第313話 リタイア
俺はなくなったアイテムを探して、キャンプ周辺を走り回る。
「どこいった!?」
俺たちが、洞窟を留守にしていたのは大体30分くらい。その間に道具を破壊して、捨てるのはかなり時間的に厳しい。
犯人はまだアイテムを持っている、もしくは捨てた直後の可能性が高い。
そう思い砂浜まで走ると、海にプカプカと浮いているクーラーボックスを見つけた。
「くそっ! あれだな!」
俺は海に入って、クーラーボックスを回収。その周辺を探すと、海中に沈んだ鍋が出てきた。これも俺たちのアイテムだ。
どうやら犯人は、砂浜からアイテムをまとめてぶん投げて捨てたらしい。
なんとか気づくのが早くて、流される前に2つのアイテムを回収できたが、ライターは小さすぎて見つからない。
「海に捨てられてたら、どのみち使えなくなってるか……」
クーラーボックスと鍋を回収して戻ると、砂浜に俺のじゃない足跡が残されていた。
「この位置から俺たちのアイテムを捨てて……森に戻った」
足跡を追って森の中へと入っていくと、予想通り足立チームのキャンプに行き着いた。
足立さんは俺に気づいて「やぁ」なんて声をかけてくる。
「どうかしたのかな三石君? そっちから接触してくるなんて」
「俺たちの道具が誰かに捨てられたんです」
「へぇ~大変だね」
全く悪びれずにこちらを心配してくる足立さん。
こいつほんとサイコなんじゃないかと思ってしまう。
「犯人っぽい足跡を追ってきたら、ここに着いたんですよ」
「それで? 何、僕らが犯人だとでも言いたいわけ?」
「足立さん、この40分くらいどこかに行ってましたか?」
「そのへん一人でブラブラしてたよ」
「一人でですか……」
「そうだけど?」
「…………」
「やだな、疑ってるんだろうけど、証拠もないのに犯人扱いされても困るよ」
「足立さん靴の裏見せて下さい」
「いいよ」
足立さんの靴裏を確認すると、砂浜に残されていた靴跡で間違いない。
「砂浜の砂がついてますね」
「さっき行ったからね」
「これ犯人の足跡と同じ靴裏ですよ」
「勝手に決めつけてるけど、それ本当に犯人の靴跡なわけ? 近くにあったってだけで、犯人のものかどうか断定なんかできないだろ? 君の言ってることは全て憶測だ」
「…………」
腹が立つけど言ってることは正しい。
あの靴跡は俺が勝手に犯人のものと思っているだけで、全然関係ない人のものの可能性もある。
「…………」
「そこまで疑ってるなら運営に言ってくれてもかまわないよ。僕たちリタイアするから、意味ないと思うけど」
「えっ?」
「辛くなったらやめようと思ってたんだよね。明日は雨降るし、濡れたら寒いし、惨めな思いするまでやる必要ないかなって」
こいつ、とことん舐めてるな。
もし仮に、俺が足立さんが犯人だと証拠を持ってきたとしても、とうの足立チームはリタイアしてしまっているので、運営側からペナルティを与えることができない。
俺たちのチームは完全にやられ損なだけだ。
足立さんたちは荷物を持って立ち上がる。
「僕らはセーフハウスに行くよ」
「セーフハウス?」
「あぁ、リタイアしたチームが使うコテージがあるんだよ」
足立さんが指さした方角を見やると、急遽作りましたよって感じのベニヤ小屋が見えた。
恐らく体調悪くなった人とかを休ませる為に、運営が用意したんだろうな。
「あそこには食べ物やストーブもあるから快適だよ。君らは精々無意味なサバイバル頑張ってね」
足立さんは嫌味なことを言って、公衆トイレみたいな
俺はその後姿を見て、ため息をつくしか出来なかった。
「いるよな、ゲームに負けかけたら反則技使ったり、何マジになっちゃってんの? とか言う奴」
ゲームでもなんでも真剣にやるから楽しめるんだろ。
どんなことでも、頑張ってる人間を笑う奴が一番ダサいと思う。
しょうがない、一応運営に報告だけして皆の元へと戻ろう。
◇
トロロの木(仮)に戻ると、皆困った顔をして俺を待っていた。
「悠介さん……あっ、クーラーボックスあったんですか!?」
「うん、あと鍋も」
「すごい、どこにあったんですか?」
「海に捨てられてた」
そう言うと、玲愛さんの目が鋭くなった。
「あいつか?」
「多分そうだと思います。道具が捨てられてた位置に足跡が残ってたんですけど、足立さんの靴と一致しました」
「いいかげんあのクソガキしめてくる」
野郎社会的にぶっ殺してやると、肩で風を切る玲愛さんを引き止める。
「ダメですよ。足立さんのチーム、もうリタイアしたそうです」
「なに?」
「雨降るし辞めるそうです」
理由を話すと全員がマジで? と呆れた表情になる。
「嫌がらせするだけして自分はリタイアか。陰湿で根性なしな奴め」
玲愛さんが憤るのも無理はない。
「このことは運営に言っときましたけど、リタイアしてしまった以上処分を出せないそうです。見つからなかった道具のかわりを貰えないかかけあってみましたけど、ライターは予備がないみたいで火は自前でなんとかするしかないですね」
「残念ですね」
ライターを失ってしまった雷火ちゃんはしょんぼりする。
「そのかわりと言ってはなんだけど、とっしぃさんがあまりにも俺たちが不憫だからって、レトルトのカレーとギターとカスタネットくれました」
「なんでカスタネットはあんのにライターの予備はねぇんだよ」
成瀬さんの疑問は最もである。
「正直嫌がらせされて腹が立つんだけど、火さえ起こしたらご飯は食べられるし、元気だして行こう。エイエイオー! エイエイ……オー」
大きく握りこぶしを掲げてみたが、皆ちょっと引いた目をしている気がする。
エイエイオーはさすがに滑っちゃったかな。
しかし、次の瞬間全員が吹き出す。
「兄君ってわかりやすいよね」
「雰囲気が暗くなりそうになると、めちゃくちゃ頑張って声張りますよね」
「悠君優しいから」
冷静に分析されると恥ずかしいものがある。
「俺たちはルールを守ってこのゲームを楽しんでいこう。犯人は心が苦しくてこんなことやったと思うから、俺たちが楽しんで残り1日クリアするのが、一番の報復になると思う」
「悠介君の言うとおりだ、元からライターはなかったものだと思えばいい」
「そうよ、あたしらがめげずに良いもの食べてたら犯人はウギギギってなるわよ」
火恋先輩と月が大きく頷く。
「ダーリン、あーし日が暮れる前にサザエとかもっかいとりに行ってくる。あーしが皆を養う!」
「あたしも行くぜ、カニカレーにしよう」
「私は果実を取りに行こう。明日は雨で身動きできないだろうし、食料を確保しておかないと」
「雷火ちゃん、ボクらは梯子作ったりテント固定したりしよっか」
「はい!」
トラブルが起きたことで、俺たちはむしろ団結力が深まっていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます