第312話 逆恨み

「リーダーのみなさーん、ゲーム運営です。至急砂浜までお集まりくださーい!」


 ゲーム運営のとっしぃズに呼ばれて、俺は砂浜にでると久しぶりに企画者のとっしぃさんと軍人チームのリーダーと再会する。

 二人は約二日のサバイバルで泥汚れが目立っており、綺麗なままなのは俺だけで逆に恥ずかしい。

 俺もちょっとくらい汚れたほうが良かったかもしれない。


「どうかしたんですか?」

「足立チームにはもう言ってあるんですけど、恐らくこれから雨になるみたいなんですよ」


 そうか、最終日雨降っちゃうのか。外で遊べなくなっちゃうな。


「サバイバル企画だから、雨くらい降るだろう。それくらいでいちいちアナウンスしなくてもいいんじゃないのか?」


 筋肉質な軍人リーダーは雨くらいで大げさだなと笑うが、とっしぃさんは首を振る。


「我々もただの雨程度なら別に何も言わないんですけど、予報で警報でるかもしれないって言ってるんですよ」


 楽観視して聞いていたが、そんなに酷い雨が降るのか。


「明日は豪雨や嵐が予想されます。参加者の皆さんはできるだけ水場を避けてサバイバルを行って下さい。特に海近くは大きい波がきて危険ですので、絶対に近づかないようにお願いします」

「了解した」

「わかりました。あっそうだ――」


 俺はとっしぃさんに、足立チームに食料を捨てられた話をする。

 

「――というわけなんですけど」

「ふ~む、それはちゃんと魚を逃がすところを見ましたか?」

「見てはないんですけど、それまでにも何回かいざこざが起きてまして。魚が可哀想とか言われて」

「そうですか……彼菜食主義だから、そういう人をサバイバルに入れると面白いかなと思って呼んだのですけど。わかりました。運営側から、三石チームに近づかないように彼には言っておきます」

「ありがとうございます」


 処分としては甘いと思うが、こっちも現行犯を押さえたわけじゃないし、これ以上関わらないでくれればそれでいいと思う。


「それでは皆さん、残り一日半ケガのないようにお願いします」



 とっしぃさんたちと分かれて俺は洞窟キャンプに戻り、皆に天候が崩れる話を行う。


「――というわけで、明日は豪雨になるかもしれないんだって」

「雨ですか……まずいですよね。わたしたちの使ってる洞窟って滝がありますし」


 雷火ちゃんは滝のある洞窟奥を見やる。

 勢い弱いからシャワー代わりに使ってるけど、雨降って増水したら危険だ。


「最悪洞窟が水没するかもしれないから、今のうちにキャンプを移そうと思う」

「でも移動するとなると、凄い労力だよね。今から場所探して、雨に負けないように補強してだと」


 天の言うことも最もだ。月の持つスマホを見ると、時刻は午後2時半過ぎ。

 今から洞窟を出て、新しいキャンプ先を探すには時間的にかなり苦しい。

 日没までに寝所が見つからなかったら、雨が降るのに野ざらしの場所でテントを張ることになる。


「悠、それならいい場所がある」


 玲愛さんは俺たちを引き連れて洞窟の外に出ると、島の中央、高台部分にある2本の巨木を指差す。

 遠目からでも見えるくらいでかく、円錐状に枝葉が伸びている木だ。


「あそこが高台になってていい」

「あの木の下に行くんですか?」

「下じゃない。上だ」

「上?」

「そうだ、あの二本の木はお互いの距離が近すぎて太い枝同士が絡み合っている。絡んだ枝の上にテントを張って、そこで過ごせば良い」

「木の上って危なくないですか?」

「この島は構造上洪水が起きやすい。一番安全なのは高台の木の上だ」

「なるほど、一旦見に行きましょうか」


 俺たちは、島の中央部にある二本の巨木の前へと移動した。


「なんかジブリンアニメに出てきそうなくらい、生命力のある木ですね」


 俺は雷火ちゃんの感想に頷く。


「となりのトロロとかね」


 二本の木の尖った先端部が耳で、広い樹冠部がトロロのお腹に見えなくもない。

 地面から伸びる二本の幹はとても太く、これもトロロの足に見えなくもない。


「玲愛さんが言ってるのは、この二本の木の間ってことですよね」

「そうだ、5メートルくらいの梯子を作って、絡まりあった枝の上にテントを張る」


 確かにここなら枝葉がバリアになって雨風を凌いでくれそうだし、島の水源が氾濫しても高台になっているので流されることもない。

 枝もぶっといし、テントをロープで固定すれば十分安定感があるだろう。


「皆安全のためにこっちに移ろうか」

「そうしましょう」

「雨が降ってから移動したんじゃ遅いしね」

「お姉ちゃんは悠君の行くところについていくわ」


 賛同が得られたので、俺たちは明日に備え洞窟から引っ越しを行うことにした。


 テントや道具を回収しに洞窟へと戻ると、雷火ちゃんが「あれ?」っと声を上げる。


「どうしたの?」

「ライターがないんです」

「えっ?」

「確かに道具はまとめて置いておいたはずなのに……」


 几帳面な雷火ちゃんが、重要なアイテムをなくすとは考えられない。

 嫌な予感がする。


「皆、自分の道具チェックして!」

「ナタは自分で持っていたから無事だ」

「スマホも携帯してたから大丈夫よ」

「ご主人様、バケツの底が壊されてます……」

「クーラーボックスもないぞ」

「ガンプラはあるよー」

「お鍋もないわ」


 俺もテント内に置いていた釣具を探すと、竿は折られ糸も千切られていた。


「野生動物の仕業……ではないよな」


 そんなピンポイントで、重要なアイテムばっかり破壊しないもんな。

 完全に留守にしたのが悪かったが、まさかこんな露骨な嫌がらせしてくる奴がいるとは思わないだろ。

 犯人に心当たりと言うと、もう一人しか浮かばないが。

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