第380話 天下統一林間学習Ⅰ
7月某日
我が高校2年のメンツは、気温36度のくっそ暑い中林間学習なるものの為、とある山奥のキャンプ場に来ていた。
自然の尊さを学ぶという名目で、生徒は緑豊かなキャンプ場の清掃をさせられ、午後になる頃には全員へばっていた。
俺達も例外ではなく、同じ班の相野、入江の三人で木陰で腰をおろしサボって(✕)休憩(◯)していた。
「死んでしまうぞ、この暑さは」
「地球温暖化とかなんも考えてないスケジュールだべ」
「ウチの学校、未だに森の近くは涼しいと勘違いしてるだろ。今の日本で夏に涼しい場所なんてない」
3人とも汗だくでそんな話をしていると、眼の前をブラジャーが透けた体操服姿の女子数名が歩いていく。
「猛暑も悪いことばかりではない! うひょー関本赤かよ」
「最近の女子はすんげーのつけてんべな」
「見たか悠介? 今の夏の風物詩的なスケベぇな奴」
「スケベって言っても、スポブラの色が赤なだけだろ? スケベとは言わんだろ」
「はっ? 関本Cカップだぞ、Cのスポブラはエロいだろ」
Cか……普段JとかLとか異次元なサイズに囲まれてるからな。
我が同人サークル三石家で、一番小さい雷火ちゃんですらDだし。
「…………」
「お前今、初めて地球に降りてきたラディッツが、第一村人と遭遇したときの顔してたな」
「戦闘力Cか、ゴミがって顔してたべ」
「してないって!」
「くそっ、巨乳嫁持ちにする話じゃなかったぜ」
「全くだべ」
俺と伊達、水咲、三石家+真下姉妹の婚約の話は学校で広まっていた。
勿論伊達水咲の力技によって行われた婚約に軽蔑するものもいるが、生徒の大半は金持ちがそれでいいと言うなら良いんじゃね? むしろテストケースとして、今後日本社会で複数人の婚約が、うまくいくのか見てみたいという感情を持つものが多かった。
「しっかし嫁とは言わんが、オデたちも女ほしいべな」
入江がそう言うと、相野は神妙な面持ちを見せる。
「オレさ、この林間で山岸に告白したいと思う」
「山岸? どこがいいんだ? お前広瀬スズか橋本カンナレベルの顔じゃないと、女と認めないって言ってただろ?」
山岸はお世辞にもアイドルレベルではなく、ごくごく普通のぽっちゃり系女子だ。
「まず何もないところでずっこけて、テヘペロって言うとことか」
「古ないか?」
「あとは~~なんだもん♪って語尾につけるところとか」
「高2でそれは痛ないか?」
「まぁいろいろあるけど……結局はEカップなところかな」
「清々しいクズだべ」
「俺はいいと思う。こういう大自然の中なら、雰囲気に流されてお前みたいなカスでも引っかかってくれるかもしれない」
「カス?」
「そんなことより告白プランはあるのか?」
「当たって砕けろだよ」
「「また残骸拾いか」」
「何か言ったか?」
「いや」
今から死亡確定の相野に、心で合掌する俺と入江。
「でも、一つ不安なことがあって」
「なんだ?」
「山岸裏でオレのこと、猿って呼んでるって聞いたことがあるんだ」
「そんな女に行くな」
「でも好きだから……もし本当に猿って言われてたらどうしよう」
「そんなことないって。もしそれが事実だとしたら、俺はお前につくよ」
「オデもだべ。男はなめられたらガツンと言ってやるべきだべ」
「本当か? お前らオレのこと援護してくれるか?」
「勿論、そんな男をエテ公扱いする女なんて許されないよ。これはもう男女の戦争に発展すると思う。多分クラスの男、全員お前につくよ」
「だべだべ、オメェの後ろには2年の男子全員がスタンドみたいについてるべ」
「男のプライドを傷つけられた時は任せるぜ?」
「ああ、自信をもって行ってほしい」
「じゃあちょっと行ってきますかっと……」
相野は前髪をふっと吹いて浮かせると、山岸を人気のないトイレの裏に誘い出し、告白を行った。
俺と入江はその様をトイレの正面側に隠れて伺った。
「好きです。オレと付き合って欲しい」
「ごめん……ちょっと猿顔の男の人は受け付けなくて」
相野は後ろを振り返って俺達を見やる。
猿って言われたぞと訴えかけているが、俺と入江はその場で俯いて無視した。
「あとキャンプ場のトイレで告白とかマジありえないから。なんで近くに湖とかあるのにトイレの裏選んじゃうの? 相野君ほんとそういうとこだよ? あとエロい目で胸見るのもやめて、女子全員にバレてるからね」
「…………」
山岸はド正論パンチをデンプシーロールのように放ってから去って行く。俺と入江は完全に粉砕され、残骸と化した相野を引きずる。
「これは酷い死んでるべ」
「大丈夫か、帰ってこい!」
失恋性心肺停止の相野に心臓マッサージを行うと、ハッと目を覚ます。
「……大丈夫だ。ってかおい、お前らオレにつくって言ったよな!?」
「「…………」」
「猿顔は無理って、男のプライドめちゃくちゃ傷つけられたぞ!」
「顔だしな。別に直接猿って言われたわけじゃない」
「そうだべ、それに山岸の話が正しすぎて、オメェの肩持てなかったべ」
「…………」
「そういうこともあるって切り替えていこう」
「山岸、オメェの前で一回も語尾にもん♪つけなかったな」
もんは山岸のキャラ作りだと判明した高2の夏だった。
◇
その頃、キャンプ場の片隅にて水咲家長女水咲天は、真下一式、弐式、二人のメイドの前で決起集会を行っていた。
「二人共、いい? 今日は念願の兄君との林間学習、しかも一泊二日だ。いつもは伊達家や妹がいるから上手くいってなかったけど、1年と3年の火と雷のコンビはいないし、月は虫嫌いで林間自体欠席……つまり僕ら3人しかいないってこと」
金髪ショートで、一見すると美少年に見える中性的な美少女。
バストサイズは96と同世代と一線を画すものの、ゆったりとしたジャージを着ているのでボディラインは見えない。
芸術に無類の才能を発揮するイケメンガール天は、決意の表情を浮かべている。
「いつもは11人で争ってますが、今回はチャンスとしか言いようがありませんね」
「伊達家や三石家の面々に押されていましたが、お嬢様が輝けるときでございますわ」
彼女の話を聞くのは、同じ人間が二人いるとしか思えない真下姉妹。ボブカットでスタイルがよく、隣を通れば誰もが振り返るメイド兼声優。
ほとんど間違い探しに近い二人だが、姉の一式は僅かに目尻が下がっており、優しく真面目な性格をしている。妹の弐式は逆に目尻が少し上がっており、気が強く沸点が低い。
三石悠介を主人とし夫とした二人だが、同時に水咲家にも仕えており、水咲姉妹の右腕左腕として悪巧み(✕)作戦の手伝いも行っている。
「その通り、サマーキャンプという開放的なロケーションで、こんなチャンス滅多にない。ボクは今日ここで処女を捨てるつもりだ」
三石家の婚約戦争が終結した今、彼女たちには新たな目標が出来ていた。
そう、それは誰が一番早く悠介と既成事実を作るかである。
三石悠介正妻戦争において、皆11人全員仲良く妻というつもりなどサラサラない。
誰しもこの11人の中で順位がつけられるのは当たり前だと思っており、隙あらば出し抜き、寝首をかいてでも1位を手にしようとしている。
「第二ラウンドは始まってるよ」
――――――――
※この話はサポ限で公開されていたものです。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます