第59話 オタはわからせたい

「なんで喜ばないのよ! 彼女がコスプレしてるのよ!」

「やかましいわTMAみたいなコスプレしおって!」

「オタ用語やめて!」

「TMAはオタ用語じゃねぇ! 大体君はそのキャラを知ってるのか!?」

「知ってるわよ、地球ホシにかわってお仕置きよ」


 ひかりは指を銃型にして、バキュンと決めポーズをとる。


「なんで知ってるんだ」


 20年以上前のキャラぞ。


リメイククリスタル見たあとに原作見たから」

「ドラグーンボール改的なムーブか……」

「一応あたし字書くから、昔のでも有名なアニメやマンガは見るの。過去にどんなものが流行ったか追いかけるのは普通よ」

「勉強熱心だな」


 オタ的な情熱というよりかは、知識を深めるためにオタ知識を入れているという感じだ。


「というか、君はオタク嫌いなんじゃなかったのか? コスプレ文化なんてまさしくそれだぞ」

「オタクは嫌いだけど、別に文化は嫌いじゃないわ。むしろもっと深く突っ込んでいきたいくらい」

「よくそれで俺を偽の恋人役なんかにしようとしたな」

「オタクの生態観察もふくめてるから。それにあたしがこうやって、オタクの趣味に染まったほうが彼女っぽいでしょ?」

「にわかはすぐにバレるぞ」

「大丈夫よ、妹馬鹿だから」

「自分の妹をよくバカって言い切れるな」

「ほんとのことだからしょうがないわよ」


 一応俺と月は妹の綺羅星さんを更生させる為に、付き合っているフリをすることになっている。

 相野の話だと、この妹彼氏いるみたいだから後々Wデートとかそんなことするハメになりそう。

 月はドサッとソファーに腰掛けると脚を組む。


「はぁ、せっかく張り切ったあたしがバカみたいじゃない……」

「張り切ったのか?」

「原稿の為よ。言ったでしょ、モノ書くには経験がなによりも重要な引き出しになるの」


 セーラー戦士のコスプレを、どこの引き出しに入れるつもりだろうか。


「それにしても家デートって難しいものね。何をしていいかわからないじゃない。オタメガネ、雷火ちゃんたちとどんな家デートしてるの?」

「そりゃ家デートって言ったら」


 俺は雷火ちゃんたちとのデートを思い浮かべる。

 肩を並べてアニメ見たり、アキバで買った戦利品を交互に開封の儀をしてみたり、コスプレしてエロい写真撮ったり、ちょっとエッチな罰ゲーム有りでゲームしたり。

 あかん後半エロいことしかしてない。

 俺はそれらをオブラートに包みながら説明する。


「ゲームはいいわね。藤乃ゲームを用意して」

「かしこまりました」

「あんたの言う罰ゲームありでやりましょう」

「罰ゲームって何する気だ?」

「もしあんたがあたしに負けたら、タキシードマスクのコスプレしてもらうわ」


 タキシードマスクとは、彼女のしているコスプレ【セーラー☆スター】に登場するヒーロー役で、見た目はタキシードに仮面を被った怪しいキャラである。


「やめろ、セーラーアースとタキシードマスクが揃ったら完全にTMAじゃないか」


 俺は三石ゴローになりたくない。


「あら、オタクのくせに怖いの? ま、女の子にボコられたらオタクとして立つ瀬ないわよね。いいわよ逃げても。そのかわりあんたのことは負け犬メガネって呼ぶけど。クスクス」

「やってやらぁぁ、この野郎!!」


 メスガキみたいなことを言うお嬢にわからせてやる。

 俺は手渡されたコントローラーを強く握る。


「プークスクス、鼻息荒いんですけどキモオタメガネ」

「メガネかけとらんわ」


 セッティングを終えた藤乃さんは俺に耳打ちする。


(お気をつけください三石様、お嬢様はゲームに関しては少し問題があります)

(えっ?)


 問題って何? プロゲーマーカキハラくらい強いってことなの?


「やるわよオタメガネ。吠え面かかせてあげるわ」


 ホホホと笑う月。

 不安を感じるが、ここまで来て引き下がれん。巨体液晶モニターに映し出されるゲームのロゴは世界の遊び2000。

 このゲームは世界中から集められた有名ゲームが2000種も入っている。将棋やポーカーなどの有名なものから、なにそれ? って言いたくなる遊びまで。シンプルでルールもわかりやすく、誰がやっても面白いソフトだ。


