第285話 同人誌で開発費を稼ごう Ⅲ
我らサークルメンバーの撮影が終わり、最低限の修正を行ったコスプレ写真集『siSTARS』のダウンロード販売がDNNブックから開始された翌日。
自室で俺と雷火ちゃんは、ドキドキしながらPCモニターを覗き込んでいた。
「じゃ、じゃあ販売数見るよ」
「は、はい……あぁちょっと待って下さい、緊張で息苦しいです。あの悠介さん、この緊張を解くために面白い話してもらっていいですか?」
「そのフリ、めちゃくちゃハードル高くない? まぁでも面白い話あるからするけど」
「ハードル高いとわかってて話すところが凄いですね」
「俺たちのコスプレ撮影なんだけど、10人分のコスチュームのレンタル料金が大体20万弱で、ウイッグやメイク道具、小道具料金が合わせて5万くらい。撮影場所のホテル料金が約5万」
「それってつまり……」
「元手にしたアプリの賞金、全部なくなっちゃった」
「全然面白い話じゃないです! これ売れてなかったら、わたし達のサークル、ゲーム制作スタートできないってことですよね!?」
「そうだね、始まってもないのに資金ショートによる頓挫だね」
「やっぱり画面見るのやめましょう! 一週間ぐらいしたら販売数のびてるかもしれませんし!」
「真凛亞さんが言ってたでしょ、同人のデジタルコンテンツは初日売れてなかったら、その後もほとんどのびないって」
「そうですけど!」
これは月も言っていたが、ラノベやゲームなども、同人、プロ関わらず、初動で最終利益が大体予測できてしまうらしい。
初日は基本的に最高売上を記録するので、初日に10部しか売れなかった商品は、それ以降の日で10部以上売れることはほぼない。
ツイッターでバズったなどあれば、イレギュラーな伸び方をするかもしれないが、そんなことはほとんどないだろう。
「ちなみに悠介さん、最低でも何部売れないと赤字なんですか?」
「1冊500円で販売したから、600部以上売れてないと赤だね」
「600って多くないですか!? コミケだったら長蛇の列できてますよね!?」
確かにコミケで600部って、中堅サークルと言ってもいいと思う。
新規参入で狙うのはかなり難しい数字だ。
「ちなみに俺たちと同じく昨日写真集を販売した、新規同人サークルの売上は18デス」
「絶対普通そんなもんですよ! 無名の新規サークルの写真集なんて買いませんし」
「じゃあ見るよ」
「あーちょっと待って下さい、わたし心臓が痛く――」
俺はカチカチっとマウスを操作して、DNNブックの同人販売ページを開き、売上を確認する。
雷火ちゃんは自分の顔を両手で覆い、指の隙間からモニターを覗き見る。
「悠介さん、0が見えます。0が見えますよ!」
「……販売数……2120」
「2120ってことは106万ですか!?」
売上の計算が超早い。
「えっと、これに販売手数料が3割くらいだから、俺たちの手元に入ってくるのは70万くらいかな」
「初日でこれってことは、多分一週間くらいかけて100万くらいいきますよね?」
「その可能性は高いね」
これは確定申告が必要そうだ。静さんにやってもらおう。
「2000……すごい……」
「やったね、雷火ちゃん。開発費クリアだよ」
そう言うと、雷火ちゃんは飛び跳ねて喜ぶ。
「やっった! やりましたね!!」
「ラインのグループチャットに、販売数の写真貼り付けておこう」
俺が販売数の画像をラインに載せると、すぐに全員から返事が来た。
綺羅星
『やったー、これで始まる? 始まるよね?』
天
『ほっとした。売れてなかったら、ボクが1000冊くらい買おうかと思ってた』
月
『あたしのツイッターに写真集のリンク貼っておいたから、それのおかげね』
火恋
『第二弾はいつ撮る?』
成瀬
『やったじゃん、ちょっと恥ずかしいけどよ』
真凛亞
『(*´ω`*)』
静
『私も宣伝用のツイッターで、写真集の宣伝しておいたわ(^_^)v』
これだけ売れたのって、ほとんど月と静さんのフォロワーのおかげでは? という気がしてきた。
ひとしきり喜びあった後、俺たちは改めて自分たちの写真集の表紙を見やる。
そこには美少女戦士セーラーエレメンツのコスプレをした、我がメンバーが映し出されている。
すこし古いアニメだが認知度が高く、皆そのアニメが好きということでそのコスに決定した。
「あの、わたし今素にかえったんですけど、わたしたちの写真が約2000人の人達に見られてるってことですよね?」
「そうだね。一応強めのメイクと、ウイッグ、コスのおかげで特定するのは難しいと思うけどね」
素人撮影なのでそこまでクオリティが高いとは言えないが、自画自賛してしまうくらいモデルが良い。
「レ、レビューとかって来てるんですかね……。わたしが担当したセーラーサンダー邪魔とか、貧乳とか」
「そんなのは来てないよ。ただ、”女性は全員最高でしたけど、最後に出てきた悪ふざけとしか言いようがないタキシードマスクが嫌でした”ってレビューがきてる」
タキシードマスクとは、セーラーエレメントに出てくる唯一の男性キャラで、俺がコスプレを担当した。
本来コスプレする予定も、コスチュームもレンタルしていなかったのに、天が勝手に用意してきたのだ。
俺も別に撮影するだけならいいよとコスプレしたものの、メンバー全員からこの写真を写真集に載せないと発売はしないと、なぜか交換条件を出されたのだ。
俺は荒れるよと散々言ったのだが、皆断固として譲ってくれなかったので、一枚だけ俺の足短いタキシードマスクのコスプレを載せた。
その結果が、このレビューである。
「悠介さんのコス良かったですけど」
「そう言ってるのは、ウチのメンバーだけだよ」
「全員の写真集ですから、リーダーの悠介さんが載らないのはおかしいですよ」
「アイドルの写真集に、知らない男が載ってたみたいになってるよ」
「後からバレて炎上するより、堂々と出たほうが良いですよ」
絶対隠れてた方がいいと思うが。
「とにかくこれでゲーム制作開始だ。雷火ちゃん、近いうちにパソコン買いに行こうか」
「はい!」
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