第136話 玲愛結婚計画

 剣心さんを怒らせてしまい、伊達家出禁になってから早一週間が経とうとしていた。

 雷火ちゃん達との面会は制限されていないものの、しばらくは大人しくしておこうということでデートも控えていた。

 そんなある日、意外なことに剣心さんから伊達家に来るようにと連絡を受ける。

 俺はおっかなびっくりしつつ、伊達家へ向かうと、いつもの客間へと通された。

 そこではひかりと剣心さんが、俺の到着を待っていたのだった。


「お呼びでしょうか?」

「座れ」


 俺は座卓を挟んで、剣心さんが対面に来るように腰を下ろす。

 月がいるってことは何か水咲絡みの話なのだと思うが……。

 間を空け、右隣に座る金髪ツインテを見やるが、彼女はいつもどおりプライド高そうなすまし顔をしている。


「今日呼んだのは、お主をとある企画に参加させたいからだ」

「企画ですか?」


 剣心さんは視線で促すと、月はとあるパンフレットを取り出す。


「この前行ったテーマパーク、アリスランドなんだけど今度大型イベントが予定されてるの」

「イベント? あぁそういやこの前行ったときは、冬なのに夏の海イベントしてたな」

「ええ、それの第二弾。アミューズメント施設と言えばカップルでしょ?」

「まぁそうだね」


 一番のリア充爆破スポットであることは間違いないだろう。


「そこでカップル限定イベントを考えたの」

「陰キャには地獄みたいなイベントだな」

「企画内容は、パンフレットを見て」


 俺はページをめくると『冬のイベント一覧に、カップルVSカップル、史上最強のカップルはどいつだ!? カップルの中のカップル出てこいや!』とバカでかく書かれていた。

 俺は思わず頭を抱えた。

 ここの企画担当はマジでクビにした方がいいと思う。

 詳細ページを開くと、筋肉質な男たちが腕組みしつつ、鋭い眼光をこちらに向けている。炎のCGを背景にしているので、まるでK-○でも始まりそうなくらい暑苦しい。

 営業成績をあげようとしてこの企画を出したなら、間違いなく近いうちにこの遊園地は潰れる。


「最強のカップルってなんだ?」


 正直意味がわからない。このパンフレットには、まるでカップルという新しい格闘技があるみたいだけど。


「今出場者を募集していて、既に100組の応募があったわ」


 マジかよ。100組ってことは、200人もこんな頭沸いたイベントに参加するのかよ。

 概要を見てみると、最強のカップルにはアリスランドでの挙式と100万相当のウェディングリングをプレゼント。恋人未満のペアにはアリスランド以外でも使える、水咲、伊達グループでのアミューズメント施設、生涯使い放題券をプレゼント。


 賞品は凄くお金を使ったものにしてるな、これ別れた時どうするんだ?


「この恋人未満っていうのは何?」

「参加資格は男女ペアだったら構わないから、これを機会に仲良くなってもらってもいいんじゃないかなって」

「なるほど。ただの友達でも、このイベントをきっかけに恋人になるかもしれないと」


 ってことは、極論その場でナンパで出来たカップルでも出られるってことだな。

 しかもイベント参加者は入場料無料か、かなり力入れてるイベントなんだな。

 次のページをめくると、開催予定競技と書かれていた。


「競技?……競技?」


 驚いて二回言ってしまった。何だ競技って、確かに最強のカップルを決めるって言ってたから何かしら競わせるのだとわかるが。


「ゲーム大会に、ミスコン、クイズ大会、棒高跳びに、25メートル自由型水泳、男女ガチンコプロレスに仮装コンテスト」


 マジで早急に企画担当者をクビにするべきだと思う。クイズ大会の後が酷い。もっとまともなもの思い浮かばなかったのか。

 これだけたくさん競技が書かれていたが、隅の方に赤ペンでゲーム大会、テニス、ミスコンとペン書きされ丸で囲まれていた。


「これは結局何をするの?」

「あっごめん、それ修正前のパンフレットだわ。その赤ペンで書かれたものがイベント種目」

「テニスにゲーム大会、コスプレミスコンか……」


 まぁアウトドア、インドア、ミスコンと競技的にバランスがとれているだろう。


「まだ調整中だから、ひょっとしたらかわるかもしれないけど」

「なるほど」

「三石のせがれよ、儂からの試練だ。この催し事で見事一位をとってくるのだ!」


 クワっと再び目を見開く剣心さん。漫画だったらここは集中線だと思う。

 とってくるのだと言われましてもですね。


「これ一日で行うの?」

「二日間を予定してる。言い忘れてたけど、結果発表後に優勝者がテレビ中継を入れながらキスしてもらうから」


 日本中の晒しもんじゃないか!

 素敵じゃない? と内容に自信満々な月。もしかしたらこいつがこの企画考えてる可能性があるな。

 確かアリスランドの気持ち悪いマスコットも月発案だったはず……。

 もし彼女が水咲の社長になったら会社傾きそうだな。


「あたしも参加するから、ここで伊達と水咲勝負するのも面白そうだと思わない?」


 意味深なウインクをする月。それで少し意図が掴めてきた。これもしかしてイベントの皮を被った、伊達家と水咲家の許嫁戦争では?


「これ、もし俺が一位になれなかったらどうなるんですか?」

「伊達家との許嫁関係を見直させてもらう」


 重々しく言う剣心さん。

 やっぱりか。


「これ参加しないって言ったらどうなるんですか?」

「ワシの言うことを聞けんのなら、即許嫁を解消する」


 とんでもないパワハラだ。

 受ける以外の選択肢がない。


「わかりました、こちらは構わないですけど、火恋先輩や雷火ちゃんに確認をとった方が良いのでは?」

「出場するペアの件だが、ワシはお前と玲愛を組ませようと思っておる」


 えっ? 今回の話で一番遠い人が出てきたぞ。


「最近玲愛への婚約申し込みが激増しておる。その数は火恋の約三倍を超え、日に日に増えるばかりだ。儂も伊達より先に自身の身を固める事をしてほしいと思っておるが、本人にその気は全くない」

「そうですね、玲愛さん伊達を回す事に命かけてますからね」

「挙句の果てには、時期になったらダーツで結婚相手を決める等と抜かしおった」


 はは、玲愛さんマジぱねぇっす。


「それで儂の娘が幸せになると思うか?」

「無理でしょうね」

「であろう。だからこのイベント参加者に、玲愛の婚約者候補を複数人忍ばせておる。悠介、お前の目的は婚約者たちと玲愛を引き合わせ、ランデブーを図ることだ」


 ら、ランデブー? 何その混乱魔法みたいなの。


「つまり、俺に玲愛さんの見合いの手引をさせようと?」

「そのとおりだ。ワシから見合いしろと言っても100%聞かんからな。秘密裏に行うしかない」


 深く頷く剣心さん。


「儂には火恋、雷火だけでなく玲愛の面倒も父として見る必要がある」


 キリっと言い切る剣心さんの顔は父の顔だった。

 本来の目的は玲愛さんにお見合いさせるところにあって、恐らく俺の一位をとるってのはどうでもいいんだろうな。

 いや、もしかしたら玲愛さんにお見合いさせて、尚且俺を許嫁から落とそうとしているのかもしれないが。


「あの、もし俺と玲愛さんが一位になったら大変な事になると思うのですが」


 テレビ中継で愛を誓うことになって、その上キスするとか玲愛さんの未来が終わる。


「玲愛一人なら優勝も可能かもしれんが、足手まといの貴様がいては優勝なぞ出来ん」


 オイ! さっきの一位を取ってくるのだ!(集中線)はどうなったんだ。

 ってか、一位とらないと許嫁関係見直しじゃないのか。ところどころ話が矛盾している。


「身の程をわきまえろ虫けらが」

「は、はい」


 もう嫌われすぎて笑ってしまう。まぁtntn見ちゃったから何も言えんけどね……。


「それに、もし万に一つ優勝したとしても、チッスなど玲愛が了承せんから安心しろ」


 そりゃそうですね。圧倒的に納得した。


「俺以外の人と出場させる事はしないんですか? 見合いのエスコートなら、俺よりちゃんとした人が他にいると思いますけど」

「玲愛は敵と味方の線引きがはっきりしていて、身内以外はほぼ敵と思い込んでおる。それも全て、様々な敵から伊達を守る為だ。そんなハリネズミのような娘だが、唯一お前のことを味方として認めておる。不本意だがな」


 剣心さんは不本意を強調する。


「は、はぁ」

「だからこれはお前にしか頼めん。玲愛の未来のためだ、あ奴に男ができるかどうかはお前にかかっておる。……やってくれるな?」


 玲愛さんに彼氏……いや、婚約者か。一瞬ウェディングドレス姿の玲愛さんが頭に浮かぶ。

 あれ? なんで俺ちょっとモヤッとしてるんだ?


「良いな?」

「わ、わかりました。引き受けさせていただきます」


 パワハラ気味な質問に頷く事しかできなかった。

 俺のやることは、イベントで一位になって玲愛さんの婚約者を候補の中から探すことか……。

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