第264話 家出少女 Ⅲ
一通り片付けと掃除が終了し、とりあえず雷火ちゃんも火恋先輩も一応住めるようにはなった。
「婆ちゃん、ガス使えるようになった?」
「水道は使えるけど、ガスと電気は明日以降になるよ」
「はっ? 電気ついてるけど」
「電気は地下室の発電機が動いてるだけで、ちゃんとしたやつは業者に開通してもらわないと」
「なるほど。ちなみにその発電機って、どれくらいもつの?」
「3,4日はもつ。それまでには開通するじゃろうて」
まぁ今どき契約したら、すぐ使えるようになってるもんな。
「あんた達、ほんとにここに住むんだね?」
婆ちゃんが改めて二人に聞くと、コクリと頷いた。
「よろしくお願いします。ただ、我々持ち合わせがあまりなくて、家賃がすぐには払えないかもしれません」
「家賃なんかとらんよ。光熱費だけ払いな」
「よろしいんですか?」
「そのかわり、この家の掃除しといておくれ。落ち着いたら店に来て働きな」
「はい、すぐに行かせてもらいます」
「あっ、学校行かずに来るんじゃないよ。平日学校がある時間は働かせないからね」
「「わかりました」」
「大丈夫? こんな事故物件に住んじゃって。別に俺の婆ちゃんだからって全然気にしなくていいんだよ」
俺がそう言うと二人は首を振る。
「いえ、わたしたち伊達家にいたとき、本当にただ腐ってただけですから」
「ああ、生きるためにやることがあるっていうのは嬉しいんだ。義祖母様、何かあったらすぐに呼んでください。私は力仕事や料理が得意ですので」
「わ、わたしは、あんまり得意なものないですけど……頑張ります!」
「心配しなくても、ちゃんとあたしの老後の面倒を見させてやるよ」
重労働させられるより、そっちのほうが100倍嫌だな。
「……あんた達、飯に困ったらウチにきな。そんな健康不良な顔で店出られても迷惑だからね」
「腹減ったらタダ飯食わせてくれるって。俺も行こう」
「ユウ坊、あんたは金とるよ」
「俺にも優しくしろよ!」
婆ちゃんが店に戻ってから、俺たちはアパートへと戻る。
雷火ちゃんたちは引き続き掃除と荷ほどき中で、俺も今日はここに泊まるつもりなので、寝床だけは確保しなければ。
場所を探してうろついていると、一階に談話室らしきものを発見する。
12畳くらいの真四角の部屋で、中央には灰をかぶった囲炉裏と湿気た煎餅布団が四枚ある。
壁にはオンボロの換気扇がついており、床は木製でわりと綺麗だ。
「今日はここで座布団並べて寝るか」
囲炉裏を掃除して、なんやかんやしているうちに夜に。
◇
夕食を婆ちゃんの店ですませた俺たちは、アパートに帰ろうと外に出ると、空に黒い雲が広がり雨が降りそうだと気づいた。
「婆ちゃん、雨降りそう」
「客が忘れてった傘があるからそれ使いな」
「そんなことしていいのかよ」
「もう5年も取りに来ないからいいんだよ」
よく5年も保管してたな。単に捨てるの面倒くさかっただけかもしれないが。
「そうだ雨降ったら寒いよな。婆ちゃん、あの家ストーブとかないの?」
「あるけど灯油がないね」
「俺の家から電気ストーブ持ってくるか」
「やめな。電気ストーブなんか繋いだら、発電機が負けて落ちるよ」
「そりゃダメだな。あのアパート暖房ないの?」
「一階の談話室に囲炉裏があったろ。倉庫に木炭があるから、それを使いな」
おっ、今日俺が寝ようとしてる部屋だな。
「しっかり換気扇回して使うんだよ」
「わかった。ありがとう」
アパートに戻る頃には雨がシトシトと降り始め、気温も下がってきた。
雷火ちゃんたちは先に部屋に戻り、俺は倉庫から木炭を取り出してから談話室に戻る。
換気扇をつけてから灰の上に新聞紙を丸めた着火剤を置き、その周囲に木炭を配置する。
新聞にマッチで火をつけ、しばし待つ。すると真っ黒な木炭に淡い赤が灯る。
「おぉ……」
暖房のような高性能な暖気機能はないものの、心が落ち着くような暖かさがある。
俺は水を入れた鉄ヤカンを木炭の上に置くと、パキッと音をたて小さな火の粉が飛ぶ。
「原始時代、狩りを終えた男たちは焚き火を囲っていたんだろうな」
心が原始にかえっていくのを感じる。
俺は雷火ちゃん達に、囲炉裏できたから部屋が寒かったら談話室においでとラインをとばしておく。
『パチパチ……』
不規則に揺らぐ炎。何時間でも見てられるわと思っているうちに、ここが幽霊屋敷というのも忘れて、うつらうつらと船をこぎはじめていた。
◇
悠介が談話室で浅い眠りに入っている中、雷火はパジャマに着替えて寝る準備を行っていた。
「本当に悠介さんたちには頭が上がらないですね」
部屋に備え付けられていた布団を敷いて、そこに横になる。
外は雨が本降りになってきているが、布団の中は暖かい。
これならすぐにでも眠気がやってくるだろう。
よくよく考えると、悠介と同じ屋根の下で寝ているのだと気づいて少し興奮を覚える。
一瞬夜這いイベントでもあるのでは? と思い布団をコロコロするものの、相手はあの朴念仁、さすがにそれはないだろう。
雷火は部屋の扉を少し開けて、鍵かけてませんよとアピールしておく。
「一応、一応ね」
誰に言い訳をしているのかわからないが、独り言をつぶやいて布団へと戻る。
しかし、そんな淡いラブコメ的期待を現実に引き戻すオブジェがある。
それは押し入れの中の武者鎧である。
あの不気味な鎧に見られているというのは非常に嫌である。
仮に悠介が夜這いに来たとき、ホラーなのかラブコメなのかわからなくなってしまう。
雷火はもう一度立ち上がって、開きっぱなしの押し入れを閉めようとする。
しかし建付けが悪いのか、押し入れは全然閉まってくれない。
「ぐっ、なんで閉まらないんですか」
まるで鎧武者が、扉は閉めさせないと言っているようで恐ろしい。
30分ほど押入れと格闘した後、疲れて諦めた雷火は鎧武者から背を向けて布団に横になる。
「あんなの見なければいいんです。意識しなければ、それはないものと同じなんですよ(早口)」
雷火は電気を消し、鎧武者を意識の外へとやってしまおうと考える。
外からザーーザーーっと雨の音が響き、風がゴォゴォと鳴り、アパート全体からキシキシと生き物みたいな音が響く。
「…………」
雷火は絶対後ろを向くものかと思いつつ、緊張している為なかなか寝付くことができない。
見てはいけない見てはいけないと思いつつ、そぉっと後ろの鎧武者を確認する。
死ぬほど怖い。
もう駄目だ、助けてネットラジオと雷火はスマホから適当にネットラジオを再生する。
すると男性パーソナリティが、低い声で何か話をしていた。
『私も錯覚だと思ったんです。ですがその鎧には戦国時代に死亡した怨霊がとりついていたのです!!(キャー)』
雷火はスマホを放り投げた。
「やめろやめろ! なんでこの時期に怪談やってるんですか!」
しかもピンポイントに鎧武者の話である。
その時、ゴロゴロピシャッと雷が響いた。
鎧武者が稲妻の光を反射し、一瞬動いたように錯覚してしまう。
「ぴっ!(鳴き声)」
雷火は変な鳴き声を上げ、布団を被ったまま部屋を出る。
悠介に助けを求め真っ暗な廊下に出た直後、誰かにぶつかった。
「ごめんなさ――」
振り返ったのは能面をつけた
「「んぎゃああああああああああ!!」」
ラブコメできない姉妹の叫びがアパート中に響いた。
―――――
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