第130話 真剣10代悩み場
電話に出ると、オヤジは少しだけ悪い話をするぞと言って切り出した。
◇
悠介が去った後、古賀は屋上へと上がる。そこには昼食をとっている、火恋と雷火の姿があった。
「今日も許嫁の子来たぞ」
「そうか……ありがとう」
火恋は礼を述べると、自身のスマホに視線を落とした。
そこには悠介からの『昼食ご一緒出来ませんか?』と、ついさっき送られてきたメールが表示されている。
「許嫁の子、かなり精神的にまいってたっぽいけど、ほんとに大丈夫か?」
古賀は腕組しつつ、屋上の扉に背を預ける。
雷火は結婚式(?)の画像を見て、再び苦々しい顔になっていた。
「大丈夫です。こんな写真撮っちゃう悠介さんにはお仕置きが必要なんです」
雷火はプリプリとまだ怒りをくすぶらせていた。
「しかし、もし彼が月君を好きになったなら、ちゃんと言って……くれ…………うっうっ……」
火恋は自分で言って悲しくなってきたのか、半泣きになっていた。
「もう、姉さん弱くなりすぎよ」
「だって、だって、取られたくない……」
古賀はいつも凛として大人びた火恋が、男一人に心をかき乱されていることに驚く。それと同時に大きく息をつく。
「そんなに気になるなら確認とりゃいいだろ。大体三人で結婚式あげてるってどういう状況だよ」
古賀も写真を見たが、どうにも胡散臭さが拭えなかった。
というか参列している参加者が、なぜかファンアジー風の格好をしている。「いや、おかしいだろ! なんで異世界で結婚してんだよ!」と突っ込んだが、伊達姉妹は結婚式にショックを受けすぎて耳に届いていない。
「ちゃんと話したら誤解かもしれんだろ」
「それでもし、本気で水咲姉妹を好きになったって言われたらどうすればいいんだ!? 私は死ぬぞ! 今すぐここから飛び降りて死ぬぞ!」
火恋は屋上のフェンスに張り付き、ガシャッと音を鳴らす。
「悪かった、泣くな。後お前の身体能力なら、屋上から落ちても多分死なない」
「ここで死ななくても孤独で死ぬ」
「だったら尚の事話し合った方がお互いの為だろ。こんなコソコソ逃げ回っても、心の距離が開くだけで何の解決にならないぞ」
「男性経験のないスバルに諭されるとは……」
「なんだテメー喧嘩売ってんのか!?」
テメーも処女だろうが! とキレ散らかす古賀。
「姉さん、いずれ話はしなきゃいけない。先延ばしにしてもお互い辛いだけだし、話しよっか」
「そう……だな」
「それがいい、あの様子は見ていて気の毒になる」
「とりあえず心の準備が出来てから」
「そうですね。来週くらいに――」
「いや、もっと早くに話し合えって!」
ちっとも話し合う気がない伊達姉妹だった。
◇
授業が終わり、再びダッシュで一年と三年の教室に向かってみたが、結果はかわらずで既に帰宅済みとのこと。
何かしたのなら謝る機会がほしい。だけど相手がよほどカンカンな状況なら、それも難しいかもしれない。
「冷戦だけは避けたいな……」
こちらとしては全力で降伏する所存だが、向こうが降伏すら許してくれないと本当にどうしていいかわからない。
しょぼくれた顔をして下校していると、俺の背中をバンと誰かが叩いた。
「おっす、しけた顔しすぎだろ。上げていこうぜ」
相野はテンションが高いようだが、今の俺に相手が出来る温度差ではなかった。
「うるせー、今真剣十代悩み場なんだよ」
「俺には悩み場というより、凹み場の方が合ってると思うんだが」
「うぐ……。目に見えてわかる?」
「わかる、負のオーラ半端ない。例えるなら目の前で限定版フィギュアを買われ、小売からもメーカーからも再販の予定はないと聞いたキモオタの顔」
「キモオタは余計だろ……」
まさか数日彼女たちと会話しないだけで、こんなにもメンタルにくるとは思わなかった。
「そんな鬱屈とした気分を晴らすために、バッティングセンター行かね?」
相野は自分のリュックをバットに見立てて、ビュンビュン振り回している。
「そうだな、行くか」
俺は相野と共に駅前にあるバッティングセンターに入った。
バッティングセンターは年季の入った作りで、お世辞にも綺麗とは言えない。正面に設置されたくたびれたネットには、手書きでホームランと書かれたパネルが掲げられている。
俺と相野は券売機で投球カードを購入し、バッターボックスに入った。
カードリーダーにカードを読み込ませると、ピッチングマシンに電源が入る。
「お前今週入ってから元気ねーな!?」
バッティングセンターは意外とマシンの駆動音や、隣のバッティング音などであまり音が聞こえないので、自然と話す声は大きくなる。
「火恋先輩と雷火ちゃんが俺のこと避けてるみたい!」
俺はバットを構え、赤いランプのついたピッチングマシンを睨む。
マシンから発射されたボールは、ズドンと音をたてて後ろの壁にぶつかり転がっていく。
球速110キロ程度なのに完全に振り遅れた。
2球目はバットにカス当たりして、キンと軽い金属音と共に、ボールはファールゾーンに飛んでいく。
「フられたのか!?」(キン)
「フられてねーよ! ……多分」(キン)
「原因は!?」(ズドン)
「わかんねー!」(ズドン)
「思い当たる節は!?」(キン)
「態度がかわる前日に、違う女の子と会った!」(ズドン)
「それじゃね!? バレたんだろ!」(キン)
「会ったって言っても、その子の親が経営してるゲーム会社で遊んだだけだぞ!」(キン)
「そんなの手握っただけで浮気だって言う女の子もいるんだぞ!」(キン)
「そうなのかなぁ……」(ズドン)
「で、したの?」(キン)
「何を」(キン)
「エッチ」(カキン!)
