第190話 ヒロインファイト・レディ

 ガンメタリックのSF戦士ヘヴィメタルマンと、六枚羽の天使ミカエルウーマンへと進化を果たした俺たち。


「雷火ちゃんの天使可愛いよ。雷火ちゃんマジ天使だよ!」

「悠介さんのスーパーヒーローカッコよすぎです。君の中のヒーローですよ!」

「いいや、雷火ちゃんが世界で一番可愛いよ」

「いいえ、悠介さんが世界で一番カッコイイです」


 お互いの格好を褒め合うバカップル化してる俺たちに、空気を読まないサイキックジョーが攻撃を開始する。


「進化したって敵は二人なんだ、こっちが優勢なのはかわらない!」


 操られたスーパーヒーローのアバター達は炎の渦や電撃、風の刃を駆使し、並のアバターなら一瞬でHPを消しとばす攻撃を放つ。


「やったか?」


 爆炎エフェクトが晴れた時、第一に目に入るHPゲージを見て驚くことだろう。

 あれだけの攻撃を受けて俺のHPはほんの僅かに減っただけ。

 荒野は攻撃によって大きくえぐられているのに、メタル戦士は何事もなかったかのようにその場に立つ。


「なんだよそれ……」

「ヘヴィメタルマンのスキル鏡面反射装甲ミラーコーティングアーマー防御姿勢制御ガードマニューバで、防御中は全ての攻撃が95%カットされます。今度はこっちから行きます」


 俺が両手を前に突き出すと、二門のガトリング砲が現れる。


蜂の巣ガトリングホーネット起動」


 俺は轟音を鳴らしながらガトリング砲を発射する。

 高速回転する砲身から強烈なマズルフラッシュが放たれ、薬莢がすさまじい勢いで排出されていく。

 赤熱する徹甲弾ピアシングショットシェルが空気を切り裂き、サイキックジョーを紙切れのようにズタズタにしていく。


「ぐあああああ!」


 更に


「ビーコン点灯、ランチャーアーク、1番、2番連続発射」


 肩の上にモスグリーンの四角い鉄の箱、ミサイルコンテナが出現し、俺の発射命令と共に次々ミサイルが上空に向かって飛ぶ。

 誘導制御されたミサイルは、規定高度まで達すると反転し、ターゲットをロックすると死の雨となって降り注ぐ。


「うぉあああああ!」

「ぎゃあああああ!」


 着弾と同時にドッカンドッカンと爆炎をまきおこし、たった一人でフィールドを戦場にかえていく。


「初弾命中、次弾装填。雷火ちゃんここは俺が受け持つよ」

「わかりました、わたしはちょっとグーパン入れたい人物がいるので行ってきます」

「喧嘩しちゃダメだよ」

「それはわかりません」


 雷火ちゃんは白い翼をはためかせ、姉の元へと飛ぶ。

 残った俺は、ガトリングガンを手に敵の駆逐を開始する。


攻撃衛星ガンズオービット起動、サテライト、ファイア」



 岩場に逃げ込んだ内海は、あっというまに減っていく味方を見ながら珍しく毒づく。


「あんなの歩く武器庫ウォーマシンだろ、非常識にも程がある! α版ということを鑑みてもゲームバランスが悪すぎるぞ!」


 と、言いつつも向こうは正当な手順を踏んで進化したアバターである。

 グリッチを使っていた内海軍から、文句を言われる筋合いはない。


「ど、どうします?」


 一緒に逃げ込んだサイキックジョーが内海に作戦を聞くが、答えられるわけがない。攻撃を95%カットし、ガトリング砲を両手に持って、上空からミサイルを降らす化け物だ。しかもあれを倒しても雷火が残っているという始末。


