第385話 オカルトダイエット 前編
夏の日差しも落ち着きつつある夜、三石家アパートにて――
「はぁ……飯がうめぇよ」
「うます」
成瀬さんと真凛亞さんは、静さんと火恋先輩with真下姉妹の作った食事にしみじみとしている。
三石家では月や玲愛さんみたいに仕事がある人以外は、基本アパート内の食堂でとることになっている。
今日の献立は和風おろしハンバーグに、豆腐サラダ、卵スープ、白飯、ミックスフライが大皿で提供されている。
「人が作ったものって良いよなあっちゃん」
「うむ……カ□リーメイトかじってエナドレで流し込んでた時代とは雲泥の差」
「真凛亞さん、そんな生活してたら早死しますよ」
「ふふっ、食後にケーキがあるわ」
静さんの言葉に全員が「うぉー」っと喜ぶ。
「料理できる人が家庭にいるだけで、
成瀬さんは嬉しそうに大皿から唐揚げをパクつく。
「ダーリン、あーしのかじったレンコンの天ぷらとエビフライかえて」
「交換格差エグくないか?」
綺羅星は俺の皿にかじったレンコンを入れると、エビフライを持っていく。
別に大皿にあるんだから、わざわざ俺の持っていかなくてもいいのに、と思ったらエビフライ人数分しかなかったわ。
しかも交換で渡されたレンコン口紅ついてるし。食いさしをありがたがって食う相野の気持ちがよくわからん。
あいつなら口紅エロすぎだろとか言って、このレンコンに1万位出しそうだが。
「和食に強い火恋先輩に、洋食に強い真下姉妹がいるとレパートリーが多くていいな」
静さんはオールマイティに何でも作ってくれるし。
俺も一人暮らしの時は、カップ麺ばっか食っていたので、今の食事に関して幸せを感じている。
「いいよねぇ、あーしも夜チョコとポテチだけとか多かったから嬉しい」
「綺羅星も40過ぎたら入院コースだったな……」
俺はふと食卓を見ると、雷火ちゃんと一式のハンバーグが極端に小さいことに気づく。
「あれ? 二人共食欲ない?」
「い、いえ、これは」
「そういうわけではございません」
元から少食な二人だが、ここ最近はかなり抑えているように見える。
具合でも悪いのだろうか?
「大丈夫雷ちゃん? 夏バテ?」
「夏バテなら無理してでも食ったほうがいいぞ」
そう言いながら綺羅星と成瀬さんは唐揚げをぱくつく。
すると雷火ちゃんが理由を教えてくれる。
「いえ、再来週即売会じゃないですか?」
「うん、そうだね」
再来週はコミケではないが、都内某所でそこそこ大きい同人イベントがあり、サークル三石家はそれに出展する予定である。
「そこでコスプレする予定ですから、体作っておかないと衣装入らなくなりますし」
「なるほどね。確かコスプレコンテストがあるんだよね」
「そうです、来場者からレイヤーの人気投票があって、イベント終わりにランキングが掲載されるらしいです」
「雷火ちゃん1位狙ってる?」
俺が聞くと、彼女はワタワタと手と首を振る。
「いえいえ、そんなおこがましいことは考えてないですよ。でもさすがに最下位だと、わたしのちっぽけな女としてのプライドが壊れてしまいますので」
「ウチのメンバーは全員上位入賞してもおかしくないと思うけどな」
むしろウチが上位独占して、その中でランク付けがありそうだと思っている。
「そういや綺羅星や成瀬さんは毎日バクバク食ってるけど、ボディメイクは大丈夫?」
俺が聞くと、二人はカランと箸を取り落とした。
その顔は汗だくで目を見開き「「あるぇ~? イベントそんな近かったっけ?」」と口元を引きつらせている。
俺は成瀬さんと綺羅星の服をペラリとめくりあげ、その腹を見やる。
「なんだこのだらしない腹は」
「……ご飯が美味しくて4キロほど太りました」
「……あーしも同じくらいデブった」
まぁまぁ飯が美味しいと食べすぎてしまう気持ちはわかる。
「ケーキ、食べます?」
「「やめとく」」
翌日――
発注していたコスプレ衣装が届いたので、衣装合わせを行う。
今回のサークル三石家のゲームはギャルゲとレースを組み合わせたもので、ヒロインが着用するレースクイーン水着を用意した。
俺は談話室に全身鏡を設置して、各々自室で着替えているメンバーが戻ってくるのを待つ。
「この格好で男性の前に出るのは、結構勇気いりますね……」
「で、ですね。ゲームキャラの衣装を元にデザインしていますから」
最初に着替えを終えた雷火ちゃんと一式。カットが鋭いハイレッグコスに高いハイヒールが実にセクシー。
二人はヒップ周りの水着に指を差し込んで食い込みを直す。
「部屋の中で水着になるってちょっとエッチですよね」
「確かにです……」
雷火ちゃんと一式は恥ずかしげに頬を染める。
俺はそんな羞恥心に抗っている二人を見て、ニヤッとした笑みを浮かべる。
「悠介さん、今結構キモい顔してますよ」
「今の俺は嫁にコスプレさせて喜ぶ、ただのキモオタだから。……でも確かに露出が気になるな」
「当日はこれにストッキングとスカート履きます。できればもう少し胸を盛りたいところですが」
雷火ちゃんは一式のボンっと飛び出た胸を羨ましげに見やる。
「着替えてきたよ」
続いてコスプレと言えばこの人、火恋先輩がセパレートタイプのレースクイーンで登場。ブラはゲーム内の企業ロゴ入りの黒、パンツは赤のスタイリッシュなビキニデザインとなっている。
「う~む、鍛えられた体だ」
運動で引き締まった腹、くびれた腰、にもかかわらず胸はたわわ。こう言ってはあれだが、エロ漫画体型である。
「さすが先輩、素晴らしいボディメイクです」
「この時の為に鍛えていると言ってもいいからね。今から多数の人間に見られると思うとゾクゾクが止まらないよ」
火恋先輩、普段はめちゃくちゃ優しいし運動も勉強も料理もできる無敵な人なのだが、コスプレのことになるとストイックな露出狂みたいになるんだよな。
なんてレベルの高いコスプレなんだと思っていると、問題の成瀬さんが登場。
彼女もオレンジのセパレートタイプの衣装なのだが……。
「…………」
「…………なんか言えよ」
「いや、俺は別に嫌いじゃないですよ」
若干腹出てるくらい。
彼女の下腹がパンツの上に乗っており、運動不足、油物食いすぎ、酒飲みすぎが負債となって腹に現れている。でもこれくらいなら、むちむちジャンルとして需要あると思うが。
それに成瀬さんバスト100あるので、多分大多数の男の視線は全部そっちに行くやろ。(適当)
彼女は鏡を見て、自身の腹をむにっと掴むと頭を抱える。
「まずいってこれ! さすがにこの腹でレースクイーンは無理があるって!」
「最悪、俺が着る予定のライダースーツがありますけど、そっち着ます?」
「いやいやいや、全員レースクイーンやる予定なのにあたしだけライダーだとおかしいだろ!?」
別におかしくはないと思うけど、まぁ太ったから自分だけ男性用着てるってのは女性のプライドが折れるかもしれない。
するとドタドタと足音を響かせ、綺羅星と静さんが駆け込んでくる。
「どうしようダーリン、ケツが入らない!」
「悠君どうしましょう、胸が入らないわ!」
彼女たちの衣装はバニーガールみたいなハイレッグワンピースなのだが、綺羅星はそもそもコスチュームが入らなくて豹柄の下着のまま、静さんは下半身しか入らず上半身は手ブラしている。
「やばいってケツでかくなってるって!」
「おかしいわね、発注した3ヶ月前はこのサイズだったのに……」
綺羅星はまだ成長期なのでわからなくはないのだが、どうやら静さんも胸が成長しているらしい。
その場にいた全員が、えっ、その胸まだ大きくなるんですか? と困惑している。
俺は「すーーー」っと大きく息を吸い込むと、今回衣装が合わなかった人たちに告げる。
「ダイエットしましょうか……」
「「「はい……」」」
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