第122話 静とスランプ作家XⅣ
【ここに不正をして、マンガ大賞をとった作家がいると聞いてやってきますた^^】そのコメントに気づいた柚木さんは、露骨に顔をしかめる。
『なんか変な人が湧いてますね~。きっと人生つまらない負け組なんでしょう。そういう人は柚子ちゃんブローック!』
管理者権限でコメントが削除される。
「あっ」
アンチコメを煽ってから削除は悪手ぞ。
柚木さんは書かれた別のコメントを読み上げる。
『アンチがつくってことは、柚子ちゃんの人気が出たってことだよ。そうだね、もうプロのマンガ家だもんね。アンチの方ーくだらない荒らしなんかやってないで、もっと生産的なことしてくださ~い』
どの口が荒らしやめろと言うのか。
その直後――
【同人仲間をハメた女がいると聞いてやってきますた】
【票操作して大賞を!?】
【謝罪しろ! 謝罪しろ! 謝罪しろ!】
【パクリエイターがいるのはここであってますか?】
【先生足首をくじきました! ボクもパーティー追放ですか!?><】
【鬼殺のパクリ鬼殺のパクリ鬼殺のパクリ】
一気に荒らしコメが増えた。
柚木さんもそれに気づき、顔から
彼女は無言でPCを操作して荒らしをブロックしていくが、アンチコメは消せば消すほど増えていく。
【イェーイ柚子ちゃん見てる~?^^v】
【今日の祭り会場はここですか?】
【ここに荒らしのプロがいると聞いてやってきますた】
【人の配信は荒らすくせに、自分が荒らされると怒るんですね】
最初の視聴者は1000人弱だったのに、同接カウンターは凄い勢いで回り現在1万2千人を突破。彼女の最高同接数を更新した。
だが、めでたい雰囲気は微塵もなく、画面に映るのは必死にアンチコメをブロックする柚木さんの姿。
動画の低評価は凄まじい勢いで膨れ上がり、低評価1万、好評価93という見たことない比率になる。コメ欄はアンチユーザー大集合で無法地帯となり、配信は地獄と化していた。
「これが炎上というものなのかい?」
リアルタイムで燃え上がるコメ欄を見ながら、眉を寄せる火恋先輩。
「はい。イメージ的には柚木さんの配信に、1万人のモヒカン姿の無法者達がバイクで押し寄せたようなものです」
「皆火炎放射器持って、汚物は消毒だって叫んでますね……」
雷火ちゃんが付け加える。
「大賞受賞から一気に世紀末化したのか……」
『な、なによこれぇ!? なんでこんないっぱいやってくるのぉ!?』
戸惑うのは当然だろう。
アンチユーザーがひっきりなしに何かのURLを貼り続けているので、俺はそのリンクを見てみることにした。
そこには画像でわかりやすく、柚子LEMON(本名 柚木葉瑠)炎上まとめと書かれた、解説wikiが載せられていた。
~柚子LEMON(本名 柚木葉瑠)炎上まとめ~
柚木葉瑠とは:同人グループワイルドフォレストのリーダー。メンバーは他に清汁郎(プロエロマンガ家)、なるる(歌い手系Mutyuber)の三人で構成。(20XX年■月▲日に、清汁郎となるるはワイルドフォレストを脱退。原因は柚木のサークル資金の着服と見られる)
柚木葉瑠とはどういう人物なのか?
20XX年の夏コミまでは、BL系同人誌を描いていた。画力はそこそこだが、オリジナルキャラと版権キャラのカプ厨で生粋のオナ◯ー作家。読者からの反応は悪かった。
(※オナ◯ー作家:自分の為だけにマンガを描く作家のことで、流行や読者を全く気にしないで描く人)
なんで炎上してるの?
サークルを脱退した元仲間である清汁郎に粘着し、トレパクの罪を着せた。清汁郎はそのことによって炎上、月刊ラフレシアの連載を打ち切られる。
またガーベラコミックマンガ大賞で組織票を使い、不正に大賞を受賞した。※両事件とも証拠あり。
~炎上経緯~
1:◯月▲日
ツイッター上で、清汁郎がトレパクしているのではないかという疑惑が持ち上がる。
毒りんごというアカウントが、トレパクの検証画像を上げネットユーザーを扇動。炎上騒ぎが起こる。
2:◯月◯日
月刊ラフレシアの読者投票にて、票を不正操作し清汁郎の作品を最下位に落とす工作を行う。
炎上の件を含め清汁郎はラフレシアより切られ、卒業を言い渡される。
※後にこの件に関しては、柚木葉瑠が懇意にしている作家数名が共謀し、票操作を行ったと認める。
3:◯月◇日
連載を失った清汁郎が、再起をかけてガーベラマンガ大賞へ応募する作品を執筆。
作品制作の過程をMutyubeで全編配信。恐らくトレパク疑惑を晴らすための苦肉の策と思われる。炎上の注目度と、コメディタッチの制作風景が好評で、最終回では瞬間的にだが同接2万を超える。
そこでも柚木はコメ欄で荒らしを行っており、2で共謀した作家にも荒らしを指示していたことが判明。
4:◯月▽日
アンチコメだけでは人気を落とせないと気づいた柚木は、清汁郎の視聴者を奪う策に出る。しかしレイアウト企画共に丸パクリの動画配信を行うも、全く伸びず迷走を続ける。
5:◯月X日
清汁郎サイドの原稿が完成し、配信が最終回を迎える。
その時、アシスタントYが「真実を見失わないでほしい」と匂わせ、配信中ずっと被っていた覆面をとる。恐らく自分が言っていることの信憑性を高める為と思われる。また清汁郎本人もトレパクの事実を真っ向から否定。ネット上で大きく議論が広がる。
6:◯月■日
有耶無耶だったトレパク事件について、プロの検証班が現れ毒りんごの検証画像のガバが複数報告される。更にパクられ元画像に加工が見つかり、検証画像がでっちあげであることが証明される。
晒し主である毒りんごを調べると、過去に『丸内しぇんしぇ~ありがとぉ』という誤爆を一度かましており、ツイート内容から柚木葉瑠の裏垢であることが確定。作家仲間の丸内に飛び火する。
7:◯月☆日
ガーベラマンガ大賞が発表。大賞が柚木の作品であった為、大多数のネットユーザーが「これが大賞はねぇだろ」と、くすぶっていた火種が燃え上がる。
柚木と絡みがあった複数名の作家が、一斉に燃え上がる事態に発展。
沈黙を守っていた丸内から、柚木から不正投票を依頼されるDMが公表される。また今回のマンガ大賞でアシスタントに行った事実はないと、別の嘘も発覚。柚木から不正投票を依頼された作家が、次々にDMを公表。組織票を行った事実を認める。
配信中の柚木のチャンネルに凸が始まり、現在祭に発展。(以下随時追記予定)
「う、うわぁ……ネット警察こわっ」
まとめの中には俺も知らなかった情報がポコポコと掲載されている。
特に6の内容は、俺達が全く知らない水面下で動いていた話だ。
ってかプロの検証班ってなんなんだ。たまに、そういう
「柚木さんは尻尾切られましたね」
俺は雷火ちゃんの言葉に頷く。多分不正に加担した作家たちは、このままではこっちまで燃えると、巻き込まれるのを恐れたのだろう。
自分だけでも助かろうと証拠を提出して、俺は柚木に依頼されただけなんです! という保身に走ったのだ。
これを見ると、柚木さんと他作家の間に信頼関係はなかった事がわかる。
『あたしは不正なんかしてない! デタラメ言わないで!! 荒らしは皆法的措置! 法的措置とるよ!』
動画を配信する柚木さんはコメント欄にキレ散らかす。この様子では、まだ真実がバレたと気づいていないのだろう。
【開きなおんなクズがよぉ】
【お前が訴えられろ】
【法的ww措置www】
【効いてる効いてるwwww】
それを面白がってアンチ達は余計に増えていく。
俺達は鉄板の上で、灼熱のファイアーダンスを踊る柚木さんを、引きつった顔で見続けた。
「柚木さん、最後は自分が炎上しちゃったか……」
その後、『ガーベラ不正大賞』でツイッターにトレンド入り。
真凛亞さんと違い、トレパク”疑惑”ではなく、証拠が上げられている”事実”のため、炎上は数日間に及んだ。
モヒカン火炎放射器のネット民に消し炭にされた柚木さんは、当然マンガ大賞も取り消された。
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