第126話 EX3 成瀬と闇悠介 後編
成瀬さんと北大路さんは、ステージ上に用意された席に座り、この日の為に組んだデッキを取り出す。
「今回の対戦なんですが、お二人には新パックをデッキに組み込んでもらいます!」
「えっ?」
司会の突然の発言に俺も驚いた。
確かに新パックの販促イベントだから、それを組み込んで対戦というのは理解できる。だが、それを初心者の成瀬さんにもやらせるのかという話。
新カードは全10枚。デッキは40枚で構成されているので、4分の1も交換したらもはや別デッキと呼んで良い。
北大路さんは素早くカード交換を済ませるが、成瀬さんはかなりモタついている。
それも当然、彼女は俺が教えたカード以外効果がわかっていない。
多分、何を交換していいかすらわかっていないだろう。
成瀬さんは首をかしげながらも、なんとかカード交換を終える。
観客が見守る中、審判がコイントスを行い、成瀬さんが先攻となった。
「では、
「エ、エンゲージ。えっと……ひ、卑猥なメタルスライムを”攻撃表示”で召喚。ターンエンド」
【卑猥なメタルスライムLv1:攻撃力500 防御力1500】
あかん、卑猥なメタルスライムは攻撃力が低く防御力が高い。緊張で、先攻は壁モンスターを防御表示という鉄則を忘れてしまっている。
「行きますえ。女武者巴御前を召喚、メタルスライムを攻撃!」
【女武者巴御前Lv1:攻撃力1000 防御力300】
案の定メタルスライムは破壊され、成瀬さんのライフが500減り3500に。
「更に手札からマジックカードオタサーの姫を使用。オタサーの姫の特殊効果により、手札から2体の従者を召喚!」
【従者義経Lv1:攻撃力1000 防御力700】
【従者弁慶Lv1:攻撃力1400 防御力300】
1ターンで一気に3体のモンスターが召喚され、一気にピンチに陥る。
「ターンエンドですえ」
「まずい、相手の攻めが速い……。次生贄召喚来たら詰む」
※低レベルモンスターを生贄に、高レベルモンスターを召喚すること。
成瀬さんは山札から1枚引き、何の特殊能力も持たない壁カードを設置する。
「ひ、卑猥なラブドールを防御表示……ターンエンド……」
【卑猥なラブドールLv1:攻撃力600 防御力900】
その様子を見て、北大路さんはがっかりしたようにため息をつく。
「ふぅ、少しは勉強したはるんかと思ったら、この程度なんです?」
「くっ……」
「あなたもMutyuberなら、観客に対してエンターテイメントを提供するのがお仕事とわかったはるでしょう」
「…………」
「まぁいいですわ。早いけど、これで終わりにしますさかい。巴、義経、弁慶を生贄に大妖玉藻を召喚!」
【大妖玉藻Lv3 攻撃力4500 防御力3000】
やべぇ、2ターン目で攻撃力4500とかいう化け物出てきた。
「玉藻の攻撃!」
卑猥なラブドールは跡形もなく消し飛んだ。
「玉藻の特殊能力捕食により、倒したモンスターの攻撃力が自分の攻撃力に加算される」
卑猥なラブドールを食らった玉藻の攻撃力は、600アップして5100に。
「更に手札よりマジックカード3Dプリンターを使用! このカードは任意のモンスターをコピーし、同性能のモンスターを2体生成することができる! 大妖玉藻をコピー!」
【大妖玉藻Lv3:攻撃力5100 防御力3000】
【大妖玉藻Lv3(コピー):攻撃力5100 防御力3000】
【大妖玉藻Lv3(コピー2):攻撃力5100 防御力3000】
ダメだ、場に化け物が三体出てきた。詰んだ。
成瀬さんのフィールドは、守備モンスターもトラップカードもない更地。
「コピーモンスターはコピーされたターンは攻撃できひんから、ターンエンド。……何かせんと、次で終わりやでMutyuberはん」
クスクスと笑う北大路さん。
成瀬さんの手は山札からドローするのも忘れ、手札をウロウロしている。
俺の教えた戦術も、なにもかも頭からふっ飛んでしまっているようだ。
わずか3ターン目で決着しそうな盤面に、会場に来ていた客たちもざわつきだす。
「ふひひ、やっぱりMutyuberなんてあの程度のものでゴザルなぁ」
「しかりしかり。なるる? ゴミ。北大路? 神でゴザルな」
後ろでオタたちがブヒブヒとあざ笑う。
くそ、好き勝手言いやがって。
成瀬さんの顔は、焦りでヘラっており「あ、あれ~おかしいな。どうすんだっけな~ははは……」などと独り言を呟き、完全にメダパニマヌーサ状態。
「しょうがねぇ。やるか」
俺はリュックサックからサイリウムを取り出し、ヒュンと手の中で回転させる。
ステージ正面の、一番目立つ位置で繰り出されるキレのあるオタ芸。
「フレーフレーな・る・る! 起点を探せ、な・る・る! フレーフレーな・る・る! 玉藻は女モンスター! フレーフレーな・る・る! 新カードは使える、な・る・る!!」
「な、なんかすごい人がいますね。あれは応援なんでしょうか? アドバイスを送っているようにも見えますが」
これには司会も苦笑い。
「L・O・V・E! な・る・る! L・O・V・E・X・Z・O・D・I・A!!」
「はよあの気持ち悪いオタクつまみ出して下さいな。集中力が乱れますさかい」
「は、はい!」
警備員と運営が俺を取り押さえに入る。
「コラ、棒を振り回すな!」
「なるるー! 神を呼べー!! ってか借りてきたネコになるな! そんなところでヘラってるならお前じゃなくていいぞ!」
「!」
「暴れるな! 警察呼ぶぞ!」
俺は乱暴な警備員に髪を掴まれ、会場からつまみ出されるのだった。
◇
「うぉー神だー神を呼べーよべーよべー(エコー)」
喚く悠介が、引きずられながら退場していく。
その様子を見て、北大路は扇子で顔を隠しながらクスクスと笑う。
「フフフ、あなたにお似合いなお下劣なファンやねぇ」
すると対面に座る成瀬の額に、ビキッと怒筋が走る。
「んだテメェ……」
成瀬、キレた。
「ありゃアタシの弟分だ」
「なら尚更笑い草やね」
「言ってろ狐女。化けの皮剥いでやるからな」
やっとエンジンがかかってきた成瀬は、悠介との特訓を思い出す。
(とにかく相手を威圧すること。カードゲームはカードだけの対決ではない。プレイヤーのブラフもプレッシャーも武器になる。心の戦い)
「さぁ、早くあんたのカードを出してきぃ。
「……あぁもう! 行くぜ、運命のドロォー!!」
成瀬は芝居がかった動きでカードを引く。
引き寄せたカード【卑猥なクリボー】を見て、勝ち誇った笑みを浮かべる。
「プロだかなんだか知らねぇけど……お前もう終りだよ。神がきた」
「……はったりやね。それしか策がないとか可哀想やわ」
煽り返しつつも、北大路の表情には警戒の色が浮かんでいる。
「行くぜ、アタシのターン! 卑猥なクリボーを召喚!」
「雑魚カードで何が神を……」
「更に場にトラップカードを伏せる」
「フフッ、自分でトラップカードと宣言するって、初心者でもやりはりませんよ?」
「手札からマジックカードドンケツを発動! このカードは尻でどんと押されたモンスターが、強制的に攻撃行動をとらされる!」
「!? やめ、トラップが!」
ドンケツ効果により玉藻たちが、伏せカードを無視してクリボーに攻撃を仕掛ける。
「トラップカード発動! トロイの木馬! トロイの木馬はフィールドに卑猥なクリボーがいることで、卑猥な木馬へと変化! フィールドにいる女モンスターを行動不能にする!」
「なっ!?」
「更に神速魔法悪魔の食卓を発動! このカードはフィールド上にいる行動不能モンスターを、敵味方関係なく強制的に生贄にすることができる!」
「なっ……」
「大妖玉藻3体を生贄に、混沌の神サタンを召喚!」
「初心者が1ターン……神……だと?」
「サタンは生贄にされたモンスターの攻撃力の合計を、自身の攻撃力とする!」
【混沌の神サタンLv9 攻撃力15300 防御力100】
「更にマジックカード伝説のハッカー! このカードは相手の使用したマジックカードを1枚手札に追加する。アタシが追加するのは3Dプリンター!」
「まさか」
「3Dプリンターで、サタンをコピー!」
【混沌の神サタン:攻撃力15300 防御力100】