「するかバカ」(ズドン)
「ハハ、動揺してんじゃねーぞ」(キン)
「うるさいよバカ」(カキン)
俺は忌々しげにピッチングマシンを見やる。
「オレはお前が童貞で嬉しいよ」(キン)
「絶対お前より先に魔術師免許捨ててやるからな」(キン)
※30まで童貞だと、魔法使いになれると言われている。
「結局許嫁の話、火恋先輩か雷火ちゃんどっちにするか決めたの?」(キン)
「決めてない、てか決めらんないよ」(ズドン)
「決めないまま、他の子と遊んでるからじゃね」(カキン)
「正論すぎて耳が痛い」(ズドン)
「伊達家って三姉妹なんだろ」(キン)
「それが何か?」(キン)
「一番上が火恋先輩?」(キン)
「違う、上に玲愛さんって人がいる」(キン)
「美人?」(カキン)
「とんでもなく」(カキン)
「紹介して」(キン)
「断る」(カキン)
「ケチ」(キン)
「大人でも萎縮するくらい恐い人だぞ」(ズドン)
「それは嫌だな」(キン)
「だろ?」(キン)
「その人に聞いたら?」(キン)
「何を?」(キン)
「妹さんに避けられてます、何でって」(キン)
「今忙しいらしいんだよ。海外に出たまま帰ってこない」(キン)
「じゃあ諦めろ」(キン)
「冷たっ!」(キン)
「男がツレの恋バナなんかに興味あると思うか?」(カキン)
「フラれた話だけは興味ありそうだ」(キン)
「正解」(カキン)
「酷い奴」(カキン)
「で、お前ハーレムエンド目指してるの?」(キン)
「はっ?」(ズドン)
「球が勿体ないぞ」(キン)
「お前がわけわかんないこと言うから」(ズドン)
「お前メンタル弱すぎ」(キン)
「うっせぇ」(ズドン)
豪快にフルスイングしたが、3球連続で空振り。ボールはてんてんと俺の後ろを転がっていく。
「ギャルゲマスターの俺がアドバイスしてやる。好きなら好きって伝えないと伝わらないぜ! 選択肢で個別ルート入らないと大体
「ゲームみたいに、その場その場で選択肢は上がってこないんだよ」(キン)
「二股してんじゃんお前」(キン)
「最近は二股なのかすら怪しい」(ズドン)
「そういうのって世間一般じゃクズって言われるんだぜ」(キン)
「俯瞰で物喋れるやつはいいよな」(キン)
「オレとしては、ハーレムは
「お前に太鼓判押されると、多分俺の選択肢は間違ってるんだろうなって気付かされる」(キン)
「酷いやつ」(キン)
「……ほんとそう思うよ」(ズドン)
「一番上のお姉さんは、姉妹間で揺れてること知ってるわけ?」(キン)
「知ってる、むしろ二股推奨」(キン)
「何それ? 普通怒るだろ」(ズドン)
「特殊な家庭なんだよ。伊達からすると、俺には種馬の価値以外ない」(ズドン)
「ソレナンテエロゲだな」(キン)
「エロゲの主人公マジで強メンタルしてるって思う」(キン)
「もういっそ二股してるなら、三姉妹で三股もありじゃないの?」(キン)
「ぶち殺されるわ」(ズドン)
「お姉さん美人なんだろ?」(キン)
「とんでもなく」(ズドン)
「エロいことしたくならねぇ?」(キン)
「なる」(カキン)
「素直でよろしい。おっぱい大きいの?」(キン)
「火恋先輩以上。多分3桁」(キン)
「なんだとぅ!?」(ズドン)
相野は空振りした後、派手に尻もちをついた。
「カッコイイ人だ」(カキン)
「お前カッコイイ属性に弱いもんな」(キン)
「憧れから恋になるタイプなんだよ」(キン)
「何真顔で恥ずかしいこと言ってんだ?」(カキン)
「嘘、そこで素にかえる?」(ズドン)
「あーオレも美人のお姉さん達にチヤホヤされたい!」(カキン)
「魂の叫びだな」(キン)
「ちゅーがしてぇ!」(カキン)
「人いないからって叫ぶのやめてくんない?」(キン)
「彼女できたからって余裕ぶりやがって」(キン)
「彼女じゃない、許嫁だ」(キン)
「一緒だ」(キン)
「会えないだけで、こんなに凹むんだぞ」(カキン)
「男の惚気うぜー」(カキン)
「火恋先輩に会いてー!」(カキン)
「おっ?」(ズドン)
「雷火ちゃんに会いてー!」(カキン)
「おっおっ」(ズドン)
「玲愛さんと仲良くしてー!」(カキン)
渾身のフルスイングはフライ気味だったが、ネットに設置されたホームランプレートに届いた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます