第191話 ゲームの中心で愛を叫ぶ
『
合成ボイスのシステムアナウンスが、俺のマスク内に響く。
残弾を撃ち尽くした衛星は、エネルギー充填の為待機モードへと入る。
圧倒的火力で殲滅を行い、サイキックジョー軍団はほぼ壊滅した。
残るは――
「やぁ三石君」
岩陰から現れた内海さんは、いつもどおり胡散臭い笑みを浮かべながら俺に挨拶をする。
「ガトリングホーネット」
「待て待て、これからラストバトルなんだ。少しくらい雰囲気を大事にしよう」
「もうここまで来たら話すこともないでしょう。お互い頭空っぽにして殴り合うだけです」
「ククク、相変わらず大企業の許嫁とは思えないな。この戦いで伊達家の将来がかわるかもしれないのに」
「揺さぶりかけてもダメですよ。この場にいる以上、俺とあなたはただのゲーマーです」
「…………」
「それに今自分の肩に大企業が乗っかってるとか、そんなこと考えながらゲームしてもつまらないでしょう」
「確かにね……。もしかしたら案外エリートなんかより、君みたいな子が許嫁になった方がいいのかもしれない」
クカカカと笑いながら、内海さんは腰にさした斬鉄剣に手をかける。
「ラストバトルを始めようか」
「ええ」
内海さんは俺が返事を返した瞬間、消えたと思わせるスピードで懐に入ってきた。
「君のキャラクターは高防御力遠距離射撃特化と見た。至近距離に詰めれば」
ビームソードを持つ侍が俺の真下に滑り込み、淡いグリーンに発光する刀を突き上げる。
だが、その考えは甘い。何故ならビーム斬鉄剣がヘヴィメタルマンの体に突き刺さったと同時に、ビームがぐにゃりと曲がったのだ。
俺の網膜にINVARID BEAMと赤文字で表示される。
「ヘヴィメタルマンの鏡面装甲で、ビーム系は通りません」
「なっ!?」
驚きで内海さんの体がかたまった瞬間、俺はガトリング砲を手放し、両手に装着されているコンバットナイフで肩を突き刺した。
「ぐっ!」
HPが3割ほどギュンと減った内海さんは、慌てて飛び退き距離をとる。
恐らく防御力が高いとはわかっていたが、無効化されるとは思っていなかったのだろう。
ビーム攻撃の通じないヘヴィメタルマンと、ビーム剣主体の内海さんではどう見てもこちらが有利だ。
俺は両手にナイフを逆手で持ち、死神隊長みたいな侍と対峙する。
「なかなか絶望的だ。でも、こちらにも大人の意地がある。負けるわけにはいかない」
内海さんはビーム斬鉄剣を構えると、一気にこちらに飛び込んできた。
「ビーム剣は俺には効きませんよ!」
アンチビームコーティングされている二本のナイフで斬鉄剣を弾くと、内海さんは剣の柄で俺の顔面を殴りつける。
金属装甲で包まれている俺にそんなものは通用しない。
だが、急接近した内海さんは俺の腹に手を添える。
「千手
内海さんの掌が輝くと俺は凄まじい衝撃を受け、真後ろに10メートルくらい吹っ飛び岩壁に衝突した。
「いった……」
別に痛くはないのだが、ついやられると口に出してしまう。
俺の体力ゲージは減っており、さっきやられたのは防御貫通技と同じだと理解する。
「鎧通しって奴か」
「ソードスキル、乱れ千本桜」
顔を上げると中空に無数の刀剣が現れ、マシンガンの如くこちら目がけて飛んでくる。
「やっばい!」
すぐさま飛びのくと、俺の後ろにあった岩壁は刀によって粉々に砕かれていた。
「くっ、未進化なのに強い」
あの侍キャラは、やはり高防御キャラのアンチピックに見える。
それが内海さんのゲーマー知識と合わさって、未進化でもこちらとやりあえている。
「ランチャーアーク!」
俺はミサイルコンテナを呼び出し、飛来する刀とミサイルをぶつけ合わせる。
だがそれがミスだとすぐに気づく。
立ち上る爆炎で内海さんの位置が見えない。
「はぁっ!」
内海さんは煙の中を牙突スタイルで突きぬけ、刺突を仕掛けて来る。
「ビーム属性じゃなくなってる!?」
内海さんの持つビーム斬鉄剣の光が消え、ただの刀になっている。
即座に反応し、ナイフで応戦するが巧みな剣さばきでナイフを弾き飛ばされてしまう。
俺は
顔面を狙った刀を銃身で弾くと、火花を上げながら俺の側頭部をかすめていく。
高い金属音と低い銃声が響き、銃と剣の超接近戦が繰り広げられる。
内海さんは眉間、喉、心臓、急所となるポイントを的確に狙い、神速の斬撃を見舞ってくる。
対する俺は、変幻自在の軌道で襲ってくる刀を紙一重でかわしながら、打撃と銃撃を織り交ぜ応戦する。
少しでも気を抜けば首を飛ばされる、その前に眉間に銃弾を叩き込んでやる。
そんなスリルに満ちた戦いが、この上なく楽しい。
「最初はイジメみたいなゲームだと思ってましたけど、今とても楽しいです!」
「僕もだよ。不謹慎ながら最初からこうしておけばよかったと思っている」
お互い一歩も引かない、横の動きはあっても縦の動きは前に進む以外せず、どう考えても距離をとった方がいい場面でも引かない。
俺も向こうも同じことを思っただろう”こいつから逃げたくない”と。
