第108話 火恋のテスト対策Ⅳ
◇
「わからん……」
学校終了後、すぐに自宅に帰りテスト勉強を行っていた。
火恋先輩から借りた参考書片手に問題を解いているのだが、完全に暗号文を解読している気分だ。
「ぬぁ~……ダメだぁ……」
いつまでも進まない問題集にぐにゃりと体が歪む。
まずい。テスト勉強をしていて気づいたが、今回の範囲俺が苦手とするところばかり出てる。
このままでは赤点は必至。
『貴様のようなバカに火恋も雷火も渡さん!!』そんな剣心さんの怒声が、今から頭に響く。
「ヘタレてる場合じゃないな。頑張ろう」
自分で頬を叩いてから、もう一度机に向かう。
あれ? 確かこの問題、他の参考書に書いてあったような……。
あの参考書どこやったっけな?
「あれ~どこいった? ってか部屋散らかりすぎだろ」
参考書を探して一時間後――
俺は綺麗に掃除された自室を見て頭を抱える。
「あかーん! 妖怪部屋掃除だ!」
テスト前によく現れる妖怪で、嫌なことを控えている人間にとり憑きやすい。
別名現実逃避とも言う。
「火恋先輩、集中力不足をあなたのせいにして本当にすみません。俺は素で集中力がありませんでした」
ダメだ、もうここまで来ると苦手教科捨てて、得意科目に絞った方がいいかもしれない。
このままだと両方落としそうだ。
絶望に暮れていると、キンコーンとチャイムの音が鳴った。
「はーい」
誰だろうかと玄関扉を開けると、そこにはコンビニ袋を持った火恋先輩の姿があった。
「あっ、えっ? どうしました?」
「いや……その……勉強をね、見に来たんだ」
「えっ、えっと、あの火恋先輩も多分試験勉強とか必要だと思いますし、俺のことは放っておいても自力でなんとかしますよ! 心配ありがとうございます!」
「いや、その……今日は教えに来たんじゃなくて、応援しに来たんだ」
「応援?」
コクリと頷く火恋先輩。
どういうことかよくわからないが、ずっと玄関で話すのも失礼なので部屋へと入ってもらうことに。
彼女はコンビニ袋を俺に手渡す。
「差し入れだ、冷凍庫に入れておいてくれ」
「ありがとうございます」
冷凍庫とな? 何が入ってるんだろうと首を傾げながら冷蔵庫にしまう。
火恋先輩はコート姿のまま座卓の前に座ると、鞄から紙を取り出す。
「一応君が苦手そうなところを纏めた模試を作ってきたんだ」
「前回俺が全然解けなかった奴ですね……」
俺は全10問の数学のテスト用紙を受け取る。
わがままを言ったのに、こんなものまで用意してくれるなんて、やっぱり面倒見の言い人なんだな。
「一応少し易しめに問題は変えてあるんだ」
「何から何までありがとうございます。でもほんとにそこまで気を使っていただかなくても」
「えーっとだね……一応裏面も見てもらいたいのだが」
「裏ですか?」
テスト用紙を裏返すと、そこにはルールと書かれ項目が箇条書きされている。
1:テスト問題1~10の正答数に応じて、ご褒美カードを一枚めくることができる。
2:わからない問題に関しては応援形式でヒントを出す。
3:問題のやり直しは何度でも可能。誤解答によるペナルティ、時間制限等はなし。
4:答え合わせは1問ずつ可能。
「友達から聞いたのだが、ご褒美がある方が勉強も捗るかなと」
「なるほど」
火恋先輩いい人すぎる。多分前世は人を救う大天使だったのかもしれないな。
しかも問題を解けたらご褒美カードというのが、ゲームっぽくて面白い。
彼女はテーブルの上にカードの山札を置く。
「やってみないかい?」
「やります!」
俺は火恋先輩の用意したテストにとりかかる。
「一問目は簡単だな。これはわかる」
確か答え合わせは一問ずつ可能って書いてあったし、採点してもらおう。
「一問目できました」
「見せてくれ……よし正解だ。カードをめくってくれ」
「やった、何が書いてあるのか……」
山札からめくったカードには『一枚脱ぐ』と書かれていた。
「……………」
俺はこんなん出ましたけど……? と困惑しながら火恋先輩に見せる。
「早速脱衣か。他にもいろいろ入ってるんだがな」
火恋先輩はコートを脱ぎセーラー服姿になる。
あれ……ご褒美ってそういう?
