮するとしか思えんぞ」
「失礼な奴さな。ちょっと美人すぎると緊張してダメなんさ」
「あぁ、それはわかるかもしれん。恋人が、あまりにも自分の顔面レベルとかけ離れてると苦労するって聞くしな」
「江口はどんな人が好みなんだ?」
「オイはああゆう細っこい子じゃなくて、ぽっちゃり系の女の子が好みさ」
江口は例えばと言って、我がクラスの超重量級女子、
((!――デ、デブ専))
俺と相野に稲妻が走る。
「やっぱ女の子は太ければ太いほうが良い。見ろ、あのセクシーな太もも。見てるだけで興奮してくるさ」
((――ド、ドム!))
「一度でいいからあの脚で膝蹴りしてほしいさ」
「やめとけ普通に死ぬぞ」
ちなみに江口は152センチ48キロと、男子の中でもかなりの軽量級である。
膝蹴りなんかされたら、普通に骨折れそうだ。
「オレは胸以外の肉に埋もれるのはNGだわ。そういや悠介は火恋先輩の乳揉ませてもらったことあるの?」
「あるわけないだろ」
「つまんねーな。ま、当たり前か。火恋先輩身持ち固そうだし」
一緒に風呂入ったとき胸で洗ってもらったが、あれは胸触った判定になるのだろうか。
そんなこと言ったら、異端審問にかけられ火炙りにされるから絶対言わんが。
男子特有の生産性のない話をしていると、ポロン♪ と俺のスマホが鳴る。
『雷火――悠介さん、先日はなんかグシャグシャになっちゃいましたけど、今日遊びに行ってもいいですか?+。:.゚٩(๑>◡<๑)۶:.。+゚
今日姉さん用事でいないから都合が良いんですよ(o´艸`) 』
「…………」
「なんでお前顔青くなってんの?」
相野が俺のスマホを覗き込む。
「なんだよデートのお誘いか。見るんじゃなかった。お前の性器がもげる呪いかけとくわ」
もげろ~もげろ~と唱える相野を無視して、俺は大きく深呼吸してからメッセージを返す。
『今日はちょっとやめておこうか。今日というかしばらくは……』
そう返すと音速で返信が来た。
『なんでですかー。もしかして
『そういうわけじゃないんだよ! でもちょっと忙しくて都合が悪いんだ』
『(o¬ω¬o)アヤシイ 』
『ほんとだよ! ちょっとバイトで立て込んでて』
『バイトとな?(ΦωΦ) なんのバイトですか?』
『今度説明するよ。今はその話はいいじゃないか』
『(o¬ω¬o)アヤシイ part2』
そんなやり取りを何回か繰り返すと、ようやく雷火ちゃんは折れてくれた。
「はぁ……助かった」
今度なにか埋め合わせしないとな。
なにしろ今の俺のバイト先は――
◇◇
放課後――
「フフフ悠介さん、わたしはその程度で引き下がるような女ではありませんよ」
悠介の自宅付近に現れた雷火。彼が授業が終わってから直帰したのは、すでに確認済みである。
彼が何かを隠しているのは明白であり、雷火の好奇心をおさえつけることはできなかった。
「悠介さん……嘘ついちゃだめですよ」
好奇心と同時に感じる不安。
保身のための嘘をつけば、許嫁のルールに違反する。
すなわち、ここで悠介と
しかし彼女はそれと同時にわかっていた。たとえ悠介がルール違反を犯していたとしても、それを父に告げ口することができないと。
「惚れた弱みですね……」
というかそもそも、
父の思惑にハマらないでくださいよと思いながら、コソコソと歩いていると、目の前を純白のリムジンが通りすぎていく。
雷火はまさかと思い走った。
すると予想通り悠介のマンション前に、派手なリムジンが停車しており、丁度月が降りてきたのだ。
「ひ、
「あら雷火ちゃん、どうしたのこんなところで?」
「月さんこそ……何を?」
「ちょっと気になることがあって」
「気になることってなんですか?」
「オタメガネに放課後に少し出かけましょうってライン飛ばしたんだけど、なんかバイトがどうとか言われて逃げられたのよ。それでこれは臭うなって」
「臭うって……」
「女よ」
どうやら月は雷火と同じ理由で、悠介のマンションまでやってきたらしい。
雷火は隠れてデートじゃなくて、ほっと安堵する。
二人は揃ってマンションに入ろうとすると、制服から私服に着替えた悠介が外へと出てきた。
「やば! 隠れましょう!」
「えっ、どこにですか!?」
「車に戻って!」
二人は慌ててリムジンへと戻る。
「お嬢様、もうお帰りですか? 伊達様もご一緒で」
「シッ、黙ってて! 藤乃あんたも姿勢を低くしなさい!」
月に言われ、運転席の藤乃も頭を下げる。
するとリムジンの前をチャリンコに乗った悠介が通り過ぎていく。
「…………行きましたね」
「相変わらず黒子みたいな服着てるわね……。藤乃、彼をこっそり尾行して」
「お嬢様は、この車の外観をご覧になったことはないのでしょうか?」
「つべこべ言わず早く行きなさい!」
「かしこまりました」
リムジンは自転車のペースに合わせて、ゆっくりと前進していく。
住宅街をトロトロ進む純白リムジンは明らかに目立っていた。
悠介の自転車は駅前の商店街から、更に15分ほど離れた街外れへと向かっていく。
「あいつこんなところで何してるのかしら?」
「ここ駅裏で人があんまり来ないところですけど……」
悠介はとある店舗の前で自転車を止めると、スタッフ用の裏口から中へと入っていく。
「あれ? 悠介さんのバイト先って」
「「喫茶店?」」
ウッド調の店舗の看板には【美容喫茶鈴蘭】と書かれている。
「美容喫茶ってなんですかね?」
「美容院と喫茶店が一緒になってるとこでしょ。最近多いわよヘアサロンカフェ」
「髪切った後にカフェに行くって感じですか」
「待ち時間とかの時間つぶしにも使えるし」
「なるほど知りませんでした」
「中入りましょうか?」
「えっ、でも普通に働いてるだけなら様子見る必要なくないですか?」
「それなら別にあたしたちに隠す必要ないでしょ? なにかあるのよ秘密が」
「ま、まさか喫茶店は表の顔で、裏はイケナイ賭博場だったり……」
「もしくは闇営業の風俗店だったり……」
「悠介さんを止めないと!」
「行くわよ雷火ちゃん!」
「わたしたちが今助けますからね!」
勝手に盛り上がる月と雷火は、連れ立って喫茶店の中へと突撃していく。
藤乃はその様子を見て、主人と同レベルのお友達ができたなと感じるのだった。
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