第27話 オタは回り込まれた

 まぁそんなわけで、現在三人正座して玲愛さんに怒られてるわけですが。


「楽しそうだな妹共よ」

「いや、これは……」


 どもる火恋先輩プリンセスファイア


「楽しいわよ」


 開き直る雷火ちゃんプリンセスサンダー


「それでお前は、そのカメラで妹たちの痴態を撮ろうとしているわけか?」

「いえ、痴態ではありません。可愛いものと可愛いものをくっつけて更に可愛いものをつくろうという美の研究です」

「黙れ」


 座りながらソバットという非常に器用な技を繰り出す玲愛さん。

 芸術的な蹴りなのだが、惜しむらくはその標的が俺ということ。


「お前ら一体いくつなんだ? ヒーローごっこはとうの昔に卒業したものだと思っていたが」

「一周回って帰ってきました」


 鋭いブローが再度俺の内蔵をえぐり、声がでないままもんどりうつ。


「お前は本当に口の減らない男だな」

「お……ごっ……」

「違うんだ姉さん、これが以前話した居土君の件で迷惑をかけた謝罪なんだ」

「どんな謝罪の仕方だ。冷静になれバカども」


 玲愛さんは地の果てからくるようなため息をこぼすと、額をおさえた。


「仲良くするのは構わんが、後世に恥を残すような事はするな」


 そう言ってプリンセスサンダーの襟首を掴み、ズルズルとどこかに引きずっていってしまった。


「雷火ちゃん連れて行かれちゃいましたね」

「そうだね」

「玲愛さん怖かったですね」

「いや、あんなの全然だよ。怒ってるうちにも入らない」


 ほんとに怒ったらどうなってしまうんだ。


「どうします、まだ撮りますか?」

「勝手に撮影すると、後で雷火が怒りそうだし後日にしようか?」


 それがいいと、本日の撮影は終了することになった。


 その後火恋先輩とインターネットで全国のレイヤーさん達の写真を見て回り、可愛かったキャラクターの名前と作品名をテキストファイルに書き出していった。


 それから数時間後。

 なかなか帰って来ない雷火ちゃんの事を話をしながら、火恋先輩と二人きりで夕食をとった。

 腕によりをかけて作られた料理はどれも美味く、箸が止まらない。


「たくさん食べてほしい」


 なにより嬉しかったのは、エプロン姿の先輩を見れたことかもしれない。

 食卓では二人きりに慣れていないので、目と目が合うだけでお互い照れ笑いを浮かべ、ぎこちないながらも心地いい時間が過ぎていく。


 夕食もいただき、日も暮れて良い時間になってきた。

 もう後一時間もしないうちに外は真っ暗だろう。

 そろそろお暇させてもらおうかなと思った頃に、不貞腐れた顔をした雷火ちゃんプリンセスサンダーが帰ってきた。


「おかえり」

「玲愛姉さんのせいで、三石さんとのデート時間削られたー」

「大変だったね、どんな話だったの?」

「伊達家の事をもっとよく勉強しろって。いつ何が起こるかわからないから、わたしたち姉妹全員が、跡継ぎの教育を出来るようにならなきゃならないって。面白い話ではなかったですよ」

「ああ、私も同じことを言われた。これから勉強の時間が増えるぞ」

「うぇー勘弁してよ、ただでさ帰国して日本の勉強覚えるのに必死なのにー」


 っていうか雷火ちゃん、そんな真面目な話をコスプレ姿で聞いてたんだね……。伊達の未来に一抹の不安を感じる。


「今日は時間も遅いし、そろそろ帰るよ」

「えーそんなのないですよ、三石さーん。わたし全然遊んでませんよ」


 口ではそう言っているものの、理解はしてくれているので抵抗は弱い。


「また今度ゆっくり話そうね」

「うーうー、明日、明日また遊びましょうよー」


 可愛く唸りながらグイグイと服を引っ張ってくる。

 雷火ちゃんって、しっかりやに見えて結構甘えん坊な面もあるのかもしれない。そう思って笑みが溢れた。


「あっ、うっ? 今の変でした?」

「いや」


 可愛いと言おうかと思ったが、あんまり言い過ぎると効果が薄くなるそうなので自重した。


「じゃあまた明日来るから、荷物置いて行っていいですか?」

「ああ、構わない。その……試着とかしても大丈夫かい?」


 頬をほんのり赤らめ、視線を泳がせる火恋先輩。

 今日は撮影があまり進まなかったので、コスプレ出来なかったのが残念なのだろう。


「いいですよ。カメラも置いていきますので、自撮りしてもらってもいいです」

「し、しないよ。……その……撮影は君がしてくれ」


 真っ赤な顔で嬉しいこと言ってくれるじゃないのと思いながら、俺は玄関へと向かった。


「じゃあまた明日ね」


 そう言って靴を履くと、玲愛さんがひょこりと顔を出した。


「何だ帰るのか? 父さんいないから泊まらせていくものだと思っていた」


 彼女はそれ以上特にこちらに興味を示すことなく、再び廊下の奥に引っ込んでいった。


「………」

「………」

「じゃ、じゃあ帰るね」


 ガッ←肩を掴む音


「泊まりましょう。そうしましょう」

「そ、そうだね。悠介君は男とはいえ一人で夜道を帰るのは危険だ。明日帰ればいい。そうすると良い」

「いや、それはまずいのでは……」


 お父さんがいない間に男を泊めるって、さすがに。


「大丈夫です。玲愛姉さんがOK出したんですから、パパが何言ったところで無駄です」


 どんだけ発言力高いんだよ玲愛さん。


「いや、泊まる準備も何もしてないんで」

「「用意します」」


 有無を言わせぬ迫力で、誰が帰すかと言わんばかりに腕を絡めてくる姉妹。


「雷火、私は玲愛姉さんに報告してから湯殿の準備をする。お前はその間に食事を済ませろ。悠介君にはデザートをいくつか残してあるから、それを食べてもらえ」


 アイコンタクトで「絶対に帰すなよ」と「ラジャー」が成立すると、俺は再び食卓につくことになった。

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