第373話 オタな俺とオタクな彼女 エピローグ1

 水咲奪還からはや1年――

 水咲Vは通常軌道に戻り、株価も安定。今日も元気に楽しいを作り続けている。

 摩周社長は失脚してから、ゲーム業界出禁をくらい全く別のIT企業に就職したらしい。

 ほづみ銀行という、エンジニアが泣いて逃げ出すほどの障害まみれのシステムの保守に入り忙しい日々を送っているとか。

 摩周兄弟については、最近まで消息不明でブレイクタイム工房のホームページも新作鋭意制作中のまま更新が止まっていた。

 しかしながらつい最近、摩周兄の方が動画配信サイトに復帰し、これからはゲーム制作者ではなくPikpokkerになるんだとか。



 季節は回り、再び冬が訪れた。

 窓の外では木枯らしが吹く開発アパートで、二人の少年が日曜の午後を過ごしていた。


「お前何やってんの?」

「ツイッターで喧嘩してる人を神視点で見てる」

「悪いなぁ」

「本当なら俺もレスバしたいけど、さすがにSNSで殴り合うのはもう卒業だ」

「高3にもなってそんなことすんな」


 PCの前に座る俺と、その後ろで寝転がってジャソプを読む友人相野。


「はぁ……悲しいな悠介。あれだけ女の子に囲まれてたのに、オレルートに入っちまうなんて」

「そんな誰とも結ばれなかった、友達エンドみたいな雰囲気だすのやめてもらっていいか?」

「誰とも結ばれなかったからオレといるのでは?」

「ちげぇよ、今日は開発もオフだし皆アキバとか遊びに行ってるの」

「お前も行けよ」

「一人で行きたいときもあるだろ。エロ本買いに行くときとか」

「確かに。しかし……今考えてももったいないことしたな」

「何が?」

「水咲の跡継になってくれって社長直々に言われたんだろ? それをあっさり断っちまって」

「あっさりじゃねぇよ、俺だってめちゃくちゃグラついたけど、やっぱほら実績がないやつが社長になると、絶対碌なことにならないと思うんだ」

「そうかもしれないけどよ」

「遊人さんには、いつか俺がこの同人サークルを成功させて、世間的に認められるゲームを作った時、改めてお話を聞きますって」

「それ何年計画?」

「少なくとも10~15年?」

「その頃には別のやつが社長席座ってるっての!」

「それならそれで構わないって」

「かー、オレなら一瞬で飛びついて社長の権力ふりかざして、オレ好みのゲーム作らせるわ」

「ゲーム開発に少しでも触ったら、そんなこと口が裂けても言えんぞ。何百人もの人がどれほど血反吐はいて頑張ってるか」

「はぁ、お前が社長になったらオレも少しは甘い汁吸えるかと思ったのに」

「俺もいずれはソフトハウスの社長を目指してるからな。今から投資してもいいぞ」

「そんな吹けば飛ぶようなソフトハウスに投資とか嫌です」


 お互いの将来の話をしていると、相野はバイトの時間になったらしく、また今度なと残してアパートを去っていった。

 高3のこの時期にバイトしてるとか、あいつ完全に受験捨ててるな。


 一人になった俺は、アパートでツイッター眺めてるのも飽きてアキバへと移動することにした。



「さて目標は全て確保した」


 資料と言う名のエロ同人を確保し、次の同人ショップへ移動しようとした時、陳列された本棚の中にトラブルの画集を発見した。

 

