第68話 そんな時は身を隠すんだ

 ホロウインドウに映る雷火ちゃんはゲーマーの顔になっており、やる気満々だ。


「悠介さん、ここでわたしの為に果ててくださいね!」

「うん、果てちゃう」

「ぅオイ!」


 あっさり負けを了承すると、綺羅星から怒りの声が上がった。


「でも勝負ごとですから、わざと負けちゃダメですよ」

「無理だよ、俺には雷火ちゃんを撃てない……」

「悠介さん……。わたしも撃てません、二人でリタしましょうか?」

「そうだね」


 俺が黄色と黒の縞々線に囲まれたリタイアボタンを押そうとすると、綺羅星に頭を叩かれた。


「痛いんですけど」

「バカじゃないんですか! ここまでやって何でリタなんスか!」

「争いは何も産まないよぉ」

「そんな綺麗事聞きたくないんスよ! お願いだから戦場で出会ってしまった彼氏彼女ごっこしないで!」


 もぉぉぉぉぉっと綺羅星が怒る。俺は渋々手を非常脱出リタイアボタンから、彼女の胸に戻した。


※通信ウインドウには綺羅星の首までしか映っていないので、その下がどうなっているかは見えていない。


「そういえば雷火ちゃん、そっち二人乗りだけど大丈夫? トラブルとか起きてない? やらしいことされてない?」


 具体的にはブラジャーのフロントホックがぶっ壊れて、乳を支えてもらってるとか。


「大丈夫ですよ。こっちは横並びの座席型なんで、前のコクピットとあんまりかわらないですから」

「そうなんだ良かった。ごめんね明君も変なこと言っちゃって」


 体が半分だけ見切れている明君は「ははっ」と苦笑いした。


「よくまぁ、あーしのおっぱい触りながらやらしいことされてない? とか聞けますよね」

「えっ?」


 もにゅんと一揉みする。


「うひゃぁあっ!」


 唐突に不思議な踊りをするガンニョム。


「何するんスか!?」

「これはあくまで協力プレイだから、何もやましいことはないんだよ。人によっては乳揉んでるように見えるかもしれないが、それは解釈違いと言うものだ」

「明が雷ちゃんに同じことしてたらどうします?」

「どう足掻いても殺すかな……」


 慈悲も解釈違いもないよ。


「音速の掌返しっすね」


 綺羅星と話をしていると、どこを勘違いしたのかわからないが雷火ちゃんはちょっと不機嫌になっていた。


「悠介さん……なんだか楽しそうですね」


 彼女は頬を膨らませ、嫉妬の炎をメラっと燃やす。


「違うんだよ雷火ちゃん! 別に彼女とはなんでもないんだ!」

「そんなにくっついててですか? まるで恋人みたいですよ!」

「ち、違うんだ! バイク型のシートだとどうしても密着しないといけないんだよ!」

「聞きたくありません! 悠介さんを今から倒します!」


 そう残して通信はプツンと切れてしまった。


「うわーどうすんだ! 雷火ちゃん、なんか誤解しちゃったぞぉぉ!」

「先輩焦ってるのはわかりましたから、あーしのおっぱい揉みまくるのやめてください!」


 つい手が勝手に動いてしまった。本当に申し訳ないの気持ちでいっぱいだ。


「うーどうするんだ、雷火ちゃん怒っちゃったぞ」

「おっぱい触らせてあげて、文句一つ言わないのにあーしのせいなの!?」


 二人で言い争っていると、雷火ちゃんのガフカスはビゴォンとアイカメラを光らせこちらに迫ってくる。


「先輩どうしたらいいんですか!?」

「もうおとなしく首を差し出そうよ。それで雷火ちゃんに怒りを収めてもろて」

「わざと負けたら乳揉まれたって雷火ちゃんにチクる」

「いいから後退だ! やられたいのか!?」


 手のひらをドリル回転させ、雷火ちゃんと戦うことを決意する俺。

 綺羅星は機体を小刻みにバックステップさせていくと、ガフカスのシールドキャノンが持ち上がった。


「先輩向こうバズーカもってますよ!」

「そのままバック! 止まると当たる!」


 元来た道をどんどん戻っていく。その間ガフカスはドンドンと発射音を響かせ、バズーカを乱射してくる。


「あれは当たると痛いんスか?」

「めっちゃ痛い。ガンニョムの装甲でもHPの4分の1は飛ぶ」

「4回当たったら終わりじゃん」


 正確にはこっちのHPはザヌスナとの戦闘で削られているため、3発で終わりだ。


「ザヌスナのライフルと違って、コンスタントに威力の高い弾が飛んでくる分、一発凌げば良いってわけじゃないからこっちの方が厄介。おまけに懐に潜り込んだら、あの剣で真っ二つにされる」

「超強くないですか!?」

「でも弾数が多くないから、多分もうじきリロードタイムに入る」


 と言ってもこっちのスラスターゲージも、もうじき切れようとしている。

 このゲージが切れてしまうと、しばらくオーバーヒート状態になりスラスターは使用できない。そうなれば後はただの的だ。


「先輩もうじきスラスター切れますよ!」

「わかってる、そのまま後退」


 弾切れが先か、スラスター切れが先か――

 だが無情にもオーバーヒートを告げる警報がビービーと鳴り響く。


「もう避け切れない!」

「そのまま後退!」


 俺はレーダーで地形確認しつつ後退を指示する。キャノン砲の一発が足元に命中して機体がぐらりとよろけた。


「キャアッ!」

「そのまま後ろに倒れろ!」


 俺は後ろから手を伸ばし、綺羅星の持つハンドルに自分の手を被せ、無理やり手前に引いた。

 機体は姿勢制御せず、後ろに倒れ込む。

 転倒と同時にサブンと水の中に機体が沈んでいく。水中から太陽の光と、キャノン砲の弾がいくつも通りすぎるのが見えた。


「っと、水の中……?」


 ガンニョムが飛び込んだのは、軍事基地すぐ近くにあるオアシス。

 俺は後退を指示しながら、ここまで逃げてきたのだ。


「このオアシス海底基地があるって設定だから深いんだよ。ちなみにガフカスは陸専だから入ってこれない」

「じゃあこっからバンバン撃ってれば、あーしらの勝ちじゃないですか?」

「それは無理。水中からだとビームが減衰して、命中したとしてもカスダメしか与えられない。どの道出るしかないよ」


 ガフカスが水面を覗き込みながら地団駄を踏んでいるのが見えた。

 ありゃコクピット内で、悠介さんズルいって絶対言ってるな。


「さて、どうしたものか」

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