第178話 甘い戦いⅠ

 三つ目のイベント種目テニスのポイントは、俺と火恋先輩ペアが一位で5ptを取ることができた。俺たちの合計持ち点は11ptで上位に急浮上。

 内海さん玲愛さんペアは、テニスでは入賞することができなかったので13ptのまま。

 運がよければ次の競技でひっくり返すことができるかもしれない。


 さて次の種目は夜のVRゲームだと思うのだが、ひかりが夕方にシークレット競技があるみたいな匂わせをしていた気がする。

 多分料理がどうとか言っていたので、料理を作るオーソドックスなキッチンバトルか、もしかしたら大食いフードファイトという可能性もある。


 予想通り俺たちは主催者からスポーツドーム内にある、屋内競技場に呼び出された。

 本来はバスケットやバレーをする体育館っぽい施設には、様々な調理器具と食材が並び、甘い果物の匂いが香る。設備だけは料理バラエティアイアンシェフを凌ぐほど豪華だ。

 午後4時丁度になると、物々しいオーケストラBGMが流れると共にキッチン中央の床が開閉し、月がスポットライトを浴びながらエレベーターで上に上がってくる。


「金のかかった登場だな」

「ガンニョムの出撃シーンみたいっすね」


 確かにと綺羅星に頷く。

 月はマイク片手に芝居がかった動きでルール説明を行う。


「お集りいただきありがとうございます。皆様をこのキッチンスタジアムにお呼びしたのは、シークレットイベントにご招待するためです。御覧の通りイベント内容は料理、チョコレートを使用して創作デザートを作ってもらいます!」


 やっぱりか、並んでる食材が全部フルーツばかりだったから、多分そうじゃないかと思った。

 それにチョコレート料理なら、多分露骨に腕の差も出ないと判断したのだろう。


「題して愛しい人に贈るスイートハートでメロメロキュン、甘いチョコレートであなたの心も溶かしちゃうゾ♪」


 手をハートにして萌えポーズでウインクする金髪ツインテ。


「「「「…………」」」」


 テンションの高い主催者を静観する参加者たち。月はその温度差スベった事に気づいて顔を赤くする。

 なんであいつはこれだけ金のかかった設備で、頭の悪い女子高生みたいなタイトルをつけてしまうんだろうか。


「は、はは……自爆は月のお家芸だから」


 身内の恥に顔を赤くして俯くアマツ

 俺はいいと思うメロメロキュン。一昔前のメイド喫茶っぽくて好き。

 彼女はコホンと咳払いすると説明を続ける。


「え、え~っと、この料理イベントにポイント変動はなく、またペアの概念もありません。あくまでレクリエーションのつもりでお楽しみください。また参加不参加は自由ですので、お疲れの場合は自室で休んでもらっても構いません」


 月がそう言うと、参加者はどうする? と顔を見合わせる。

 ポイントに変動がなくて自由参加なら俺は休もうかな。水泳とテニスで結構疲れてしまってるし、夜にもう1ゲームあるならそれの為に体力を残したいというのが本音。


「ただし今回の料理対決に参加してくださった方は、対決後にこの場にあるフルーツの食べ放題バイキングを予定してます。またあたしを含めた水咲の審査員が、出来上がったチョコレートを審査し、最優秀メロメロチョコ賞を決定します。見事賞を獲得した方には、カップルには欠かせない豪華賞品をプレゼントします!」

「カップルに必要な賞品ってなんだろうね?」


 天がなんだと思う? と聞いてくるので、カップルが欲しそうなアイテムを考えてみる。

 アクセサリーやペア旅行券とか? でも、豪華賞品と言われれば——


「……指輪とか?」

「ボクもそう思った」


 豪華って言ったらそういう貴重品系になるよね。


「もし指輪だったら、兄君は誰に渡すのかな?」


 フフフっと悪戯っ子っぽい笑みを浮かべて俺を見やる天。


「誰にも渡さないかな」

「えっ、どうして? も、もしかしてメルカリに……」

「売らないよ。指輪渡すなら貰いものじゃなくて、自分で買ったものの方が喜ばれるだろ?」

「そ、そうだね……ボクは別に貰い物でも構わないけど」

「まぁ前借りってことならいいかもしれないけど、後で絶対自分で買って渡しなおす。多分100倍くらいへぼくなっちゃうと思うけど」

「いや~へぼくても女の子にとっては、それが最高の指輪になると思うなぁ」


 あははと笑いながらも、何かを期待するような目でチラチラとこちらを見やる天。


「まぁ高校生で指輪とか、ちょっと過ぎた代物だと思うが」

「そ、そんなことなくない? 結構つけてるカップルいるよ」

「そっか……天は欲しいか?」

「えっ? そ、そりゃまぁ欲しくないと言えばウソになるけど、ボクこのナリだからあんまり指輪とか似合わないというか、でもくれるというならボクが拒否する理由は微塵もないというか」


