第33話 オタと三姉妹

 伊達家が円滑に動いているのはこの人ありきなのだろう。

 だから余計に気になってしまう。伊達の歯車になることを決意した玲愛さんの事が。


「玲愛さん」

「黙れ」


 まだ何も言っていないのに、ピシャッとシャットアウトされてしまう。


「お前が何を言おうとしているか読めた。自分の幸せを考えてとか言いだしたら、私はお前を殺すぞ?」

「うぐ……」


 完全に思考を先読みされている。


「じゃあ一つだけ、辛く……ないですか?」

「辛くない」


 一切表情を変えずに言い切る。まるで自身にそんな感情なんてないと言うように。

 まるで氷でできたロボットだ……。


「大分遅くなってきた。お前はもう寝ろ」


 キィっと音を鳴らし椅子を机の方に戻すと、ノートパソコンに向かい合う玲愛さん。

 自分の中でもやもやしたものを感じながらも、彼女の部屋から出ていこうとした。


 ガチガチ


「ん?」


 ドアレバーを押し引きしてみたが、鍵がかかっているようで開かなかった。

 扉を見回してみたが鍵らしきものはなく、なぜ開かないのかわからない。


「ここは電子ロックだ。どこに行く?」

「いえ、ここで寝るわけにもいかないので、火恋先輩か雷火ちゃんに何処で寝ればいいか聞こうかと」

「何を言っている、お前はここで寝るんだ」

「はい?」


 部屋を見回してみたが、どう見ても寝ることが出来るスペースはさっき寝かされていたシングルベッドか、もしくはソファーぐらいしかなかった。


「そうですね、ソファーで寝かせていただくのもありがたいんですが、出来れば空き部屋をご用意していただければ。いえ部屋じゃなくて、廊下でもキッチンでもトイレでも構いません」


 というかこの部屋にいる事を避けたい。


「ダメだ、ここからは出さん」

「どうしてですか?」

「あいつらが襲いにくるから」


 自分の妹をまるでゾンビのように言う玲愛さん。


「さすがに今日子供が出来るのは困るだろ。逆算されるといつ仕込まれたかバレる」

「困る以前の問題です!」


 確かに風呂場で襲われそうにはなったが、さすがに……。

 玲愛さんはふと立ち上がると、扉に向かって美しい回し蹴りを放った。

 ズドンと家が揺れたのではないかと思う、凄い音が響いた。

 すると扉の向こうで、誰かが尻餅をついた音と「バレてる!」と小声が聞こえ、カサカサと逃げる音が複数した。


「………」

「初めてくらい一人ずつにしろ。いきなり三人でするな」


 俺は何を? と突っ込む気力はなかった。確かにここなら二人共入ってくることは出来ないだろう。ある意味鉄壁だ。


「ベッドを使って構わん」


 どうやらここで寝るしかなさそうだった。

 しかしベッドを使ってもいいと言われたが、それすなわち玲愛さんをソファーに追い込むことになる。それはよくないと何度も遠慮したが、ベッドから立ち上がる度に玲愛さんの長い足に沈められた。


 仕方なくベッドで寝ることにしたが、ここで玲愛さんが寝ているのかと一旦意識してしまうと、気恥ずかしさが半端ではない。

 匂いや感触が気になって、布団に顔を埋めて深呼吸することしかできなかった。



 一時間くらいたった後だろうか、ノートパソコンとにらみ合いをしていた玲愛さんは自室から出ていった。

 それからしばらくして部屋に帰ってくると、微かにシャンプーの匂いがする。多分お風呂に入っていたのだろう。

 薄目を開けて彼女の姿を確認すると、ロングTシャツに下は短いパンツでも履いているのだろうか? パッと見は何も履いていないように見えてドキッとする。

 玲愛さんはソファーに座り携帯を操作していたが、しばらくしてパタンと画面を閉じるとベッドの上に乗る。


「”悠”、起きてる?」

「………はい」

「さっさと寝ろ」


 玲愛さんはゴムで長い髪を束ねて縛る。ポニーテール姿、イイよねと思いながらつい眺めてしまった。


「もう遅い、寝るぞ」


 玲愛さんは室内の電気を全て消すと、俺の隣に寝転がった。


「あの、聞きたい事があるのですが」

「狭いというクレームは受け付けないぞ」

「それでしたら画期的な提案があるのですが」

「私はソファーで寝ない。お前も寝ない」

「………」

「お前は一応客なんだ、そんなところで寝かせられない。わかれ」

「ご配慮痛み入ります」


 シングルベッドに二人で横になると当然ギチギチだ。

 自然と体の面積を狭めるために、お互い横向きになって眠る。

 気づけば対面になってしまい、玲愛さんの巨大でふてぶてしい胸が目の前にきていた。

 まずいと思い反対側を向こうとしたが、寝返りをうてるスペースがなかった。


(で、でかい……)


 火恋先輩なら事故を装って、顔をくっつける事が出来たかもしれない。

 雷火ちゃんに至ってはくっつけてくれるのではないかと、そんな淡い期待まで持ってしまう。

 だが相手は玲愛さん、伊達家のラスボスだ。ラスボスのおっぱいに触れてみろ、どうなる?


「爆発するかもしれんね!」

「するかバカ」

「げっ、なんか漏れてました?」

「お前が胸に向かって、触ると爆発するんじゃないかと言い出した」

「失礼しました」

「お前、本当に胸に目がいくな」

「あれは多分脳を通してませんよ。反射のレベルです」


 そう言いつつも目が離せないでいる俺。


「企業のオヤジどもが、私と会った時最初に胸に目がいって、その後はずっと視線を逸らそうとしているのが面白いぞ」

「今日びはセクハラが社会問題ですからね」


 特に伊達は基本的にどこにいっても上の立場だ。

 いやらしい目で見る勇気のある人はいないだろう。


「特に玲愛さんの胸は吸引力が凄そうですし」

「お前はいい加減胸と会話するのをやめろ」


 さすがにガン見しているのがバレてしまった。

 しかし、玲愛さんが動くたびに形を変える、この軟体物質が気になってしょうがない。


「女の人って寝るときブラするんですか?」

「するか、あんな窮屈なもの。……お前もどんどん明け透けになっていくな。あんなに萎縮していたくせに」


 そりゃ対面する度に、ぶち殺がすぞオーラ出されたら誰でもビビるだろう。


「俺も聞きたかったんです。何で面談の時に、あんな殺気を放ってたんですか?」

「火恋が居土に持っていかれそうになっても、お前が諦めてたからだ」

「う、すみません」

「順番は多少狂ったが、予定通りに進んでいるから良い」


 きっとこの許嫁の話がどうなるか、この先いつ子供が生まれてくるかとか、教育はどうするかとか、全部玲愛さんの中で予定が出来ているのだろう。


 やはり姉の愛は深い。


 俺は無意識のうちに玲愛さんの胸に顔をぺったりつけると、彼女はピクッと反応する。ぶん殴られるかと思って体が強ばったが、グーもソバットも飛んでこなかったので、そのままにさせてもらった。


「お前、甘えるのが好きだな」

「甘えるのも甘やかすのも好きです」

「甘甘な男だな……昔から」

「俺が幼稚園の頃は、よくこうしてもらってた気がします」

「…………あの頃は仲が良かったからな。お前のご両親も健在で……」


 俺の両親が子供の頃に亡くなった後、ほんの少し伊達家とは疎遠になっていた。

 その期間俺は三石家に引き取ってもらえるまで、親族間でたらい回しにされ続けたことがある。


「1つ世界線が違ったら、俺たち姉弟だったんですかね?」

「お前は家族と婚約者、どちらが良かった?」

「わかりません……でも」

「でも?」

「……昔から玲愛さんは優しいから好きです」

「……ばか」


 俺に姉ちゃんがいたらこんな感じだったのろうか。

 妹は雷火ちゃんで、一つ上の姉ちゃんに火恋先輩、一番上に玲愛さん。

 もし幼稚園の時に俺が伊達の養子になっていたら、そんな未来もあったかもしれない。

 今の俺は許嫁という関係になったわけだが、これからどういうルートを通るのか……。

 もしかしたら玲愛さんとも――。

 そんなことを思いながら、玲愛さんの胸に顔を埋めて眠りについた。




 三姉妹編            ――――了




――――――――――

オタオタ、第一章はこれにて完結となります。

恐らく文字数的にも、丁度文庫本一冊くらいですね。

ここからまたすぐに姉妹入り乱れた早朝が始まるのですが、そのシーンに入ると水咲編がスタートするので、これにて一旦の区切りとさせていただきます。


水咲編は少しというか、かなり大幅な改稿が必要でキャラクターに関しても手を入れないといけないかなと思っています。

本筋をかえるつもりはないですが、ルート経過に関しては新規キャラの投入も含めかなり変わったものになるかもしれません。


できるだけ早めの再開を予定していますが、少々の間お待ち下さい。


☆300ありがとうございます。

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