もしかして全問正解したら、大変なことになるんじゃない?
あっ、なんかわかんないけどすっごいやる気出てきた。
俺は即座に二問目に取り掛かる。
二問目は難易度が上がってるが、まだ基礎問題いける!
「できました!」
「……正解、カードをめくってくれ」
「はい!」
俺がカードをめくると、そこに書かれていたのは再び『一枚脱ぐ』
思わず「シャーオラッ」っとガッツポーズがでる。
「早いな、もう二枚目か。すぐに全部脱がされてしまいそうだ」
彼女は特に恥ずかしがる様子もなく、セーラー服に手をかけると勢いよく脱ぎ捨てる。
靴下とかで枚数稼ぎしないところが、火恋先輩の男らしいところだろう。
ブラに包まれた白い巨乳に、思わず手を合わせたい気持ちになった。
「つ、次いきます!」
前日あれだけ集中力をかき乱されていた火恋先輩のおっぱいだが、その先があるという期待感から一気に集中力が増す。
火恋先輩は”すぐに全部脱がされてしまう”と言っていた。つまりまだ脱衣カードは1枚以上、この山札の中に入っている(確信)
「できました!」
「は、はやいね」
「この辺りは前回も正解できてましたし」
今回も、多分4問目くらいまではいけるはず。
3問目のご褒美カードには『写真』と書かれている。
「写真……?」
「それは私の写真を一枚撮っていいということだ」
「なるほど」
「スマホをカメラモードにしてくれ」
「わかりました」
下着姿の火恋先輩を撮っていいとは、なんとも太っ腹。
彼女は準備できた俺のスマホをぱっと奪い取る。
「あっ、俺に撮らせてもらえるわけじゃないんですね」
そりゃそうか。画像流出とかしたら危な……。
火恋先輩は自分でスマホをスカートの下に入れると、カシャッとシャッターを切った。
スカート下で一瞬フラッシュが点灯する。
「はい」
堂々と渡される真紅のパンツ画像。
「…………(画像をロック)」
「こうすると喜ばれると君の友人に聞いている」
「ゆ、友人とは?」
「君がよく一緒にいる相野君だったかな。恥ずかしながら、私は殿方が喜ぶご褒美が一つ二つぐらいしか浮かばなくてね。彼にどのようなものが喜ばれるかリサーチしたんだ」
「は、はぁ……なるほど」
ってことは、このご褒美カードの内容は相野考案ってことか……。
もしかしたら俺は、明日から相野様って呼ばなきゃならないかもしれない。
そして次なる4問目も正解し、カードを引く。
「ハグ……って書いてますけど」
「よし」
火恋先輩はパッと両腕を広げる。
「きたまえ」
「い、良いんですか?」
これはご褒美だからね、何も遠慮することはないよ
では、と俺は火恋先輩に近づくと、彼女の胸に抱きしめられた。
彼女の心臓の鼓動を聞きつつ、俺の顔が胸に埋もれる。
「君も私を抱きたまえ」
「は、はい」
腰に手を回すと、驚くほど細いウェストだ。
肌に直接顔をくっつけると、制汗剤のミントの香りがする。
スポーツ少女の匂いという感じで、脳がクラクラする。
あっ、やばい、俺が火恋先輩の匂いを感じるってことは俺の匂いも……。
「ちょ、ちょ火恋先輩、もう大丈夫です!」
「そうかい?」
「あ、あの変な匂いしませんでした?」
「大丈夫だよ。男の匂いという感じで嫌いじゃない」
お、男の匂い。もしかして汗臭かったかな……。
冬場だから汗はかいてないと思うけど、スンスンと自分の服の匂いを嗅ぐ。
しかし4問目までは順調だったのだが、5問目にしてシャーペンが止まる。
「ぐっ、難易度が上がった……」
前回もこの問題に手も足も出なかったんだよな。
「むぐぐぐぐ」
俺が問題に躓いていると、火恋先輩もソワソワし始めてきた。
今までそんなことなかったのに、明らかに早く解けというプレッシャーを感じる。
絶対に問題を解きたい生徒と、絶対に問題を解かせたい先生みたいになってるぞ。
「ちなみにだが……」
火恋先輩は山札のご褒美カードを一枚ペラリとめくる。
「次のご褒美は、アイスだ……」
「アイスですか?」
ご褒美の内容がわからず首を傾げる。
「私が買ってきた差し入れの中にアイスがあるのだが。あのクリームを巻いた」
「あぁ、ソフトクリームですか?」
「そうそれ。それを両サイドから一緒に舐めるというご褒美だ」
「はは~ん。なるほどね」
どうやら明日から俺は相野様と呼ばなければならないらしい。
ソフトクリームを両サイドから舐め合えば、中央でどうなるかは言わずともわかるだろう。
「ちなみに最後10問目のご褒美は、私の胸に触っても良いだ」
「
「だから、は、早く10問目まで解いてくれ……」
どれだけ問題を間違えても、ゆっくり頑張ろうと言ってくれていた火恋先輩が、初めて急かす言葉を俺に寄せる。
やれる、これだけ期待されてやれないわけがない。
俺はニュータイプに覚醒した主人公のように、ピンク色のオーラを放つ。
貴様にはわかるまい、この俺の体を通じて出るエロのパワーが!!
◇
こうして俺と火恋先輩のドキドキ授業は全教科分行われ、試験当日へ。
「始め!」
試験担当教師の声と共に、テスト用紙を表に返す。
並ぶ問題を見て、自然と口元がほころぶ。
「いける……」
火恋先輩が体を張ってくれたんだ、その期待に答えなければ申し訳が立たない。
おっぱい黒板や、下着に描かれた公式が脳に焼き付き驚くほどスラスラ解ける。
――成績上位、マジである。
◇
試験から数日後――
試験結果が出た俺は、伊達家へと呼び出しを受けていた。
客間にて向かい合って正座する俺と剣心さん。
剣心さんは、学校から取り寄せた俺の成績に目を通している。
「同学年305人中、73位か……50位以内にすら入っていないとは、話にならんな」
「す、すみません……」
俺としては全力で頑張り、全教科80点越えという快挙を成し遂げた。
しかし、剣心さんはその程度では満足してくれなかった。
「前回は……179位か。100位以上上げた努力は一応考慮してやろう」
「あ、ありがとうございます。火恋先輩に勉強を教えていただきました」
「そうか、火恋ならばこの学力向上も頷ける。悠介、貴様悔しいか?」
「はい……悔しいです」
「そうか……」
「あと一問正解できれば、火恋先輩の生おっぱいにソフトクリームつけて……」
「何か言ったか?」
「いえ、なんでもありません」
「次の試験も順位を上げよ。成績を落とせば……わかっておるな?」
「は、はい」
「ワシからは以上だ。精進せよ」
剣心さんは最後プレッシャーを浴びせてから、しずしずと客間を後にする。
どうやら落雷は回避できたらしい。
「はぁ……よかった……」
良かったのか? ここから成績落とさないってめっちゃきついと思うが。
「火恋先輩に次もお願いしますって言ったら怒られるかな……」
そう呟くと、剣心さんと入れ替わりで火恋先輩が客間に入ってくる。
「どうやら悪い感じではなさそうだね」
「ええ、火恋先輩のおかげです。ただ、成績落としたらどうなるかって脅されちゃいましたけど」
「悠介君を快く思っていない父上にとって、成績はわかりやすく責めることが出来るポイントだからね」
「予習復習頑張ります」
「それがいい、私も協力しよう」
「ありがとうございます」
「さしあたってだが……今からどうだろうか?」
火恋先輩の手には、枚数を増やしたご褒美カードが握られている。
彼女の頬は赤らみ、若干息も荒い。
勉強以外の何かを期待するような目でこちらを見ていた。
「…………やります」
「じゃあ私の部屋に来たまえ」
この後めちゃくちゃ”仲良く”勉強した。
火恋のテスト対策 ――了
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