第284話 同人誌で開発費を稼ごう Ⅱ

 開発費の話に、伊達組水咲組が頭を悩ませる。


「ダーリン、あーしらでお金稼ぐって、全員でバイトしよーってこと?」


 綺羅星の質問に、俺は腕組みして「う~ん」と唸る。

 それが最も堅実というのはわかるのだが……。


「バイトはサークルで稼いだとは言えないんじゃないかな? 一ヶ月、学校の合間をぬって働いても精々5、6万くらいだろうし」

「あーし読モ増やせば、月30万くらい行くよ」

「ボクも」

「あたしは印税あるし」


 そうでした、この子たち金持ちだから庶民がするバイトなんかしないんだった。

 月がじゃあと切り出す


「あたしがヴァイスの公式大会開いたげよっか? あんたなら1位とれるでしょ」

「金持ちの権力、容赦なく行使しすぎでは?」

「そうですよ。それに悠介さん一人で、お金稼いでくるってのも違うんじゃないですか?」


 雷火ちゃんの言うことは最もだ。


「わたし達全員で、ゲーム大会に出場して優勝するとかどうです? 今ゴリラントっていうゴリラ系FPSがブームで、しょっちゅう大会やってますよ」

「雷火、私はゲームに自信がないぞ」

「俺もさすがにFPSの大会で優勝できる自信はないよ」

「あたしがそのゴリラントの大会開いたげよっか? プロ禁止、アマチュアのみ、あたしたちのチーム以外強そうな選手はガンガンペナルティとって退場させていけば勝てるでしょ」


 完全にやってることが悪の運営である。


「参加者が運営とズブズブってダメだろ。下手すりゃ炎上するぞ」


 あーでもないこーでもないと話が難航していると、談話室の扉が開き誰かが猛ダッシュで入ってきた。


「悠く~ん!」


 俺に飛びついてきたのは、半泣きの静さんだった。

 押し付けられた彼女の爆乳に、俺の顔面が半分うまる。


「どおじてどおじてお姉ちゃんをのけものにするの?」

「いや、のけものにしたんじゃなくて、忙しそうだから気を使っただけで」

「どおじてなのおおおおお!」


 一緒に入ってきた真凛亞さんが、呆れ声で教えてくれる。


「ゆっ君。先生は子離れできないママと一緒で、勝手に巣立たれるととても不安になる」

「全然巣立ってないけどね。仲間はずれにしたんじゃなくて、お仕事持ってる人たちには、本当にどうしようもないときに助けてもらおうと思ってたんだよ」

「どおじてなのおおおおお!」


 全然俺の話聞いてないな。


「しょうがない。じゃあ静さんたちにも相談なんだけど――」


 俺はかくかくしかじかで、サークルメンバーで開発費を稼げる方法を探してるんだと説明する。


「わかった。これ使って」


 すっと、静さんが印鑑と通帳を差し出してきた。


「あの、そういう現金生々しいものじゃなくて!!」


 俺の周り、ほんと金持ってる人しかいねぇな。


「ちなみに通帳これいくら入ってるの?」

「3000万」

「3000!?」

「悠君との結婚資金」


 突っ込まないからな。


「個人出資じゃなくて、できれば皆で何か利益を上げたいんだ」


 すると真凛亞さんが、良さげな案をくれる。


「……じゃあ同人誌出してみたら?」

「同人誌ですか?」

「うん……同人誌なら、わりとすぐ稼げると思う」

「ほんとですか? 同人誌って作るのに時間かかるし、即売会にも出ないといけないですよね?」

「そんなことは……ないよ」


 真凛亞さんはスマホを操作し、同人オンラインショップを表示させ、俺に見せてくれる。


「PONZAですね。男の子は大体世話になってます」

「ここ以外にもDLサイト、BOTHとかが同人販売で有名。即売会で手売りしなくても、ここでデジタルコンテンツを販売できる」


 なるほど。ダウンロード販売なら、同人誌を作って販売サイトにアップすれば後は自動で売ってくれる。

 印刷代はかからないし、即売会に持っていく手間もない。


「でも、肝心の同人誌を作るには、執筆に時間がかかっちゃうんじゃ」

「ゆっ君、同人誌ってマンガだけだと思ってる?」

「えっ、違うんですか?」

「同人誌には、写真集もある」

「写真集……あっ、コスプレの?」


 コミケなどで、美人コスプレイヤーが自分の写真集を売っている事はよくある。


「うん、これが最も手間がかからないと思う」

「確かにコスプレ写真集なら、コスチュームと撮影スペースをレンタルすれば、作ることはできるか……」


 カメラはオヤジから借りパク状態の一眼レフがあるし、売れる売れないの問題は置いておいて条件的には一番緩い。


「普通写真撮った後、めちゃくちゃ加工するからそれに時間がかかるんだけど、ゆっ君の周りの女の子、みんな可愛いから……加工なしでもいける」


 いい案だなと思っていると、おずおずと雷火ちゃんが手を挙げる。


「あ、あの悠介さん、もしかしてその写真集ってエッチぃのでしょうか?」

「…………いや、勿論健全な奴だよ」

「今ちょっと間がありましたよね!?」

「真凛亞さん、普通の奴もいっぱいありますよね?」

「ん……ある。コスプレ写真集をエロ本と思っているのは偏見」


 まぁネットで検索すると、露出過多なコスプレが山ほど出てくるので、そういった考えを持つのも仕方ない。

 まして同人誌だと、エロ売りしてるところが多いから余計だろう。

 写真集の話に、目をギラつかせた火恋先輩が大きく頷く。


「悠介君、その話乗ったよ」

「大丈夫ですか? 写真集を売るっていうのは、自分の写真をネットにばらまくってことになりますけど」

「私の写真が学校で売買されてるのは知ってるからね。今更だよ」


 確かに火恋先輩の写真は、我が校のブラックマーケットで出回っているが、まさか本人が知っているとは思わなかった。

 火恋先輩の食いつきはかなり激しく、相当やりたかったと見える。

 それを見た天が手をあげる。


「ボクもやるよ。ボクも撮られることには慣れてるし」

「あーしも楽しそうだしやるー♪」

「あたしはページ余ったらやるわ」


 水咲姉妹は全員賛成。

 残る雷火ちゃんは


「や、やりますよ! ただ、どの写真出すかは自分で選ばせて下さいね!」


 なんとかOKをくれた。

 よし、これで同人写真集が作れるぞ。



翌日――


 コスチュームと撮影用カメラを用意した俺たちサークルメンバーは、我が街で一番大きいラブホテルへとやって来ていた。


「悠介さん、わたしたちめちゃくちゃ目立ってますね」

「ラブホに10人で来る奴なんて、そうはいないだろうからね」


 ホテル前で待ち合わせしていた月が、俺に足蹴りを入れる。


「なんで撮影場所がラブホなのよ。どっか別のとこなかったわけ!?」

「しょうがないだろ、近辺のスタジオのきなみパンクしてたんだから」

「普通のホテルがあるでしょ!」

「普通のホテルは高いんだよ」

「撮影と言えばラブホですよね。わたし一回行ってみたかったんですよ」

「あーしもー、ベッド回るのかな?」


 乗り気な雷火ちゃんと綺羅星が、俺の腕を取ってグイグイと中へと入っていく。

 すると本来無人のはずの受付カウンターに、スタッフらしきスーツ姿の男性が立っていた。


「あれ、ネットで調べた時、フロントはタッチパネル式無人って書いてあったのにな」

「申し訳ございません。現在、電子パネルが故障しており、手渡しで鍵を渡させていただいています」

「そ、そうなんですか」

「お客様、何名でご利用ですか?」

「えっと10人、いや俺入れて11人です……」

「11!?」


 受付が、マジで? って顔でウチのメンバーを見渡す。

 静さん達全員が、その視線に恥ずかしそうにする。

 そりゃ目立つよな、メイドもいるし。


「ぜ、全員同じ部屋でよろしかったですか?」

「はい。一番大きいキングルームがあると聞いてきたのですが、部屋空いてますか?」

「は、はい、空いておりますが……」


 受付は困惑しながら部屋の鍵をくれる。


「キングルームは最上階でございます。お客様、もしかして(ビデオ)撮影でございましょうか?」

「あっ、はい(コスプレ)撮影なんですよ」

「な、なるほど……羨ましい。男優はお一人なんですね。お体もつのですか?」

「俺は撮影役ですから大丈夫ですよ」

「なるほど……女性主導というわけですね」

「初めてで緊張してるんですけどね」

「初めてで10対1ですか!? 攻めましたね、いや攻められるのか……」

「被写体は多ければ多いほど良いですからね」

「その意見には賛成でございます」


 ちょっとすれ違ってる感のある話をスタッフとしていると、月が俺を呼ぶ。


「ちょっとー早く撮りましょうよー」

「悠介さん、10人もいますから早くしないと時間なくなりますよー」


 雷火ちゃんたちは、さっさとエレベーターへと乗り込んでいく。


「女優の方、かなりアグレッシブですね」

「女優?」

「部屋にエナジードリンク等がありますので、ご活用下さい」

「ありがとうございます」

「後でタイトルを教えて下さい。私買いますので」

「タイトルはまだ未定です。どのコスプレで撮るか決まってないんで」

「コスプレモノでございますか」


 最後まですれ違ってる感のある受付と分かれ、俺も皆と一緒にエレベーターに乗り込んだ。

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