第275話 ライバルサークル
俺は資金面はとりあえず置いておいて、別のメンバーに声をかけることにした。
プログラマーとレイヤーを確保したら、次はグラフィッカーだよな。
「静さんに言ったら描いてくれるとは思うけど……」
当たり前だがプロマンガ家なのでクオリティは担保されているものの、忙しくても無理して描いてくれそうなのが嫌なんだよな。
なんなら本業をほったらかしてでも描きそうまである。
それは真凛亞さんも一緒で、特に彼女は自分の同人誌も描くと思うのでもっと忙しい。
彼女たちには、有事の際サポートとして活躍してもらう程度に留めて、メイングラフィッカーは別に必要だ。
「
グラウンドイーターのラスボスデザインを担当したので、ゲーム制作が大体どういうものか理解はしているはず。
ただ今回はボス1体というわけじゃなく、登場キャラクター全員のイラストを担当してもらうことになるので、作業量は前回の比ではないだろう。
ビジュアルノベルを作るのならば、1番負荷がかかるポジションと言える。
ラインで頼むより、ちゃんと会って話をしたほうがいいだろうと思い、俺は彼女が住んでいるマンションへと向かうことにした。
その道中だった。アパートを出て、喫茶鈴蘭の前ぐらいで摩周と偶然出くわす。
金髪オールバックで顔はイケメンではないが、髪の色と浅黒く日焼けした肌が陽キャっぽい。寿司屋で醤油さし舐めてそうなので、知り合いでなければ100%声をかけないタイプの人間だ。
「おっ、摩周じゃないか」
「ミッチーじゃん。なにミッチーこの辺住んでんの?」
「おお、このすぐ近くのアパートだ」
俺はあそこと、遠くに見えるアパートを指差す。
「ボッロ、うはははははははは!」
SNSならwwwwwwwと大量に草を生やすくらい笑う摩周。
「バイオハザードじゃん、えっ家賃いくらなの?」
「0円」
「0、ぶははははははははは!!」
大草原と馬鹿笑いする摩周。
「0って、価値がなさすぎて逆にすげぇよ。うははははは!」
「安いのはいいことだと思うけどな」
「犬も住まないから0円ってことじゃねぇの? やっぱミッチーおもしれぇな」
開発室にいたときからだが、コイツちょっと俺のこと馬鹿にしてるな。
「摩周もこの辺に住んでるのか?」
「あぁ、俺様はあっちの駅前のタワマンだぜ」
摩周が指さす、地上30階の高層マンション【タワーオブバベル】。
確か新聞広告に、家賃月30万で堂々オープンとか書いてた気がする。
セレブかMutyuber以外誰が住むんだと思っていたが、まさか知り合いで住んでる奴がいるとは。
まぁこいつ社長息子だし、それぐらい良いところに住んでても不思議はない。
丁度いい、近況含めコミケのことを聞いてみよう。
「水咲ビルで会った以来だな。今は第2開発に残ってるんだよな?」
「聞いてくれよミッチー、第2の連中全然俺様のこと認めてくんねぇの」
「確か役職はプランナーとして入ったんだよな?」
「そう、俺様が誰も思いつかないようなスーパーアイデアを連発してるのに、それ○○ってゲームのパクリだねとか、既存のゲームで一蹴してくんだよ。パクってねぇっての!」
「それ摩周が気づいてないだけで、既にゲームとなって世に出てるアイデアだったのでは?」
「しかもあいつらすーぐレトロゲーマウントとってきやがんの。それスーパーマルオ64であったよとか、ファイナルクエスト5であったやつだよとか。そんな古いゲーム知らねっつの」
嘘だろお前、プランナー志望なのにスーパーマルオもファイクエもやったことないのかよ。
別にやってれば偉いというわけではないのだが、漫画家志望がドラグンボールもNARUOも、鬼METU刃も知らんと言ってるようなもんだぞ。
あんま興味なかったとしても、なんでそこまで売れたのか一回は見てみるだろ。
「はぁ(くそデカため息)。多分、開発室の連中、俺様という眠れる獅子が怖かったんだろうな」
「多分そのまま眠っててくれって思ってただろうな」
「絶対俺様のこと認めちゃうと立つ瀬がないからだぜ。若き有望な芽をつむ大人たちって感じで、第2の連中は情けなかったぜ」
ここまで自己肯定感強いと、逆に羨ましくなってくる。人生死ぬほど楽しそう。
「それで今はどうしてるんだ?」
「開発室辞めた」
「えっ、辞めたのか!?」
「だってよー、俺様プランナーで入ったのに、グラフィッカーに指示書出してこいとか、仕様変更について許可とってこいとか、そんなの俺様の仕事じゃなくね?」
「いや、新人プランナーってほぼパシリぞ……」
そういった下積みを経て、各開発職の人たちと仲良くなって、自分の企画を通しやすくするのがプランナーだろうに。
「上司に、それ俺様の仕事じゃないっすって拒否ってたら、お前はもう来なくていいって言われてさ」
「それ辞めたんじゃなくてクビになったのでは?」
「まっ、俺様にはコミケのコンテストに出るっていう次の目標ができたからいいけどな」
「そのことについて聞きたかったんだ。お前、ヴァーミットの推しサークルとしてコミケに出場するんだよな?」
「そうだぜ。ちなみにだが、俺様コミケのサークル参加は4回目だ」
「おぉ、ベテランだな」
「おう、俺様ブレイクタイム工房ってサークルのリーダーやってるから」
ブレイクタイム工房って、同人界ではかなり有名なサークルだ。
フェイス/ホロウナイトの二次創作アクションゲームを製作し、一躍有名になったと聞く。
「お前がリーダーとか凄いな」
メンバーがよくやってられるなという皮肉も入っていたのだが、摩周は当たり前だろとドヤ顔を見せる。
「メンバーは、俺様の弟と妹だからな。今日打ち合わせで会う予定だから、そろそろ来るかも」
摩周がそう言って周囲を見渡すと。
「おーい兄さん」
「おっ、ミッチー見ろよ。あれが俺様のブレイクタイム工房のメンバーだ」
後ろを振り返ると、身長150センチあるのか微妙なくらいの眼鏡の少年と、チリチリパーマの長い髪で、げっそりやせ細った少女が合流する。
少年は生意気そうな小学生という感じで、エグソディアのカードを船から落としそうな顔をしている。多分虫系デッキを使用してくるタイプだろう。
妹の方は目の下が黒く、どこか闇を感じる表情をしている。オシャレに一切興味が無いのか、黒一色の服装に、恐らく顔はすっぴんで、眉毛は薄く消えかかっている。
「おや、兄さん誰ですか、この知性を感じない人は?」
「俺様の元同僚だ。毎日コツコツ、人生送りバントのミッチーだぜ。ミッチーこっちは弟の
人生送りバントな奴って初めて言われたわ。
「どうも三石悠介だ」
「ふーん、まぁ僕の人生に関わることはないので、どうでもいいんですけどね。あなたの名前も脳内メモリの無駄なので、明日には忘れていることでしょう」
口の悪い弟だな。
「そんなこと言うなよ。アメちゃんやろうか?」
「僕は高校生だ! 子供扱いするな!」
嘘だろ、お前俺の一つ下かよ。中1くらいだと思ってたわ。
摩周弟の年齢に驚いていると、今度は妹がガタガタと震えだした。
「どうしたの、この子?」
「あ、あぁぁぁ」
「やばい、硝子が禁断症状起こしてる」
「禁断症状?」
「硝子は定期的に湿布の匂いを嗅がないと、震えがとまらなくなるんだ」
お前の妹弟はやばい奴しかいないのか。
弟はビニール袋に湿布を入れると、妹に嗅がせる。
「はぁはぁ……きくぅ」
「絵面がよくない」
ビニール袋をスーハースーハーしている姿は、完全に薬物キメているようにしか見えない。
湿布の匂いにそういう効果ってないよな?
「プログラマーの健太、グラフィッカーの硝子だぜ」
「ブレイクタイム工房って3人なのか?」
「他は外注してるけど、今回はプロのサウンドクリエーターとプロのグラフィッカーを雇うつもりだ」
「えっ、グラフィッカーって、妹だけじゃなくてか?」
「そう、プロイラストレーターのチョモランマ丸山先生と、ダイナマイト和田先生はもう決定してる」
うぉ、俺でも聞いたことのあるプロ同人作家だ。
「もうどんなゲーム作るのか決めてるのか?」
「そりゃ内緒だぜミッチー。他にもすげぇクリエーターじゃんじゃん呼んで、超豪華ゲームに仕上げてやるからな」
「素朴な疑問だが、それめちゃくちゃ開発費かかるんじゃないのか?」
「大丈夫大丈夫、やばくなったら金は親父に出してもらうから」
企業からの無限資金かよ。そんなことされたら、コンテスト誰も勝てないぞ。
俺は金ジャブと圧倒的コネ力を使う、ブレイクタイム工房に、素直に焦りを感じる。
(このサークル、プランナーが摩周ってところ以外強すぎるだろ)
―――――――
水咲天 ビジュアルイメージ
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