「こっちも進化するしかないが……」


 なんとか打開策を見出そうとしていると、目の前のサイキックジョーの頭が吹き飛び光の粒子となって消える。

 内海は空を見上げると、上空にキラりと光る機械建造物が見える。


「衛星砲撃まで使えるのか……」


 こりゃ絡め手がないと勝てないぞと思う内海だったが、その時視界の隅にウェディングドレス姿のプレイヤーが映る。


「あれは三石君のお姉さんか?」



 その頃、雷火は悠介の作る戦場から少し離れた位置で、姉玲愛と対峙していた。

 天使と海賊の姿をした二人は、姉妹とは思えない睨みをきかせあっていた。


「姉さん、言いましたよね? わたしここでは絶対姉さんに負けないって」

「そうだな。電脳世界ここではな」

「わたしも悠介さんも絶対どんなことがあっても負けません。例え社会がどれだけ牙を剥こうとも。彼はもう十分それを証明したはずです」

「…………」

「一緒に目指しましょうよ。姉妹ボテ腹エン……」


 ダンっと雷火の真横を銃弾がかすめる。

 玲愛の持つ拳銃の銃口から硝煙がのぼっていた。


「お前はエロゲのやりすぎだ」

「わたしは本気です。こんなにも真摯にハーレムエンドに向き合ってるんですよ! 普通のエロゲはハーレムエンドに何も疑問なんて持ちませんから!」

「全力でふざけるのはやめろ!」

「ふざけてなんかいません! わたしは多分悠介さんがいなかったら絶対結婚しようなんて思わなかった。火恋姉さんはきっと悪い男と結婚して不幸になってた! 全部悠介さんが気持ちを変えてくれたり、阻止してくれたんですよ。今彼の周りにいる人は皆悠介さんに人生を変えられた人」

「…………」

「姉さん正直になりましょうよ。あなただって本当は……」

「雷火、先に言っておく。悠介は本当はお前の義兄になる人物だった」

「……どういう意味です?」


 雷火が聞き直すと、玲愛は過去を全てぶちまける。


「あいつの両親が事故で死んだ時、伊達家の養子になるはずだった。だが、私がそれを拒否した」

「!」

「あいつは両親が死んでから数年、分家による虐待を受けて育っている。その原因を作ったのは私だ。本当は助けられたのに、あえて助けなかった」

「なぜ……」

「伊達に男を入れない為だ。いや、母親の愛情がこれ以上分散しない為だ」

「ママの……」

「私はあいつが一番辛く苦しいときに更に谷底につき落とした。そんな人間が、どの面を下げて幸せになりたいなんて願う? 加害者が被害者によりそうなんて出来ないんだ」

「…………」

「もうこれ以上私に構うな……お前たちだけで幸せになれ」

「……姉さん、あなたはずっと後悔して生きてきたんですね」

「…………」

「だからわたし達を悠介さんの許嫁にして、悠介さんを家族にしようとした。昔やってしまった後悔を、わたし達を使ってやり直そうとしている」

「…………」

「卑怯ですよ。今まで姉さんの作ったストーリーに乗せられてたってことじゃないですか」

「それは違う、悠介とお前たちを近づけたのは確かに私だが、好きになったのはお前たちの意志だ」

「御託を並べないで下さい! 自分のやらかしたことの責任は自分でとってください! わたしや火恋姉さんを贖罪の材料にしないで!」

「…………」

「なんでそれだけの力がありながら、そんな遠回りの方法しか思い浮かばなかったんですか……。姉さんなら辛く苦しいものにしてしまった悠介さんの過去を、幸せな未来で塗り替えられたはずです」

「…………私には無理だ」


 雷火は初めて玲愛の恋愛観を知る。

 なんでも器用にこなし、他者を支配して屈服させるドS系姉に見えて、男性の扱いはどうしようもなく不器用で奥手なのだ。

 普段は物静かで凛とした大和撫子なのに、悠介のことになるとリミッターが外れる火恋と全くの逆。


 彼女は心の中でずっと過去に怯えている。

 なぜあの時助けてくれなかったんですか? あなたのせいで俺は不幸になりましたと言われることに。


『――玲愛さんって、あの時俺をのけものにしたくせに、今になって”そっち側”に連れて行こうとするんですか?』


 当然本人がそんなことを言うわけがない。

 自分自身が作り出した、過去の悠介後悔にずっと苦しめられているのだ。

 だから自分に罰を与えないと、彼との関係を保てない。


「姉さん……謝って」

「何がだ」

「悠介さんに今言ったこと全部話して謝って。それで……許してもらって」

「…………」

「悠介さんなら絶対に許してくれる。そうしたら今姉さんを苦しめてる過去の悠介さんは消えるから」


 玲愛は目を伏せ、小さく息をつくと


「――断る」と短く返した。


「こんの臆病者!」


 思わず巻き舌になってしまった。

 雷火は生きていて初めて、ほんとド突き回してやろうかと思うぐらい怒りに染まるが、ぐっとこらえ詠唱を行う。


「なら、わたしたちが勝ったら謝罪してもらいます。空間転移次元門セイントオブトランスゲートオープン」


 雷火は呪文を唱えると、地面に4っつの召喚陣が浮かぶ。

 幾何学的な模様から光の柱が上り、マップ空間を繋ぐゲートから現れたのは、武者火恋、銀騎士天、猫獣人綺羅星。

 敵のコントロールを免れた彼女たちは、じっと機を待ち待機していたのだった。

 彼女たちは雷火と対峙する玲愛を見て、一瞬で状況を察する。


「今日は全員で徹底的に討論しましょう……拳で」





―――――

次回VRゲームバトル クライマックス

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