第381話 天下統一林間学習Ⅱ
「一式、弐式、初体験の相手というのは生涯記憶に残り続ける重要なファクターだ。兄君の童貞を貰い、処女を卒業する。それが第二次正妻戦争の勝利条件だとボクは思っている」
「その通りでござまいますお嬢様。一番最初の相手というのはオンリー1であり、ナンバー1。クイーンの玉座に座るのはいつも一人。この称号は落とせないでしょう」
「他の嫁が、いくら鮮やかな思い出を語ろうとも所詮2番、3番女の戯言でございます。真の勝者、それはお嬢様でございますわ」
「ボクは兄君の一生の記憶として永遠に生き続ける。一式、弐式、夜の準備はできてる? 兄君との一夜をもり立てるアイテムを」
「はい」
「ここに」
二人はガシャっと変な音がするバッグを取り出す。
天はジッパーを開け、中を確認する。
「これは……」
取り出したのは厚手の細長いハチマキのようヒモ。
「目隠しでございます」
「なるほど、視覚を奪うことでその他の感度を上げようということだね。悪くない」
更に中身を取り出すと、手錠、ロープ、おもちゃのナイフ、黒の革手袋が出てくる。
「……一式、ボクは兄君の気分をもり立てるアイテムが欲しいんだ。誰が強盗セットを用意しろと言ったんだ」
「ロールプレイとして、拘束されるのが好きかと思いまして」
「それは君の性癖だろう。次、弐式」
「こちらに」
弐式も、ガシャッと音の鳴るバッグを置く。
天は今度は一つ一つ取り出さず、バッグを一気にひっくり返す。
「乗馬鞭、拘束ベルト、ゴムテープ、羽箒、あとこれ何? このいぼのついた卓球のラケットみたいなの」
「スパンキングラケットでございますわ」
「……今から君たち二人の尻をこれで叩く」
「「えっ?」」
「え、じゃない」
「ダメ、でしょうか?」
「ダメに決まってるだろ! 初めてだよ初めて! 初回のセッ――で、乗馬鞭やらなんとかラケット使うカップルがどこにいるんだい!? 後君等姉妹で持ってくるものが被ってるんだよ! 見た目は似てるけど、性格は反対っていうのが君等のアイデンティティだろ! なんで性癖になると被って融合しちゃうのさ!」
「「そう言われましても」」
天は散らばった道具の中で、赤と緑の男性用避妊具を拾い上げる。
「避妊具? いらないよこんなの」
「お嬢様、童貞は性交に対して城壁のような高いハードルを感じていますわ。頭パーな主人ですが、さすがに性交で子供ができるリスクくらいはわかっているでしょう」
「弐式、処女のくせに童貞バカにしすぎじゃない?」
「しかしこれがあれば、心理的ハードルを下げることが出来ます」
「確かに一発必中クリティカルベイビーはさすがに重いよね。ゴム有りで、お試し感覚でやってみようと誘えば……。でもボクは最初は避妊具なしがいいんだ。ここは譲れないよ」
「大丈夫です。こちら非常に弱い素材で出来ており、数回の抽挿で破れます」
「すごい、エロ漫画でしか見たことのない奴だ」
天がなるほどと頷くと、一式が続ける。
「御主人様は、ヤングジャンプ以上のレーティングを避ける傾向にあります。我々でなんとか、今日そのレーティングを上げてみせます」
「頼もしいよ一式、弐式。まるで羽柴秀吉と明智光秀を従えている信長のような気分だ。君たちの手でボクを
「「勿論です、お嬢様」」
◇
まだまだ気温が高い午後3時。
けたたましいセミの音を聞きながら、俺達のクラスではレクリエーションが催されていた。
その名も食材集めかくれんぼ。
ルールは簡単、このキャンプ場内に晩飯となる食材が隠されているので、徘徊する鬼から隠れながら探す。
途中鬼に捕まった場合、その時点で探索終了な上、食材は没収。
かわりに学年主任の油谷武雄(49歳、趣味筋トレ)が握った、塩おむすびを渡される。
食材の場所はクロスワードパズルを解くことで判明する、かくれんぼと謎解き宝探しをミックスさせたゲームだ。
「おーい、相野、入江、柴田、磯辺」
俺が班の連中を呼んで作戦会議をしようとするも、なぜか集まらない。
すると相野がニヤッとした笑みを浮かべて、別の班の連中といた。
「やぁ悠介、オレをお探しかな?」
「いや、お探しかなじゃなくてルール知ってんのか負けメガネ」
「お前ほんとそのあだ名定着させるなよ。オレは別の班にスカウトされたから、そっちで活躍するぜ」
「は? えっ、班移るとかしていいのか?」
「見ろ、柴田も磯辺も女子の班に入ってるだろ。こういうところで男見せて、女子の好感度上げようっていうスンポーよ」
「なんというか、浅はかというか脳みそスポンジボブというか」
「うるさい! 結婚してオレたちを見下してるお前に言われたくない! とにかくお前は嫁のところに行け、シッシッ!」
しかし、相野が組もうとしていたイケメン笠原が現れる。
サッカー部の主将で、俺達陰属性の人間にも優しい男だ。
「ごめん相野、他の女の子が相野いるなら班移らないって言っててさ」
「えっ?」
「そういうわけだから、他のメンバー探してくれる? ごめんな」
「そんな笠原君! オレもう班の奴ら裏切ってきたのに!」
「ごめんごめん、多分謝ったら許してくれるって」
爽やかな笑顔を残して笠原はサッカー部とチア部が混ざった、陽キャグループで集まった。
「…………」
「お前、あの光のグループに入ろうとしてたのか?」
「うん」
「身の程を知れ負けメガネ。あのグループに入ったとて、お前はパシリにされるだけだぞ」
「お前が伊達家、水咲家と結婚っていうドリーム見させるから、オレだって高みを目指したくなったんだよ」
「それは……ごめん」
「あの三石君、よければ僕と組んでもらえませんか?」
「とりあえず裏切ったこと謝罪してもらっていいか?」
「すみませんした……」
結局あぶれた相野、入江、俺の陰キャ3人衆で班を組むことになった。
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