「…………全ての始まりはこれなんだよな」


 俺は画集へと手を伸ばす。すると、丁度同じタイミングで手を伸ばしてきた少女の手と重なる。

 隣を見ると、白シャツにネクタイ、赤のチェックミニスカに黒のニーソ姿の少女が柔らかい笑みを浮かべていた。


「始まりの本ですね」

「雷火ちゃん、来てたんだね」

「ええなんとなく、ここに悠介さんいるんじゃないかなっと思って立ち寄ったら」


 同じタイミングで同じ本の前に現れるのは、どこか運命的なものを感じる。


「この本には感謝してもしきれないです。始まりは本当にベタだったんですよね」

「そうかな? 確かこの本がなくてアキバ中探し回った後、二人でエロ本コーナーで見つけたって話だったと思うけど」

「よく覚えてますね……」

「出会いのお話だからね」


 俺は雷火ちゃんと共に同人ショップを出ると、黒髪をポニーテールにし白のロングコートを羽織った火恋先輩と遭遇する。

 パッと見は大和撫子系お嬢様なのだが、肩にかけているゲーマーズの紙袋が異彩を放っていた。


「火恋先輩」

「やぁ、ちょうどコミケ用のコスを見て回っていたんだ」


 火恋先輩は現在玲愛さんの通っていた都内有名大学へと進学。そこでも剣道サークルに誘われ、週1、2回活動をしている。


「見て下さい先輩、あそこ初めてコスプレしたお店ですよ」


 俺が火恋先輩を沼に落としたコスプレショップを指差す。

 ショーウインドウにスッパイファミリーのコスチュームを着た、マネキンが展示されている。


「恥ずかしい思い出だが、今となっては良い思い出だ。最初の頃、私は自身の欲求の解放が下手で、全てを自分の中に封じ込める性格だった。しかしコスプレのおかげで、私はこういうことがやりたかったのだと目覚めさせてくれた」

「露出癖ですね、わかります」

「ん、ん~まぁ確かに露出の高いものほど緊張感が高く、脳内のアドレナリンが出るのは間違いないが、原作をリスペクトするという精神もちゃんと持ち合わせているぞ」

「今度の冬コミはどんな格好するんですか?」

「た、対魔忍アザミ……」

「「感度3000倍」」


 火恋先輩のコスプレチョイスが年々ディープになっていく。最初は有名アニメだったのが、気づけばコアエロゲー作品に……。

 火恋先輩を加え、俺たちは3人でアキバを歩き、ゲームセンター前を通りかかると今度は――


「あっ、ダーリンじゃーん!」


 綺羅星がガンニョム戦場の絆の筐体から飛び出してきた。


「綺羅星」

「見てみて、ここ初めてダーリンとあったお店だよ」

「俺も今それを思ってたんだ」

「や~ん以心伝心だぁ」


 ここで最初綺羅星と出会い、店員のミスによって俺と彼女が同じ筐体に乗せられた。

 そんでおっぱい支えながら、雷火ちゃんのガフカスと戦ったんだよな。


「あの頃はまだ仲悪かった」

「だねぇ、あーしが山野井に洗脳されてた頃だもん」

「自分で洗脳とか言うんだな」

「うん、だって今はばっちり解けてダーリンとハッピーな日々過ごしてるし」

「一人でゲームしてたのか?」

「うーんゲームしてたってか勉強? ガンニョムのビームライフルって3Dだとどんな形してんのかなって」

「そっか、モデリング頑張ってるもんな」

「うんうん、あっそうだ最近はフィギュアも自作したくなっちゃって。見てみて、あーしの初の試作フィギュア、アフロレイ」


 綺羅星のスマホには、溶けたアフロの写真が映し出されている。


「まりも?」

「アハハハハハ、まりもに見えるよね。失敗しちゃったんだよね!」


 さすが綺羅星、普通失敗作なんて見せないものだが、それを堂々と見せてゲラ笑いしている。

 いつも光り輝く星のように元気な子だ。


「あっ、そうだ向こうに月姉いるよ」

「二人で来てたのか」


 綺羅星の案内でゲーセンを歩くと、ヴァイスカードで対戦する中学生を後ろからベガ立ちで見守る月の姿があった。


「あー、それじゃないわよ。ウイルスカードの可能性を考えなさいよ。トラップ伏せないと、あぁもう」

「何やってんだお前」


 声をかけるとビクッと体を震わせる月。

 水咲奪還後、跡継ぎとして教育されていた月だったが、跡継ぎ教育が急に少なくなり自由に使える時間が増えていた。


「あんた来てたの?」

「たまたま通りかかって。後ろの皆も偶然だ」

「まぁあんたらアキバが生息地みたいなもんだしね」

「ポケモンみたいに言うなよ。ヴァイス見てたのか?」

「ええ、若い人間の中に未来のチャンピオンがいないか裏で見てたの」

「ポケモンジムで最初に立ってるNPCみたいなやつだな」

「誰かさんがヴァイス復帰すれば、こんなことしなくてもすむんですけど~」

「しないしない、俺はもう三石ザゼル悠介にはならないんだ」


 俺の財布の中に常に入っているカード、薔薇の聖優ZAZEL。このカードに触れると、もう一人の俺が語りかけてくる。『相棒、力が必要か?』と。

 もしかしたら今後もこのカードに頼る時が来るかもしれない。その時までは封印しておこう。






―――――――

すみませんエピローグ長くなってしまったので二話構成です。

最終は次回となります。


書いている本心を言いますと、最終回書くのすげぇつらい。

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