「5マッチ先取ね」

「りょ」


 30分後――


「はっはっはっ(過呼吸)なんで、なんで!!?」

「なんでもクソもないんだが」

「勝ちたい! 勝ちたい!」


 泣きそうな月の声。実際涙目である。

 盤面のチェス盤は完全に詰み状態。

 ちなみに俺の圧倒勝利。月のキングは逃げ回るしかない。


「なんでそんな酷いことするの!? 女の子追い詰めて楽しい!?」

「そういうゲームだからな。チェックメイト」

「くぅぅぅぅぅ!!」


 月はボスボスとクッションで俺を殴りつけてくる。

 ちなみに今ので5戦目、俺のストレート勝ち。

 おそらく藤乃さんの言ってた問題があるっていうのは、尋常じゃなく弱いって意味だったんだなと理解した。


「その腕でよくそんだけイキってこれたな……」


【2P WIN!】


「勝ち申した」

「もっかいもっかいもっかい!」

「もう5戦終わったんだが」

「もっかいもっかいもっかい!」

「もう5戦終わったんだが」

「お願いお願い!」

「ならばセーラーアースの変身を、決めポーズとセリフ付きでやったらもう一戦してやろう」

「うぐぐぐ」

「ガチでやるんだぞ」

「わかってるわよ!」


 月は立ち上がると、顔を真っ赤にしながらセーラーアースの変身ポーズをとる。


「あ、愛と光の美少女制服戦士セーラーアース! 地球にかわってお仕置きよ!」

「……良き。自称美少女戦士に免じてもう一戦してやろう」

「くぅ~次はあたしにゲーム選ばせなさいよ!」


 一回戦俺が勝ってから、ずっと選んでるの君なんだが。


 泣きの6戦目。リズムゲー。画面上部から降り注ぐ矢印をリズムよく押すゲーム。

 これは美少女戦士も得意だったのか、なかなかの接戦になった。


「あっ、ミスった」

「はいザーコザーコ、生まれ変わってどうぞ♪」


 くっ、1ミスで酷い言われようだ。

 しかしその後、立て直せず俺は敗戦を喫する。


「ザーコザーコザーコ♪」

「リズムゲーは一回崩れると持ち直せないんだよ」

「ここからあたしの快進撃が始まるから。あんたも本気出してメガネかけたほうがいいわよ」

「視力悪くないっつの」


 7戦目、エアホッケー。

 カンカンと音を立て、画面内をパックが激しく動き回る。


「負けちゃう! 負けちゃう!」

「オラなめんなよ! わかれ! わかれ!」

「酷いことしないで!」


【2PWIN】


「勝ち申した」


 完全にわからせた。

 といっても何もしていないのに、勝手にパックをゴールに決める月。

 10-0で勝ったが、内9点は自殺点である。


「勝ち申したが、私はザコです。今の一戦なかったことにしてくださいと頭を下げれば考えてやろう」

「うぐぐぐ、あ、あたしはザコなので……今のなかったことにしてください……」

「良かろう」


 その後泣きの1戦が30回ほどループする。


 そうなると運ゲーと呼ばれるゲームだと敗北することもあり、勝敗は5(26)勝4敗にまでもつれこんでいた。


「次勝てばあたしの勝ちね」

「君さっき土下座しながら”私のほうが格下と認めますから、もう一戦してください”って言ったのに、よく勝ち誇れるな」

「勝てばなんでもいいのよ!」


 最終戦、神経衰弱――

 ゲーム終盤、入手したカードはやや月が優勢。

 盤面のカードは残り8枚。お互いすでにカードの配置を記憶している上に、月痛恨のミスで俺のターンに。これを全部とれば俺の勝ちだ。


「ん~やめてやめて、とらないで」


 負けを察して、月は半泣きのクソ雑魚モードに。


「これでわからせてやろう。オラわかれ!」


 まず1ペア。残り6枚。


「あ~~やめてやめて」

「やめてとか遅いんだよ。オラッ!」


 2ペア目。残り4枚。


「う~~………」


 たかがゲームで、そんな泣きそうな目になるな。

 最後のペアの位置はわかっている、ケド――

 画面には間違ったペアが表示され、ターンが月に移る。


「やったー、こ奴間違えよったで。ツメがあまいのよ!」

「…………」


 結果は月の勝利。俺はタキシードマスクにコスすることが決まった。


「はぁ……しょうがないコスしてくるか。衣装はあるんだよな?」

「あるわよ、無印からスターズ、クリスタルまで。好きなの選んでいいわ♪」

「違いがわからんからどれでもいい」


 俺は藤乃さんとともに衣装部屋へと向かうことになった。


 廊下を歩いている最中、藤乃さんはくるりとターンすると「お嬢様へのお気遣いありがとうございます」と頭を下げてくる。


「単純にミスっただけですよ」

「あのタイミングではミスしないでしょう」

「……散々わからせた後なんでね。最後くらい花持たせても良いでしょう」


 そう言うと藤乃さんは、ニコッと微笑んだ。

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