第364話 決戦前

「悠介さん、明日取材決戦の日なのにバイトしててもいいんでしょうか?」


 俺と雷火ちゃん、静さんは婆ちゃんの喫茶鈴蘭にて接客のアルバイトをしていた。

 メイド服姿で、シルバートレイを持った雷火ちゃんとカウンターで二人並び、経営が心配になる客席を見やる。


「いろんな人と話をして準備はしてきたから。後はもうやるだけだよ」

「あの……本当に悠介さん一人でやるんですか? わたしもサークルメンバーとして一緒に行きますよ。多分他の皆も」

「いや、俺一人でいいんだ。君たちを信用してないとかじゃなくて、多分喧嘩になると思うし。取材中の生配信も荒れまくるだろうから」

「わたし気にしませんよ」

「俺が気にする。もしかしたら危ない目にあうかもしれない」

「毎回悠介さんの作戦は体はったものになるんですから……」

「それくらいしないと、摩周社長を引きずり下ろせないからね」


 カランコロンとドアベルが鳴り、ノートPCを持った爆乳ヤンキーではなく、成瀬さんが入店してきた。


「おい、言われた通りサークル三石家の名前で、モコモコ動画にアカウント作っておいたぞ」

「ありがとうございます。これ今配信ついてるんですか?」

「テスト配信中」


 ノートPCにUSBケーブルでつながれたカメラを動かすと、ディスプレイに映し出された配信画面が右に左にと動く。

 アカウント作りたてなので当たり前だが、コメントは一つもなく同時接続者数は1。


「よし、これ明日取材のときに使います」

「なんでモコモコ動画なんだ? 配信やるならMutyubeでいいだろ? 動画配信サイトだと5番手、6番手くらいだぞ」

「いや、モコモコ動画ってアンチの炎が凄いじゃないですか。全然関係ないのに、親殺されたみたいに怒ってる視聴者とかいますし」

「まぁ確かに、コメントの毒が強すぎて新規が居つかないってのもあるが」

「よし、じゃあサークルのツイッターでポストしときましょうか。サークル三石家、テスト配信中と」


 ツイッターで配信URLを乗せると、コメントが一つ二つと流れ始める。


『なにこれ?』

『詐欺師がいると聞いて』


 同時接続が気づけば40に増えている。

 さすがSNSが発達した時代だ、こんな唐突に始めても人がやってくるなんて。

 さらに2,3分経つと炎上効果もあって同接は100まで上がる。


『結局お前とヴァーミットどっちが悪いの?』

『顔出せ顔』

『4ね4ね4ね』


 情報開示請求があっさり通る時代なのに、よくここまで罵詈雑言を浴びせられるものだ。

 まぁ彼らにとって「4ね」は「おはよう」くらいの挨拶なのだろう。終わってんな、モコモコ動画。


「まぁ明日は彼らの力が必要になるからな」


 成瀬さんが配信PCのカメラを雷火ちゃんに向けると、彼女の上半身が画面に表示される。

 その瞬間アンチコメがピタっとやんだ。


「ど、どうもサークル三石家のプログラマーサンダーボルトです」


『ママ』

『ママ』

『美少女メイドすぎる』


 こいつら明らか自分より年下の女の子にも、寄生パラサイトしようとするんだな。


「あ、あっちがグラフィックを担当してくれた、三石先生です」


 続いて奥で美容師の仕事をしていた静さんを映す。


「どうも~、三石冥です。コミケ会場で少しだけ配信にお邪魔しました」


『母乳出る?』

『何カップ?』

『ママのお腹から生まれたい』


 わりと想像の斜め上をいく気持ち悪いコメントが流れていく。


「えっと、こっちがプロジェクトリーダーの悠介さんです」


 雷火ちゃんの紹介と共に、カメラが俺の方に向く。


「ど、どうも三石家のリーダー三石です」


『4ね』

『44444』

『詐欺師4』

『キモオタ4』

『お前だけ辞めろ三石』


 えらい反応の違いである。

 まぁこの毒サソリみたいな攻撃性を利用したいから、別にいいんだけど。


「明日皆さんが気になっている問題を配信でやりますので、是非俺たちのアカウントをフォローしておいてください。多分何が本当かはっきりすると思います」


『今やれ』

『4444』

『ぶっさコミュ抜けるわ』


 当たり前だが、俺の言うことなんぞ聞いてくれない。

 すると雷火ちゃんがカメラの前に出て頭を下げる。


「あ、あのようなDLCまみれの作品を作ってしまい購入してくれた方、本当に申し訳ありません。本当に我々、DLCは無料のつもりで開発していたんです。今ここでわたしが言ってもきっと信じてもらえないと思いますが、明日ヴァーミットと我々サークル三石家の合同取材があります。その時にこの問題を明らかにしたいと思います。どうか判断はその時に……」


 罵詈雑言コメントがピタっとやんで、配信画面には雷火ちゃんしか映されていない。

 しかし同接のカウンターはグングンと上がり、初配信なのに1000人を超える。

 トラブルでも起きたのかと思うくらいコメントが流れないので不安になっていると、ぽつんと『何時から?』とコメが流れる。


「多分お昼の2時からです。摩周社長とお話するのはもっと後からかもしれません」


 それからまたコメントが流れなくなったが、多分「今日は見逃しといてやる」ってなったのだと思う。


 そろそろテスト配信を終わろうかと思った時だった、『サンダーちゃんはリーダーと付き合ってるの?』と誹謗中傷の100倍良くないコメントがとんできた。

 俺はスルーしてと目で訴えるが、雷火ちゃんは誤ってそれを読んでしまう。


「サンダーちゃんはリーダーと付き合ってるの?」


 彼女も読み上げて、しまった地雷踏んだ!? と気づく。


「……い、いえ、付き合ってるわけではないですよ。関係を聞かれると、その……えっと血のつながってない兄というか、結婚できる兄というか……えーっと……そうだリーダー! リーダーとメンバー。雇用主と社員的な関係ですよ! えぇ、決して付き合ってませんよ!」


 赤面して顔と手を振る雷火ちゃん。否定の仕方が必死過ぎる。

 一番ダメな匂わせ解答で盛大に地雷が爆発し、コメント欄が『くたばれみつい4』で溢れかえった。

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