 盛大にキョドる天。

 しかし俺、もし仮に火恋先輩と雷火ちゃんと結婚したら指輪どうなるんだろうな? 薬指と中指のダブル? それとも右手と左手の薬指のツーハンド? 薬指に二つつけるトーテムポール? これ水咲三姉妹だったら3個だし、どうつけるんだ。

 俺の脳裏に包丁と千切れた薬指を持った雷火ちゃんが「ウフフ姉さん、悠介さんの薬指はわたしが貰いますね」とヤンデレ風の笑み浮かべている姿が浮かぶ。


「五等分の悠介再び……」

「どうかした?」

「なぁ天……どうしても薬指じゃないとダメか?」

「何を言っているの?」


 そんな話をしていると、綺羅星キララが死んだ目で首を振る。


「甘い、二人とも指輪が貰える体で話してるけど、月姉がそんなまともなもの用意するわけがないっす。多分ヘンテコなもんだよ」

「例えば?」

「ん~金で出来たウェディングケーキとか」


 それはいらねぇな。

 賞品予想をしていると、月が自信満々に手をかざす。


「最優秀メロメロチョコ賞はこれよ!」


 バンっとスポットライトが当たったのは、金色に輝くA3サイズの板。

 なんだあれ? と思い注意深く見てもよくわからない。


「純金1キロを使った婚姻届よ!! イベント終了後レーザー刻印で名前を掘って贈呈するわ! 縁にはプラチナとダイヤで装飾した超豪華ウェディング仕様。ちゃんと役所に提出することも可能で、二人の特別な思い出になること間違いなし!」


 うわぁ……いらねぇ……。


 さすが綺羅星、妹の予想はかなり近い形で当たり、参加者が求めるものの斜め上の物が出てきた。

 売ったら高くで売れそうだが、別れた時どうすんだって言いたくなるアイテムだ。

 それを近くで見ていた玲愛さんは「くだらん、私は部屋で休む」と言って、ホールを出ていった。

 ですよねーという感想しかない。特に玲愛さんはポイントが入らないなら興味はないだろう。


「俺も戻って休もうかな」


 だが、苦笑いする参加者の中で、あの悪趣味な婚姻届を熱っぽい瞳で見つめている人物がいた。


「ほしいわ……」

「えっ……?」


 婚姻届に真っ先に反応したのが静さんで俺は困惑した。


「私とユウ君の名前を入れて家に飾っておきたいわ」

「OK落ち着こう静さん。あれ婚姻届けだからね? 姉弟は使わないものなんだよ」

「そうね最近はオンライン届なんてものがあるものね。でもやっぱり目に見える形で残しておきたくない?」


 おかしいな、俺たちには必要ないものなんだよと説明したはずなんだけどな。

 婚姻届を電子派、紙媒体派の書籍派閥と同列にしないでほしい。


 俺と同じくいらねぇと思った参加者が4割くらい離脱していく。特に友達同士で参加した同性ペアはほとんどホテルに戻ったと思う。その中に火恋先輩の姿があった。良かったまともな人がいて。


「火恋先輩は不参加ですか?」

「ああ、本当は這ってでも参加したいんだが、手首が痛くてね。少しテニスのダメージが残っているらしい」


 そうか、火恋先輩は玲愛さんの電磁砲をずっと受け続けてくれたもんな。そりゃ手首も痛くなるだろう。ゆっくり休んでほしい。


「競技じゃないみたいだしペアも必要ないだろう。私は医務室に行ってくる。君はそのまま残るといい」

「いや、俺も戻りますよ。次の為に体力温存します」


 フルーツバイキングは女の子たちで楽しんでほしい。立ち去ろうとする後ろで、月がマイク片手に注意事項を述べる。


「ちなみにこのイベントは愛しの人にチョコをプレゼントして、完食してもらって初めてクリアだから、食べてもらう人がいないと出られませーん」


 つまり作る人と、食べる人は別と。

 その言葉を聞いて、静さんと天が同時に俺の肩を掴む。


「ユウ君」

「兄君」

「……はい」

「お腹すいてない?」

「いえ、別に」

「すいてるよね? あれだけ運動したんだから」

「いえ、別に」

「疲れた時は、甘いものなんていいよね」

「いや、あなた達ペアの人に食べさせてあげれば良いのでは?」


 食い専の雷火ちゃん、綺羅星、成瀬さんいるし。


「ルールは愛しの人に食べてもらうだからね。それにあの子たちも作る気満々万だよ」


 天が指さした方を見ると、雷火ちゃんと綺羅星が食材棚フルーツを眺めながら、「どれがチョコに合うんでしょうね?」と相談を交わしていた。

 ダメだ、多分逃げきれない。


「……あの、鼻血出したくないんで少な目でお願いします」

「良かったたくさん作るわ♡」


 俺は諦めて、水着の上にエプロンを身に着け始める女性陣を見守ることにした。






―――――————

玲愛と首輪が長くなってきたので、サブタイかえていきます。

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