【混沌の神サタン(コピー):攻撃力15300 防御力100】
【混沌の神サタン(コピー2):攻撃力15300 防御力100】
「神が三体……」
「アタシのターンはまだ終わってない! 更にマジックカード共食いを発動! 共食いはフィールドにいる同名のモンスターを一体にする代わりに、食われたモンスター分の攻撃力防御力を合算する! アタシはサタンコピー2体を共食いし、サタンのステータスを上昇させる!」
【混沌の神サタン 攻撃力45900 防御力300】
フィールドに特殊召喚された禍々しいカードを見て、北大路の手から手札がこぼれ落ちる。
「攻撃力……4万5千……だと?」
「これが……神だ」
ばっちりポーズを決める成瀬の背に、ピチピチの革ジャケットを着た男の残像が映る。
「この戦略、まさか……ZAZE……L」
◇
イベント終了後、成瀬の部屋にて――
「なんで防御表示にしちゃうんですかね~」
俺はジト目で成瀬さんを見つめていた。
「だってしょうがねぇだろ。生贄召喚で出たモンスターは、そのターン攻撃できないから守備にしとかなきゃって思ったんだよ」
「神は召喚してすぐ動けるんですよ。せっかく1ターンキルコンボが完成してたのに」
サタンの攻撃力は生贄モンスターの合計攻撃力だが、防御力は100固定で共食いしても300だ。
その為成瀬さんの召喚したサタンは、北大路さんの雑魚モンスターに殺されるという大ヘマを犯した。
「その場にいた全員が、ぐにゃああってなってましたよ」
「悪かったって! サタン召喚でクライアントの受けも良かったから感謝してる」
「よくあの盛大なプレミでウケ良かったですね」
まぁ試合には負けたが、実質成瀬さんの勝ちみたいなものだったしな。
新カードのプロモとしては、成功と判断されたのかもしれない。
「はぁ(クソデカため息)」
「わーったよ! いろいろ助けてもらったし、約束通りなんか一つ言うこと聞いてやるよ」
「やった! エッチなのもいいんですよね?」
「女に二言はねぇ」
潔い。ではかねてから考えていた、闇のゲームをやってもらおう。
「じゃあゲーム実況やりましょう。PONAMIからヴァイスカードのswitcch版が出てるんですよ」
「そんなんで良いのか?」
「耐久配信です。CPU全キャラ倒すまで終われません」
「やけにぬるいな。難易度が鬼畜なのか?」
「いや、普通だと思いますよ。ただ成瀬さんには、配信中これをつけてもらいます」
俺は自作のカードを彼女に渡す。
「なんだこれ? トラップカード、卑猥な三石悠介?」
「効果読んでください」
「あ? このカードを手渡されたプレイヤーは、卑猥な三石悠介が強制的に装備させられ、後ろから胸を揉まれ続ける……だぁ? 解除条件は――」
「さっき言ったとおり、ゲーム版ヴァイスカードのCPUを全キャラ倒したら外せます」
「…………それ何時間かかるんだ?」
「早ければ5時間くらいじゃないでしょうか? 遅いと10時間くらいかかるかもしれませんけど」
「お前はその間、こなき爺みたいにアタシの後ろに張り付いて乳もんでるわけか?」
「イグザクトリーでございます」
「そんなことできるか! 配信中に変な声乗ったらどうするつもりだ!」
「さっき女に二言はないって……」
逆ギレなんてずるいよと、泣きそうな眼差しを向ける。
「なんでもやるって言ったのに……」
「うっ……」
「警備員にめっちゃ怒られたのに……」
「わーったよ、やればいいんだろやれば!! くっそ!!」
この人も結構押しに弱いな。
「どうします、※ワイプ出します?」
※配信中の顔などを映す小窓画面の事
「ださねぇよ!!」
その後10時間に及ぶ耐久配信が行われた。
配信中なぜかいきなり「ふざけんな!」とキレたり、CPUに負けるとやたら艶めかしい声を上げるなるるに、視聴者からは情緒不安定とか多分バイブ入れてやってるとからかわれていた。
あながち間違いでもないんだな……。
成瀬と闇悠介 了
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