拳銃を三連射し跳弾で斬鉄剣の柄に弾丸を当てると、刀を吹っ飛ばすことに成功した。
だが間髪入れず、俺の腹に自身の拳をめり込ませ発剄を叩き込んでくる。
体が内臓破壊の衝撃破でくの字に折れ曲がったが、足を踏ん張り内海さんの顔面をぶん殴る。
「実は俺、あなたの顔面殴り倒してやりたかったんですよ!」
「僕もだ! そのダメな方向にまっすぐ進んでいく若さが妬ましいよ!」
お互い本音をぶちまけつつ、思いっきり拳で殴り合う。
こちらは顔面を殴り、向こうは発剄をめり込ませ、手足を抑えられれば頭突きで応戦する。
本来ならヘヴィメタルマン圧倒的有利のはずなのだが、武器を使わず防御を捨てた捨て身の攻撃と
内海さんのHPは残りあと1割、俺のHPは後2割くらいのところで初めて距離をとった。
やはり進化キャラは有利で、このままいけば俺の勝ちだが――。
「三石君、最後の勝負受けてくれないか? お互いの全力全開の攻撃をぶつけあってみたい。クリティカルヒットして防御貫通すれば君を倒せる」
内海さんのキャラにはクリティカル時、相手防御力無効化がついている。体感的にだが、3割ぐらいの確率で出ることになっており、ここ4,5回の攻撃でクリティカルは発動していない。
そろそろ出てもおかしくないし、普通に3割の確率は引く。
どう考えても受けるメリットは皆無だ。
だが、
「特別に条件付きで受けましょう」
「その条件とは?」
「攻撃する時に”玲愛愛してるぞ”と叫んで下さい」
俺の無茶振りにブハハハハハと大笑いする内海さん。
「良いだろう、僕の玲愛ちゃんへの想いを乗せ絶対にクリティカルを出す。三石君、本気で撃ってきたまえ!」
「はい、俺も全力でやります」
俺は両手を空にかざすと、カラーヒーローたちが5人がかりで持ちそうな巨大なキャノン砲が現れる。
これがヘヴィメタルマン最強の必殺技であるヘヴィメタルキャノン。
SFチックな砲身は細部が淡い緑色に輝き、背中にエネルギーチューブが接続されると『ヘヴィメタルキャノンドッキング完了』と無機質なガイド音声が響いた。
『固定装置射出完了、リフレクター解放、内部圧正常加圧中、…バレル展開、アイゼンロック』
十字照準マーカーが網膜に投影され、腰を落とし刀に手をかける内海さんの姿が映し出される。
「
再起動した攻撃衛星が、エネルギービームを照射しヘヴィメタルキャノンのエネルギー充填を加速させる。
『サテライトオンライン、エネルギーポインター収束開始、トリガー解放 、充填率90、100……120%、チャージ完了、ヘヴィメタルキャノンスタンバイ』
こちらがチャージをしている間、内海さんも刀身に光を纏わせる。
「ビーム斬鉄剣改め、明王斬鉄剣フルパワー!」
斬鉄剣の刃が赤熱化し、大きさを増していく。
炎を宿す刀身は4メートルを超え、完全に青いMSが使ってるヒートソードである。
恐らくあのリーチでは振り下ろす以外にはできないだろうが、こちらの攻撃を切り裂くにはあれが最適解。
馬鹿みたいにでかいキャノンと、馬鹿みたいにでかい剣を持った、頭の悪い力のぶつかりあい。
「いきます!」
「かかってこい三石君!」
トリガーに力を込めカチンと音をたてて引くと、膨大なエネルギーが奔流となって内海さんに降り注ぐ。
彼は斬鉄剣を振り下ろし、真向からヘヴィメタルキャノンのビームをぶった切るのだった。
それは1秒なのか10秒なのか、電脳アバターから送られてくるチカチカとした光の信号でアドレナリンが過剰分泌され、リアルの体に血流が
「玲愛ちゃん愛してるぞーー!!」
内海さんは愛の叫びをあげながら斬鉄剣を振り下ろすと、赤熱する刀身が一際輝き、ヘヴィメタルキャノンのビームを二股に斬り裂く。
「僕の勝ちだぞ三石君! 僕の想いが玲愛ちゃんに届いたんだ!」
だが内海さんが勝ちを確信したと同時に目を見開いた。
明王斬鉄剣がヘヴィメタルキャノンの攻撃に耐えられず、ピキピキとヒビが入っていく。
「声がちっせぇんだよ!! 玲愛、愛してるぞぉぉぉぉぉぉぉぉ!!! うぉぉぉぉぉああああああああああああああ!!!!」
俺がほぼ奇声を上げて叫ぶと、勢いが弱まったヘヴィメタルキャノンが息を吹き返し、凄まじいビームの奔流を浴びせる。
明王斬鉄剣がパリンと音を立てて砕けると、内海さんにそれを防ぐ手はなく、一瞬で残ったHPゲージを刈り取った。
「俺の、勝ちです」
ヘヴィメタルキャノンのビーム照射が終わると、そこには怪獣が暴れまわったのではないかと思う荒野が広がっていた。
その中で、ヤムチャ状態の侍が倒れている。
内海さんのHPは0になり、数秒後には光の粒子となって消えているだろう。
俺は両腕をクロスさせ、勝利の決めポーズをとった。
後は向こうで、天や雷火ちゃんたちが「悠介君をくださいお姉さん!」とZ戦士みたいな戦いをしているのが収まれば終わりだ。
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